13話.俺の相方が世間から批判されてがらにもなくネガティブ思考になるなんてまじでありえないのだが。
「…その耳の中途半端な長さ。貴女、まさか…ダークハーフエルフですか?」
セバスチャンの言葉にコクリと頷くリズ。
「まさか…人間とダークエルフの間に子供が生まれていたなんて…なんと悍ましい」
セバスチャンは不快な表情で冷たく吐き捨てた。
そして、その言葉を聞いた途端リズはキレた。
「お父さんとお母さんを悪く言わないでよ!!」
「ふんっ!ダークエルフならずとも、罪人同士の間に生まれしダークハーフエルフの貴女の方が生まれながらに罪深い生き物だ!!」
完全に両者睨み合う形となった。
「ちょ、ちょっと二人とも落ち着けって!!」
「カトー殿に、まずは謝罪の一つでもした方が宜しいんじゃないでしょうか?」
俺が仲裁に入っても全く止める気配のないセバスチャンは冷たい視線をリズに送る。
「…ふん!言われなくても分かってるよ」
リズは俺の方に向き直り、少し言い辛そうに謝罪の言葉を述べる。
「…ご、ごめん。騙すつもりはなかったんだけど、ずっと切り出すタイミングがなくて…その、お…怒ってる?」
悪い事をして親の顔色を伺う子供みたいに上目遣いで俺を見つめてくる彼女。
そんな彼女の態度を見て俺は思わず吹き出してしまった。
「ちょ!ちょっと!何で今?このタイミングで笑うんの!?」
「あー、悪いわるい…何かお前の辛気臭い顔見てたらおかしくなっちまってよ」
「な、何だよそれー!!こっちは本気で話してるのにっ!!」
「あー、悪いわるい。…俺はこの世界の事はよくわからねーけど、それでも知ってる事はあるぜ?」
ムスッとした表情のリズ助を真っ直ぐに見つめ、俺はハッキリと言い切る。
「リズ助は、アホだけど悪い奴じゃねーって事をよ?」
「…な、なんだよ。アホじゃねーし…天才魔法使いだし…」
俺の言葉にムキになり反論しながらも、彼女はだんだんと安堵の表情になりその安心からか、次第には泣き出しそうになっていた。リズはそれを隠そうと俯くが俺はそれを見逃さなかった。
「お前泣いてんの?」
「…泣いてねーし…目の、目の汗だしぃ…」
今の言葉の語尾は完全に涙声だった。
両腕で顔を隠すようにしくしくと泣くリズ助。
俺は彼女の頭をがしがしと乱暴に撫でながら、セバスチャンに告げた。
「まー、こんな感じなんで。俺は今後ともコイツと旅は続けていきます。…親切で色々言って頂いた事は感謝します。貴方に教えてもらった知識は、今後コイツとの旅で、やはり役に立つと思うんで」
「…も、もー!がしがしすんなし!!」
皮肉とかではなく、誠意を込めた感謝の気持ちをセバスチャンに示す。
「…そう、ですか」
セバスチャンは少し納得のいってないような表情を一瞬するも、そこは流石の大人、すぐに執事の爽やかスマイルに切り替えた。
「…では、ケルヌトの街の英雄でもあるカトー様とそのお仲間のリズ様の旅に、今後とも神の御加護がありますように」
社交辞令の言葉なのだろうが、セバスチャンはそれからリズに対する対応も完全に切り替えたように自然に接してきた。
まぁ、しかし当の本人の彼女はやはりというか、セバスチャンに対してはガン無視状態が続いていた。
そんなこんなで、俺達はダンジョンを抜け出し、領主の元までクエスト達成の報告に向かったのだった。
◇
領主は紅茶をすすりながら口角を上げ呟く。
「クエスト達成、御苦労だった。まさかこんなに早く終わらせて帰ってくるなんて…正直思いもしなかったよ」
俺とリズは高そうなソファーに腰掛け、メイドに出される紅茶を口にする。
屋敷に帰ってきてからというものセバスチャンの姿は見えなくなっていた。俺はそんな彼のおかげだと領主に伝える。
「いえ、セバスチャンのおかげです。彼が居たからモンスターの情報も得られたし、トラップも全て回避する事ができました。正直半日でクエスト達成できたのは彼の功績のようなものですよ」
夕風が品のある白いレースのカーテンを揺らしている。
俺の言葉を聞いた途端、領主は大声で笑った。
「ははは。カトー君のそういう謙遜するところも本当に好感が持てると、街の民からも有名だぞ?それにあのレッドドラゴンは誰も倒せなかったのが事実だ。それを一瞬で倒す君の実力はやはり本物だよ。いつでも勇者候補として国王に承認してもらえるくらいだ」
「あー、勇者とか…あまりそういうのは興味がなくて…」
苦笑いを浮かべる俺を見て、領主は再び大声で笑った。
「ははは。君は本当に面白い人だ。…そんな君だからこそ、敢えて忠告させてもらうぞ?」
領主は突然目を細め声のトーンを少し落として語り出す。
「…セバスチャンからも聞いたと思うが。やはり君は彼女と共に行動すべきではない。確かに彼女は悪い子じゃないのかもしれない、しかし、世間からすれば彼女が良い子だとか、悪い子だとか関係ないのだよ。セバスチャンは人生の伴侶をダークエルフ達によって殺された。そんな人達がこの世界には沢山いるのだ、その意味をカトー君は分かるだろう?…彼女と共に過ごせば君の輝かしい未来は確実に絶たれるだろう」
「………」
面と向かってお前はダメだと改めて負の烙印を押されたリズは、押し黙ったまま、ずるずると紅茶をすする。
セバスチャンは過去にダークエルフによって奥さんを殺されていた。
リズに対しての当たりが強かったのはそれが原因だ。
本当は彼女に対してもっと憎悪剥き出しの感情があったのかも知れない、それでも彼は使える主人の客人として感情を抑え丁重に接しようとしてくれていたのだろう。
領主の言いたい事もよく分かった。
別に勇者候補にならなくても、別の道で君には色んな輝かしい未来や可能性がある。
彼女と共にいればそれすらも危ういぞ?と親切で言ってくれているのだろう。
それも分かる。
しかし、俺にとっちゃその優しさすら、余計な親切だった。
リズは暗い表情のまま、紅茶をずっと飲み続けている。
しかし、よく見ると彼女のティーカップの中身は空だった。
俺は真っ直ぐ領主を見つめ返し、先程の言葉の返答をする。
「ありがとうごさいます。ですが、俺はコイツをパーティーから追放した元仲間達をざまぁするという目的の旅があるので、やっぱりその旅が終わるまではコイツと一緒に居ようと思います」
「…やはり、君は面白い人間だね」
領主はくすりと笑い、既にぬるくなっているであろう紅茶を口に運んだ。
「参考までに…お嬢ちゃんが復讐しようとしている元パーティーの名前を聞いてもいいですかな?」
「…おい、リズ助?」
肘でリズを突くと、彼女は暗い表情のままボソリと一言呟いた。
「…ウロボロス」
パーティー名、ウロボロス?めっちゃ厨二なネーミングだ。
正直鼻で笑いそうになっている俺とは違い領主はその名を聞いただけで驚きの声をあげた。
「まさか、あの勇者候補者のクロード君が率いるパーティー、ウロボロスの事かな!?」
リズは領主の言葉に小さく頷いて見せる。
「リズ助の元仲間ってそんなに有名なんですか?」
「有名も何も!超有名人だ!!異世界転移者にして、次期勇者確定などとも言われているクロード君が率いるSランク冒険者パーティーの事だ!!」
「へー」
何か知らないがめちゃくちゃ凄い奴等らしいって事はよく分かった。
それに、クロードと言う名前にも聞き覚えがあった。
「そうか。ウロボロスに復讐する為の旅か…ふふ、これは中々面白くなりそうだ、きっとこの抗争は世界的に話題になるだろう。ははは!君達の活躍を本当に楽しみにしておくよ!」
領主からは報酬として『10000G』も頂き、更にウロボロスの現在地に付いても教えてくれた。
◇
カレンの宿に戻り、俺達は市場で適当に買った晩飯を同じ部屋で食べる。
「おー、この肉飯中々美味いぞ」
1個5Gで売っていた、肉飯の弁当をガツガツと頬張る。
今日の分のお小遣いと、この晩ご飯代、今晩の宿代を引いて、現在俺達の残りの財産は17185Gだ。後で家計簿に付けておかなければ。
「まさか領主からの報酬が10000Gだったなんて、流石金持ちは違うよな」
100万以上の大金なんて、現代では持った事すらなかった。報酬を受け取る時とか、少し手が震えてしまった程だ。
さっきから押し黙ったまま弁当を食べていたリズが、そこでようやく口を開いた。
「…ねぇ」
「ん?」
「…もしかしたら、カトーさん。領主が言ったみたいに、ボクと一緒にいると…いつか後悔するかもよ?」
また、その話か。
リズ助の奴、口数少ないと思っていたらずっとその事を考えていたのだろう。
「…カトーさんは選ばれた転移者。どんな輝かしい未来だって掴める。…でも、ダークハーフエルフのボクと居れば」
「アホ!」
ネガティブな発言ばかり言うリズ助の頭にチョップを落とす。
「あ痛っ!?」
両手で頭を抑え、何すんだよと言わんばかりの彼女に俺はハッキリと言った。
「前にも言ったが、俺は勇者だろうが貴族だろうが商人だろうがどれもこれも興味ねーんだよ。言っちゃなんだが、俺はお前の仲間だ。目的を果たすまでは一緒に居るって言ったろ?」
「……旅が終わった後、もしかしたらカトーさんも迫害を受ける事になるかもよ…?」
今日一暗い顔でリズは小さく呟く。
「だったら?まーなんせ、俺つえーな主人公野郎だからな、適当にクエスト攻略して小銭稼ぐ事なんて余裕だし、そんで一人で街外れの森か何処かで小さい家を作って細々と静かに暮らして余生過ごすから全然大丈夫だ。むしろ、それが俺の幸せだ。だから、周りからの俺の評価が良かろうと悪かろうと、全くこれっぽっちも関係ねーんだよ」
リズ助の憂鬱を鼻で笑い飛ばすように明るめの口調で語った。
「それに、お前の仲間になってねーと。タバコ吸えねーだろうが?」
語り終えた後、口角をニッと上げリズ助に笑い掛ける。
「…結局はタバコかよ」
さっきの言葉で、すっかり安堵の表情になっているクセに彼女は少し不貞腐れた態度でボソリと呟く。
「あぁ、悪いか?結局はタバコだ」
ドヤ顔で返答する俺を見て、リズ助は吹き出すように笑い出した。
「…ふふ、あはは!もー、カトーさん今の顔なに?真面目な話してるのにー!もー!急に変顔やめてよー!」
「ははは、変顔じゃなくてドヤ顔だったんだけどな」
苦笑いしながら補足を入れる俺。
しかし彼女はツボに入ったらしく暫く俺の顔を見て笑い転げていた。
俺のドヤ顔、そんなにキモかったのだろうか?
◇
晩飯も食べ終わり、そろそろ自分の部屋に戻り寝ようと立ち上がる俺の服の裾をギュッとリズが掴む。
「…ん?何だよ?」
彼女は上目遣いで暫く見つめたまま何かを言おうかどうか迷った素振りをした後、決意が固まったのか沈黙を破るように口を開いた。
「…あのダンジョンで執事のおじちゃんに、ダークエルフだろって言われて…カトーさんも、そうかもって目でボクを見てきた時…凄く怖かった。…隠してたボクが悪いんだけど、もし…ボクがダークハーフエルフだって本当の事を言って、カトーさんが…ボクの事嫌いになってボクの元からいなくなるんじゃないかって…凄く不安で…だからあの時さ…フード取る前カトーさんに…ボクの事嫌いにならないでって…ずっと心の中で叫んでたんだよね…半分お祈りみたいな感じなんだけど。だから、カトーさんが…それでもボクと一緒に旅をするって言ってくれた時は…さっきのお祈りが届いたのかもって…思った」
リズは喋りながら髪を掻き分け少し長めの耳を見せてきた。
あの一件以来、リズはフードを被る事はなかった。
彼女がフードを被っていた事も、ボブっぽいオカッパヘアーにしているのも、全て耳を隠す為なのだろう。
髪を掻き分ける手を離し少し髪を整えながら、リズは少し恥ずかしそうに言った。
「…ありがと、嫌いにならないでくれて…ありがと、仲間のままでいてくれて。それから…アホだけど、悪い奴じゃないって言ってくれたの…本当は嬉しかった…」
リズは言い終わった後に明らかに照れているのか、顔を俯き隠した。
正直俺はこの世界の事はまだまだ知らない。
だが、あの領主やセバスチャンの口振りからどれだけダークエルフが忌み嫌われているのかはよくわかった。
そしてそれだけ、リズが今までどれだけの迫害を受け傷付いてきたのかも分かってしまった。
俺の裾を掴んだまま、顔を俯き隠すリズ。
辛かったな、とか。
今までよく頑張ってきたな、とか。
そんな言葉はきっと俺達に似合わない。
だからこそ俺は、いつもと変わらないような声のトーンでいつもと変わらない行動をする。
「まー、アホだけじゃなくて…お前はクソガキで、わがままで、自己中で、すげー痛いボクっ子だけどな」
そう言いながらリズ助の頭をがしがしと乱暴に撫でる。
その瞬間さっきまでの雰囲気が一瞬で崩れ、ムッとした顔で俺の手を振り払い睨み付けてくる彼女。
「何!?カトーさんそんな風にボクの事見てたの!?」
本当にコイツは感情表現が豊かな奴だ。
俺は鼻で笑いながら言葉を続ける。
「はぁ?気付かなかったのかよ?…そんなんだけど、まー悪い奴じゃねーよな。リズ助は?」
リズはその場に立ち上がり、猿みたいにムキーと地団駄を踏んだ。
「何かフルバージョンで聞くと全然嬉しくないんだけど!!ビックリするくらい嬉しくないんだけど!!」
「おいおい、あんま床を蹴るなよ!宿主に怒られるぞ?」
「あ、ごめん」
しゅんと一気にヒートダウンする彼女。
「まーそんな感じで、俺はそろそろ寝る。明日はケルヌトの街出るからな?朝は早いぞ?」
「わかってますよ〜だ」
少し不貞腐れたように返事を返してくるリズ助。
「ん、じゃーおやすみ」
「あ、ねぇ!」
部屋を後にしようとした俺の服の裾を再び掴む彼女。
「なんだよ?」
「もうちょっと居てよ。…寂しいじゃんか」
ため息の後に、彼女の手を俺の服から離す。そしてリズの部屋から出て、ドアを閉める前に一言。
「おやすみ。ビッチ」
――ガチャン!とドアを勢いよく閉めた途端、リズ助がドア越しに『ビッチじゃねーし!!』と叫んでいるのが聞こえた。
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