10話.新たなスキル習得しただけで更にチート的な力を手に入れるとかまじで異世界転移者ってありえないのだが。
「カ、カトー様はレベル35に上がってましたので、二階級昇格のC級冒険者となります!」
翌朝、早速ギルドに向かった俺達は受付のお姉さんに呼び止められ俺の等級が上がってた事を伝えられた。
「これがC級冒険者にお渡ししているタグです」
お姉さんはCと刻まれた少し高そうなタグ付きのネックレスを手渡してきた。
「そ、それにしてもこの数日で一気にこのレベルまで上がるなんて…流石転移者様ですね」
「そりゃ、どーも」
淡々と礼を言い、E級からC級のタグに付け直す。
そんな俺達が目を付けた次の依頼はこんなクエストだった。
▶︎天女の薬草を1個採取
依頼条件 A、B級冒険者のみ
至急天女の薬草が必要の為、クエスト掲示。ガイアの森で入手可能な薬草だが、あまりにも凶暴なモンスターがいて侵入困難な為誰か代わりに天女の薬草を採取してきて欲しい。
報酬 6000G
参加される冒険者の参考レベル80以上
今回はリズのあの心底どーでもいいスキル三点セットをOFFにしている為、見たところ自動スキルでMPを消費している感じもない。やっと今回から彼女も戦力として数えていいはずだ。
それと俺のスキルポイントは1020ポイントまで溜まっており、つい先程1000ポイントを使い【神の脚】を習得したばかりで、少し難易度が高めのこのクエストでも大丈夫だろうとの俺の判断だった。
◇
「凄い!凄い!凄いよカトーさん!!速い!めっちゃ速いよ!!」
俺はリズを背負ったまま、高速で地面を駆ける。【神の脚】は文字通り脚だけに限り異常な程の身体能力強化をする事が出来る能力だった。高速移動をする事が出来るという地味な能力ではあるが、まさかの使用回数が限定されていなかった為、今のところずっと持続した状態で【神の脚】を使えていた。
「このスキルを使えばケルヌトから離れた場所のクエストだって一日で達成できるね!ほんっとカトーさん天才!!」
そう俺達が受けたクエストは、その現場に到着するまでも通常では二日は掛かるといわれているガイアの森でのとある薬草を回収する事だった。
「おー!おー!もーガイアの森が見えて来た!!凄い凄い!カトーさん!まじぱねーっす!!」
「…あまりはしゃぐと落ちるぞ!?」
「だーいじょーぶー!!えへへー!!」
昨夜寝る前にリズは変な質問をしてきていたが、今日は全然いつもの感じでうざいくらいに元気だった。
子供のようにはしゃぐ彼女をふり落とさないよう細心の注意を払いながら俺はガイアの森を目指した。
◇
ガイアの森は思ったより静かな雰囲気で、めちゃくちゃ自然が綺麗な場所だった。湖も透き通るような青色をしている。
「すごい場所だな…」
「まーね。でもボクの故郷程じゃないかなー」
「お前の故郷もこんな自然豊かな場所なのか?」
「…まー、そんな感じかなー?てかてか、自然鑑賞してる暇はなくなりそうだけど?」
「…あぁ、分かってる」
リズの言葉に頷き、俺達は戦闘態勢をとる。
――いつの間にか複数の首を持つ犬のモンスターに囲まれていた。
「ケルベロスが1、2、3、4匹!!」
リズはモンスターのステータスを表示しながら奴等が何匹いるのかを数える。
Lv 49
名前 ケルベロス
種族 ウルフ族
スキル
火炎放射
(三つの顔からそれぞれ口を広げ炎を出す攻撃を繰り出す)
弱点
真ん中の頭部破壊
炎属性攻撃
さっそくたちの悪いモンスター達に囲まれてしまった。しかし、今回の俺達は一味違う。
「…おい?背中は任せたぞ?」
「ん、任せてよ!!」
キリッとした表情で頷くリズは珍しく頼もしく見える。やはりMP満タンだと彼女の自信というか意気込みが全然違う。
俺は低い態勢になり例のスキル【神の脚】を再び発動させる。両脚が段々と熱くなり、白い光の模様が浮かび上がる。あのスキル効果には、身体能力強化、高速移動としか表示されてなかったが、俺はある事を試す気でいた。
「いくよっ!ファイヤーボール!!」
リズが目の前のケルベロス目掛けて攻撃魔法を放ったタイミングで、俺は地面を蹴飛ばし高速でケルベロスの元まで飛び跳ねる。そのままスキルが発動して身体能力強化された脚でケルベロスの真ん中の頭を蹴飛ばす。
「がぁぁあ!?」
ケルベロスはその衝撃で吹っ飛び、案の定消滅した。
いける!やはりいける!この【神の脚】は、高速移動だけじゃなく、やはり攻撃にも使えたのだ。
おそらく【神の腕】までの火力はないが、複数での戦闘の場合確実にこのスキルの方が優位になる。
「オラァ!!」
そのままの勢いで、残りの2、3匹も高速で移動しながら頭部に蹴りを入れ瞬殺していく。
やばい、まじでこのスキルもチートだ。10以上レベルが離れているモンスターだろうが関係なしに無双できる。これはマジで調子に乗ってしまいそうになる。
「おい!お前の方はっ?」
もう片付いたか?とリズの方を見ると、彼女はまさに最後の一匹のケルベロスに食べられそうになり走り回って逃げていた。
「た、た、助けてっ?カトーさぁぁん!?」
「…嘘だろ」
◇
最後のケルベロスも結局俺が【神の脚】で仕留め、全く戦闘で役に立たなかったリズから言い訳の言葉を聞いていた。
「…だから、ボクってば天才魔法使いだしスキルポイント三倍のスキルも持ってるからさ?逆にいつでも高難易度な魔法覚えられるやって思って先に美容スキルとか、錬成スキルマスターしちゃったんだよね?だから言うの忘れてたんだけどボクってば魔法は初期中の初期の最弱魔法しか使えないだよー。あはは」
「あはは、じゃねーよ。お前それだと魔法使いじゃなくてやっぱ錬成士じゃねーかよ!!」
先日ケネディに君は錬成士か?と尋ねられ、キレながらボクは魔法使いだよ!と言っていたリズの言葉を思い出しツッコミ代わりに彼女の頭にチャップを落とす。
「あ痛っ!?むー、暴力反対!!」
「うっせー。つか、それに何であの時任せとけ的な事言ったんだよ!?」
「あー、あはは。ごめん、何か、のりで?」
「お前なぁ……」
今まで散々自分は天才魔法使いだと豪語し、期待させといて…それに、あの瞬間俺は本当に彼女に背中を任せられると思っていたのだ、しかし蓋を開けてみればこのザマだ。
「まー、スキルポイントたまったら次こそ魔法覚えるからさー!それにカトーさん一人居ればじゅーぶん最強っしょ!!」
『ペコちゃん人形』のようにペロッと舌を出しお茶目に笑い親指をグッと立てる彼女。
「……お前はもうこれからリズ助だな」
冷たく吐き捨てるように、彼女の呼び名をリズ助に命名する。
「え、何その助って?全然可愛くないんだけど!!」
ムッとした表情で意見してくるリズ助。
「あー、そのまんまだよ。可愛くねーし全然使えねーから、お前はリズ助で充分だ」
「なんだよなんだよー!!せめてリズちゃんとか言ってよねー!!もーー!!」
俺の相方の魔法使いが戦闘でこんなに使えなかったとかまじでありえないのだが。
◇
ケルベロスを退治しながら先に進む事約2時間。俺達はついに天女の薬草を手に入れる事ができた。
「おー、ここ凄いよ!天女の薬草いっぱいあるし!!これほんっとレアなんだけど!!」
リズ助が声を弾ませながら薬草をマジカル袋にどんどん入れ込んでいく。
「お、おい。…全部取っちゃっていいのかよ?クエスト的には1個で充分なんじゃ…」
「大丈夫だってー!!残りはボクが大事に使うからさー!それにこんな遠出する機会滅多にないんだから、今の内に取れるだけ取っとかないと!!」
まるで安売りバーゲンで目の色変えて爆買いするおばちゃんだ。そこに他の人への気遣いやモラルは無い。
「カトーさんはお疲れだろーから、もう少しそこで休んでて?今こそオイラのターンなのだっ!えっへん!」
今日一のやる気を見せる彼女を眺めながら、俺はリズ助の言葉通り地面に腰を下ろし身体を休める。
「なー?あのステータス表示のアイテム借りるぞー?」
「ほいほ〜い、いいよ〜ん!」
俺は彼女の荷物から、例の板を取り出し適当に触る。
「…お、出た」
Lv 39
名前 加藤 良平
年齢 29歳
性別 男
種族 ヒューマン
ジョブ 異世界転移者
スキルポイント 【140ポイント】
スキル
神の腕
(相手に無条件で9999のダメージを与える)
(一日一回しか使用できない)
神の脚
(両脚の身体能力強化。高速で移動する事が可能。蹴り技を繰り出す事で相手に身体能力強化分上乗せでダメージを与える事が可能)
弱点
弟
異世界
異世界用語
異世界ヒロイン
ニコチン切れ
借金恐怖症
ボクっ子ヒロイン
あれからまたレベルが上がったみたいだ。スキルポイントも増えていた。
「…あれ?何か文字数増えてねーか?」
【神の脚】の効果内容は確かに『両脚の身体能力強化』と『高速で移動する事が可能』としか表示されてなかったはずだった。
「俺が戦闘で実際に使ったから…?」
まさかとは思ったが。でも、そうとしか思えなかった。俺が戦闘で【神の脚】を攻撃手段としてモンスターに使った事で、このスキル効果内容が更新されたのかも知れない。
という事は…他のスキルも表向きの効果内容以外で別の使用方法があるのかも知れない。
「カトーさーん!ごめーん、お待たせー!」
リズ助は満面の笑みで、こちらに手を振り走って来た。
「おー、終わったか……おい!走れ!?」
俺はリズの背後にいつの間にかそびえ立っていた、巨大なモンスターを見て叫んだ。そのモンスターは数十メートルはある背丈で、まるで映画に出てくるような巨人そのものだった。
「えー?何々どーしたのー?そんなに早くボクに来てほしーのー?」
背後のモンスターに全然気が付いていないリズはアホみたいにはしゃいでいて、全然走る速度を上げる様子もなかった。
――巨人は右手を大きく空まで持ち上げ、リズ目掛けて振り下ろそうとしているのが分かった。
「…クソがっ」
俺は態勢を低くし、スキル【神の脚】を発動させる。そして全力で地面を蹴るように走り一瞬でリズの元に駆け寄る。
「わっ!ちょ!?ど、ど、どうしたのさっ!?」
困惑するリズの手を掴みそのまま抱えるような状況で俺達はその場から離れる。
――ドンッ!!とまるで爆発音のような衝撃音が森に響き渡る。
「うわっ!?何々!?何が起きたのっ!?」
その音でやっとやばい状況だという事を理解した彼女は、巨人の姿を見て驚きの声をあげる。
「ト、トロール!?」
彼女を降ろし、一緒にモンスターのステータスを確認する。
Lv 230
名前 トロール
種族 森の巨人族
スキル
頑丈な皮膚【LV 5】
(物理ダメージの7割無効)
一撃必殺
(通常攻撃でクリティカルが発生しやすくなる)
弱点
魔法属性攻撃全般
「う、噂には聞いてたけど…ほ、本当にガイアの森に生息してた…なんて…」
レベル230のとんだ化物クラスのモンスターを目の前にしたリズの声は心なしか震えていた。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
サイレン のように不快感を覚える絶叫をトロールがあげる。迫力満点なB級怪物映画のようだ。
「お前は後ろに下がっとけ」
「う、うん。…カトーさん、勝てるよね…?」
不安そうな表情でリズが尋ねてくる。
「あ?リズ助のクセにらしくねーな?…あんなのいつものラリアットで一発だ」
「ラリア、え?何?」
いつも調子に乗りまくってるリズが珍しくビビってるのと、プロレスなんか分かるはずもない彼女が困惑しているその表情が妙にツボに入ってしまい思わず吹き出し笑う。
「…まー後ろで見てな? スタンハンセンもビックリするような一発をぶちかましてくるからよ」
「スタンハ?え、だから何!?」
木々や緑が身体に付着している容姿はまさに『森の巨人』と言うに相応し。
トロールは、地面から右手を引っこ抜き再び俺達を見つめ咆哮をあげる。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
「あー、あー、うっせーな」
俺も完全に麻痺ってきているのだろう。異世界に来て数日、嫌だ嫌だと言いながらもなんだかんだ転移者として順応している。今だってこんな化物を前にしても恐怖を覚えるどころか全然負ける気がしない。なんだかそんな自分がふと嫌になる。
「まー、でも結局…倒すんだけどな」
態勢を低くし【神の脚】を発動させた後に右腕を後ろにおもいっきし回し【神の腕】も発動させる。
トロールは再び右手を空まで掲げ、俺目掛けて振り下ろそうとしてきていた。
「悪いけど…おせーなっ!!」
地面を蹴り、高速で空高くまで飛び跳ねる。
「これでも食らえっ!!」
俺はそのままトロールの首根っこ目掛けて自慢のラリアットをぶちかました。
――トロールの頭を膨大な白い光の閃光が貫通する。レベル230のはずのトロールも、やはり一撃で呆気なく消滅してしまった。
◇
トロールが死ぬときに心臓部分が結晶化した物という『森の巨人の結晶』をリズが入手しようと例の袋に入れ込んでいる。トロール自体伝説上のモンスターらしく、その結晶となればめちゃくちゃ貴重なアイテムのようだ。
「な?…大丈夫だったろ?」
リズの頭をフード越しにがしがしと撫でる。
「も、もー!フード取れるから!」
彼女は必死にフードを被り直してから、ポツポツと呟いた。
「…伝説上のモンスターに遭遇すれば、そりゃボクだってびびるよ。流石のカトーさんでも大丈夫なのかなって一瞬不安になっちゃっただけ…」
「まー、所詮俺つえーな、なろう主人公みたいなもんだからな、俺も」
敢えて、リズが前に呟いた『なろう主人公』というワードを使い自嘲気味に言った。
「あはは、そうだよね。…それにカトーさんは他の転移者より更にチートだったんだ。本当に余計な心配だったよ」
そこでようやくリズに笑顔が戻る。
「なぁ?お前は何でなろう主人公って言葉知ってるんだ?」
俺は前から気になっていたこの件について尋ねてみる事にした。
「ん?何でって、前に組んでたパーティーリーダーに教えてもらったからだけど?」
なるほど。
でもそいつは何でそんな単語を知ってたんだ?
「おい…まさか!?」
俺はふと脳裏に過った言葉を彼女に尋ねてみた。
「…お前のその、元仲間って異世界転移者じゃねーよな?」
「ほえ?そうだよ?あれ、言ってなかったっけ?」
衝撃的な事実を知ってしまった。
彼女が『普通、異世界転移者なら!』とかよく言っていたのも、前の仲間と比較した上での発言だったようだ。
「なるほどな」
「え、何が?」
「いや、何でもねーよ」
彼女の目的は自分を裏切った元仲間に復讐する事。という事はゆくゆく俺は同じ転移者と戦う事になる。
転移者同士の戦いとなると、おそらく壮絶な死闘になる可能性がある。
なるだけ穏便に済ませれたらそれが一番いいのだが、今から最悪の可能性も想像しといた方がいいかも知れない。
「…んじゃ、取り敢えず帰るか。 ほら?」
俺は中腰に屈み『おんぶしてやる』とジェスチャーをする。
「えへへー、くるしゅーないぞー」
リズは笑顔で俺の背中に飛び乗った。
「いっけー!カトー号!!ケルヌトの街まで一走りだーっ!!」
脚をバタバタと動かしきゃーきゃーと子供みたいに騒ぐリズ。
「おいクソガキ静かにしろ!そして俺は馬かっ!?」
「きゃ〜カトーさん怖い〜!!…あ、どさくさに紛れてお尻とか触らないでよね?」
「アホか、誰がガキの尻を触るかよ」
「むー、子供扱いすんなしっ!これでもピチピチの21歳のレディーなんだしっ!!本気だせば色気はんぱねーし!!」
あー、はいはい。色気のいの字も見当たらないが。まー、そーいう事にしておくか、もう返事返すのも面倒だ。
「…んじゃー、しっかり掴まっとけよ」
俺は【神の脚】を発動させ、ケルヌトの街目掛けて走り出す。
「もー!今の話聞いてた!?ねー?ねー?ってうわぁぁ!?」
リズは驚きながらもフードが脱げないように片手で頭をしっかりと抑えながら、もう片手はぎゅーっと俺の首に腕を回ししがみ付いてくる。
「うわー、やっぱすっごいねー!!ひゃっほーい!!」
高速で走る俺のスピードに段々と慣れてきたのか、リズは楽しそうに声を弾ませはしゃいでいる。
「おい!あんまはしゃぐと落ちるって!」
「だーいじょーぶー!!ほら、ぎゅーってしてるから!ね?」
リズは俺の首に回す腕に、更に力を入れ、そのまま背後から俺の背中に顔を埋めてくる。
「くすぐってーんだけど…」
いちいちコイツは密着し過ぎなんだよ。人懐っこいっつーか、隙が多いっつーか。まじでビッチ臭が凄い。
「うへへ、カトーさんって何だかんだ優しいよねー。何か本当にこうやってるとお父さんにおんぶされてるみたい」
「……俺はまだ29 歳だっつーの」
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