9話.元カノに浮気されフラれたこの俺が異世界に来ただけでモテるとかまじでありえないのだが。
ギルドに戻り。俺達2000G、ケネディ2000Gの配分で報酬を分配した。
ケネディはこんなに貰うのは申し訳ないと、リズはこんだけじゃ少ないと、二人から様々な意見をもらったが、俺は自らの提案によるこの配分を頑として変える事はしなかった。
それでも気が済まないとケネディが今晩の酒と飯代を奢ってくれる事になり、俺達三人は前回同様の酒場で祝勝会をしていた。
「…まさか。カトーが転移者だったとわ」
「悪い、あんま言いたくなくてよ…」
「何故だっ?転移者とは選ばれた者!胸を張っていい事だろ!?」
ケネディはテーブルをドンっと叩き熱く語る。この件に関してはリズも静かにうんうんと頷いている。
「選ばれた者か。…正直俺は運が良かっただけで、この力は俺の努力や才能で手に入れたものじゃねーからな」
「出た!カトーの俺っちはアンチ転移者だぜ!の卑屈トーク!!」
「うるせーな。ドヤ顔で俺つえーヒャッホーってやってる奴見てると腹立つんだよ!そいつらと同じところまで堕ちたくないだけだ」
「…それだけの力を持ちながら。自らの力に驕りたくないと…んぐっんぐっんぐっ…はぁ…」
ケネディは何杯目かのビールを一気に飲み干し、ゴンッと乱暴にジャッキをテーブルに置く。
もう完全に出来上がっている。
「…素敵だ」
「は?」
「…は?」
ケネディがボソリと呟いた言葉に俺とリズは文字通り『は?』と驚く。
「貴公の事だ、カトー。君はそれだけの力を持っておきながらその力に溺れる事なく、己の儀を貫こうとするその姿勢!凄く素敵だ」
「………は、はぁ。そりゃどーも」
そこまで熱くリスペクトをされるとも思ってなかったので、正直戸惑う。
「婚約して欲しい」
「はぁ!?」
「何だってぇぇぇぇ!?」
突然きた彼女の婚約の申し込みに俺とリズは思わず同時にドンっとテーブルを叩き驚き叫ぶ。
「…駄目だろうか?」
急にしおらしい態度で俺の顔色を伺ってくるケネディ。
何だ?何だ?何なんだ?ケネディは俺と結婚して欲しいと言っているのか?何故俺?さっきの話は彼女なりに共感してくれたのだろうって事は分かった、理解できた。だけど、そこから急に結婚?は?まじで意味が分からない。
「はーいはいはい!ダメですー!絶対にダメですー!カトーはボクが先に見つけたんですー!だからボクのなんですー!」
リズはガバッと俺の腕に抱き付き、意地の悪い表情でケネディを挑発する。
「…まさか、二人は…その…交際しているのか?」
は?俺とリズが付き合ってる?ありえねー、絶対にありえねー。ケネディの脳内はいつから恋愛思考になったんだ?お前さっきまで斧振り回してた凛々しい戦士だっただろーが。
「つ、付き合っては…ないんだけど……でもダメなものはダメなのー!! それにさっきカトーさんには色目を使わないって約束したじゃんか!!」
「色目などではない! 真剣に婚約を申し込んでいるのだ!! それより、交際してはいないのだな?そうだな?…なら、問題ないではないか。そんなにひっついて…先程からカトーが嫌がっているぞ?お嬢ちゃん」
「むきー!もー!もー!もー!!うざいんだけどこの金髪ボイン!!」
「アンナ・ケネディだっ!!」
ぎゃーぎゃー騒ぎながらリズは俺の腕に更に密着してくる。つーかさっきから控えめな胸が当たってるんだが。
「申し訳ないが婚約は断る」
「な、何故だっ?」
「ほーらねー?ふふん」
あきらかにショックを受けているケネディとは対照的にリズは勝ち誇ったような表情で彼女を鼻で笑った。
「お前はお前で離れろっ!」
力ずくでリズを腕から離らかせる。
「ちぇー、なんだいなんだい。ボクとカトーさんの仲じゃんかよー」
不貞腐れるリズをスルーして、俺はケネディに向き直る、そして真っ直ぐに見つめ問い掛けた。
「逆に何で俺なんだ?転移者だからか?」
「……な、何故って…素直に素敵だと思ったからだが」
「俺がチート的な能力持ってるのにそれに驕らず謙虚な姿勢だったからか?」
「ま、まー…そうなるかも知れぬ…」
なるほどな。異世界バンザイじゃねーか。
やっぱどんな性格だろうが、どんな姿勢で生きてようが、強い奴は、『主人公野郎』 はモテるって事か。
だってそうだ。強いんだから仕方ないのだ。
きっと俺つえーの異世界転移者達は今回のように女性から沢山アプローチされ過ぎて、たいしてカッコ良くもないであろう自分の評価を誤り調子に乗ってしまったのだ。
だからあんな感じで『やれやれ〜、俺は別に求めてないのに彼女達から凄く求められて困るぜ〜』的な、すかした顔をしながら新たな女性からも好意を寄せられるのを期待して待っているのだろう。
現に異世界転移したってだけで俺もさっそくモテてしまっている。何だかそんな状況に段々と腹が立ってきてしまった。
「俺が何で断ったか分かるか?」
「…お、教えてくれ。私の何が駄目だったのだろうか?」
彼女は少し怯えたような瞳で俺の顔色を伺ってくる。
「…ブスだから」
「うっせーな、お前は黙ってろ」
横槍を入れてくるをリズを黙らせてから、俺は再びケネディに喋り掛ける。
「お前は俺の事が好きなんじゃない。英雄という幻影に想いを寄せているだけだ」
「な、何を言いたいのかよく分からないのだが…私は確かにカトーの事を…」
「俺が強いからだろ?お前から見て俺が威張ってないように見えたからだろ?逆に言うとそれだけで俺の事が好きなのか?他に俺の何を知ってるんだ?俺が何歳だとか、俺が何が好きだとか、どんな事で感動して、どんな事で怒るとか、そういった性格や好みとか知ってる上で言ってるのか?」
「い、いや…そこまでは…確かに…何も知らぬ…」
彼女は今にも泣き出しそうな潤んだ瞳で俺の話を真面目に聞いている。しかし彼女のHPはもう残り少なくなっているように見えた。
それを理解した上でもヒートアップした俺はもう止まれなかった。
「じゃーそうじゃねーか、お前は俺が異世界転移者っていう、それしかない少ない情報の中、今日告白してきたんだろ?その行動が何よりも物語ってる。もう一度言うぞ?お前は俺が好きなんじゃない、俺が異世界転移者だから、俺がアホみたいに強いスキルを持ってるから好きになったつもりでいるだけだ」
「な、何もそこまでっ…そこまで否定しなくても良いではないかぁぁぁぁ!!初めて殿方に告白したのにぃぃ!あんまりだっ!あんまりではないかぁぁぁ!!」
ケネディはいい歳しているのにも関わらず号泣しながら酒場を出て行ってしまった。
「わー引くわー、金髪ボインにはムカついてたから、いい気味って聞いてたけど…途中からカトーさんの発言に引いたわー。 ねぇ?カトーさんってモテないでしょー?絶対にモテないでしょー?」
「だったら何だよ?」
ドン引きしているリズに冷たく返事を返す。
「いや?ただこの人モテないだろーなーって思いながら聞いてただけー。まぁ、そっちの方があんな感じのクソみたいな虫がつかなくて安心なんだけどさー」
「…ふん」
確かに俺はモテなかった。だから彼女にも浮気されたし、それが発覚した夜に何故か上から目線でフラれた。
結局人は好きだなんだって恋人に言いながら今以上にスペックの高い相手を探しているんだ。
だからこそこの世界に来て高スペックになった途端にモテるこの状況が、嫌になるくらいに俺の自論が証明された気がして、更に嫌気がさしてしまったのだ。
「今日は飲むぞ、付き合え」
「もっちろーん! おじさ〜ん!ビールとフルーツ酒追加ね〜?もちろん、さっきの女の人のつけで〜!!」
「おまっ…ここは俺達が払うべきだろ!?」
「えー、だって金髪ボインが奢るっていうから来たんじゃーん?ガンガン飲むぞー!!へい!そこの冒険者の兄ちゃん達も一緒にどうだい?」
ケネディが居なくなった途端にテンション爆上げで、近くのテーブルで静かに飲んでいる男二人組の冒険者にリズはうざ絡みを始めた。
「い、いいんですか!?」
「喜んでっ!!」
うざ絡みをするリズを止めよとしたが、意外と二人組の冒険者は食い気味で喜び俺達と同じテーブルに移動してきた。
「何か二人共…どっかで見たような…」
冒険者二人組の顔を交互に見ながら俺は記憶を辿る。
「あっ!…確か、ギルドで一度会った!!」
「覚えていて頂けましたかっ!?」
「あー!!めっちゃ嬉しいっス!!」
そう、彼等は前にギルドで異世界転移者を『主人公野郎』と馬鹿にしていた冒険者達だった。俺が同じ考え方をした転移者だって知った途端に何故か俺のファンのような存在になった二人組だ。
「あれ?こんな人達と絡んだ事あったっけ?」
自分から絡みに行ってたくせして全く記憶に御座いません状態のリズ。
「…すみません。 さっきのカトーさん達の話聞かせてもらってたんですけど…」
「ちょ!お前流石に失礼になるだろっ!?」
「いやっ、ここは敢えて言わせてもらおう?結果盗み聞きみたいな事してしまった件については怒られる覚悟ができてる!それでも俺はあの話をカトーさんに、いや!カトーさんにだからこそ、聞いてもらいたいんだ!」
何やら冒険者達は軽く揉め出し少し話し合った後、その内の一人が真剣な表情で俺に話しかけてきた。
「…すみません。さっきのカトーさん達の話聞かせてもらってたんですけど…」
「さっきのって?…あー、ケネディの件か」
「はい!…盗み聞きするような事をしてしまいすみません。……でも、あの!聞いて下さい! 俺達やっぱりカトーさんの事すげー人だなってさっきの件で改めて思って!俺達二人して感動しちゃっててさっきなんて泣きそうだったよな!?俺達、な!?」
「は、はい!!やっぱカトーさんみたいな転移者、初めてですよ!!俺もう、手が震えましたもんっ!!」
興奮気味に俺の事を凄いと語り出す二人。その内の一人が突然しんみりしたような表情で言葉を続ける。
「実は俺の相方の、コイツなんですけど…」
冒険者の男は連れの相方を親指でクイッと指差す。
「コイツ、去年…異世界転移者に婚約者を寝取られちゃって…」
「…そうだったのか」
奪う側は何とも思わないのだろうが、奪われる側は過去の古傷として一生残る。
もう、その恋人に全く未練がなかったとしてもそういう出来事もあると、トラウマとして残るのだ。
「はい。…でもコイツ優しいから、彼女は悪くないって…悪いのは魅力がない自分だって言って…頑なにこの件に関しては元婚約者の事も、異世界転移者の事も悪く言わないんです…でも、たまに一人で泣いてるのとか、俺知ってて…」
「馬鹿!?お前気付いてたのかよっ!?」
「当たり前だろ?…だから、さっきのカトーさんの言葉すげー心が震えました!! 正直他の転移者達は好意を寄せられる数だけハーレムを作って、そんな彼等に夢中になる女性達が増えるたびにコイツや俺達のような弱者は人並みの幸せすらも掴めないんです…だから、俺はそんなハーレムを作れるだけ作ってすかした顔してるような転移者達が大っ嫌いで!!」
「分かる」
痛い程に彼等の気持ちが分かった。だから敢えて彼の相方を楽にする為にもこのキツイ言葉を贈った。
「その転移者はクソだ。 そして、お前の元婚約者もクソだ」
俺のその言葉に、婚約者を取られた彼は大粒の涙を流した。
「…はいぃ…ありがとうございます…ありがとうございますぅぅ…」
「……なんだろー、この取り残された感……」
◇
「いーか?転移者達もクソだが、それになびく女共もクソだ!」
俺の演説に涙を流し感動する二人。
リズは心底つまらなそうに一人でフルーツ酒をちみちみと飲んでいる。
「いや〜、あの時のカトーさんの台詞かっこよかったな〜、俺が異世界転移者だから、お前は俺の事を好きになったつもりでいるだけだ!!つってあの告白をバッサリ切るなんてまじで痺れました!!ほんっとかっこよすぎます!! 逆に俺が最強スキル手に入れて、カトーさんのようにモテたとして、そん時俺カトーさんみたいにバッサリ切れるか自信ねーっすもん!!」
「そうですよっ!!カトーさんは俺達みたいな奴等の希望です!!本当に是非とも他の俺つえーの主人公野郎をぎゃふんと、そして元俺のクソ婚約者もぎゃふんとなるように世界最強に成り上がって頂きたい!!」
「やめろって…別に俺はそこまで上にあがるつもりはないんだ。一応コイツとの旅が終われば静かに街で暮らして人並みの生活ができたらいいかなって思ってたんだが…」
「く〜!!そんな謙虚なカトーさんも痺れます!!でも、だからこそ!やっぱり貴方は上になるべきだ!!!俺達まじで応援してますから!!な?俺達、な??」
「そうです!!!本当にカトーさんみたいな転移者が一番になって、自分は最強だと思ってた奴等が悔しがる顔を見れたら、俺達みたいに報われなかった奴等が全員報われるんです!!まさに異世界転移者達にざまぁってなりますよ!!」
出た、ざまぁ。本当に流行ってる言葉のようだ。
確かにこの二人の言うように他の調子に乗ってる転移者達を出し抜くのもありなのかも知れない、だが今の俺はそんな事を実際にやろうとまでは思えなかった。
散々この三人で盛り上がった後、俺達はキッチリと代金を支払い、いつの間にかベロベロに酔っ払っているリズを背負い例の安い宿に向かう。
◇
「お客様…未成年を酔わせて襲うのは犯罪ですよ?」
例の強気な受付嬢が、リズを背負う俺を見て呟く。
異世界でも、そういう法律があるのか。
「…じゃなくて! 酔い潰れた仲間を背負ってきただけですよ。もちろん二部屋、シングルでお願いします」
「…かしこまりました。 当宿では、そういった行為はNGとなっておりますのでご了承下さ」
「だからしねーつってんだろ!」
「はい、ではお願いしますね? それではロリコン…じゃなくてお客様の部屋は二階の4号室と5号室となります」
俺達の最初の感じが悪かった為だろう。
めちくちゃ嫌な接客をされてしまった。
「ったく。まさかの二階とか…罰ゲームだろ、これ…」
二階のリズの部屋まで運び、彼女をベッドの上に寝かせる。
「…んー、ねー。 カトーさーん、喉乾いたー」
「何だよ?起きてたのか?」
俺はカップに水を注ぎ、彼女に手渡した。
「ん、ありがとー」
「じゃあ俺は寝るからな? 取り敢えず明日もクエストして暫くは金を貯めるぞ。いいな?」
「分かりました〜」
「…じゃ、おやすみ」
「あ、ねぇ?カトーさん」
ドアを閉めようとした途端リズが声を掛けてくる。
「何だよ…?」
彼女は突然真剣な顔で質問してきた。
「…そんなに異世界転移者の事を好きになるのってダメな事なのかな…?」
「………」
「…例えば、ずっと自分が苦しんできてて…酷い目にあってたところを突然そんな人が現れてパッと自分を救ってくれたら…その人の事を好きになるんじゃないかな?…それって異世界転移者だからとか、違うからとか関係なくて、その人が自分の事を救ってくれたから…その子にとっては白馬の王子様に見えるんだよ…それも、悪い事なのかな…?」
リズにしては珍しく本当に真面目な質問のようだ。
「別に悪い事じゃねーよ。ただ、そんな吊り橋効果で付き合ったカップルなんてすぐにお互いの嫌なところを見てその途端にダメになるだろって話だ」
「…カトーさんの話は難しくてよく分からないよ…」
少しだけ暗い表情でリズはボソリと呟いた。
「…いいから今日はもう寝ろ? また明日早くから行動するからな?」
「…うん」
ドアを閉め、自分の部屋に入る。俺はそのまま窓を全開にして真夜中のケルヌトの街を見下ろしながらタバコに火を付けた。
「……ふぅ」
『貴方とは未来が見えない、でもあの人となら…私は上手くやっていけるの!それをあの人が教えてくれた。…だから、もう別れましょ?私達』
浮気が発覚し俺に問い詰められていたはずの元カノは急に開き直ったように逆ギレして更に上から目線で別れを告げてきた。
別にもうあんな女の事など未練もクソもない、だが今回の色々な件で久しぶりにあの日の事が頭に過ぎった。
「…だったら、俺に浮気がバレる前に別れてあっちにいっとけよ」
ケルヌトの街から見上げる星空は、異世界の夜空はとても綺麗だった。
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面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、どちらでも構いません。
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