第13世界 C.双河鬼龍院家の御令嬢
第13世界 モンスターパニックの世界
9話ルートC 双河鬼龍院家の御令嬢
無事人間証明を終えた私と佐々木は野村という男性から駅構内の避難者の状況を確認していた。
野村によるとこの奥の駅中央に避難者が200人ほど集まっており、木下という男の指導の下避難者のうち動ける若い人60人を6つの班に分け、駅構内を巡回し、怪物の侵入の調査及び食糧等の調達を行っているという。
木下という男、襲撃が始まって数時間だというのに避難者をまとめて指揮を取り、駅での籠城の準備を進めていると考えるとかなり切れ者のようだ。
私の横で話を聞いている佐々木が考え込む。
その奥でふと、ある生徒に目が付いた。
「…あれは天戯生徒と山田姉妹か、珍しい組み合わせだな。」
確か山田姉は学校で足を挫いて怪我をしていたはずだ。
歩く分には問題ないと言っていたが、今後の事を考えるとあまり無理はさせられんな。
これ以上悪化する前に早めに中央の避難者と合流しなければ。
その山田姉の足首に天戯が手を当てて何かをしている。
一体何をしているのだ?
しばらくそのままの体勢でいたが、1分くらいだろうか。
天戯が手を放すと山田姉は飛んだり足首を回したりして足の様子を確認しだす。
その様子に痛がる素振りは感じられなかった。
「天戯、あんたこんなこともできるの!?」
……一体なにが起こったのだ?
いや、何をしたのだ?
触れただけで山田姉の捻挫を治したように見えたのだが…
指圧治療で患部の炎症を抑え改善させるという治療もあると聞いたことがあるが、天戯のそれはどうも違う。
いや、天戯について疑問に思うのはそれだけではない。
なぜあいつはあんなにも怪物の緑色の血がついているのだ?
頬や制服にもまるで間近で怪物の血を浴びたように緑色の返り血が付いている。
学校でもまるで何かに身体を串刺しにされたかのような穴だらけの怪物の死体を複数確認した。
佐々木の話でも最初の化け物の襲撃の際に何か赤い棘が化け物を串刺しにしたと言っていた。
その後図書室に逃げる際にも同様に追ってくる化け物が突然身体を穴だらけにして死んでいたと…
天戯の仕業か?
……なんてな、バカバカしい。
どうやら私もこの状況で少々混乱しているらしい。
「山田生徒、足の調子は……」
「きゃああああああああああ!!」
声を掛けようとしたその時、背後から悲鳴が上がる。
声の方を向くとそこには右手を異形のそれに変化させた女子生徒が生徒たちに襲い掛かっていた。
生徒の中に混じっていたのだろうか?
バスに乗車する際には変な生徒は居なかったはずだ。
「キシャァアァアアアアアアアア」
異形と化した女子生徒が雄叫びを上げると天井を突き破り、6匹の化け物が降り立つ。
生徒たちはその化け物から逃げるように悲鳴を上げ、蜘蛛の子を散らすように方々へ駆けだす。
化け物も方々へ散る生徒たちを追って鎌を振り上げる。
慌てふためく生徒の中に駅の中心へ続く道へ進む一団がいた。
背後に化け物を連れており、そのままでは避難者が集まっている中心に化け物を引き連れていくことになる。
「駄目だ、そっちには生存者が集まっている!!」
「皆落ち着くんだ!!」
私や野村が声を上げ叫ぶが生徒たちの悲鳴にかき消されしまう。
何としてでも中央にあの化け物を行かせるわけにはいかない。
落ちているナイフと鉄パイプを拾い、駅中央へと向かう一団を追って私は駆け出す。
「こっちだよ!化け物!!」
背後では佐々木が怪物と化した女子生徒を引き付けて中央から遠ざけるように反対側へと駆けていく。
「……死ぬんじゃないぞ、佐々木副会長」
横目で佐々木と異形の女子生徒を確認し、私は化け物の後を追った。
化け物から逃げる生徒たちは道を左へ右へと曲がり、すでに駅中央からは遠ざかり、駅直結のショッピングセンター内に逃れていた。
どうやら野村が先導し、うまいこと駅中央から遠ざけるルートを選んでいるようだった。
先ほどから化け物の標的を移そうと叫んだりしているが、後ろを走る私には目もくれずに前方を逃げる生徒たちを執拗に追いかけまわしている。
どうにか先頭の野村に連絡を取らなければ、このままでは生徒に犠牲者が出てしまう。
そういえば、どういう訳か通信機能はまだ死んではいなかったはずだ。
学校の体育館倉庫に避難していた時には図書室にいる佐々木とメールでの連絡ができた。
今もまだ使えるかはわからないが試す価値はあるはずだ。
走りながら私は先ほど野村に貰った名刺に書かれている携帯番号へ電話を掛ける。
呼び出し音が鳴る、どうやら通信機能は依然健在のようだ。
あとはこの状況下で野村が携帯を所持し電話に気が付くかと、話す余裕があるかどうかだ。
後ろには人殺しの化け物が鎌を振りかざして追いかけてくるこの切迫した状況で悠長に電話に出る余裕はないか。
数コールの後、切ろうとした直後通話がつながった。
「はい、お客様のために肝臓から休日まで喜んで献上させていただきます、オプスキュリティ商事営業課の野村です!」
良かった、まだ大分余裕がありそうだな野村よ。
あと、その電話応答の文言は変えたほうがいいと思うぞ?
すべてが片付いたらお父様に話をしておこう。
「野村、司だ。」
「あ、これはこれはご令嬢!どうされました?」
この状況下でなんなのだその余裕は?
先頭を走っているの本当に野村なのか?
「今化け物を後ろから追いかけているところだ。化け物を振り切るために協力してほしい。」
先頭を走りながら目線でこちらを確認した野村は驚いたように目を見開く。
「そんなご令嬢!ここは私に任せて危険ですから早く非難してください、そしてお父様に私の活躍を伝えてください。願わくば部長に…」
「私に忖度しても意味ないぞ野村課長!そんなことよりもこれから言う場所に化け物を誘導してもらいたい。」
まったくもって野村のサラリーマン魂と出世意欲には感心してしまう。
いや、感心を通り越して呆れの感情の方が強いが、その余裕が今は少々心強い。
電話を切った私は踵を返し、指定の場所へと走る。
野村ならうまいこと誘導してくれるだろう。
指定の場所に到着した私は手早く準備を進める。
私が言ったルートで先ほどのままのスピードでこちらに向かってくる場合、私の場所までくるまでの時間はおよそ3分。
……あと1分
準備を終えた私は通路の先を睨みつけ仁王立ちで迎え撃つ。
失敗すれば死ぬな。
大丈夫だ、私は双河鬼龍院家の娘。
運動神経にも自信があるし、計算にも間違いはないはずだ。
胸元から双河鬼龍院家の紋章が刻まれたロケットペンダントを取り出す。
私が肌身離さず持ち歩いている宝物だ。
ロケットを握りしめ、深呼吸を繰り返し気持ちを落ち着かせる。
程なくして遠くに化け物の雄叫びが聞こえる。
どうやら来たようだ。
私は線を抜き、ノズル構える。
先頭を走る野村は私に気づくと後ろをついてくる生徒に声を掛ける。
T字路に立つ私に向かって迫りくる一団と化け物。
野村たちは私を避けるようにT字路を左右に走り抜ける。
この作戦が失敗に終わった場合も考慮し野村たちには左右に分かれた後も走り続けてもらう。
幸い作戦は一瞬成功かどうかの判断は直ぐにつくはずだ。
全員が走り抜けると私は準備しておいた消火器のノズルを掲げ、化け物目掛けて吹き付け素早く身をかがめて横へ飛びのく。
白い消火剤によって視界を奪われた化け物はそのままT字路の壁に激突し、ちょうと胸の位置に当たるように固定していた鉄パイプに突き刺さる。
「ギシャアアァァァァァアアアアアアア」
緑色の血をまき散らしてのた打ち回る化け物。
鉄パイプに突き刺さったままで立ち上がれないようだが死んではいないようだ、四本の腕を振り回し暴れ回る。
作戦は成功だが、やはり胸を貫かれたぐらいでは死なないか。
私はナイフを片手に四肢をバタつかせる化け物に一直線に突っ込む。
襲い来る4本の鎌を反射神経だけで躱して素早く懐に入り込むと、憎々し気に歪めた化け物の顔面にナイフを突き立てた。
外皮同様に硬くナイフの刃が通らなかったらこのまま逃げるしかないと思っていたが、どうやら顔面は人のそれと同じようで深々とナイフが突き刺ささった。
肉を裂き、骨を砕く感触がナイフを握りしめる両の手に伝わる。
化け物が四肢をだらっと伸ばし動かなくなったのを確認し、噴き出した緑の血を浴びたナイフをゆっくりと放す。
……嫌な感触だ。
今になって震えだした両手を握りしめ無理矢理に押さえつける。
生徒会長たる者、いついかなる時でも気丈に振る舞い、生徒を導かなくてはならない。
それに私は双河鬼龍院家の娘、なおのこと毅然としなければ。
「皆無事か?」
T字を左右に避けた生徒たちは化け物が動かなくなったのを確認しその場に座り込む。
ぜぇぜぇと肩で息をし、安堵の表情を見せる。
幸い怪我をした生徒は居ないようだ。
「会長も無事ですか?」
「問題ない。」
手についた化け物の血をハンカチで拭う。
現在我々は駅の南に位置する雑貨や衣服を中心に扱う店が多く並ぶ「PASERI」という商業ビルの3階にいる。
駅中央からは少々遠ざかってしまった。
「これから駅中央の生存者が集まっている場所に向かおうと思う。」
大の字に寝ころんだまま「三十路のおじさんにこの運動量はきついぜぇ」と軽口を叩く野村に声を掛ける。
分かりましたと上体を起こした野村は携帯を取り出しどこかへと電話を掛ける。
中央にいる木下にでも連絡するのだろう。
佐々木は無事だろうか。
スマホを取り出し、電話しようかと連絡先を表示させるが、もし佐々木が今どこかに隠れていたとすれば、呼び出し音が鳴らされるのは危険かもしれない。
今はまだ止しておこう。
「ご令嬢、あの……」
野村が私を呼ぶ。
電話は済んだのだろうか、話し声は聞こえなかったが…
野村は携帯の画面をこちらに向けており、メールだろうかと画面を覗こうとすると
「通信機能が死んだようです。」
画面の右上には圏外と表示されており、自身のスマホも確認したが同様に圏外となっていた。
その直後ビル内の照明が落ちた。
非常出口の明かりによってかろうじて周辺は確認できるが、ついに使えなくなったか。
通信も電気もこの状況で使えていた方が不思議なくらいではあるが、状況はより厳しくなった。
方々に散った生徒たちとはもちろん実家のお父様とも連絡が取れなくなってしまった。
「か、会長どうしましょう?」
「私たちこれからどうすれば……」
照明が消えたことで一気に不安が増したのだろう。
生徒たちの安堵の表情は消え失せていた。
私がしっかりしなければ。
スマホのライトで周囲を照らしいつの間にか私の周辺に集まている生徒たちに告げる。
「これから駅中央に向かう。スマホを持っている人は周辺を照らしながら進むぞ。」
停電でいつ復旧するかもわからない状態だ。
いや、そもそも復旧作業など行われてはいないだろう。
通信機能も同様だ。
スマホのバッテリーを気にするよりは現状の危機を乗り越えるとしよう。
「それから全員片目を瞑り、暗闇に目を慣らしておけ。いざ化け物と遭遇した場合に走れるように。」
密集し、周辺をスマホのライトで照らしながら先頭を私が殿を野村に任せ、慎重に進む。
この暗い状況で化け物と出くわすことになるのが一番最悪の状況だ。
非常用の照明が所々についているとはいえ、周囲はかなり薄暗い。
索敵も逃走経路も先ほどより格段に判別しづらい状態だ。
幸いこの駅の構造はすべて頭に入っている。
現在位置から最短で駅中央に向かうルートもわかっているが、慎重に進むとしよう。
「……行くぞ。」
生徒たちを引きつれやっとの思いで階段を下り、1階へとたどり着いたその直後、物陰から何かがこちらに向かって飛び出してきた。
咄嗟に身体を捩り飛び出してきたソレを躱し、蹴りを入れる。
何だ!?
化け物か!?
飛び出してきたソレは私に蹴られて反対側へと転ぶ。
「い、痛い……」
スマホを向けるとそこには一人の生徒が照らし出された。
「君は確か、田中生徒だったか?」
蹴られた背中をさすりながら涙目でこちらを見上げた小太りの男子生徒。
2年A組田中吉彦、先ほどの襲撃の際他の生徒たちと一緒に西側に逃げていたはずだが?
周囲を見渡しても他の生徒たちは見当たらない。
「済まない、咄嗟の事につい。大丈夫か?」
差し出した手を田中は両手で握り締め縋りつく。
「痛っ」
あまりに強く握られてしまったため、先ほど切った手のひらの傷が再び開いてしまったようだ。
包帯に血が滲みだす。
「た、助けてください生徒会長、ボクを助けてください!!」
「落ち着くのだ田中生徒、一緒に逃げていた他の生徒たちはどうした?」
「知らないです!あいつらみんなボクを見捨てて逃げやがったんです!!」
血走った目で大声で喚く。
完全に冷静さを欠いている。
そしてよく見ると顔が腫れて痣になっている。
化け物にやられたり、どこかにぶつけたというよりは誰かに殴られたような傷だ。
「静かにするんだ。化け物が近くにいるかもしれない。」
座り込む田中に目線を合わせ落ち着かせる。
「落ち着け田中生徒、兎も角、無事でよかった。」
「会長、先を急ぎましょう。」
そうだな、今はまず駅中央に行くのが最優先だ。
他のことは中央についてから考えるとしよう。
合流した田中を交え、我々は駅の中心に向けて歩を進めた。
ご来訪ありがとうございます。
どーも皆様、雨時雨、時雨時。と申します。
今回は生徒会長双河鬼龍院司視点での物語でした。
……え?誰?
となっていなければ良いのですが。
この世界の日本の4大財閥の1つである双河鬼龍院グループの御令嬢で文武両道の完璧超人です。
入学当初から常に学年1位の頭脳に、のた打ち回り四肢をバタつかせる人面カマキリの4本の鎌と4本の足を反射神経と動体視力のみで躱すことのできる運動神経を持ち合わせています。
性格面では非常に人格者で責任感が強い反面、なんでも自分一人で抱え込もうとする欠点もあります。
普段はそんな会長の性格を佐々木副会長と江口副会長が陰からサポートしているのですが……
さて、ルートCですが早くもルートBの田中吉彦と合流し共に中央を目指すことに。
あれ?
これルート分ける必要ないんじゃないの?
……楽しみですね。
それでは次回4分割のルートの最後「ルートD」でお会い致しましょう。
雨時雨、時雨時。




