第13世界 天戯さんは何処へ⁉
第13世界 unknown
1話 天戯さんは何処へ?
ふと目を開けるとそこはまるで見覚えのない教室であった。
そっと目を閉じ、小さく息を吐き出す。
もう一度目を開くがやはり俺は今教室にいるようだ。
…またか。
声には出さずに心の中で呟く。
12?いや13回目ともなれば流石に慣れたものである。
内心の動揺は一呼吸で落ち着かせ、状況を確認するため教室を見渡す。
幸い俺は教室後方の窓際の席に座っているようで状況を把握するには持ってこいだ。
時刻は13時40分。
教室内には37名の生徒と教壇に教師が1名現在進行形で教鞭をとっている。
説明の内容から現在は数学の授業中のようだ。
板書に書かれた数式から判断するに高校であろうか。ということは俺は16~18歳ってことか。
自分の頬に触れてみるが、なるほど確かに幾分若々しい肌触りである。
窓の外の世界は俺の良く知る日本の街並み、俺が住んでいる街よりもやや都会のような印象を受ける。
天気は快晴、雲一つない青い空だ。校門の並木道には満開の桜がその枝を風に揺らし、薄紅色の花弁が空に舞っている。春だ。
これだけの情報で現代日本と判断するのは早計か?
灰色のブレザーに身を包んだ学生たちは懸命にノートにペンを走らせている。
午後もそこその時間、昼食後に春のこの陽気だ。居眠りをしている生徒がいてもおかしくないのだが。
カリカリと芯が削れる音しか聞こえない。私語もなく熱心なことだ。
そこそこの学力の高校のようだ。進学校なのかもしれないな。
それともこの数学教師がすごく怖いのかもしれない。
見たところ赤や青、緑、銀髪金髪のような派手な髪色の生徒は見受けられない。
黒髪もしくは少し明るめの茶色ってところだ。
こうなると主要な人物を判断するのはなかなか骨が折れる。さらに後ろの席のため顔が確認できないのも大きい。
授業中であるため、前に出て顔を確認するわけにもいかない。
せめて髪だけでもチューリップのようにカラフルであれば見分けも付けやすいというのに。
突如教室のドアがけたたましく開けられる。
ペンの音が聞こえるくらい静かな教室に風船が割れたような大きな音が鳴る。
こら、ドアはもう少し静かに開けなさい。
みろ、俺の二個前の女子生徒なんかびっくりしたあまり消しゴムを落としちゃったじゃないか。
かくゆう俺もほんの少しびっくりしてしまったかもしれない。肩とかビクってなったかもしれない。俺としたことが油断していた。
生徒たちの視線は騒々しくドアを開けた人物に注がれる。
180㎝は優に超えていそうながっちりとした体躯、目に鮮やかな金髪は針のように逆立ち、鋭い眼光は野良犬のようで下手に手を出したら噛みつかれそうだ。
着崩したブレザーに身を包むその生徒は自分を見つめる生徒たちを睨みつけるように見渡す。
目が合った生徒は慌てたように視線を伏せる。
「高橋…。さっさと席につけ。」
教師はため息交じりに着席を促し、授業を再開した。ほかの生徒たちも同じように授業に戻る。
教師の対応、生徒たちの反応から見るにこれは見慣れた光景なのだろう。
高橋と呼ばれたその生徒は軽く舌打ちをして、そのまま何も言わずに席へと座る。
って俺の横の席かよ。
「何見てんだよ、なんか文句でもあんのか?」
俺が見ていたからだろう。威圧するような低い声で睨んでくる。
高橋君怖いな。
ここはひとつ友好的に接するとしよう。こういう人物には変に目を付けられては困る。
「教科書忘れたんだ、見せてくれないかと思ってね?」
「教科書なんざ持ってきてねぇよ。」
飄々とした口調で穏やかに話しかけてみたがおかしい。
先ほどよりも睨む視線が鋭くなっている。こんなに友好的に接しているのにどういう訳だ?
しかし、やはりというか、想像通りというか、高橋君は見た目通りの生徒のようで教科書など持ってきてはいないそうだ。
仕方がない。俺は机に広げているまだそれほど使われていないであろう数学Ⅱの教科書をずらし高橋君に見せる。
「俺の教科書、一緒に見るか?」
「見ねぇよ!つかお前教科書持ってんじゃねぇか!?」
差し出した手と教科書を叩き落とし、高橋君が吠える。
なんだよ、人がせっかく親切で貸してやろうとしているのに。噛みつかれてしまった。
高橋君は舌打ちをして、机に突っ伏してしまう。もう話しかけてくるなということだろう。
叩かれて少し赤くなった手の甲を撫でながら落ちた教科書を拾う。
高橋という生徒、短気な性格、粗暴な態度、厳つい体格、派手な見た目、彼は内外ともに不良生徒というしっかりとした個性を持っているようだ。
こういうキャラクターは重要だ。今後何かしらで主人公たちと関わる人物になってくる可能性が高い。
要注意人物だな。
さて他に注意しておく人物はいるかな?
生徒たちを見回す。相変わらず顔はあまり見えないが、高橋君の乱入により何となく検討はついた。
まず俺の右斜め2個前に座っている男子生徒。彼はおそらく主人公、もしくはそれに近しい重要人物だろう。
何処にでもいる普通の男子高校生ですっていう雰囲気をこれでもかというほど纏っているが、後ろ姿とちらっとみた横顔だけでもわかるほど、顔立ちが整っている。
ほかのモブ学生とは明らかに違う顔面だ。
そのくせ、先ほど女子生徒の消しゴムを拾ってあげていたが、女子生徒の反応が微妙であった。
他の生徒とは明らかに別格の整った顔面をした男子生徒から爽やかなイケメンスマイルをあの至近距離から浴びて、頬の一つも染めていない。何かしらの主人公補正が効いているのだろう。
俺の今までの経験が9割の確率で彼がこの世界の主人公であると告げている。注意しておこう。
そしてもう一人の要注意人物。こちらはそこまで確証は持てないが、主人公(仮)君の右後ろの女子生徒。
顔は確認できていないが、こちらも主人公(仮)と同様に明らかな美少女ですオーラがある。
心なしか彼女の周りだけキラキラして見えなくもない。
あくまで憶測の域を出ないがおそらく彼女は主人公(仮)君の想い人兼ヒロイン、もしくはそれに付随するキーパーソン枠の人物であろう。幼馴染とかな。
現状で確認できた重要人物はこの3名。
地味役に扮した主人公は比較的見つけやすいが、地味役に扮した地味な主要キャラクターは見ただけではわからない場合が多い。
フツメン(イケメン)男子高校生主人公と美少女ヒロイン、あからさまな不良生徒(だがイケメン)。
青春学園ラブコメか、純愛ラブストーリーか、どろどろの愛憎劇か。
まぁなんにせよ、俺を巻き込まず平和であるならそれに越したことはない。
元の世界に戻るまで俺は我関せずの傍観者を決め込めばいい。
多少時間は掛かるかもしれないが痛い思いや怖い思いをしないで済むのなら、甘んじてこの平和な世界を生きよう。
……なんて甘い考えは突如教室に侵入してきた巨大な怪物によって跡形もなく吹き飛ばされた…
どうやらこの世界はMPの世界だったようだ。
ご来訪ありがとうございます。
初めまして、私「雨時雨、時雨時。」と申します。
ふと、物語の世界観にそぐわない人物がその物語に巻き込まれたらどうなるんだろう。
そんな思いつきで書き始めた「天戯さんは何処へ!?」
どんな物語になっていくのか私も楽しみです。
いつか皆様が何かの物語を読んだとき、「もしこの物語のモブの一人として天戯さんが転移してきたらどうなるんだろう。」なんて考えてくださるような素敵な物語にしたいものです。
次回もよろしくお願いいたします。
雨時雨、時雨時。




