零
アルフェルエには魔力があった。
……魔力があった。
魔力以外、なにもなかった。
だからこうして、食いつないでいくために、ただ盾だと分かっていて体の良い捨て駒だと分かっていて、少年兵に出仕した。
一日でも長く、粥が掻きこめれば、ソレで良かった。
アルフェルエの最初の記憶は何処とも知れない薄汚い路上だ。
薄ぼんやりと灰色のそこ、煤けたそこがアルフェルエの故郷だった。
砂埃がたつ、故郷にはなかった植物というもの、枯れた草原が地平の向こうにサヤサヤと風に吹かれていた。
地面が、地面が、
──実際には、赤茶けた大地だった。
赤い。
たった、それだけのことでも最初は珍しかった。
赤土をアルフェルエのこぶ塗れのきちゃならしい素足が踏み締める。
少年は両手を掲げた。
全て全て白い閃光に包まれ、
俺はこうするしか知らない。
俺には魔力があって、
それ以外なにもなかった。魔力の使い方なんて知らない。
ただただ、放出させるだけ、だ。
そして、敵影が全滅した。
太陽が、太陽が昇る。アルフェルエの白虎のような、と称される実のところボサボサで何色だかも分からない髪が、真っ白く陽光に染まる、魔力の粒子とともに。
真白く輝く。
味方の兵士が勝ち鬨をあげた。
真赤き旗が突き刺さり、綺羅の生地が太陽の光を浴びて煌めく。
アルフェルエは何の感慨もなく思った。
次はどんな風景を見られるのか。
赤茶けた大地と枯草はわりと良かったな。
俺は赤い色が好きだ。