8.お試し
炎天のトレーニングは1週間続いた。
「良く頑張ったな!」
最後のトレーニングが終わった時、炎天は豪快に笑った。大半が疲れ果て、倒れていてもお構い無しだった。
しかし、幸太郎達は確実に、入団直後より筋力や体幹が鍛えられていた。
「これで俺の授業は終わりだ!しかし怠けられては困る」
炎天はファイルから紙を取り出し、一人一人に手渡しした。
(うわっ!何だこれ)
紙に書かれていたのは、簡単なトレーニングメニューだった。
「付け焼き刃にやっても意味がない。これからも精進することだな!」
「頑張ります」
冬汰は立ち上がると、炎天の前に立った。
「これからも励んできます」
炎天は目を細め、右手を差し出した。
「今度は同じ場所で会えるといいな!」
「はい」
冬汰は左手で握った。
□■□
炎天の授業が終わった次の日の朝、銘斗がやって来た。
「いやー、久し振りだね!誰一人脱落せずに頑張ったねー!」
後から語られたのは、あの厳しいトレーニングも見極めの一つだという事だった。
「今日はプレゼントがあるんだ。初期指導も終わるし、丁度良いしね」
「何でも良いから、さっさと見せろよ」
ズボンのポケットに手を突っ込んだまま、劉牙はテーブルに寄りかかった。
銘斗は注意するでもなく、満面の笑みで言った。
「それは着いてからの、お・た・の・し・み!」
「……キモ」
いつも以上に気持ち悪い、銘斗の口調と笑顔に、劉牙はドン引きした。さらに、劉牙だけではなく、その場に居た全員が引いており、静馬に至っては、顔が歪になっていた。
「……だいぶ傷付くよ」
□■□
(これがプレゼント……)
見た瞬間、そう思わずにいれなかった。
何故なら、目の前にあるのは、ラッピングされた箱等ではなく、銃だった。
(あの時選んだやつ……?)
他を見れば、同じ様に選んだ武器が置かれていた。
「前に武器を選んだでしょ?あれは簡易的だったけど、今度はしっかりしたものさ」
「結構頑張ったんだからなー。戦う時の癖とか考えて作ってあるの。だから大切にしろよー」
銘斗の横に居た城崎麗奈が、煙草を片手に気だるげに言った。
麗奈は鍛冶場の責任者であり、発明家でもある。本庁のシステム系統の7割は、麗奈が作ったものであった。
そして、幸太郎達が今居る場所は、無論鍛冶場である。
「八人分とか頭イカれてるだろー」
「うんうん。それは分かったけど、煙草は駄目じゃないの?」
「あたしは良いんだよ」
そのまま白い煙を吐き出した。
「ここで試してけよー」
麗奈は、手でついて来いと仕草すると、奥の角部屋に案内した。
そこは、白い空間がガラスで区切られ、それぞれヘルメットがぶら下がっていた。
「八人なら入るなー。適当に入って、適当に試せ」
それだけ言うと、その場から立ち去ろうとした。銘斗は慌てて止めた。
「待って、どこ行くの?」
「寝る」
それだけ返事すると、そのままサンダルを引き摺りながら、どこかへ消えていった。
「あれは徹夜だね。まあ、折角だし試してこう。あ、ヘルメット付けてねー」
銘斗は慣れた様に、壁に設置された端末を操作した。
すると、ヘルメット映像が映された。映像は、人型のイレギュラーが立っているものだった。
(まるで本物みたいだ)
映像は緻密で、そこに本当のイレギュラーが居るかの様だった。
銘斗がまた操作すると、立っていたイレギュラーは戦闘態勢になった。
驚いた幸太郎は、反射的に銃を撃った。すると、目の前のイレギュラーに攻撃の一打が入った。
(使い易い。銃自体が軽い……?)
幸太郎はそう思うと、銃を持ち上げた。
そして、もう一発撃った。
「もう外して良いよ」
プシューと音がすると、映像は消え、ヘルメットは簡単に外れた。
「これ本当に凄い……とっても使い易い」
八千代は感嘆の溜息を吐いた。
「皆、好印象っぽいねー。後で城崎に言うか」
「城崎さんに、是非お礼を申し上げたいですね」
興奮した様に茉莉奈が、剣を持ったまま両手をブンブンと振った。
「姉さん危ないから」
龍太は呆れながら、茉莉奈を諌めた。
「また会えるさ。その時にでも大丈夫だろう。とにかく、ここを出ようか」
銘斗はそう言って、足を促した。
□■□
最初に使った会議室に入ると、机に荷物が置かれ座る場所が決まっていた。
「皆、良く頑張ったね。これで初期指導は終わり。これから君達はバラバラになる」
銘斗はそこで区切ると、端末を見た。メールか何かが届いたんだな、と幸太郎は思った。
「でも同僚同士だ。そして班は違えど、同じ場所になる事もあるだろう。その時は頑張ってね」
銘斗はパンっと手を叩いた。
「これにて、解散!」