6.見極め
鳥の鳴き声が聞こえ始め、遠くから目覚まし時計の音が鳴り響いていた。
目覚めはしたものの、眠気は冷めず、幸太郎は布団を被ってぐずっていた。
しかし、それも束の間だった。同室の冬汰がカーテンを開け、布団を取り上げ、幸太郎の肩を揺らした。
「おはよう、朝だよ。ほら起きて」
「うぅぅ……」
幸太郎はのろのろと布団から這い出て、寝惚けながら服を着変えようとした。
「その前に顔を洗ってきなよ」
「うん、そうするよ……ありがとう」
それから暫くして、身支度を終える頃に完全に目を覚まさせた。
朝食を取りに食堂へ向かうと、既に四人いた。
「おはようございます」
寮長である静馬が、二人に気付き慇懃に一礼した。
「おはようございます」
返したところで、朝食が乗ったプレートが渡された。玉ねぎとチーズが乗ったパンに、簡単な野菜スープ、サラダとウィンナーだった。
「ふぉふぁよー」
タイミング良く、パンにかぶりついていた八千代が手を振った。
「言えてないよ」
幸太郎は少し笑いながら、八千代の前に座った。
「昨日も仲良しさんだったよねー」
ウィンナーを皿に残した仄佳が、茶化してきた。
仄佳の奥には櫻井姉妹がいた。ちなみに、二人は双子で、姉が茉莉奈で、弟が龍太だ。
照れた幸太郎が、言い返そうとしたその時、食堂の扉が勢い良く開けられた。ずかずかと入ってきたのは、銘斗だった。
「やあやあ!おはよう!!」
白い歯が見える程の笑顔だった。
「お、おはようございます」
反対に、冬汰は引きつった顔をしていた。
「ありゃあ……しっかり起きたのは」
銘斗の言葉を遮り、大きな音を立てて入ってきたのは、劉牙と、後ろからひょっこり現れた、同室の氷雨凪だった。
「ほぼアウトだよー、氷兄弟」
「やめてよね。この人と兄弟とか死んでもヤダ」
凪は顔の前で指をクロスさせ、小さなバッテンを作った。
ちなみに、凪が十五歳、劉牙が十四歳であり、凪の方が年上である。そして、銘斗が呼んだ氷兄弟というのも、ここから来ている。
「話は始まってないからセーフってことで」
銘斗はそこで区切ると、静馬に何かを耳打ちした。
何秒かの後、静馬は頷き、食堂から出ていった。
「改めて、これからは八人で頑張っていこうね!」
瞬間、劉牙が手を机に叩き付けた。
「どうゆうことだ……まだ二人居ねぇだろ」
「いや、静馬さんから言われたでしょ。七時までに食堂に入れって」
「もしかして、これも見極めとか……」
試験合格書と共に送られてきた紙には、この見極めについても一文書かれていた。
それにいち早く気付いた冬汰は、はっとして口に手を当てた。
「うん、正解。これも見極めだよ」
「は?」
劉牙は不審げに目を細めた。
「更なる試験ってとこかな。規律は守れるか、自分を律する事が出来るか……そういう細かいとこまで見極めなきゃいけない。言い換えれば、ここに入団した者の初めの試練だよ」
そう言いながら、窓に寄ると、外を眺めた。
「見極め自体はこの先も続くよ……彼等は今日で終わりだな」
銘斗の視線の先には、走り回る三人が居た。
しかし、その内一人が追い掛けられ、二人の手にはBB弾が入ったモデルガンが握られていた。
つまり虐めだった。
「そういう訳で、さっさと食べて授業しようか!」
銘斗が振り向いたと同時に、静馬が食堂に入って来た。
「あ、僕の分とかあります?」
「……少々お待ち下さい」
静馬はいつも以上に音を立てて、朝食の支度をした。