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アダムとイブのその先に  作者: まある
3/20

3.イレギュラー

(まるでアヒルの親子みたいだな)


銘斗(めいと)を先頭に列に並んで歩く(さま)に幸太郎はそう思わざるえなかった。


ただそれ以上に気がかりなのが、


「迷路みたい……」


ふと、誰かの呟きが聞こえた。それは幸太郎の気がかりと同じものだった。


今でこそ銘斗の案内があるからこそ迷わずに居るのだが、これが一人で歩けとなると(しばら)くは慣れるのに時間が掛かりそうだった。ただそう考えると、八千代の案内がおかしく思えた。道中対して変わりのない別れ道が何度もあった。それにも関わらず案内に迷いがなかった。だからこそ幸太郎にはそれが妙に気になった。


だからと言って会って間もない、それも自分の身も顧みず助けてくれた恩人に疑い目を向けたくない。そんな気持ちから、喉元に引っ掛かっている疑いを飲み込んだ。


(気のせいだ。うん、気のせい)


そう結論付けた幸太郎が顔を上げた時、銘斗が「仮に」と口を開いた。


「イレギュラーや敵に襲われても、これだけ入り組んでいれば___構造を知っていなければだけど___迷わせる事が出来る。時間は稼げるし、奇襲だって掛けれる……まぁ、まず自分達が慣れないと意味ないけどね」


そう銘斗がもっともらしく説明したが他にも入り組んでいる理由は何個かあり、中でも有力とされている説だった。さらに、時折目に入る小さなドローンも、見回りとして飛ばしている。人手が足りない時や、二十四時間稼働し続けられるという面で重宝されていた。


そして、何度か角を曲がった後一つの部屋に入った。


「ここはイレギュラーを解体、調査する解析班さ。さて、イレギュラーとは何だったか覚えてるかい?」


全員が部屋に入ったところで銘斗は「覚えているだろ?」と質問を投げた。人を特定されてないため___集団心理のせいでもあるが___沈黙が落ちた時、一人の少女がすっと手を挙げた。


「君は……櫻井(さくらい)茉莉奈(まりな)くんだね」


「はい、イレギュラーは能力者の次に産まれた人々の敵です。形態は人とは程遠く力もあります___個体差もありますが___。人を主食とするのがほとんどであり、知能も高い個体も居ます」


「うんうん、しっかり勉強してる。ね、あーちゃん」


あーちゃんというのは、椅子に座って作業をする亜門莉々(りり)のあだ名___銘斗しか使っていないが___だった。そんなあーちゃんもとい莉々は呼ばれた瞬間、心底嫌そうな顔をした。対して銘斗は満面の笑みを向けた。


莉々は「くだばれ」と暴言を吐くと、


「いい加減その呼び方やめてちょうだい。吐き気がする」


「ごめん、ごめん。次からは気をつけるよ」


「その『ごめん』は何百回と聞いたわ。次に呼んでみなさい。貴方が隠し持ってるものをばら撒くから」


「あ、あはは……それより! イレギュラーの話を、ね!」


銘斗が慌てた様に促すと、莉々は溜息交じり話し始めた。


公にはしていないがイレギュラーは能力者の成れの果て、という事は連合内では周知の事実だった。能力が暴走し、抑えられず喰われるということだ。さらに強力なイレギュラーの中には人型に近い個体が多く、近ければ近い程その力は強い。


もっと言えば能力しか通用しない個体もおり、出現当初より進化していた。


「これが試験の段階では教えられない事。皮肉だけど私達は日々()()()()()()()を処分しないといけない」


莉々は自嘲するように軽く笑った。一度そこで区切ると「まぁ」と口を開いた。


「所詮、他人だったものよ。気に留めないことね。それよりもさっさとこれを着てちょうだい」


そう言って幸太郎達の前に置いたのは、白い防護服が入ったケースだった。


八千代は、慣れた手つきでつなぎ服に着替え、ついでに手間取っていた幸太郎の手伝いもした。莉々はそれだけ置くと、解剖室に引っ込んでいった。


「それじゃあ着替えようか」


静まり返った室内に銘斗の軽やかな声が響いた。



□■□




全員が揃う頃には部屋の中心に置かれた手術台の上に、鬼の様な姿のイレギュラーが寝かされていた。


(このイレギュラーも元は同じ能力者で、人間だったんだよな)


そう思って気持ちが沈む幸太郎と同様に、その場に居る者達___莉々と銘斗以外だが___の空気は冷え切り、中には顔面蒼白の者も居た。


「さっきの話は気にしなくていいんだよ」


さも当たり前の様に言う銘斗と莉々は顔を見合わせた後、


「そんなんじゃあ後が知れないわ。敵は敵よ。区別しなさい」


と莉々がそう言って容赦なく医療用の(はさみ)で皮を剥ぎ、(なた)の様なもので肉を切ったりと解剖を始めた。慣れていない幸太郎達には堪えるものがあり、中には「吐きそう……」と言って顔を背ける者も居た。


そんなこんなでイレギュラーの核が(あらわ)になった。


「これはいわゆる心臓。私達とは位置も形も違うけど、生命の原動力には変わりないわ」


莉々はそう説明しながら慣れた手付きで核を瓶の中に入れ、ホルマリン漬けにした。生命である以上、こうでもしないとすぐに腐ってしまう。それも倍速で。


「これを突けば___個体によって位置はバラバラだけど___大体は即死よ。まぁ、そうじゃあない個体も居るけど、弱点には変わりないわ」


「僕が戦った中で一番厄介だったのが、頭と胴に別れてたやつかな。同時に突かなきゃあ死なないし大変だったよ」


銘斗が思い出した様にそう言った。その顔は「思い出すのも吐き気がする」と言う程、歪んでいた。対して莉々は「その話、何百と聞いたわ」と嫌そうに呟いた。


「まぁ、そういう事で今日はもういいでしょう? イレギュラーの本質も教えたし、もう疲れたわ。休みたい」


そう言いながら手袋を外すと、莉々は「用はない」と手で追い払う仕草をした。このところ莉々は徹夜で激務を熟す事が多く、一分でも多く眠りたいというのが本心だった。そんな時に新人への説明依頼が入り、(くま)をまた一つ濃くする事になった。


そんな莉々の本心を受け取ったのか、銘斗は「言われなくても分ってるよ」と苦笑した。


「そういうことでみんなお礼を言って。次の授業が待ってる」


そうして幸太郎達は莉々にお礼をし、防護服を脱いで次の授業へ移動した。

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