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賢者と選択

 賢者と選択


「フォルス、説明ご苦労。早速で悪いが、ハヤト君の登録用紙を見せてくれ」

「こちらが、ハヤトさんの登録用紙です」

 ローランドさんが、登録用紙を軽く眺める。

「まあ、田舎から出てきた者が、書く内容とさほどかわらんな」

「はい、私もそう思います。一点だけ、違うのが家名があるところだけですね」

「ああ、モーリーか。聞いたことのない家名だな。ハヤト君、君はどこの出身なんだ?」

 どこと答えればよいのか……。こういう時は、物語やらで定番なあれだな。

「極東といわれる地になります」

「極東というと、大森林を超えた、さらに向こうってことか。さすがに、そちらの情報はないな。なら、なぜ、この街のハンターギルドで登録をすることに決めた?」

 大森林というのが、ひがしにはあるのか。あまり嘘を重ねるのは、良いとは思えないが、しょうがないよな。

「旅をしておりましたが、そろそろどこかの街に落ち着きたいと考えていたところに、丁度良くこの街に辿り着きまして、街とその周辺の様子を知るには、ハンターギルドに登録するのが良さそうだったので、こちらにやってきました」

「まあ、極東からなら、どこかに落ち着きたくもなるか。そうデタラメを言っているわけじゃなさそうだな。なら、この国の賢者の話というのを、どこかで聞いたことは?」

「聞いたことは、ありません。賢者というのは、どんな存在なのでしょう?」

「この国にはな、かつて、六属性を使えた人物がいたと言われているんだ。その人物は、賢者として、今でも讃えられている。再び六属性を使える者が現れたなら、賢者として、保護しようという法がある。だが、その法ができてから、それなりの時間が経つのだが、一度も六属性持ちは、現れていなかったんだ。そして、念願の六属性持ちが、今、現れたというわけだな」

「それが、俺なんですね……」

 六属性を使える者が、希な存在なのは、理解できるが、法まで作って保護した者が、問題のある人格の者だった場合は、どうするつもりだったのだろうか。

 過去に現れた賢者について、調べた方が良さそうだな。

「ああ、そういうわけだな。それでだ、ここの責任者として、俺からハヤト君に、三つの選択肢を示すことができる。まずは、全て聞かなかった、ここにも現れなかった、として、今すぐ、他国に行くことだな。俺たちからしたら、うれしい選択ではないが、この国でなくても落ち着ける国はあるはずだから、このことを、煩わしいと思うなら、これを選ぶのも良いだろう。次に、この街で、普通の魔法士として生きていくことだ。だが、これは、幾つも属性の使えるハヤト君にとっては、辛い選択だろう。俺たちも、待望していた者が、隠者として生活しているのを見るのは忍びない。そして最後は、六属性持ちとして、名乗り出ることだな。ハヤト君の周囲は騒がしくなると思うが、この国の国民は、皆が喜ぶ。他にも選択はあるだろうが、似たり寄ったりだろうな。どれを選ぶ?」

 うーん、そうですね……」

 まずは、他国へ向かうことだが、この街のあるグランス王国に、あえてコウジさんが俺を降ろしたのだから、悪い国ではないのだと思う。

 それに、よくわからない世界を、一人でうろつくのは遠慮したいので却下だな。

 普通の魔法士として、生きるのは悪い選択ではないが、使える能力を自ら制限して暮らすのは、苦痛しかないだろう。

 最後の名乗り出ることは、この世界に長く住んでいる者なら生活が一変することで苦痛を感じるかもしれないが、そもそも、ここにいる時点で、俺の生活は一変している。

 そう考えれば、名乗り出るデメリットとなる周囲が多少うるさくなるという事態は、この世界にやってきたばかりの俺の日常として受け入れることも可能に思える。

 それならば、デメリットがデメリットになりえないのだから、問題はないだろう。

 逆に、国に保護してもらえるのだから、日々の糧には、困らない生活ができそうだ。

 どんな立場や仕事が待っているのか、わからないが、これは、国に保護してもらうのが最善に思えて来たぞ。


「……、その選択肢から、考えてみたのですが、国に名乗り出るのは、俺にとって、そう悪くはないと思えます。ですが、俺は、この国をあまり知りません。ですので、ハンターギルドで活動しながら、この国の状況を知って行きたいです」

「そうか、名乗り出ることに前向きになってくれたのは、うれしいな。この国の国民として感謝する。旅を続けてきたハヤト君にとって、この国は、まだ未知の国なんだな。それなら、ハンターとしての活動もできるように手配をしよう」

「ありがとうございます。今後の事で、何か手続きなどは、必要なのでしょうか?」

「そうだな。ハンター登録の件だが、あれだけの魔法が使える者を、通常のハンターとして、登録することはできない。ギルドマスター権限で、ブロンズクラスとして処理させてもらう」

 飛び級か。世界に慣れるという目的が、どれだけ果たせるか、わからないが、いくつかの苦労を飛ばせるのだから、大人しく受け入れておくべきだな。

「今後の予定は、どうなります?」

「俺がギルドマスターとして、ハヤト君の発見を王城に報告する。その後に、国で、どう扱うかの会議が開かれるだろうな。扱いが決まれば、こちらに知らせが着て、それから王都へ向かうことになるという手順だと思ってくれ」

「王都では、何を?」

「王城での会議にもよるが、国王陛下との謁見は、必ずあるだろうな。その時に、この国の国民として生きていく覚悟が固まっているのなら、爵位やらの話もあるだろう」

「爵位ですか……」

 この国で、賢者という立場とは、名乗り出るだけで、爵位を与えられるほどの存在なのか……。

「それまでは、ハンターとして、活動をしていてくれてかまわない。この国を知ってもらうためにも、その方が良いのだろうからな」

「わかりました。ちなみに、俺が王都に行くまで、どれくらいの時間がありますか?」

「そうだな、三週間か四週間程だと思っていてくれ」

 時間は、あるようにも感じるが、知っておきたいこと、知らなければならないことが、いくつも思い浮かぶ。

 この世界、この国、魔法、属性、賢者、ハンターギルドのことも、もっと知っておきたい。本当に知らないことだらけで、憂鬱になる……。


「質問や不安に思うこともあるだろうが、まずは、一度、自分の中で整理をした方が良いと思うが?」

「それもそうですね。今日はここまでにします」

「宿は、決まっているか?」

「いいえ、これから探すつもりでした」

「なら、それなりの客人が宿泊する宿があるから、そちらを職員に案内させる。支払いは、ハンターギルドがする。遠慮はするなよ。それと、帰り際に、ハンター登録の処理が残っているから、フォルスにやってもらえ」

「わかりました。お世話になります」

「賢者を見つけた報告が出来る名誉と比べたら、なんてことはない。気にするな」


 ローランドさんとの話し合いが終わり、フォルスさんに連れられて、受付に行く。

 受付では、石板のような物に手を載せて、個人個人で違うという魔力波を読み取られ、それを焼き付けたカードを貰った。

 説明では、石板は、そこそこ高価な魔道具らしい。初めて使った魔道具が、石板にしか見えなかったのには、少し残念に感じてしまった。


「初めて登録をされる方は、基本的にウッドクラスからですが、ハヤトさんは、ブロンズクラス空になります。こちらがウッドクラスのカードで、今、ハヤトさんが持っているカードがブロンズクラスのカードですね」

 見本として見せられた、ウッドクラスのカードの色は、木の板の様な色合いをしている。俺の手にあるカードは、赤っぽい金属風の色合いだ。

 なるほど、カードの色合いで、どのクラスの者か、すぐにわかるわけか。

「規約では、紛失した場合、銀貨一枚で作り直しが出来ますが、悪用されることもありますので、紛失はしないでくださいね」

「はい、大事にします」

「それでは、宿に案内しますね!」

「え、職員の方が、案内をしてくれるという……」

「私も、職員ですよ。さあ、行きましょう」

 それもそうだと思い直し、フォルスさんと、外に出る。

 街の広場は、入った時と違い、夕焼け色に染まり、日が暮れる時間だったようだ。

 やたらと濃い一日だったのだと、この時になって、実感した。


ハンターギルドと賢者君の話が、長くなってしまいました。

このあたりをしっかり書いておかないと、後で困りそうに感じたんですよね。


勇者ちゃんがでてきたら、もっと書きやすくなると信じたい!

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