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能力とウエルム

 能力とウエルム


 意識が浮上し、瞼を開けると地球と同じ青い空が瞳に映った。

 上半身を起こすと、どうやら俺は、木々がまばらに植えられている並木道の傍らに寝かされていたようだ。

 この風景は、俺が、あの謎空間に行く前にいた都心部の風景とは全く違う。これはもう、コウジさんの言っていたことを現実として受け止めるしかないよな。

 青い空に緑の木々を見ていると、ここが地球の様な気がしてくる。だが、コウジさんがいうところの、地球の並行世界なのだから、異世界とはいえ、似ているのも当然なのだろう。

 認めたくはない気持ちはあるが、これが現実なのだと、自分に言い聞かせて、行動を開始する。


 まずは、リクエスト通りに街の近くに降ろされたのか、周囲を確認すると、遠目で確認できる程度の場所に、石壁が見える。

 なるほど、あれが街なのか。

 立ち上がり、自分の服やらを確認する。

 布の上下に、何かの革で作られたフードのついたコート、ロングブーツ、ロンググローブといった服装だ。

 コウジさんが用意してくれたのだから、悪い物ではないのだろう。


 次は、能力の確認をした方が良いよな。

 基礎能力から上がっているというのだから、握力はどうかと、堕ちていた石を拾い、握ってみる。

 一瞬にして粉々に砕け散った。

 ……、生体強化というのは、どうやら恐ろしい能力だったらしい。

 これでは、生活に支障が出ると、石を拾い感覚を慣らしていった。

 結局、二十個程、砕いたところで、力の調整が何とかできるようになった。

 握力で、これなのだからと、少し走ってみたり、飛び跳ねてみたが、案の定、人外の結果だったので、こちらも調整が必要となり、無駄に時間を使ってしまった。

 まあ、あれだ。ファンタジー的な世界なのだろうから、ドラゴンやらに対峙するときがあるかもしれない。そんなときにこの力が役に立つだろう、と今は思っておこう。


 気を取り直して、魔法創造を試してみる。

 炎や風の魔法は、この周辺の土地を荒らしてしまいそうなので、小石を弾丸のように飛ばすロックバレットという魔法を創造してみた。

 的は、道中にある適当な木にして、魔法を発動させてみると、目の前に小石というよりも弾丸の形をした石が現れ、すごい速度で飛んでいった。

 弾丸は、狙い通りに木へ命中した。生体強化のおかげで、集中力が上がり、命中しやすくなっているのかもしれないな。

 何発かロックバレットを練習して、魔法という今までにない感覚をそれなりに味わったところで、さらなる検証は、また後日ということにした。

 魔法なので、魔力が減っているとは思うが、何か異変を感じるような感覚はない。こちらも、そのうち、どれくらいの魔力があるのかも調べてみたいところだ。


 続いて亜空間倉庫の確認だ。

 亜空間倉庫の使い方は、頭に刷り込まれているようで何となくわかる。

 亜空間倉庫と念じると、リストが頭に流れ、何が入っているのか確認できる。

 取り出し方は、リストの名前を確認して、出て来いと念じると、手の上や、足元に現れるようになっている。

 中には、武具防具から、調味料に生活道具、替えの服など地球での俺が最後に身に着けていたスーツとビジネスバッグも入っていた。

 さらに、財布袋があり、銅貨から見たことのない材質の通貨まで、それなりの量が入っているようだ。

 何も手荷物がないのは妖しいので、背負いカバンと金属製の槍を手に持ち、街まで歩いていく。


 全く知らない文化の、しかも異世界の街に行くのだから、自衛のために、いくつか魔法を創造しながら。道中を進んで行った。

 そうしているうちに、街に近づき、様子がわかってきた。


 石壁は三メートル程で、門には金属の胸当てをした衛兵が槍を持ち立っていた。

 恐る恐る門へ近づいて行くと、衛兵に声をかけられた。

「旅人か、身分証を見せてくれ」

 言語習得が発動して、言葉と文字が、頭の中に刷り込まれていく。これは、すごい能力だな。

 さて、言語習得も大切だが、この場面をどう切り抜けるか。

 あからさまな嘘になるが、これで行ってみるか。

「田舎から出て来たので、身分証がないのです。どういたしましょう?」

「ああ、身分証はそれなりの街じゃないと、作れないからな。すまないが、身分証のない者は、銀貨一枚を徴収させてもらっている。問題ないか?」

 どうやら嘘を信じてくれたらしい。財布袋の中の銀貨が、問題なく使えるのか不安だが、一枚取り出して、渡してみた。

「銀貨一枚、しっかり受け取った。それで、決まったギルドがあるなら、そこで身分証を作れば良いが、特に決めていないのなら、ハンターギルドで作ると良いぞ。この大通りをまっすぐ行った広場にある。身分証さえあれば、街の出入りは、自由だから、早々に作っておくんだぞ」

 銀貨は問題なかったようだ。

「わかりました。行ってみます」

 ハンターギルドか、ハンターというのだから、狩りをするんだろうな。

 狩りなんて、やったことがないが、この世界でどう生きていくかの手掛かりすらない今の時点では、そのハンターギルドで、身分証を作って、ハンターをやりながら、この世界の様子を知って行くのが良いかもしれないな。


 街の様子を眺めながら大通りを進んでいると、獣の耳を持った人々がいることに気が付く。

 あれは、いわゆる獣人という人種だろうか。ということは、エルフやドワーフなんていう人種もいるのかもしれないな。まさにファンタジーな世界だ!

 大通りに面している街の建物は、石材と木材を組み合わせた物がほとんどのようで、映画やらで見る中世ヨーロッパ風とかそんな感じがする。

 地球の歴史では、中世ヨーロッパの街の中は、不衛生な状態だったと聞いたことがあるが、こちらの世界は、そういう印象は感じない。何かしらの対策がされているのだろう。

 大通りには店が多くあるようで、釣り看板が目立つ。

 だが、文化の違いというのか、釣り看板を見ても、どれが何の店なのかわからない……。

 少し切ない気分になりながら、広場らしき場所に到着する。

 広場には、街の重要施設が集まっているようで、いくつかのギルドが確認できた。

 どのギルドも釣り看板と文字の看板を掛けていてくれたので助かった。

 剣と槍が交差したような釣り看板なのが、ハンターギルドで、天秤の釣り看板なのが商工ギルド、他にも魔道具ギルド、発明ギルドが確認できた。さらに、寝殿の様な宗教施設のような雰囲気の建物と役所の一種だと思われるウエルム住民管理局という建物があった。

 ウエルムというのが、この街の名のようで、各ギルドの看板にもウエルム支部と小さく書かれている。


 さて、身分証をどこで作るかなのだが……。

 商工ギルドに入るにも、売り物の見当がつかないし、魔道具がどういう物なのかもわからない。発明と言っても、何がこの世界に必要なのか、今の時点でわかるはずがない。そしてこの街の住民になると決めるには早計過ぎるし、宗教なんて、必要だとは思うが、何を信じているのかも知らない。

 消去法でも、やはり衛兵のアドバイス通りにハンターギルドで身分証を作るしかないようだ。


 そうして、俺は、ハンターギルドの中へ入って行った。


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