ハンターの流儀と幼馴染
ハンターの流儀と幼馴染
パンジーさんからウエルム周辺の情報を聞き、地図に書き込んでいると、三人組のハンターの中の一人の男が、パンジーさんに絡んできた。
「パンジー、ハンターギルドで何やってんだ。魔道具技師は、玩具でも作ってろ!」
「テムには、もう関係はない。それに、今も指名依頼の最中だから、邪魔をしないで」
指名依頼というのは、俺たちの教育係もどきの依頼のことだろう。
「指名依頼だと?」
「ええ、しっかりとした指名依頼よ。何か問題でもある?」
「その二人の接待でもするのが、依頼か?」
「内容を話す必要はないわ。もうテムとは、何も関係のない話なんだから」
テムは、パンジーさんと話しても話が進まないと考えたのか、俺たちに狙いを変えたようで、俺に話しかけてきた。
「あんた、何者だ?」
「うーん、テムと言ったかな。君たちの問題に俺たちを巻き込まないでくれるか」
「パンジーに接待を受けているくらいの奴なんて、俺の敵じゃねえな。訓練場に来い。ハンターの流儀を見せてやる!」
「ハヤトさんたちが、出るほどじゃありません。私が相手になりましょう」
「魔道具技師のお前が、まともに俺と戦えるはずがないだろうが。まあ、一対一でやってやる」
フォルスさんがいるカウンターに目をやると、問題無しといった具合に頷いていたので、訓練場にそのまま移動した。
パンジーさんに、テムとは、何者か、小声で聞いてみると、数日前までチームを組んでいたメンバーだという答が返ってきた。
さらに、詳しくは勝負の後で話すとも言われた。
訓練場に着くと、あちらの残りのメンバーは、後方へ控えた。
魔法士の女と重装歩兵の男だ。
魔法士の女が、何か干渉をしてくるかもしれないので、監視だけはしておこう。
アイカも同じことを考えたようで、重装歩兵の男の方を監視してくれるようだ。
「ハンター同士の私闘は、禁止なんですけどね。事情は、マスターから聞いていますから、死なない程度でお願いしますよ。私が見届け人をしますね」
いつの間にかフォルスさんが来てくれていたようで、見届け人をしてくれるようだ。
「それじゃあ、この銅貨が、地面に落ちたら、試合開始だ。問題ないな?」
「ええ、痛くても泣かないでね」
「相変わらず、むかつく女だな。それじゃあやるぞ」
パンジーさんは、リボルバーを持ち、テムは、ショートソードとバックラーを装備して距離を取る。
そして、テムは、宙に銅貨を投げるのかと思いきや、地面にたたきつけた。
お、おう。気持ち良いくらいに不意打ちだな。
ギルド職員が見届け人をしているというのに、よくやる……。
だが、テムの性格を把握しているパンジーさんは、その展開もあり得ると考えていたようで、すぐに戦闘態勢に入った。
リボルバーを構え、軽装歩兵風の姿のテムに狙いをつける。
だが、テムの突進は、加速度を増し、パンジーさんの狙いが定まらない。
「兄様、あれは、風属性のアクセルです。戦技の一つになりますね。私が使う、エッジも一応、戦技なんです」
「そうだったのか。俺もあれを覚えておいた方が良いな」
「兄様が、アクセルを使ったなら、それだけで凶器になりますよ」
「確かに、普通に走るだけでも、あれくらいの速度になりそうだからな……」
パンジーさんは、後退しながら、リボルバーを撃っていき、テムの動きが単調になるように、誘導しているように見える。
テムの動きが、直線になった時、パンジーさんが、動きを見せた。
口元で何かをつぶやいたと思ったら、テムが炎に覆われて、そのまま爆発した。
もしかして、今のが爆裂魔法なのか……!
テムの様子を見てみると、かろうじて、生きているようだが、手足は、間然に正常とはいえない方向へ曲がっており、気絶しているようだ。
「……、私もなかなかやるでしょう?」
「パンジーさんは、多少、息が上がっているようだったが、俺たちのところに来て、そう言った。
「えっとだな。結果は、見ての通りだが、君たちは、どうする?」
「……、すみませんでした!」
重装歩兵の男が、俺たちに奇麗に謝罪をしたが、魔法士の女は、パンジーさんを射殺す程に、にらみつけている。
「あんた、少し前まで、仲間だった人を、どうしてここまでできるのよ!」
「テムが言うハンターの流儀を見せただけ。敵は、最低でも戦闘不能にするのが普通。文句ある?」
「パンジーの言う通りだ。治療室から、治療師を呼んできてくれ」
「わかったわよ!」
重装歩兵の男は、魔法士の女がこれ以上騒ぐと、さらに問題が大きくなると考えたようで、魔法士の女に治療室へ向かうように指示を出した。
そうして、治療師の職員が来た。
「エテルさん、丁度良いので、例の方々を紹介しますね」
「おお、七色の賢者殿と天の勇者殿か」
戻ってきた魔法士の女と、テムの様子をずっと見ていた重装歩兵の男は、フォルスさんと治療士のエテルさんの会話を聞いて、俺たちを、恐ろしい存在だと認識したようだ。
「ハヤト殿とアイカ殿だったかな。お初にお目にかかる。ハンターギルドの治療士をしているエテルという」
「初めまして、ハヤトと申します」
「初めましてアイカです」
「それで、僕を呼んだのに、お二人がいるということは、ただただ良い物を見せてくれるということで良いのかな?」
このエテルという人物、耳が長くとがっている……。
おそらく、エルフとか、そんなところなのだろう。
「……、そうですね。丁度良く本職の治療士の方が来てくださったので、俺の治療魔法が、問題ないか見て頂けますか?」
「もちろんだとも。多少は、コツがいるから、確認だけ、させて頂こう」
「それでは、始めますね」
テムの体に触れ、体内の魔力やらを調べる。
すぐに死ぬことはなさそうなので、手足をなるべく正常な形に戻してから、キュアエクスヒールをかける。
白く光り、テムの体は、再生していった。
意識までは戻っていないが、折れた手足を調べてみたところ、清浄な状態に戻っていたので、続けて、キュアマインドで、意識が回復するか、試してみると、すぐに意識が回復した。
「エテルさん、どうでしたか?」
「僕がやるよりも、性格に治っているようだ。見事としか言いようがない」
「治療魔法は、まだコツがつかめていないので、今度、お話を聞かせてください」
「いつでも訪ねてきてくれてかまわない。僕こそ、ハヤト殿の魔法を知りたいくらいだ」
治療士の心得やらを聞いておきたかったので、ここでエテルさんと知り合えたのは、多少面倒な思いはしたが、僥倖と言えるだろう。
「テムさん、状況は、わかりますか?」
「えっと……フォルスさん?」
「貴方は、パンジーさんに負けました。そして、ハヤトさんの治療魔法で、瀕死の状態から回復しました」
「え、あ、そうですか……。負けた上に、瀕死からの全回復の治療魔法ですか……。ありがとうございました」
「パンジー、もう俺たちから関わらないことを約束する。それとテムへの治療魔法のこと、ありがとうございました」
「パンジー、さっきはひどいことを言ってごめんなさい。こうなることを知っていたのね。もう、私たちから関わらないことを約束するわ」
そうして、三人は、肩を落としながら、訓練場を後にした。
「エテルさん、フォルスさん、お手間を取らせてしまいました。ありがとうございます」
「いえ、こうなることも、マスターは、読んでいたのでしょう。そのあたりの詳しいことは、パンジーさんから、お聞きください。それでは、私たちも戻ります」
エテルさんとフォルスさんが、訓練場を出ていってから、訓練場にあるベンチに座り、パンジーさんから、事の次第を聞くことにした。
四人は、いわゆる幼馴染で、全員貴族令息令嬢とのことだ。
女性である二人は、魔法適性があり、魔法学院に進み、男性二人は、騎士学院に進んだという。
三年間の学生生活が終わり、騎士学院を出たテムと重装歩兵の彼は、王国騎士団に入るには、力がなく、寄り親の辺境伯軍に入るにも、即戦力としては、不十分で数年の訓練がさらに必要だと言われたそうだ。
そこで二人が選んだのは、ハンターになることで、同じ時期に卒業をした魔法士の彼女と三人で、チームを組んだという。
この三人は、三女と三男という立場で、家の継承権もほぼなく、そのまま辺境伯軍に入れば、準貴族として生きられるが、ハンターとして生きれば、平民となる立場だったそうだ。
家からは、準貴族として辺境伯軍に入ってほしいと懇願されたが、ハンターとして、生きると決めた三人は、そのまま、家を出てハンターとなった。
だが、元が貴族の三人なので、ハンターの生活は、なかなかうまくいかず、厳しい生活で、すさんでいった。
上級魔法学院に進み、魔道具技師として、しっかりと技術を身に着け無事に卒業をして数年ぶりに故郷に帰ってきたパンジーさんは、幼馴染たちのすさんだ生活を目の当たりにして、ショックをうけたという。
パンジーさんは、子爵家の後嗣で、辺境伯軍の魔道具技師として、働く予定だったが、あまりにも酷い生活を送っていた幼馴染たちの生活が、気になってしまい、一年間の期限付きで、ハンターとして、合流することに決めた。
その間に、辺境伯軍へ、入ることを促すつもりだったそうだ。
だが、期限としていた一年がやって来ても、説得はできなかった。
そうして、約束通り、パンジーさんは、チームから離れて、辺境伯軍へ入ることになる予定だった。
だが、そこで、俺たちの話があり、俺たちの相手をしっかりできる人材が多くはないこともあって、辺境伯からの指名依頼ということで、俺たちの世話をしてくれることになったそうだ。
ちなみに、グランス王国の貴族家当主は、男女関係ないそうで、基本は年功序列だが、能力も重視されるそうだ。
この国の貴族の在り方も知っておくべきだな。
「もう良いんです。一年かけて、じっくり説得はしたんです。彼らは、二度と貴族の世界には、戻れないんですよね」
「貴族であるだけが、生き方じゃないんだ。一年も時間をかけて説得をしたんだから、パンジーさんは、よくやったと思う」
「私もパンジーさんは、よくやったと思います。これからは自分の幸せを探しましょう」
「はい、そうします。これでも子爵家の後嗣なのですから、しっかりとした旦那さんを捕まえないといけませんから!」
それから、アイカとパンジーさんの恋愛や結婚をテーマにしたガールズトークが始まってしまい、この日は、このまま終わって行った。
投稿ペースが乱れてて、ご迷惑おかけします……。
できれば、二日連続投稿して、一日休む、か、隔日投稿にしたいんですけどね。なかなかうまくいきません。