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少年の心と大門ダッシュ

追記7/29 数日、諸事情で、お休みします。

 少年の心と大門ダッシュ


 木花館に戻った俺たちは、エストガル一行が、通常のチェックアウトの処理を行っているかどうかの確認をするところから始めた。


 エストガル一行の中に、アイカがいたことを受付係が、しっかり覚えてくれていたので、エストガル一行に関わる内容を問題なく聞くことができた。

 結果として、特に問題のない、やり取りで、チェックアウトをしていた。

 忘れ物やらもないそうだ。

 こんなことを気にしたのは、エストガル一行の、大半の所持金を、アイカが預かっており、二度と戻らない皇子たちのために、部屋を木花館が空けていたなら、損害を出させてしまうからだった。

 大半の所持金は、預けていても、個人で、ほどほどの金額を、所持していたことは、荷物を回収した時にわかっていたので、支払いは何とかなったようだ。

 それに、ウエルムの密偵まで連れて、あの場所に現れたのだから、皇子たちは、ウエルムに戻るつもりはなかったのかもしれない。

 もし、無銭宿泊で、そのまま移動をするつもりだったとしたなら、忍んでの移動どころではなくなってしまうだろうから、そのあたりは、まともに判断したのだろう。


 続いて、アイカの部屋を改めて、ハンターギルドから用意してもらう話をし、こちらは、俺の隣の一人部屋が、空いていたので、すんなりと決まった。


 その後、互いの部屋で、小休止をしてから、食事を済ませ、俺の部屋で、明日の作戦会議を行った。

 だが、確実に皇帝の元にまで、開戦通告状が届く方法が、思いつかず、いくつかの案から、一つを採用し、それでやってみることにした。

 正直なところ、どの方法が最も有効な方法かなんて、俺もアイカもわかるはずがなく、成り行きに任せるしかない、というのを結論とし、今日は、厳しい体験もした一日だったので、早めに就寝することにした。


 翌朝となり、アイカが呼びに来たので、食事をしに、食堂に行く。

 今朝も野菜たっぷりスープにいくつかの品が付くという朝食で、この野菜たっぷりスープは、木花館の名物料理なのかもしれないと思い始めた。

 打ち合わせという程ではないが、しっかりとした戦闘装備で再集合という話になり、朝食を終えて、自室に戻る。


 俺の亜空間倉庫の中には、コウジさんが入れてくれたいくつもの武具防具が入っているが、こちらに来てからずっと使っている黒いフードのついたコートに合わせて、ワニの革をやたらと頑丈にしたような黒いスケイルメイルを防具に選んだ。

 せっかくのファンタジー世界なのだから、ちょっとくらいは、【黒のハヤト】的な二つ名をつけられそうな装備を選んでも良いじゃないか!。

 いつまでも、少年の心は、忘れてはいけないと、俺は思うんだ。……。

 ローランドさんに決められた【七色の賢者】も悪くはないのだが、賢者と名乗るには、この世界を知らなさ過ぎて、自らは、名乗る気になれなかったのだ。

 ということで、漆黒の装備といった雰囲気で、揃えて行き、いつものコートに黒いスケイルメイル、金属線が編み混まれている防刃性能のありそうなクロスアーマーを身に着けた。

 武具も、いつもの槍から黒いハルバードに変えた。腰には短剣を帯びている。

 最後に、白金色のサークレットを被って完成だ。

 うむ、なかなか痛々しい姿だ!

 まさに少年の心だな。


 木花館のエントランスに行くと、アイカは、動きやすそうな、赤いスケイルメイルを身に着けていた。

 俺が黒で、アイカが赤か。なかなか解っているな。


「兄様、黒いです」

「アイカは、赤いな」

「「ノワールとルージュで良い感じですね」

「まあな、こういう装備も良いと思って身に着けてみた」

「私は、少し派手な方が、今日の目的には、合っていそうに思ったので、この色にしました。ですが、兄様は、前線に出たらダメなんですからね」

「う、その約束は、いつまで続く?」

「せめて、何か武器をまともに使えるようになってからです」

「は、はい、時間が取れたら、覚えます……」

「それでは、参りましょう」


 そうして、木花館から、ハンターギルドに行き、フォルスさんに挨拶をすると、ローランドさんは、色々と取り込んでいるそうで、フォルスさんから、開戦通告状と、第二皇子の紋章の指輪を受け取った。

「それでは行ってきます」

「お気をつけて」


 まずは、街の南門を出て、昨日、戦った広場まで行く。

 そこで、皇子の首と皇子のマントに皇子の紋章の入った短剣を取り出す。

 皇子の首の血抜きがまだ不完全だったので、しばらく放置をして、血を抜いてから、マントで包む。

 そこに皇子の紋章の入った短剣と開戦通告状を挟む。


「準備はこれで良いな」

「はい、それでは、帝都の近くに、ゲートを開きます」

「よろしく頼む」

 ゲートが浮かび上がり、向こう側がぼんやりと見える。特に誰もいなさそうなので、そのままゲートに入って、向こう側へ行った。

 アイカも俺の後に続き、アイカが通り抜けると、ゲートは閉じられた。


「あれが、帝都か」

「はい、エストガル帝国の帝都のエストコルダです」


 まず、大門が、大きく目立つ。半開門といった状態で、馬車一代分が通れるくらいで開かれているようだ。全開すると、馬車が、横に数台並んで入れるのだろうな。

 その横に、徒歩の者が入るための通用口がある。そちらの列は、動きは遅いが、確実に進んでいるので、一度並んでしまえば、そう待たなくても中に入れるようだ。

「それでは、行きます!」

「危なく見えたら、遠慮なく攻撃をするからな」

 アイカは、小さくうなずき、マントの包みを持って、軽い足取りで大門へ向かった。


 この後の計画は、バリアフォームを纏ったアイカが、大門の前にいる衛兵に首と短剣がセットになった開戦通告状を渡す。

 開戦通告状を渡したなら、アイカは反転し、静止の声がかかろうが、全力疾走で、こちらへ逃げ戻る。

 アイカが、逃げに入ったら、俺がエクスゲートを開き、アイカが逃げ込むのを待つという段取りだ。


 俺はやったことはないが、世に言うピンポンダッシュから得た発想だ。あえて言うなら、大門ダッシュと言ったところだろうか。


 もう少し、まともな計画を考えたかったが、皇帝のいる宮殿どころか、貴族街にすら、一般人は、入ることができないらしい。

 貴族街の境目にいる衛兵に、開戦通告状を渡すことも考えたが、それなら、大門の衛兵に渡すのと、大差はないという結論となり、安全性が高いこちらを選んだ。

 もし、これが国家間の戦争の話なら、他のやり方もあったのだろうが、あちらからしたら、勇者という戦闘奴隷が唐突に反乱を起したとしか、言い様がないのだから、こんな方法しか思い憑かなかった。


 そうして、見守っていると、アイカは、無事にマントの包みを衛兵に渡せたようだ。

 何かを言われているようだが、すぐに振り返り、全力でこちらに走ってきた。

 おれは、予定通りにエクスゲートを開き、アイカがこちらに辿り着くのを待つ。


 さすがは勇者だけあって、衛兵が追いかけようとしたが、あっという間に距離を取ってしまった。

 衛兵は、何かを大声で叫んでいるが、アイカが間もなくこちらに辿り着く。

 そうして、アイカは、エクスゲートの中に飛び込み、俺もそれを追って飛び込んで、エクスゲートを閉じた。


「ふあぁ、危なかったです……」

「何を言われていたんだ?」

「短剣の紋章と、開戦通告状の紋章が、第二皇子の物だと、衛兵がすぐに気が付いてしまったんです。それで、皇子の伝令なら、中で話を聞きたいと言われて、そこで逃げ出しました」

「そこからは、逃げるな、待て、って流れか」

「はい、本当に、その流れでした。もっと堂々とやっても良かったとは思うのですが、あえて弱腰に見せるのも、作戦なんですよね?」

「ああ、弱腰だが、戦う意志は、しっかりとあるっていうのを見せておけば、それなりに強い騎士やらを集めておいてくれるだろう。そこを一気に潰す!」

「上手くいきますでしょうか?」

「正直なところ、相手あっての戦いだからな、何が上手くいって何が上手くいかないか、全くわからないのが本音だな。だが、こちらは、二人だけだが、逆に言えば、ふたりが生き残れば、いつまでも戦える。あちらは、個人としては、戦い続けられる者はいるだろうが、国としては、いつまでも、とはいかない。とは言っても、俺は、できるだけ、短期間で終わらせたいがな」

「はい、相手が国であるというところを、上手くつくのですよね」

「ああ、そのつもりなんだがな、上手くいくかどうか、よくわからないのが辛いところだ。俺は軍使でも参謀でもないから、思いつくままにやるしかない」

「無駄に自信があると語られるより、そちらの方が、真実味があって信頼できます。とにかく、兄様と私が、生き残っている限り、敗北はないのです」

「そうだな。それじゃあ、数日間は、休日を楽しもう」

「はい、そうしましょう!」

 そうして、俺たちは、ウエルムに帰って行った。


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