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開戦通告状とアイカの飛び級試験

 開戦通告状とアイカの飛び級試験


 ハンターギルドに到着すると、フォルスさんに声を掛けられる。

「マスター、ハヤトさん、何か問題が起きたのでしょうか?」

「丁度良い。フォルス、登録用紙を持って執務室に来てくれ。それと手の空いている者たちで、訓練場に剣士用のブロンズクラスへの飛び級試験の準備を頼む」

 何人かが動き出し、俺たちは、そのままローランドさんの執務室に入った。


「フォルスさん、お手間をおかけします。義妹のアイカ・モーリーです」

「アイカ・モーリーと申します。よろしくお願いします」

「ハヤトさんのお身内の方がこちらに来ていらっしゃったのですね」

「木花館の例の一向に、連れられていたのを偶然に見つけることが出来まして、助け出すことができました」

「え、どういうことなのでしょう?」

 俺が詳細を話そうとしたときにローランドさんから自粛を求める声を掛けられた。

「フォルス、ここでの話は、国策に関わる重要事項だ。耳に入る言葉を聞くなとは言わないが、それ以上は、求めるな。ハヤトくんもそのあたりは、注意してくれ」

「マスター、すいませんでした」

「ローランドさん、すいません」

「アイカ君は、フォルスから、登録用紙を受け取って、書けるだけ書いていってくれ。職業には、魔法剣士と書いておいてくれたら良い」

「わかりました」

 フォルスさんから、書類をアイカは、受け取り、執務室に合った、筆記具で、書類を書き始めた。


「それで、ハヤト君、宣戦布告を明日に行うということだが、こちらから、一方的に攻めるというのは、後々のことを考えると外聞が悪い。そこでなのだが、アイカ君が誘拐された一年半前を、エストガル帝国からの宣戦布告日に設定して、明日に届ける内容は、開戦通告状としては、どうだろうか?」

「こちらから、宣戦布告をしてしまうと、ただの侵略戦争になってしまうから、一年半前とは言え、先にエストガル帝国からの宣戦布告を受けていたという体裁にするのですね。理解はできますが、どういう内容を書けば良いのでしょう?」

「そうだな。書かなければならない要点を、俺に伝えてくれ。明日の朝にハンターギルドへ寄ってくれたら、相応の書類にして、渡せるように準備しておこう。それと封蝋印があるなら、それを使いたいのだが?」

「封蝋印はありませんが、第二皇子の紋章の入った指輪があるのですが、それを使うというのは、どうでしょうか?」

 中々の皮肉が効いているが、まあ良いだろう。それを預けてくれ」

「アイカ、頼む」

「はい」

 すぐに、アイカのストレージから、第二皇子の指輪が現れた。

「これをどうぞ」

 それから、筆記具を借りて、開戦通告状に記したい内容を書き出していった。


 この開戦通告は、悪逆非道なエストガル帝国に対して、正義の執行を通告する者である。

 一年半前のアイカ・ムラカミこと、アイカ・モーリーの勇者召喚と称した誘拐事件の当日をエストガルていこくからの宣戦布告日とし、ハヤト・モーリーが、執行者として対応する。

 休戦及び停戦交渉は一切受け付けないが、唯一の交渉手段として、老若男女問わず後続及び、全貴族化の当主の首を用意した場合は、降伏と見なし、終戦を受け入れる。その後、残った者で、エストガル帝国の解体を宣言することとする。

 この戦争の攻撃目標は、後続、貴族だけではなく、その保護下にある者や所有物も対象に含まれる。


「大体、こんなところでしょうか」

「最後の、文言は、、過激だな。街や村の者も攻撃目標になるってことだよな?」

「残念ですが、そうなります。個別で対応できる程、器用ではないのです」

「天災級の魔法を連発するのか……。エストガル人じゃなくて良かったと心から思う」

「俺たちが、攻撃を開始したら、国境に流民が押し寄せるかもしれないので、その場合は、グランス王国の判断にお任せしたいのですが、よろしいでしょうか?」

「二人で大国を、相手するのだから、こちらに頼れることがあれば、遠慮なく言ってくれ。流民問題は、厳しい問題だが、何とか対応しよう。セイトール王国にも、エストガル帝国が戦争状態に突入したことは、知らせておくが、問題はないよな?」

「ええ、その方が助かります。俺としては、エストガル帝国以外ともめるのは、勘弁したいですから」


 それからも、開戦通告状の内容を詰めていき、ある程度、形になった物を、街の政庁にいる書記官が、内容を整えてから清書までしてくれるそうだ。


 ローランドさんと俺が話し合っている間に、アイカの登録のための書類は、書き終わっており、アイカは、ハンターギルドの説明をフォルスさんから受けていた。

 一通りが終わったと思われる頃に、執務室のドアがノックされ、試験の準備が完了したことを職員が知らせに来てくれた。


「それでは、行くか」

 ローランドさんを先頭に、フォルスさんも含めて、皆で訓練場に移動した。


 訓練場には、木の柱に使い古された革鎧を着せた物がいくつも並んでいた。

「それじゃあ、訓練場を壊さないように、できるだけ短時間で、全てを切り刻んでくれ」

「はい、わかりました。それでは、始めます」

 アイカは、訓練場の中央に行き、腰から刀を抜くと、それだけで、数本の柱が切り倒された。

 返す刀で、さらに切り倒し、続けて一閃するだけで、全ての柱は、切り倒されてしまった。

「終わりましたが、いかがでした?」

「天属性のエッジをここまで使いこなせるのか……。それじゃあ、魔法なしの模擬剣でやってみないか?」

「え、模擬戦をするということでしょうか?」

「ああ、だが、その武器と同じ模擬武器がないのだが、他の武器でも良いだろうか?」

「細身の剣なら、使えます」

「わかった。少し待っていてくれ」

 ローランドさんは、職員を数人連れて、別室に行き、しばらくすると、幾つかの模擬武器を職員に持たせ、自らは、革鎧を身に着け大剣の模擬武器を持って現れた。

「細身の模擬剣で、その武器に近そうな者をいくつか持って来たのだが、どうだろうか?」

 アイカは、いくつかを手に取り、軽く素振りを何度かし、一つに決めたようだ。

「この模擬武器なら、使えそうです」

「おし、それじゃあ、始めるか」

 切り倒された木々が、良い具合に障害物になっているようで、二人はすぐに向かい合い、空気が変わった。

「それでは、参ります」

「よろしく頼む」


 二人の戦いは、攻めるアイカに、防ぐローランドさんという構図が続き、何度かは、だいけんをローランドさんが、振るう機械もあったが、全てをアイカは、防いでいった。

 本来なら避ける必要があるような攻撃でも剣で受け流していく。

 アイカが、どれほどの過酷な環境に、一年半の間、置かれていたのか。それを考えると、この美しくも見える剣の枚が、痛々しく見えてしまう。

 数分が過ぎ、ローランドさんが、後ろに大きく退いた。


「参った。完全に俺の負けだ」

「ありがとうございました」

「負けて言うのもあれだが、アイカ君の攻めは、確実に殺しに来ている動きだったように感じたが、それが元々の動きなのか?」

「いえ、これは、エストガルに連れ去られてから、戦闘を短く終わらせるために付いた癖のようです」

「なるほどな。殺しの剣だけでは、不便だろうから、生かす剣も使えるようになるのが望ましいな」

「はい、元々は、生かす剣を学んでいたので、この癖もそのうち治ると思いたいです」

 生かす剣という言葉を、物語やらでは、聞いたことはあるが、実際、どんな物を言うのだろうか……。

「これで、試験終了だ。ブロンズクラスへの飛び級を認める。フォルスから、ハンターギルドのギルドカードを貰ってくれ。それと、木花館にハヤト君も泊っているのだから、そちらも面倒を見させてくれ。部屋は、あちらで決めると良い」

「わかりました。お世話になります」

「ハヤト君、跡は、フォルスに任せる。明日の朝に出発前に、顔を出してくれ」

「いろいろとありがとうございます」


 それから、フォルスさんに連れられて、受付に行き、アイカのブロンズクラスのギルドカードを受け取った。しっかり登録料の大銅貨一枚は、納めておいた。


「アイカ、ギルドカードを密偵らしき物たちが持っていたんじゃなかったか?」

「そういえば、ありましたね。提出した方が良いのでしょうか?」

「フォルスさん、ウエルムに潜入していたエストガルの密偵が、ハンターギルドのギルドカードを持っていたのですが、どうしたら良いでしょう?」

「密偵ですか……。規約では、ギルドカードを見つけた場合、提出して頂けたなら、僅かばかりの礼金をお渡しすることになっています。提出していただければ、その後の事は、マスターと相談いたします」

 アイカが数枚のギルドカードを提出し、銅貨を数枚貰い、この剣は、これで終わった。


「詳しくはわかりませんが、大変なお仕事をされるようですので、お二人とも十分にお気をつけてくださいね」

「はい、できるだけ、毎日、ウエルムに戻るつもりですから、ハンターギルドにも、なるべく顔を出します。それでは、失礼します」


 そうして、俺とアイカは、木花館へと戻って行った。


宣戦布告と開戦通告の関係は、独自解釈にしました。先に戦うぞ!って言った方が、宣戦布告で、しゃーないやったろか!っていう意志を示すのが開戦通告という具合です。

そもそも、世界の戦史において、局地的な作法はあっても、これという統一的な解釈ができることが、少ないように感じたんですよね。

現代の戦争でも、実は、宣戦布告って希らしいとかなんとか……。


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