後始末と生け捕りした者たち
後始末と生け捕りした者たち
空は青く、日の光は眩しい。そして、足元には、さっきまで人だった肉塊が転がっている。
これで俺も立派な殺人者だ。
俺は、あえて、死に逝く者たちの瞳を見つめながら、大剣を振り降ろしていった。
自らの心身に、人の命を刈り取って行くという行為で感じたことを、強く焼き付けるために必要だと思ったからだ。
首を落としていく作業の中、嫌悪や恐怖の感情を感じるのかと思っていたが、実際に感じたのは、憤怒や憎悪の感情だった。
アイカが、自分の意思と関係なく、連れてこられたことを知りながら、酷い目に合わせ、さらに処刑人と呼ぶ。
そして、自らが、殺されそうになると、瞳に浮かぶのは、怯えや恐れの感情に、慈悲にすがる瞳の色だった。
麻痺状態なのだから、俺がただ、そう感じただけで、実際は、別の何かだったのかもしれない。
だとしてもだ、彼らの死に対して、冥福を祈るような感情すら、全く沸いてこなかった。
もしかしたら、俺は、死や殺人に対する畏怖間が元々、薄い人間だったのかもしれない。
地球での人生を終える瞬間も、恐怖よりも戸惑いや驚きの方が強かった気がする。
これで、人を殺す感触は、しっかり覚えた。
自分が死ぬときは、十分に抵抗をして、それでも無理なら、潔く死ねるように、そんな自分でありたいと強く思ったが、人の最後は、やはり、彼らの様な瞳をするのかもしれない。
「兄様、こちらの準備は完了しました。隷属紋をお願いします」
生け捕りした者たちを、徹底的に武装解除したうえで、しっかりと拘束したアイカは、満足そうな顔をしている。
「わかった。こっちは、どうする?」
「そうですね……。これを使ってアンデッドを作れたりはしませんか?」
アイカがストレージから、黒い石を出して見せてきた。
「少し透明度があるようだな。これは?」
「魔石と言われている魔物の体内にある魔力の結晶です。こちらの鎖の指輪も魔石がはまっていますね」
一緒に見せてくれた鎖の指輪にも、確かに黒い石が、はまっていた。
魔石を手に取り、魔法創造で、この魔石を使って、何ができるかを、探ってみる。
「えっとだな。素材さえあれば、色々な種類のアンデッドもゴーレムも作れるようだな」
「魔物を作る以外にも何か使い方はありそうですか?」
鎖の指輪と隷属紋と同じ物が作れる。後は、魔道具の材料になる程度のようだ」
「魔道具の材料ですか……。例えば、爆弾のような物は、作れませんか?」
再び魔法創造で、調べてみる。
「爆弾には詳しくはないが、時限式に振動式やらが作れるようだな。うまく調整したなら、地球の兵器のいくつかは、再現できるのかもしれない、威力は、魔石の大きさや内包魔力量によるようだ」
「わかりました……。この肉塊たちの使い道が、幾つか思いつきました。兄様の亜空間倉庫は、時間も止まるのでしたよね?」
「そうだな、腐るといけないから、全て俺の方で補完しよう」
肉塊は、首を含めて、俺の亜空間倉庫に収納した。
「残った装備や装飾品は、私の方で一旦保管して、街で売れるか、試してみましょう」
「その方が良いだろうな。俺には、身分の分かる物や紋章が付いている物があっても、よくわからないからな。それじゃあ、汚れを落とす魔法をかけるから、ちょっと待ってくれ」
キュアクリナという医療用として造った魔法を使った。汚れと雑菌やらを除いてくれる魔法なので、単純に清掃魔法としても使える便利な魔法だ。
「じゃあ、回収は、よろしく頼んだ」
「はい、お任せください」
「それで、隷属紋だったよな。魔石の数があれば、一人に一つ、使えるが、どうする?」
「いえ、昨晩決めた通り、鎖の指輪で、お願いします」
「わかった。それじゃあ、始めよう」
もし、問題なく生け捕りにできたなら、幹部級の数人を生かして、隷属紋を刻んだうえで、エストガルからの侵攻計画をウエルムで話させるつもりにしてあった。
この幹部級の中には、第二皇子は、入っていない。そして、彼は、もう肉塊になっている。
アイカが言うには、第二皇子は、継承権は、高いが、能力は、後継の中でも最底辺で、仮に第一皇子に何かあったとしても、第二皇子が、帝位に戴冠することはなく、急病になり、暗殺と言う名の療養施設送りになって、二度と現れることはないというシナリオになっていたらしい。
彼が生きていたとして、使い道があるかと言えば、あるのだが、そこは、アイカの気持ちを優先した結果、彼は、旅立って行った。
鎖の指輪を受け取り、魔力波を確認すると、アイカの隷属紋の魔力波と同じだった。
「うーん、アイカ、やっぱり、これを使うのは辞めよう。せめて、この魔石は、アイカが持っていた方が良い」
指輪の台座を少しいじり、魔石を外す。その魔石をアイカに渡して、さっきまで、アイカが持っていた魔石を受け取る。
それを、手早く、アイカが攻撃の時に使っていたエッジの魔法を使い、削って行き、指輪の台座にしっかり固定できる大きさまでカットし、指輪の台座にはめ込んだ。
アイカの魔法は、珍しい天属性なので、見ることができたなら、それをその場で魔法創造を使い、再現するようにしている。さらに、上位互換できそうなら、改造も行っている。
さて、鎖の指輪の準備は、できたので、黒い革紐で縛られている生け捕りにした者たちへ、隷属紋を刻む。
魔力波をそのまま流しても、何も起きないのは予想してあるので、先に隷属魔法を創造して、隷属紋のサンプルをいくつか用意する。
それを、魔石の魔力波に合わせて、焼き付ける。
、おそらく痛みを感じるはずだが、麻痺状態なので、何が起きているのかわかっていないだろう。
それを男一人、女二人の肩に行い、隷属紋の焼き付けは終わった。
男は、中年前程の年齢で、第三騎士団副団長ということだ。
かなりの剣の使い手で、彼の所属する第三騎士団は、対人即応部隊として編成された騎士団らしい。
彼は、グランス王国への遠征特務隊の実質リーダーとなっていたそうだ。
二十代後半に見える女性は、宮廷魔導師で、炎と水の属性を使いこなすそうだ。
宮廷魔導師には、席次があるそうで、彼女は、それなりの強者だという。
最後の女性は、二十歳程で、暗殺のエキスパートとのことだ。
この年齢で、暗殺のエキスパートというのは、違和感がある。何か事情があるのなら、話を聞いてみたいな。
全員、今は、完全に武装を解除されているが、彼女の場合、暗器を隠している可能性があるので、髪の中や、爪の間までしっかり調べられていた。
全員を縛り上げている黒い革紐の拘束具は、魔封じの革紐と言うそうで、これで縛られると魔力が不安定になり、魔法が使えなくなる。
さらに、この革紐は、簡単には切れることのない丈夫な素材で作られているので、副団長を縛っていても問題はない。
広場に散らばっていた武具防具や、装飾品に金目の物、その他衣服などの回収がアイカによって終わり、残ったのは俺たち二人と、三人の生け捕りした者たちだけとなった。
「さて、広場も片付いたことだし、ウエルムに帰るか」
「はい、そういたしましょう」
帰るとなると、三人の麻痺を解除しなければならないわけだ。
麻痺を解除する魔法もあるが、せっかくなので、鎖の指輪で、麻痺が回復するか試してみることにした。体内で、遺物が駆け回ることになるので、強制的に麻痺が解けるかもしれない。解けた後は、気絶するかもしれないが……。
一分程、魔力を注いだところで、全員が、叫び声をあげたので、そこで魔力を注ぐのを辞めて、落ち着くのを待った。
麻痺状態からは、回復したようだ。
その後、誰かが何かを言おうとすると、すぐに魔力を注ぐというのを繰り返していると、誰もしゃべらなくなり、大人しくなった。
それから、三人をアイカが持っていた荒縄でつなげて縛り、ウエルムへの帰路についた。
道中に何度か、鎖の指輪を使ってみて、どれくらいの痛みが伝わるのか、試してみた。
瞬間敵に魔力を指輪に流すだけなら、痙攣をする程度だが、十秒も魔力を流すと、倒れてしまうようだ。それ以上になると、意識が跳びそうになっていたので、十秒が限界のようだな。
麻痺状態で一分持ったのは、状態異常だからこそだったようだ。
アイカなら、どれくらい耐えれたのかと聞いてみると、五分は、意識を保てたそうだ。
身体強化のおかげだとは思うが、恐ろしい精神力だな……。
それからも、しっかりと、苦痛を味合わせて、後々の自白がスムーズに行くように、短時間で調教するつもりで、何度も痛みを与え続けた。
ウエルムの門に着くと、目がうつろになっている三人を見て、衛兵たちが何事かと慌て始めてしまった。
「これは、一体、どういうことなんだ?」
「えっとですね。まずは、ハンターギルドのカードです。ハヤト・モーリーと言います」
「ああ、確認した。それで、この三人は?」
「国防に関わる話なので、立話は、遠慮したいです」
「国防だと!」
「ええ、ハンターギルドのローランドさんを呼んで頂けますか。それと、牢屋にこの三人を入れたいのです」
「えーっとだだな。全く良くわからんが、ハンターギルドのローランドさんというのは、ローランド・ウエストン子爵様で会っているか?」
「子爵様ですか?……、ギルドマスターのローランドさんです」
「子爵様のことだな。まずは、衛兵詰め所に来てくれ。こちらの女性は?」
「彼女も、この問題の関係者ですが、協力者ですので、丁重にお願いします」
「アイカ・モーリーです」
え、村上の名字は、あっさり捨てるのかよ!
「兄妹か?」
「はい。エストガルに囚われていたのですが、兄様に助けて頂きました」
「囚われていたとは、穏やかじゃないな。通行税をもらうとかの場合じゃないことは、何となくだがわかってきた。まずはこっちに来てくれ」
それから、門の近くの衛兵詰め所に行き、簡易だが、牢屋があったので、そこに三人を入れてもらった。