アイカと計画
アイカと計画
「若返り、生体強化、言語習得、魔法創造、亜空間倉庫ですか。それに、寿命に関しても何かされているっぽいのですね?」
「一息で俺の能力をまとめると、そういうことになるな」
「うーん、ゲームっぽく解釈すると、兄様は、チート能力をコウジさんからもらったように思いますが、人生を強制的に終わらされたことと、異世界へ強制移住させられたことを考えると、妥当な能力なのかもしれませんよね」
「ゲームは、そこそこやったが、チートという言葉には、悪い印象しかないな。不正、いんちき、ずるいとかの意味だったよな」
「後は、絶対強者や有利な条件をもってゲームを進めるプレイヤーにも、ネガティブな意味を混めて、チーターなんて呼んだりしますね」
「そっちの意味なら、俺は当てはまりそうだな」
「いえ、こちらも、妬みからの言葉ですから、矯正死亡と強制移住を対価に払っている兄様とは、また違うと思いますよ」
「では、俺は、どういう存在だと思う?」
「あえて言うなら、神の使徒でしょうか……」
「ああ、それな。俺もそうじゃないかと思ってた」
コウジさんは、神じゃないのだろうけど、神的存在だろうから、この解釈は、あながち、間違っていないと俺も思う。
「ですよね。この世界に来て、初日に、暫定的とは言え、賢者認定ですし、二日目に、悲劇な美少女勇者を拾っちゃいましたものね」
美少女勇者か、アイカは、いろいろ大変だったのだろうから、これくらいの冗談は、聞き流してやるのが、大人ってもんだよな。
「神の使徒は、冗談としてもだ。高次元体のコウジさんは、どれくらい正確化わからないが、時間を読むことができるようだった。それを踏まえると、二日目にしてこの展開は、コウジさんの意図した展開だと思わなければ、異常すぎるんだよな」
「美少女勇者は、冗談として、そうなりますと、兄様の今後の行動もある程度、コウジさんの意志が絡んでいる可能性があるのかもしれないのですね」
美少女勇者は、やはり冗談か。まあ、美少女かどうかと言えば、美少女だとは思うんだがな。
「ああ、そういうことにもなる。世界の理に反するつもりはないとしても、俺の意志で、行動していたつもりが、いつのまにか、コウジさんに何かを用意されていたという可能性も考えておいた方が良いのだろう」
「その、世界の理とは、何だと思います?」
「一番初めに、思いついたのは、人を生き返らせることじゃないかと考えた。コウジさんも、このことは、慎重だったように感じた。次に思いついたのは、大陸を一つ消し去る大規模破壊魔法じゃないかと考えた。試しに、とあるゲームにあった隕石を落とす魔法を創造してみたら街単位で破壊できる規模の魔法なら問題なく作ることが可能だった。それ以上の規模は、必要ないだろうから、試してはいない」
「禁忌って、何が禁忌になるのか、わからない物ですよね。私も思いついたら、兄様にお話しますね」
「ああ、よろしく頼む」
「それじゃあ、次は、私の番ですね。私の能力は、勇者召喚の儀式の時、意図的に魔法陣から植え付けられた能力なのですが、不老、身体強化、言語理解、天と光の魔法属性ですね。身体強化と言語理解は、兄様の生体強化と言語習得の下位互換と考えて良いと思います」
「不老というのは、もしかしたら、俺もその可能性があると思っている。どんな感じなんだ?」
「私の場合は、ただ呼び出された時の姿のままというだけで、自動回復したりはしません」
「ということは、傷や部位欠損は、そのままと言うことになるのか?」
「はい、基本的には、そうなります。ですが、光属性の治療魔法を戦略級まで使えますので、命さえ落とさなければ、どんな怪我や欠損でも回復できてしまうので、見た目は、こちらに呼び出された時のままです」
見た目は、か。心の中の傷までは、簡単に回復しないってことなんだろうな。
「それに、あちらでの扱いは、清潔な部屋とベッド、それなりの食事、後は、あくまで兵器として呼び出されたようだったので、女として見られなかったのは不幸中の幸いでした」
安全で清潔な部屋と、それなりの食事が与えられ、女性としての尊厳は守られていたというわけか。
多分、この三つが、アイカが一年半、心を完全に壊さずにいられた重要な部分なのだろう。
「呼び出されて数日は、状況を説明され、部屋を与えられて、混乱していたのですが、三日ほど経つと、魔法と武器の扱い方の勉強が始まりました。拒否をしたなら、隷属紋で痛みを与えられてしまうので、渋々ながら、勉強を始めました」
隷属紋か。誘拐した挙句、この処置なんだよな。本当に腹立たしい。
勉強を始めて、一か月程、経った頃に、私を管理するだけに作られた訓練場に頭から袋をかぶらされて、鎖でつながれた人が連れられて来ました。一言で言えば、公開処刑するほどの価値もない死刑囚なので、私に殺せということでした。何度も拒否をしましたが、痛みに負けて、手にかけました」
かける言葉が思いつかない……。
「それから、何日か一度、死刑囚がやって来て、殺すようになりました。頭の袋を取られた死刑囚を殺すようになりました。逃げ惑う死刑囚を殺すようになりました。武器を持たされた死刑囚を殺すようになりました。一度に数人の武器を持った死刑囚を殺すようになりました。最後は、公開処刑の処刑係をするようになりました。衆人環視の中、斧で死刑囚の首を落とすのは、訓練場で、殺していた以上の緊張感があったのですが、何度か首を落として慣れ始めたころには、ただの作業になっていました」
中世世界の公開処刑は娯楽の一つとか、聞いたことがあるが、この世界でもそうなのか。
「この頃になると、森で魔物討伐もやっていたので、首さえ落とせば、すぐに終わると思って、さっさと終わるようにしていました」
「それは、いつ頃まで続いたんだ?」
「この国への下見を兼ねた遠征が、計画された頃に、生活が変わりました。遠征メンバーたちと顔合わせをして、そのメンバーたちと、期間は短かったのですが、隠密行動の勉強会を毎日するようになり、私がストレージを使えるので、荷物の大半を預かって旅に出ました。旅は、楽しかったのですが、隷属紋と対になる鎖の指輪という物があるのですが、それを一行の名目上のリーダーである第二皇子が、玩具のように使うのが辛かったです。そうして、この街に到着して、次の朝に、兄様に助けてもらいました」
「そうか……。一言で、アイカの身に降りかかった悲劇をいたわる言葉を俺は、持ち合わさないが、もう大丈夫だからな」
「はい、兄様がいてくれるのですから、もう大丈夫です」
「まずは、その鎖の指輪の持ち主を殺そうか」
「はい、そうしましょう!」
話していたアイカにとっても、聞いていた俺にとっても、重い話だったから、空気を換えるために食事にする。
「アイカ、この部屋で食事を摂ろうと思うが、アイカとは、宿で知り合って、気が合ったから一緒に食事を摂るという話で、食事を持ってきてもらうが、問題はないか?」
「あちらの一行に、私がここにいることさえ、隠してもらえたなら、他は、お任せします。それに、兄様の言っている設定は、本当のことですよ?」
あ、確かにそうだ。同郷の者だから、つい長い知り合いの様な気がしてしまったのかもしれない。
そうして、フロントで、アイカの存在が、あちらの一行にばれないように、何とか説明して、食事を二人分、部屋に運んでもらい、食事を摂った。
宿で知り合った女性を、密かに連れ込んだという設定にしてしまえば、宿の者の口が開きにくくなる理由が明確になるので、あえて、女性を連れ込んでいるということを強調しておいたからか、彩り豊かな料理が手早く運ばれてきた。
ところどころに、食用花が、散りばめられている料理が並んでおり、ボリュームたっぷりの料理とは違う繊細な味が出ていて面白い。
食事のおかげで、気分が変わり、食後の香茶を頂きながら、まだ聞いておかなければならないことがあり、それを聞くことにした。
「気分が変わったところに住まないが、まだ、聞いておきたいことがある。アイカ、エストガル帝国は、グランス王国で、何をしようとしていたんだ?」
「簡単に言えば、テロですね。王都には、すでに密偵が、入り込んで拠点を作っています。ですが、密偵だけでは、貴族を襲うには、力不足らしく、私を含めた数人の手練れを王都に入れて、貴族を襲撃する予定になっていました」
「王都で貴族を襲えば、王都の警戒態勢を強くさせてしまうと思うが?」
「そこでも、やはり私なんです。兄様から見たら、私の強さは、兄様の半分にも至らないとは思うのです。ですが、殺しに関してなら、兄様よりも上手く殺る自信があります。王都の警戒度を高くさせ、それでも殺しは続く。その間に、エストガルの軍隊が、国境を越えて、グランス王国を攻め始めます」
「王都が狙われているなら、国全体もある程度の警戒度に引き上げていると思うぞ?」
「それでも、飲み込める自信があるから、攻め込むのでしょう。軍のことは、私は知りません。私の最終目標は、国王と王族ですから」
「まあ、頭を潰してしまえば、地方は、混乱するか……」
「という、計画だったのですが、一番初めの休息地であるウエルムで、私の身柄が自由になってしまいました。エストガル最強のカードが、最悪のカードに変わってしまい、さらに悪いことに、賢者様まで、おまけについてきました」
「本当に最悪だな。計画としては、そんなところか」
「はい、そういうことですので、そろそろ、エストガル一行の抹殺計画を考えましょう!」
「ああ、わかった」
それから、シャワーやらを挟んで、夜遅くまで、エストガル一行を、どう抹殺するかについて、計画を立てた。
やっと、十話に到達です。
まだまだこれからのお話ですが、マイペースにやっていきます♪
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