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聖女は恋をしたくない  作者: 夏野せい
第1章
2/2

2 ここはどこ?


光がマンホールを完全に覆った。

光の渦のように回るそれは、だんだんとその勢いを増して周りのものを引き寄せる。

周りの石や落ち葉が吸い込まれ始め、危ないと思った時にはもう遅かった。


「嘘でしょ、え、きゃあーー」


せめて、電柱の近くに留まっておけばよかった。後悔も遅く、道の真ん中を歩いていた葵の周りにつかまるところは何もない。

着ていたスカートが捲れて丸見えだけど、そんなことを気にしていられるほど、この光は優しい力ではなかった。隣を歩いていた三毛の野良猫も、必死に爪をコンクリートに引っ掛けて踏ん張っている。

あ、この子いつも家の屋根で遊んでる子だ。

いつも猫缶をあげるよしみで、助けてあげたいけれど手を伸ばしたら自分も吸い込まれる。

そんなに、踏ん張っていられたのはほんの数秒ではあったのだけど。


「もうだめーっ」

「ンニャーーっ」


光が力を増した時、一瞬で1人と一匹は引き込まれた。光るマンホールの中へとーーー


ああ、私ここで人生終わっちゃうのか、マンホールの中で。

せめて最後に、幸せになりたかったな。

今は恋なんていらなかったけど。


誰かに愛されてみたかったな、なんて。


隣を浮遊する猫を抱き寄せ、葵は目を瞑った。

葵の体が全て光に包まれた時、マンホールは静かに元の黒い円へと戻った。



ーーーー

ーーー

ーー




『それでね、ハーロルト様がねっ』

『あーと、黄色い髪の人だっけ?』

『違ーう!オリーブベージュの騎士様!』


オリーブベージュって何色よ。

ぼんやりとした頭の中で流れたのは、ここ数日毎日のように聞かされたゲームの話だ。

どうして今この話を思い出すのだろう。


『ジュストルート昨日やーっと全部制覇したのよ!やっぱり王子のハッピーエンドはホッとするわー』

『ジュストって紫の?』

『それはフロランよ!あと紫じゃなくてラベンダー!ジュストはプラチナブロンドよ』


「ラベンダーと紫って一緒じゃないの?」


自分の声が出たのと同時に、ぼんやりと瞼があがる。

視界に入ってきたのは、青い空と大きな木の枝だった。

目がはっきりすると、今度は耳が聞こえてくる。チュンチュンと鳥のさえずりと、キラキラとした音がした。

どうやら、どこかの森に寝そべっているらしい。ゆっくりと上半身を起こすと、そこには森が広がっていた。


そこは森だった。

けれど、普通の森ではないことに気づくのに、そう時間はかからなかった。


普通の木の間には、ピンクや黄色や青の木が点々と立ち並んでいる。

木の周りで遊ぶ鳥たちは、飛ぶたびにキラキラとした粉を舞わす。決して汚くはみえない、それどころかとても神秘的に森を彩らせている。

囀りは歌うようで、木々の揺れも、風も、なにかを祝福するような空気があった。


この森は、自分が生きた世界ではない。

日本ではない。


それだけが、唯一確実で、現実だとわかることだった。


だってこの風景は、隣の友人がやっていたゲームの背景にそっくりだったから。


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