1異世界へようこそ
クリスマスも終わって、街の中はハッピーニューイヤーに彩られた年末。
焦げ茶に染めたショートボブをマフラーに埋め、神崎葵は肉まん片手に家へ向かって歩いていた。
もう歳が変わるのか。
最後の一口になった肉まんを頬張りながら、葵はもう数日になった今年を回想する。
今年一年は散々だった。とにかく散々だった。
3年付き合った彼氏が浮気していたことを知ったのは、新卒の就職活動を終えた6月のこと。
しかも相手は、前々から仲良くしていると、友達だと散々聞かされたショートカットのかわいい子。
「悪い、お前とは別れる」
そう言ったあの男の顔を、一体どれだけ殴りたかったことだろう。
「浮気なかったことにするって言ってもダメなの?」
「俺はもう菜都のことしか考えられない、ごめんな」
そう言って、その男は後ろに待つ菜都とやらを横に並べ、渋谷の街の中へ消えて行った。
あの2人の後ろ姿は、きっと一生忘れない。2人のホクロから毛が生えてくる呪いでもかけておこう。
女友達からいえば、私は尽くしすぎだったらしい。彼氏がこれが食べたいと言われれば、苦手な料理も得意にし、ここに行きたいといえば車を用意し、旅行の手配はもちろん私がやる。
挙句、欲しいと言われたものはしっかりうん万と用意して誕生日にプレゼント。
恋愛サイトに書いてあった、「尽くす女は飽きられる」。他人事のように読んでいたそれは私にどんぴしゃり。なんてこった。
「もうしばらく、恋なんていらない!」
そう思えるようになったのは、つい最近のこと。
自分を大切にしようと思って、まずは好きなことから始めようと、ずっと体型を気にしてやめていたコンビニでの買い食いを、高校生ぶりに始めた。それが肉まん。
ホクホクしながら家まであと30mのところで、葵はあるものを見つけた。
「なんでマンホールが光ってるの」
マンホールの隙間から青白い光が漏れていた。恐る恐る近寄ると、その光はマンホールを覆うように段々とその輝きを増していく。
「光だよね、水じゃないよねこれ」
どうしたもんかと、とりあえず食べ終えた肉まんの紙をコートのポケットに突っ込み、スマホを取り出した。なにが起きているかわからないけど、とりあえずこういう時は110番。
通話の画面を開いて、1を押そうとしたその時だった。