2話
わたくしたちは現在、わたくしの部屋(と言っても宿屋の一室だが…)にいる。今後について語り合うためだ。
「一緒に冒険しませんか?」
単刀直入に彼に切り出す。
一緒にきますか?とはいったが、冒険するかどうかは彼の意思を尊重する必要がある。
もし、彼が旅をしたくないのなら、非常に残念ではあるが、ここでお別れだ。
パチパチ と、暖炉にくべた木が燃える。
彼は逡巡した後
「ええ、お願いします」
と簡潔に述べた。
先程まで暴行を受けていたとは思えないほど冷静沈着な彼に、驚きと共に、彼にもっと惹かれていくのを感じる。
しかし、その気持ちに今は蓋をして会話を続けた。
「そうですか、なら自己紹介でもしませんか?わたくしの名前は院中隼人。冒険者をやっている者です。」
「僕はソル。見てのとおりオークです。」
「仲間になったことだし、お互い敬語はやめようか…」
………………
一時間ほどで対話は終わった。
彼の事はだいぶ知れた。
まず、名前はソル。
年齢は25と言うことなので結婚できる。
やったぜ!
奴隷商人の件については、睡眠薬を飲まされてああなったらしい。
最後にステータスだか、オークということもあり、
Job 戦士
Level 5
HP 800
MP 0
ATK 350
DEF 400
Speed 250
と、並の冒険者よりも幾分高い戦闘力を誇っている。
これなら戦力としても十分期待できそうだ。
現在彼は、わたくしのベットですやすやと眠っている。
もちろん宿泊代はわたくしが出した。
冒険者を始めたばかりのわたくしにとっては、大きな痛手ではあったが、彼の為だと思うとそんなことどうでもいいと思えてくるのであった。
翌日ー
わたくしたちは早朝から対談していた。
これからの旅の予定を決める為である。
「もうちょっと、戦い心地のいい相手と闘りたいなぁ」
「それなら、ファランに移動してはどうですか?
ここから北東に進んだところにある山岳地帯の村で付近に出現するモンスターもレベルが高いものとなっていますが、私達ならば問題ないでしょう。」
ソルに敬語は使わなくても大丈夫だと伝えたが、彼は「こちらの方が落ち着きますので」といい、未だ敬語のままだ。
「なるほど。行ってみる価値はありそうだな
それじゃあ早速…」
わたくしが出発の準備をしようとしたところで、ソルが
「ちょっと待ってください」と静止の声をあげた。
「僕まだ戦う為の武器と冒険必需品を持ってないんですよ
ここで、揃えていってからも大丈夫ですか?」
愛するソルの為だ。わたくしは「もちろん」と快くうなずいた。
「あれ?、そう言えば隼人さんは武器もってないですね、というか、冒険の必需品すら持ってないじゃないですか。大丈夫なんですか?」
「ああ、それについては大丈夫。
わたくしは、素手で戦うし、寝床は宿がなければ外で寝るし、食物に関しては倒したモンスターの肉を食べるから。」
「えぇ…」
とソルは少し困惑した様子であったが、二人とも早くファランに行きたかったので、これ以上この話題には触れず、そそくさと宿屋を飛び出した。
エルメスは、商業区・住宅区・中心部・未開発地帯と4つに区切ることができる。
その名の通り、商業区は専門的な店がズラリと並び、住宅区はエルメスの中心に位置、他の区で働いている人のベットタウンとなっている。
宿屋も多く、わたくし達も先程まで宿泊していた
中心部は、エルメスで最も発展している区画で、
欲しいものは大抵ここで揃えることができる。
未開発地帯は、無法地帯で、憲兵も手付かず、麻薬、強盗等も日常茶飯事といった状況だ。
ソルとの出会いの場でもあるので、悪印象だけではないがあまり近寄らない方が良いだろう。
さて、現在ソルと共に商業区を回っている。
中心部でもよかったのだが、武器にはこだわりたいとソルが申し出た為だ。
ソルには深くフードをかぶっていてもらっている。
エルメスでは、オークなど多種族への偏見や差別が根強く残っているからである。
身長と体格から大体察すると思うが、顔を見られるよりはましだろう。
そういった観点からの決断である。
9時を少し回ったということもあり、人もまばらだ。
とりあえず、評判の良い店で武器と防具を購入した。
ソルが購入したのは両手持ちの大剣と、胸全体を覆う鉄製のプレートであった。
もっと良いものを揃えたかったが、わたくしの財布の都合上、そうはいかなかったのだ。
ソルは、「ありがとうございます、隼人さん、お金はたまり次第すぐに返します」といっていたが、わたくしは「大丈夫」と一蹴した。
自分を小さい男だと思われたくなかったからである。
ついでに、わたくしは、ソルの助言により回復用のポーションを複数個購入した。
これで傷をおっても安心だ。
10時に、町を出発した。
視界いっぱいに広がる草原に、わたくしは心踊らせた。
街にこもっていては感じることのできない解放感がわたくしを包み込む。
さりげなくソルをうかがうと、彼もまたこの解放感に浸っているようであった。
わたくし達は、数日かけてメルメスからファランへと進んだ。
当然、徒歩でだ。
道は整備されており、モンスターにあった回数も片手で数えられるほどだった。
ファランは、ソルのいった通り山岳地帯の田舎の村といった感じだった。
村に入ると、しっかりとしたレンガ作りの建物がズラリとならんでおり。
視線を上に向けると険しい山々がみえた。
村の奥に進めば進むほど、人口は少なくなっていくのだろう。
「とりあえず、宿を確保しよう」
ソルにそう告げ、歩を進めた。
エルメスとは違い田舎町の為、娯楽に興じているオークも多くみられた。
今時、オークを差別しているのは都会の人間ぐらいである。
力が強い彼らは、力仕事などでは人間の数倍秀でている。かといって、頭が悪いわけではなく、
普通に人間とかわりない。
そんな、彼らをバカにしている都会(エルメスなどの巨大な街)の住人こそバカとしか言えないだろう。
心なしか、ソルも気を楽にしているように感じた。
フードも外している。
【810】という宿屋にたどり着いたのはそれから5分後であった。
宿屋のドアを開けると、暖炉で温められた空気がからだ全身を包む。
二人とも、余計に寒いと感じそうで口にはしなかったが、内心早く宿屋について落ち着きたかった。
なので、早足で店内に飛び込んだ。
宿内は、木を基調に作られ、落ち着いた、そして、上品な雰囲気を醸し出していた。
ドアをあけて、正面に受付があり、その左右に二階へと続く階段が続いていた。
宿泊者が泊まる部屋は二階なのだろう。
そして、受付の右側には申し訳程度に、酒場が設立されていた。
「一週間ほど泊まりたいんですけど、大丈夫ですか?」
受付に突っ立っていた。この宿の主人と思われる男性に声をかける。
初老なのか、髪が薄くなりつつあったが、自分と変わらない身長に、筋肉質な身体は鬼を連想させるところがあった。
「いいよ。この時期冷え込むから宿泊客も少ないし、二人で一週間銅貨三枚ってとこかな
当然、飯もつくぜ」
見かけとは裏腹に相当気さくな人物な様だ。
ご飯までついて、一週間の宿費が銅貨三枚なんて正気の沙汰ではない。
普通、銅貨一枚なら成人男性2日文の食費がまかなえる。
それに、寝る場所がつくのだから格安という他ない。
そういった意味で、わたくしは店主に「ありがとうごさいます」と短く告げた。
「おう」
彼は、ニッと笑った。
そして、「お前ら、冒険者か?」と疑問をぶつけた。
わたくしは、観光客と偽ろうと思ったが別段隠す必要もないと感じ、 頷いた。
「それならギルドにはもう登録してあるんだよな」
「ギルド?」
初めて聞く単語に驚く
「なんだぁ、そんなことも知らないのか
ギルドって言うのは冒険者組合みたいなもので、依頼を受けて解決することで、報酬として、金品を得ることができるんだ」
「そうだったんですか。この町でも登録はできますか?」
「ああ、できるよ。ここからそう遠くない所にギルドの支部があるから、そこに行ってみるといい。」
「有難うございます」
彼に、前払いとなっている宿泊代を渡し、202号室まで進む。
今すぐ、ギルド登録にいってもよかったのだが、疲れた身体を休めたいという気持ちが勝った。
店主に渡された鍵で、ドアノブを回す。
部屋は、一階と同じように木を基調としており、
シングルベットが2つ。それぞれのベットの隣にローテーブルが2つづつ。
そして、ダイビングテーブル。暖炉はついてなかったが、寒さを感じるほどではなかった。
エルメスからの移動で、疲労は溜まっていたが、まだ眠る訳にはいかない。
部屋の一角に荷物をまとめ、ダイビングテーブルを挟むように置かれている椅子に腰掛けた。
ソルも対席に座る。
ファランでは、たくさんのオークが生活しているので、家具はオーク対応となっている。
ソルが座っても椅子が壊れないのはその為だ。
わたくしは、サービスのセルフの紅茶二人分を淹れた。
「上品な香りですね」
ソルが驚いたように呟く。
「そうだね」
そう言い、紅茶を啜る。
旨い。この香りといい、相当上等な紅茶なのだろう。
さて、ずっと紅茶に浸っているわけにもいかない。
「さて、今後の予定を決めようか」
数十分で、予定はほとんど決まった。
取り敢えず、観光も含めてファランには長く滞在すること。
これはわたくしの建前で実は、新たに魅力的な、生物的な本能を燻られる男の子をここで発見するためであった。
まぁ、それはさておき、真っ先にギルドに登録することも決定した。
冒険者をやっている以上、ギルドに登録しないとやりがいがないと思ったからだ。
それに、このまま旅を続けても収入がないため、じり貧だ。それをギルドの依頼で解消できる。
「お金のことも考えずに旅ををする気で、いたのですか?」と、ソルに辛辣な言葉を浴びせられたが、
幼少期からずっとたまってきた思いが爆発した上での行動だったとも言えず、黙り込むしかなかった。
それからは、長旅で疲れている身体を癒す為に早く眠りについた。
泥の様に眠った。
目を覚ますと、時計の針が7を指しているのが映った。
「7時か…」
硬い地面ではなく、柔らかいベットに寝るのは数日ぶりだ。
よほど熟睡できたのか、二度寝に誘惑されることもない。
隣で寝ているはずのソルの姿はない。
外にでて、ファランの綺麗な空気を堪能しているのだろうか。
わたくしは意識を覚醒させるため、洗面台へと向かった。
顔に冷水を浴びせる。
酷寒と言うほどではないが、生活に寒さを考慮しなければならないファランの気象も手伝って、鳥肌が立つ。
だか、眠気を飛ばすには丁度いい。
突如、わたくしの鼻腔を朝食と呼ぶには少し豪勢な料理が刺激した。
ソルが朝食を運んできてくれたのだ。
分厚くスライスされた豚肉、朝食の定番とも呼べるスクランブルエッグ、レタスを主軸としたサラダ。
やはり、朝食には少し重すぎるだろうと思ったが店主を思い出して合点がいく。
「朝御飯持ってきました」
彼は、ダイビングテーブルに食品を並べ、椅子に腰掛けた。
そして、視線でわたくしに座るよう促す。
「ありがとう」
そう言い、わたくし達は食事を始めた。
10時、太陽が昇って肌寒さも無くなる頃。
わたくし達は、ギルドファラン支部の扉を叩いた。
動機はもちろんギルドに登録するためだ。
宿からギルドまでは、店主がいっていた通さほど時間はかからなかった。
ギルドの中は、喧騒に包まれており、
剣・槍・斧などで武装した男女が、乱雑に設置された机で酒を飲んでいた。
暖炉もついており、酒場に近い雰囲気だ。
玄関の丁度真正面に位置する受付へと足を向ける。
オークが、ギルドに要るのがよほど珍しいのか、剛健な冒険者達が奇異と興味の眼差しを向けてくるが気にしない。
「すいません、ギルド登録をお願いしたいのですが」
受付の、赤茶色の髪をした女性に声をかける。
年齢は30才前後だろうか
ネームプレートには、ニーナとある。
「かしこまりました。それではこちらの書類に必要事項をご記入ください。」
必要事項といっても、性別、名前、出身ぐらいだった。
パパっとそれを書き込む。
「お願いします」
ソルの分と一緒に提出すると、ギルドの報酬制度についての説明は要るかと聞かれ、はいと答えた。
「ギルドの報酬は、基本的にはギルドに持ち込まれた依頼を受け、解消することで得ることができます。また、報酬はどこにいても受けとることができますが、お金以外の時間がかかる可能性があります。報酬制度はこんな感じです。とても簡単でしょ?」
「はい、便利なシステムですね。
早速使うことはできますか?」
「もちろんできますよ」
この言葉を聞いてほっとした。
金銭的な余裕があまりないのだ。
「一番、難しいものをお願いします」
「ちょ、隼人さん!」
ソルは、心配そうだったがそんなことを気にしている余裕はない。
「大丈夫ですか?確実に、死の危険が伴いますよ?」
こっちも財産が死の危険なのだ。
「ええ、大丈夫です。ところで、内容は?」
「スライム討伐です」
2話END