06・愛嬌など1gの砂糖にも劣る
皆様登場人物の名前は覚えきれておりますでしょうか。
私はアレシアさんをアリシアさんにして投稿ボタンを押すとこでした。
お風呂に入ろうとカウンターに向かうとアレシアさんがいた。
もう一人いた受付のお姉さんと何か話しているようだが近づくと話をやめ、こちらを向いて微笑んでくれた。
「こんばんは、お風呂のご使用ですか?」
「はい、スタンプお願いします。あ、後明日の午前中にもう一度魔道具店に案内してほしいのですが、予約できますか?」
「明日でしたら私が空いておりますのでご案内いたしましょう。ライナー様のお店は開店時間が定まっていないのですが10刻には開いているかと思います」
「連日すみません。では、今日と同じく10刻に待ち合わせでいいですか?」
「ええ、私はそれでかまいません」
「ありがとうございます、よろしくお願いします。あ、パスやストーンって納品までどれくらいかかるものなのかわかります?」
「そうですねー。ライナー様はお早いときは1刻もかからないですし、その、あまり気が乗らない時はひと月かかる事も…。ですが、ご注文の際に甘いものを添えると比較的早めに仕上げてくださいます。おおむね3日以内にはお作りくださるかと」
「甘いものですか?スイーツ男子なんですね。意外です。どういったお菓子が好きなんです?」
「甘いものはなんでもお好きなようです。アメでも果物でもお酒でも。少々値が張りますが、ご贔屓にされているドライフルーツがあるお店にもご案内しますか?」
割とシンプルな甘いものが好きなんですねー。というと、私の考えるようなお菓子とかはもっと都会に行かないとお店がないらしい。
これは異世界テンプレ地球のお菓子激ウマ展開来るのではっ。
さらに色々聞き、かき氷はあるけどアイスはないことを聞き出した私は勝利を確信した。
甘党があのひやあまに抗えるわけないのであるっ。
お風呂上がったら検索してみよー。
「手をこちらにお願いします。…、はい、結構です。有効時間は3刻となります。ごゆっくりおくつろぎくださいませ」
「ありがとうございます。また明日よろしくお願いします。ではー」
大分話し込んでしまったが、最初の目的通りお風呂に向かう。
今日も今日とてお風呂は素晴らしく、コーヒー牛乳がうまい。
というか、私以外のお客さん全く見ないけど他に泊まってるお客さんちゃんといるんだろうか。
素朴な疑問を持ちつつ、昨日も夜更かししたし、今日は一日中動き回ったから早く寝ようと部屋の扉の前でした決意は、扉を開けた瞬間砕け散った。
部屋の中でくつろぐ白いワンピースの少女によって。
面倒ごとの臭いしかしないですねぇ。
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「そう、それであの女にジュエルをタダでくれてやるのが嫌だったからユーレイにしてもらったの。まぁ、ユーレイってか精霊なんだけど。精霊といえば大人になるかならないかの狭間を揺蕩うのよっ。とか言ってこの年齢になったのよねー。まぁ、実際死んだときのあちこちガッタガタのおばあちゃんの体のままよりはありがたかったけどね。はぁー、ケーキおいしっ」
まぁ、察しの良い人は大体お察しであろうが、目の前におわすのは元鉄拳聖女、現176歳の狭間の少女精霊美鈴様である。
「まぁ、食べなくても死なないんだけどさー、てか生きてないし?でもやっぱおいしい物はおいしいよねー。地球から来た人には絶対見えるようにしてって言っておいたからあなたには見えるみたいだけど、他の誰にも見えなくてさー。手を振った時のあなたの、あ、これは面倒ごとだって反応を見たとき、日本人キターと思ったよね。ほんとはもっとあなたの事見極めてから会おうと思ってたんだけど、浮遊生活100年くらいで意外と人恋しかったみたいで我慢できなくなって来ちゃった」
そして今の私は相槌を打つ機械である。
「私のためにってお供えしてくれたら食べれるんだけど、最早伝承でしか私を知らない今の神官さんのお供えじゃ触れなかったのよね。ガラムの子供達のも、孫たちのお供えですら食べられたのにー。もう20年近く食事抜きだったのよ?あ、ガラムっていうのは私にずっとついてきてくれた神官で、その子供達には私もしっかり聖女式回復魔法教えてたから優秀でね。まぁ、優秀すぎて王都に引っ張られて行っちゃたんだけどね。いや、私だってケガ人が多い王都に優秀な回復魔法の使い手を集めるのに反対はしないけどね…」
これ私何時に寝れるかなー。
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結局3刻まで続いたマシンガントークにもう寝かせてくださいって懇願した。
こんな色っぽくない寝かせてくれがあっていいものか。
そして今8刻の鐘に慌てている。あれ、デジャブ。
その後もあらゆる行動にデジャブを感じながら着替えてギルドに向かう。
そして受け取った金額は17,013,200MC。桁大きすぎてゲーム内通貨感覚だわ。
まだパスとストーンの全額には足りないが、基本この世界のオーダーメイドの買い物は支払いを2回にわけるから大丈夫なのだ。
このシステムは店の為でもハンターの為でもある。
店は、相手が死んだり、バックレたりした時に素材の代金で経営に穴を開けないため。この世界の素材たっかいからねー。
ハンターは、テキトーな仕事なら全額払わねぇぞああん?とお店にクオリティの高いお仕事を求めるため。
注文時の支払い、通称前金は大体半額から8割くらい。
腕自慢の有名店だったり、バックレた噂の多いハンター相手だったりすると割合が上がっていく。
まぁ、大体半額が多いらしい。って防具屋行く前にアレシアさんが教えてくれた。
8割には達しているし、足りない分は受け取りの時に払わせてもらう事ができるだろう。
急いで宿に戻ると30分前だがやはりアレシアさんはいた。
このまま向かってもまだお店が開いてない可能性があるので、持っていくお菓子を味見してもらおう。正直自信はあるし、単純に美女に美味しい物を食べてほしいだけではあるが。
さて、今回私が用意した対ライナーさん用兵器は、みんな大好きあの有名なチョコに包まれたアイスを付属のピックでいただくアレだ。
といってもアレのアソート箱の方を買ったけど。個包装だから好きな時に好きなだけ食べれる便利さと、アソートの方にしかないあの茶色いのが私を惑わすのだ。
3種類を出してアレシアさんに味見をお願いする。
ポイと一口食べたアレシアさんは、驚いたようにカッと目を開いた。
アイス初めてな人に最初からチョコとのコンビネーションアタックかますとは、なんて罪な私。
後2個もポイポイ食べてなくなったことにションボリするアレシアさん。ハイ、可愛い。
昨日自分が思ってた以上にマシンガントーク少女に精神削られていたのか、その可愛さにメキメキと何かが回復していった。
「いかがですか、対ライナーさん兵器になりえますかね?」
「もちろんです。というか私も欲しいです。こんな異次元なお菓子どこで手に入れられたので?」
「私の故郷のお菓子なんですよねー。氷と同じく常温じゃ溶けちゃうので保存が難しいのですが。どの味がお気に入りですか?」
「なるほど、中級以上のアイテムバックが必須なわけですね。ど、どれでしょう?どれにも各々の美味しさがありました。ですがライナー様の傾向を考えますと、しいて言うなら、赤い袋でしょうか」
「今聞いたのはアレシアさんの好みだったのですが、アドバイスありがとうございます。どれも気に入っていただけたならよかったです。中級のバックアレシアさんは持ってらっしゃるんです?」
「持っていないのです。外に出ることがあまりないので、今まで下級で十分だったもので。こちらは定期的に入手できるものなのですが?であるならば100倍の値段を付けていただいて構いませんので、私にもナキ様が困らない分だけお譲りいただけませんか?」
「そんなに気に入っていただけたなら嬉しいです。安定して手に入りますし、今結構ストックがありますので、食べたい時に、食べたい個数言ってもらえればお渡ししますよ。お金なんていらないって言えたらカッコいいのですが、ご存じの通り常時金欠ですので、1粒20MCでいかがでしょう」
流石にこれで儲けるつもりはないので、損をしない程度の金額を提示させてもらった。
安すぎる安くないとちょっと揉めたが、最終的には納得してもらえた。
その後話し込みすぎて10刻を過ぎていることに気づいた私たちは、慌ててライナーさんのところに向かうことになった。
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賄賂の効果は劇的だった。
「立たせたままにするなど私としたことが。ナキお嬢様、ささっ、こちらにどうぞ」
そう言ってやわらかい笑みを浮かべると私たちを応接室のような所に通した。誰だお前。
ソファを勧められお互いに座るとライナーさんが机の上にあったベルを鳴らした。
「本日はパスとストーンの購入ということでよろしかったですよね?ナキお嬢様のご活躍は私も聞き及んでおりました。きっとすぐに来られるだろうとあの日ご指定いただいたデザイン以外にも各3種類ほどデザインを描かせていただきました。お気に召すものがあればいいのですが」
そう言って、あの日私が欲しがったパスと6枚の紙を机に並べていく。
「一応こちらの右側の3枚がパスのデザイン、左の3枚がストーンのデザインでございますが、どちらにも流用可能でございます」
「すみません、冷や汗が止まらず、動機、息切れ、眩暈、その他もろもろを感じるので、普通にしゃべってもらっていいですか」
とうとう我慢できなくなった私の懇願に、俺の本気のお仕事モードなんて滅多に見れるもんじゃねーのに。とライナーさんは肩をすくめて見せた。
「んで、デザインはどれにするよお嬢」
速攻で砕けた態度になったライナーさんにぜひそのままでいてくれの意味を込めて、アイスを一粒取り出し全力でぶん投げた。
ATKを上げたことによりそれなりの速球になったが難なくキャッチし、私が渡したラッピング袋に嬉しそうにいそいそとしまった。
ラッピング袋は2重にしており、外側の袋にはドライアイスを入れている。
やー、ドライアイスって赤いとこで買えるんすね。
コンコンと私たちが入ってきたのと別のドアからノックが聞こえた。ライナーさんが入れと言うと、眠そうな顔の背の高い男性がガラガラとサービスワゴンで紅茶やお菓子を運んできてくれた。さっきのベルの意味はこれかな?
めんどくさそうだが手際よくカチャカチャと紅茶やお菓子の準備をしている男性に、ライナーさんが包み紙があるぞ。と言いながらアイスを一粒眠そうな男性にぶん投げた。私より速く。
開け方がわからないからか少し困惑していたがクルクル回して破くしかないと理解するとパリッと破いて口に放り込んだ。
食べた瞬間カッと目を見開くと、ライナーさんと頷きあった彼は先ほどまでのダラダラが幻だったかのように、熟年の執事かのような洗練された動きで紅茶の準備を始めた。ツナギ姿で。
この店こんな人間ばっかか。
正面に視線を戻すとライナーさんがニヤリと笑っている。俺の方が速かったなと、喋っていないのに声が聞こえるようだった。
アイスを2粒取り出すと立ち上がり全身を使って振りかぶる。くらいやがれ。
難なく両方つかんだライナーさんは押し殺した笑い声をだしながらいそいそとアイスをラッピング袋にしまった。
睡眠不足の日にこの店に来るもんじゃないな、簡単に煽られ、乗せられ、転がされてしまう。ちっ。
「んで、どのデザインにする?」
若干あらぶっていた私の心はデザイン画をみて落ち着いた。
目の前のニヤニヤ大王が書いたとは思えないほどデザインは素晴らしい。
前回何を言った訳でもないのに、あの日選んだパスのデザインより私好みだ。
ストーンのデザインはすぐ決まったが、パスのデザインは2枚で悩んだ。うーむ。
「この2枚の何処が特に気に入ってるんだ?」
そう言われて2つのデザインの好きなところを上げていくとライナーさんが選んでいなかったデザインの紙の裏にゴリゴリと絵を描き上げていく。
それは先ほどの2つのデザインのまさに良いとこ取りで、その場で美しく組み合わせるセンスと機転に感激した。
5分かからずほぼ書き上げていた彼は、急に手をピタッと止めのたまった。
「あー、後ひと線入れたら終わりだけど、集中力切れちゃったなー。なんか甘いものがあればなー」チラッ
ほんとこういうとこ無かったら素直に尊敬するんだけどなー。
そう思いながら新しいアイスの箱を取り出し、横面の点線を開いて、まるでアタッシュケースかのようにパカッと開いてスッと差し出す。気分は黒スーツだ。
1粒でニヤニヤしていた彼はキラキラした目で箱を受け取った。
ニヒル男の純粋ギャップに萌えるのは2次元だけだなと思いましたまる
その後はあらゆる条件が私に有利に決められた。
納品はなんと今日中どころか30分でしてくれるらしいし。ただしもう1箱アイスを贈ること。
支払いは今日の納品にも関わらず今半額払い、残りは明日でいいらしい。ただし明日も1箱アイスを贈ること。
明後日からはどうしたら手に入りますか。
1粒20C・MCで販売しております。
やっす。お前ばっかじゃねーの。
1粒2万C・MCで販売しております。
大変申し訳ありませんでした。
商談は以上だ。
ちなみにライナーさんに投げつけるたびに、羨ましそうな顔をするアレシアさんにもそっと渡してる。
アイテムバックもドライアイス袋もないのでその場でおいしそうに食べてる可愛い。
後半段々とあざとく哀れっぽい羨ましそうな顔をするようになった。くっそ可愛い。そういうの大好きです。
ツナギのっぽのお兄さんはそんなアレシアさんの様子を見てひとつ頷くと、哀れぽい羨ましそうな顔をした。虚無の瞳で3秒ほど見つめて無視した。
どうして同じ方法で通用すると思った。
もちろん帰る時にちゃんと渡しましたとも。あーゆうマイペース系不思議キャラはゲームでも嫌いじゃなかった。
ニヤけず無表情で無視するのは大変だった。
だが私はお約束のわかる女なのである。
**********
有意義な商談を終え私は宿に戻ってきた。
アレシアさんとは受付で別れました。
まだ12刻前ではあるが精霊さんとご飯を食べるのだ。
昨日の寝かしてもらう条件だった。
私としても、ちょっと話がとっ散らかるなー。と思う以外は非常に為になる事柄も多かった、(夜中でなければ)話しはしたいと思っていたので、二つ返事で受けた。
残念ながら貧乏暇なしモードが発動しちゃってるので、食事も含めて2時間で帰ってもらう予定だ。
元聖女様からは沢山の話が聞けた、まず先代異世界3人衆は、みんなそんなに仲良くなかったみたい。
困った困った言いながらハーレム作っていく男にどんな好感持つっていうのよ。とは彼女の談だ。
ハーレム女達もハーレム女達で2人より能力の低い私を鼻で笑いやがるし、勇者も賢者も笑いながら謙遜して、私の回復魔法を褒める。
けど、本気でそうは思ってない事が優越感にじみまくりでわかるから、周りへの好感度上げの道具にすんじゃねーって思ってたらしい。
「ほんと何度ぶん殴ってやろうと思ったことか。相手を立てれる俺謙虚とか思ってんじゃねーぞ、けっ」
聖女関係の本、ギルドの待ち時間とかにちょっと読んだけど、とにかく心優しい心優しい書いてあるんだけど、盛りましたね?
鉄拳制裁の話聞いた時点で察するべきでしたね。
聞くと中国拳法の道場に通っていた中々の武闘派みたい。道場も歩いて数分だったから、医者を目指しだしても通える時は通っていたらしい。
親子3代その道場に通ってたんだって。
アクション映画を見てはこのカッコいい動きを実践でどう使うかみたいな、そんな話をしていつも一緒に笑っていた祖父が病気になって、お医者を目指したんだって。
ムッキムキで闇討ちでもしなきゃ死にそうにないって言われていた祖父は、おかしいなって病院に行って手遅れだって発覚した。
病院に入院してビックリするほど体動かねーわって笑う祖父が、日に日に弱っていくのを感じ、何もできないのが嫌で嫌で、とにかく医者になろうって思ったって。
「当時まだ中学生だったのよ。たとえ将来なれたとしても、もうどうしようもないほど進行してたし、結局1年もしないで死んじゃったの。でも祖父も急に病気になったし、今度は誰がなるかわからないしで、そのまま目指したの。なのに結局なる前にこんなとこ連れてこられて、全部ぱーよ、ぷぁああ。当時は精神的に結構荒れててね、でもヒス女とか言われんのが嫌で、弱み見せんのが嫌で、当時は意地でも穏やか系演じてた。勇者や賢者と仲良くできないのは私の問題もあったって、今なら思うよ」
だから心優しい聖女様なんて書かれてんだろうねー。って笑う。
盛ったとか思って心からすみませんでした。
話を聞くたびに心がギュンギュン彼女を好きになったので、私と彼女はスーちゃんナーちゃんで呼び合う友人となった。この子ほんと苦労しとんのや。
ハーレムズの話は、私はあざとい系の女の子も嫌いじゃないから肯定も否定もせず相槌打って済ます。
勇者と賢者も2人とも割と来るもの拒まず去るもの追わずを地で行ってたみたい。
そんな話をしていたら2時間なんてあっという間だった。
名残惜しいけど働かざる者借金地獄なので行かねばなるまい。
「スーちゃんごめんよー。暇なら夜ご飯一緒に食べよ。んじゃ、行ってくるー」
「え、いいの?行く行くー。また夜にね。行ってらっしゃい」
美少女精霊とのディナーを奮発するためにも頑張って稼ごう。
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Eランをサクッと10体狩った私はできたてのジュエルを1つ消費してアニ様に心の中で話しかける。
ジュエル1つで5分アニ様とお話しできるのだ。
(数点お聞きしたいんですが、聖女たちをこの世界に呼んだ女神様ってどうされたんですか?)
そう、スーちゃんが言った女神様の名前はアニルヴァではなく、ネルパトラだった。
(…、どうして呼んだのが私じゃないと思ったのかお聞きしても?)
(え?聖女様に聞きました)
(えっ?聖女は天寿を全うし亡くなったと聞いています。そちらにまだいるのですか?)
(ええ、精霊?になって)
(精霊っ?)
おや、どうやら聖女案件は先代担当から引き継ぎが上手くされていないようだ。
(ちょっと詳しくお聞きしていいですか?)
5分で終わると思ったから聞いたんだが、早まったようだ。
かくかくしかじか聖女の精霊化について話すとアニ様は悲鳴をあげた。
(ひぃぃいい、聖女さんは無事なんですか?ジュエル使ったからって人間を精霊化するなんて無茶苦茶な。何だかんだ適当にやって上手くいく運があるから余計たち悪いんですよあの女ぁぁああ)
聖女もあまり相性が良くない相手だったようだが、アニがもあまり得意な相手ではないようだ。
私はまた相槌を打つ機械化した。