02・これは働かないよね
怒涛の説明回2
今日の成果はジャイアントフロッグ53匹、ハングリードッグ38匹、スライム9匹だ。
スライムは小さなコアを壊さないと死なないので結構意図的に避けた。
射撃は相性悪いと思う。私の腕が悪いとかじゃなくて。じゃなくて。
ギルドはとてもきれいでガランとしていた。
とりあえず受付のお姉さんに近づいていく。
「すみません。ギルド登録したいんですけど」
「ご利用ありがとうございます。グラナーダギルド、サーラが担当いたします。本日はギルド登録ということでお間違えないでしょうか?」
話しているとだんだんお姉さんの目が遠くを見るようになり目が合わなくなる。
認識阻害の効果だろうか。
「はい、登録をお願いします」
「登録には登録料3000Cが必要となりますが大丈夫ですか?お支払いできない場合は無利子でギルドから借りることができます」
「今持ち合わせがないのですが、狩った魔物を持っているので登録後その代金で精算したいのですが」
「かしこまりました。契約上一度ギルドで借りていただき、そこからの精算になりますがよろしいでしょうか」
「はい、大丈夫です」
「かしこまりました。では、登録に入らせていただきます。用紙に必要事項を記入していただくのですが、代筆はいりますか?代筆料は100Cとなっております」
「書けるので大丈夫です。ですがその、身長が足りないので床で書いていいですか?」
カウンターから少し離れているので普通に会話はできているが、カウンターは私より50cmほど高い。
文字を書くのには無理があるのだ。
「左手の奥、あちらの方に低めに作られた椅子と机がございますので、そちらの方で記入をお願いしてもよろしいですか」
手で示された入り口に近い休憩用に机と椅子が置かれている一帯の一番隅の壁側を見ると、確かに私でもぎりぎり座れそうな低めに作られた椅子と机があった。
流石に3歳児が登録することはなかなかないだろうが、子供でも登録することがあるのだろう。
「はい、では書いてきます」
「よろしくお願いいたします」
この世界の文字なんか書けるのかって?なんとこの世界の文字は日本語なのだ。
魔法によって声を届けることができたため、この世界では文字があまり発展していなかった。あ、という言葉に三文字くらい書く。
んで、異世界転生者3人が日本語の文字を広めると、なんと短く、簡潔かつ表現豊かに自分の思いを伝えられるのかとついでに日本語自体も大ヒット。
今では元々の言葉は古代語とまではいかないが古い言葉となっており日本語がすっかり定着している。
ちなみに女神パワーで元の言語も読めるし書けるし、聞けるし話せるよ。
いらないと思いますが欲しいなら付与しますと言われて速攻でお願いしますをした。
ただやっぱり教えられるのが3人しかいなかったため、広く伝わったのは平仮名だけで、カタカナは学校に通えている子、漢字は本当に高学歴の人間しか使えていない。
ゴリゴリと平仮名の質問に平仮名で答えていく。
なまえ:なき
しゅっしんち:
じょぶ:なし
とくいぶき:じゅう
ぱーてぃ:
はんざいれき:なし
といっても書くことはそう多くないし、書けないことも多い。
とりあえず埋めてカウンターに戻る。
「お願いします」
「お預かりします。…、出身地が記入されておりませんので、死亡した場合ギルドの共同墓地への埋葬になりますがよろしいですか?」
「はい」
「ジョブなしとのことですが、まだ未獲得であるということでよろしいですか?」
「はい」
「では、獲得いたしましたら速やかにギルドへの報告をお願いいたします。パーティが記載されておりませんが加入予定なしということでよろしいですか?」
「はい」
「では、こちらも加入が決まりましたら速やかにギルドへの報告をお願いいたします。犯罪歴なしとのことですが、鑑定玉で調べさていただいております。鑑定で犯罪歴が見つかった場合、きちんと償われた後でも、虚偽記入により信用に不安ありという事で登録をお断りさせていただく場合がございます。犯罪歴の記入に間違いはありませんか?」
「大丈夫です」
「ではこちらに触れていただけますか?…、はい、結構です。」
小さな透明の玉に触れる。何の変化もない。だがお姉さん、サーラさんにはなにごとかが伝わったようで、手続きが進んでゆく。
「では、こちらがお客様のハンターカードになります。魔力登録をいたしますので、カードに魔力を流してお戻しください。MP3ほど消費いたします。MP最大値が3以下である場合、魔力枯渇を起こさないようゆっくりと流して下さい」
カードに魔力を流すと少しづつカードの色が茶色に変わっていく。
私の最大MPは2だ。魔力は約5秒に一回5%ずつ回復する。といっても5秒1以下にはならない。0になると魔力枯渇といって貧血みたいになるので、0にならないようゆっくりと魔力を流してゆく。
完全に色が変わり、魔力を吸収しなくなったところでカウンターに戻す。
「はい、結構です。…、以上で登録が完了いたしました。
カードは自己鑑定ができるようになっております。カードを持ち鑑定と唱えると自分のステータス、次のレベルまでの必要経験値が閲覧できますのでご活用ください。
自分以外には効果がありませんのでご了承くださいませ。
鑑定の際MP1を消費いたしますのでMP量に注意してご使用ください。
カードを紛失した場合再発行に5000C必要となりますのでご注意ください。
何か質問はございますか?」
「ないです」
「では、これにて登録は完了でございます。何かわからないことがありましたらギルドカウンターにて質問を承っております。ご活用くださいませ。お次に、魔物の買い取りは今致しますか?」
「あ、お願いします」
「では、買取カウンターにご案内いたします」
ゆっくり歩いてくれているサーラさんについてギルドの奥に進む。
「こちらになります。ガルマスさん、買取お願いいたします」
(でっかーーー。私が小さいのもあるだろうけど、サーラさんと比べてもでっかーーー。)
ガルマスと呼ばれたオジサマはまさに筋骨隆々という言葉がぴったりな大男だった。
「んお?見ねえ顔だな。新人か?」
ニヤリという表現がぴったりな笑顔で出迎えてくれた大男も少しずつ視線が遠くを見るようにずれていく。やはり認識阻害の効果らしい。
「はい、たった今登録されたばかりですよ」
「ほーん、新人なんて久々じゃあねぇか。しかも手ぶら、いいねぇ。収納スキル持ちか。ここのカウンターで間に合う量かい?お嬢ちゃん」
「あ、はい。あ、いいえ。ごめんなさい、足りないと思います。ジャイアントフロッグが53匹、ハングリードッグが38匹、スライムが9匹います」
「へぇー!大量じゃねぇか。こりゃ期待のルーキーだな。確かにここじゃ間に合わんな。倉庫に案内するぜ、ついてきな」
急いで移動したわけでもないのに、全然置いて行かれなかった。
見た目に反して細かな気配りができるようだ。惚れそう。
まぁ、私がどの程度意識に残っているのかわかんないので、サーラさんのためな可能性もあるけど…。
「んじゃ、手間だとは思うが一匹づつここに並べてくれや」
言われた通りジャイアントフロッグを一匹取り出し、床に置こうとしたところでガルマスさんの待ったがかかった。
「ん?おいおい、しまえ。すぐしまえ!」
いきなり出された大声の通りに慌ててしまう。
「あ、す、すみません。血抜きとかしたほうがよかったですかね?でも方法がわかんなくて…」
「違う違う。抜いとかなきゃならんのは血じゃなくてMSだ、MS」
「あ、すみません。ソウルストーンまだ持ってなくて」
「少々お待ちください、レンタル用のソウルストーンを持ってきます」
ギルドにとってもMSは貴重だ。
敏腕受付嬢サーラはすぐに動いた。
「あ、す、すみま…、せん」
言い切る前にもうサーラさんの姿は無かった。
「いや、悪かったな。大声出しちまってよ。今は何処の支部でもMSが貴重でな。グラナーダは特に雑魚ばっかで数こなさなきゃ集まんねぇし、ほぼ本部からの配給頼みでな」
ガルマスさんは大きな手でガシガシと頭をなでてくれながら言い訳を始める。
これ以上怯えさせないように慣れない穏やかな笑みを心がけてくれてくれているのだろう、ひきつった顔で笑いかけてくれている。
「お気になさらないでください。私もMSを換金できるなら助かりますし、止めていただけてありがたいぐらいです」
「わりぃな、昔っからお前の声はうるせぇって言われててな。気を付けちゃいるんだが、気を抜くとすぐこのありさまだ」
わざとらしく肩をすくめて嘆いて見せるガルマスに思わず笑ってしまう。
「お待たせしました」
そうこうしているうちにサーラが戻ってきた。
「ありがとうございます」
少し息を切らしながら急いで持ってきてくれたサーラさんにお礼を言う。
「いえ、MSをギルドに収めていただけるのでしたらギルドとしても助かりますので。…、あ、も、もちろんご自身でご使用なさっても全くかまいませんがっ」
私が気を使わないようにギルドの利点をあげただけで、ギルドに納品するよう圧力をかけたわけではないのだろう。
慌てて言葉を付け足すサーラさんに思わず笑ってしまう。
ガルマスさんもサーラさんも、自分をよく見せる言葉でなく、私が安心できる言葉を選んでくれているのがわかる。
(ありがたい、ありがたいなぁ。ああ、なんだ、いい世界じゃないか。些細なことだけどさ、こういうのってなんか、頑張ろうかなって思っちゃうよね)
全く動じてないつもりだったが、やはり異世界に一人というのは少々心細かったらしい。
小さいが暖かで優しい親切が心にしみた。
「んじゃ、MS回収しながら一体ずつ出してってくれや」
「はい。魔物の体にストーンを押し当てるだけでいいんですよね?」
「おお、そうだ」
自分の知識が間違っていないことを確認して、言われた通り魔物を並べていく。
「ソウルストーンは金が入ったら買うつもりなのか?パスも買うつもりならいい店紹介するぜ?」
「あ、ほんとですか?助かりますっ」
パスもといストーンパスというのは賢者の死後作られた技術で、紐づけするソウルストーンを選択し武器に装着すると、魔物を攻撃した際に魔物→武器→ソウルストーンとソウルを吸収する道ができる。
そして魔物を倒し切るとMSの生成が完了してすぐパスに流れていくようになる。
そしてパスに流れたMSはそのまま紐づけされたソウルストーンに流れ込む。
これによりほぼロスト無くMSの回収が可能になった。
まぁ、パスの性能はピンキリで職人の腕に大きく左右される。
しかも見た目には性能の判別なんてできないし、日本みたいに口コミサイトとかもない。いいパスを購入するのは結構大変なのだ。
ガルマスさんの紹介なら安心できるし、とてもありがたい。
「おお、こんな田舎にいるにゃもったいねぇ腕なんだがな。忙しいのは嫌いなんだとよ。まぁ、売れ残った商品は魔道具で王都に飛ばして売ってるらしいから生活に困ってはいねぇらしいがな。8、9。よし、これで全部だな?」
「はい、全部です」
「流石にこの量だとそれなりに時間がかかる。素材の金は明日で大丈夫か?つまり今日の宿代はあるか?」
「あ、えっとMSの換金をしていただいて、登録料の支払いを待っていただければ大丈夫なんですが…」
ちらりとサーラさんを見る。
「もちろんどちらも問題ありません。MSの換金・MC化はカウンターの方で承っております。すぐに換金されますか?」
またまた出てきた新しい単語MCはわかりやすく言うと電子マネーだ。
もともとはMS供給者の為の特別なお金だったが、あまりに便利だということで硬貨からもMCに両替できるようになり、今はほとんどMCが主流になっている。硬貨重いからね。
「はい、お願いします」
「では、カウンターの方にお願いいたします」
ゆっくり歩いてくれているサーラさんについて再度ギルドカウンターに戻る。
「では、MSの換金ということでよろしいですね。ソウルストーンの提出をお願いいたします。」
カウンターにつくとサーラさんは中に入り手続きを始めてくれる。
「はい、お願いします」
「お預かりします。現在MSは228Pございます。レートは318C・MCです。すべて換金でよろしいですか?」
「は、はい」
(思ってたより10倍高いーーーー。え、6万以上?あれ、7万いってる?)
思わず声が震えた。
「換金はCになさいますか?MCになさいますか?」
「クリスタルまだ持ってなくて。なのでCでお願いします」
ちなみにCは
銭貨1枚 → 1C
鉄貨1枚 → 10C
銅貨1枚 → 100C
四角銀貨1枚 → 500C
銀貨1枚 → 1000C
四角金貨1枚 → 5000C
金貨1枚 → 1万C
大金貨1枚 → 10万C
白金貨1枚 → 100万C
てな感じだ。
一般家庭の月のお給金が大金貨2枚と金貨5枚、25万Cくらいで、大体が貸家で、月3万。
家は3階建てが多い。
1階には窓がなくトラップ満載。2階への入り方は家族しか知らず、家に友達を呼ぶなんて文化は無い。
2階、3階が生活スペースで、窓はあるが二重になっており外側が厚い金属製で外から入りにくいよう15cmほど壁より内側に入っている。
しかもその15cmは平行ではなく、外側が低くなるよう角度をつけてある。
治安の悪さがビンビン伝わるね。
野菜とかは日本の半額から安いと1/10くらいで買えて、肉は100g約800C。
コッコっていう卵産ませる用の鳥型の魔物の雌の老体の値段だ。
ちなみに雄は約1200C。
これより安い肉は無いし、値上がる時は何処までも上がる。祝祭の時期とかね。
さて、これで私が1時間でどれほど稼いだかおわかりいただ…、まてよ?
これ、素材の値段入れたら…。
1時間でこんなに稼げちゃったら、そりゃ働かなくもなるわー。
「MCクリスタルでしたら1万MCまでの物が100C、10万MCまでの物が800C、100万MCまでの物が5000Cで購入できますが、全てCでよろしいですか?」
「あ、では、100万MCの物を買います。あまりの金額をクリスタルにお願いできますか?あ、支払えそうなので登録料とソウルストーンレンタル料も引いてもらえますか?」
「ソウルストーンレンタル料はギルド内でごく短時間の使用でしたので料金は結構です。…同じ条件でもギルドのよっては料金をいただく場合もございます。ご了承くださいませ。では、クリスタル料5000Cと登録料3000Cを引きまして、6万と4504MCになります。ご確認くださいませ。」
サーラさんが四角い魔道具にクリスタルを当てると数字が浮かび上がる。
【かんきんがく 6・4504】、うむ、ばっちりだ。
「はい、確認いたしました。ありがとうございます。素材の方は明日取りに来ればいいですか?」
「はい、それで結構です。ギルドは8刻、朝の鐘の時間に営業を開始いたします。明日には解体も終わっているかと思いますので何時に来ていただいてもかまいません。ですが、ギルド保管は3日間でとなっております。3日を過ぎると素材はすべてギルドの資産となりますのでご注意ください」
「はい、気を付けます。では、また明日きます。ありがとうございました」
「この度はご利用ありがとうございました。グラナーダギルドサーラが担当いたしました。また明日のご利用お待ちしております」
ペコリと感謝を伝えるときれいなお辞儀を返された。
よし、今日の宿泊先を探そう。
「お、まだいたな。お嬢ちゃん今日のお宿はお決まりか?」
声のする方を見るとガルマスさんがこちらに向かって歩いてきていた。
「いいえ、今から探すところです」
「ならいい宿を紹介してやる。森獅子亭って言って…」
「ダメよ」
いつの間にかそばに来ていたサーラさんから食い気味に待ったがかかる。
「んでだよ、あそこは安いし料理もうま…」
「そりゃあんたみたいな筋肉ダルマにはちょうどいい宿でしょうよ。でもあそこは安い分トラブルも多いのよ?彼女は新人のしかも女の子なの、多少高くても安全な宿をすすめるべきよ。夢見月夜の宿一択に決まって…」
「はぁあ?なぁに言ってんだてめぇ。1泊5000Mだぞ?あんなぼったくりの宿なんぞ…」
「ぼったくりぃ?あんたみたいなサービスの質の良し悪しもわかんない脳筋じゃなきゃ…」
ギャンギャンギャンと二人が言い争っている。
ただただガラの悪いガルマスさんとクールな眼鏡お姉さまキャラを崩壊させているサーラさんにオロオロしていると、青筋をたてた青年が足早に近づいてくる。
(す、すごい怖い)
あまりの怒りのオーラに3mほど距離をとる。
「うるさいぞ!ガル、サーラ!いったい何の騒ぎだ!」
知的な雰囲気に似合わぬ怒声に、自分が起こられたわけでもないのに身がすくむ。
「うおお」
「…、あちゃー」
ガルマスさんは怒気におののき、サーラさんは失敗したとでもいうように天を仰いでいる。
「ち、違うのよランっ、ガルが悪いのよ?新人の女の子に森獅子なんてすすめるから」
「だから、森獅子の何がわりぃってんだよ。飯はうめぇしベッドは寝れるだろうが」
「ふむ、なるほど。あなたにすすめている宿というこのでよろしいですか?お嬢さん?」
再度喧嘩を始めた2人の仲裁は諦めたのか、こちらを振り返ると声をかけてきた。
「は、はい。そうです、すみません。なんだか大騒ぎになってしまって」
先ほどの一声で怒らせると怖いことは十分理解できたので、ビクビクしながら対応する。
「おやおや、すみませんね。すっかり怖がらせてしまったようだ。ダメですねぇ、私も。まず気にかけるべきはあなたの方でしたのに」
穏やかな笑みをむけられると、不思議なほど緊張がほぐれた。
どうやらそれほど怒りの沸点は低くなさそうだ。
「さて、この様子だと、ガルマスが森獅子亭をすすめてサーラが…、夢見月夜の宿あたりをすすめた感じですかね?」
「は、はい。私この町は初めてで、土地勘もないのでおすすめを教えていただけるならとてもありがたいのですが」
「ふむ、対人戦闘の経験はどれほどでしょう?あと、予算はいかほどまでです?」
「対人の経験は全くないです。予算は、えっと安全を優先するとどのくらいかかるのでしょう?森獅子亭には安全なお部屋は無いのでしょうか?」
「なるほどなるほど、そうですねぇ、森獅子亭にはあなたが確実に安全なお部屋はないかもしれませんね。安全第一なら夢見月夜の宿でしょう。ただあそこは1人部屋で1泊5000C、併設されたお風呂屋さんの使用料が1500C、石鹸なんかは備え付けがありますが持ち込んでもかまいませんよ。お湯をもらうだけなら500C、夕食は最低でも3000Cは見とくべきです。という感じで少々他の場所より割高になりますね。大丈夫ですか?」
(おおう、宿の定員ばりの説明をいただいたぜ。てか、お風呂あるんだー。ここだわ、ここにしょー)
「では、夢見月夜の宿にいたします。死んでしまってはお金も意味はありませんし。ありがとうございました」
「ええ、ええ。そうですね。慎重であることはハンターの大事な素質ですよ。頑張ってください。夢見月夜の宿はキルドに面した道、大通りを右方向へまっすぐ進み、大きな道にぶつかったら、そこを左に曲った道沿いにあります。この辺鄙な町にはちょっと浮いた高級そうなお宿ですから、すぐわかると思いますよ」
「すみません、何から何までありがとうございました。早速向かってみます」
「ええ、ええ。お気をつけて。またいらしてくださ…」
「おいおいおい、なんだよ。なんでもう話がまとまってんだ?」
「はぁ、あと数分気付かなければいいものを。彼女には夢見月夜の宿を紹介しましたよ。女性1人では危険も多いですからね。対人の経験も無いそうですし」
「うぐぐ、対人経験なしか。それは舐められるかもしれねぇな」
「ほらみなさいな。やっぱり安全に眠れるっていうアドバンテージはお金にかえられないの」
「あんだけ魔物を狩れんだ、それなりに戦えると思うじゃねぇかよ」
「すみませんガルマスさん。今はまだ弱いっちいので、いつか森獅子亭でご飯食べられるように頑張って強くなりますね。サーラさんもいいお宿の紹介ありがとうございました」
2人が2人ともお互い良いと思った場所をすすめてくれていたのは伝わっている。
感謝をのべて頭を下げた。
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「よく視えない子でしたね」
「視えない?ああ確かに、顔が思い出せねえ?てかどんな姿だった?」
「…、私もはっきり出てこないわね。視えてないことに気づいてもなかったわ。穏やかないい子だと思ったけど、マークしといた方がいいかしら」
「いえ、必要ないでしょう。嫌な感じはしませんし、他にも3ヶ所で同じような子供が現れたと報告が回ってきています」
「ふーん、同じように期待のルーキーな感じ?」
「ええ、シェヘルで500匹、ラグトニアでは512匹、レクリアでは1000匹の納入があったそうですよ。買取受付が定期報告の時に伝えに来たそうです」
「せん?え、千?そんなん一括報告の一つとして伝えてる場合じゃ…、ってそうよね。私もあの子が100匹って言ったのを普通に処理したわ。このあたりで100匹なんてそうそう狩ってくる人間いないのに、特別だと思わなかった。認識阻害?にしても強力すぎるような」
「ええ、しかも同時期にということですし、確実に神による召喚でしょう。認識阻害は前回の失敗への対応ですかね」
「ほぉん、なるほどなぁ。視えなけりゃあ担ぐ事もねぇだろってことか」
「ええ、そうでしょう。謝罪の回数も感謝の回数も多い。噂で聞いた聖女の人となりによく似ています。日本人という人種で間違いないのではと思っています」
「確かに、ビクビクビクビクペコペコペコペコしてやがったな」
「それは単純にアンタが怖かったじゃない?いきなり怒鳴るし、無駄にでかいし、暑苦しいし」
「んだとコラ!確かに怒鳴っちまったのはわりぃと思ったが、他はただのお前の意見で悪口じゃねぇか!」
「ちーがーいーまーすー。みんな思ってますー。」
「んな、お、おい、ランガルド。そんな事ねぇよなっ、なっ!」
「はぁ、そういうのは2人でお願いします。私は仕事に戻ります。適度に切り上げてあなた達も働いてくださいね」
「おお、そうだったな。今日は大量にバラさなきゃならねぇんだった。俺も行くわ」
「私も受付を空けすぎました。ガルマスさん、ランガルド様、失礼いたします」