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迷宮騎士の誓い  作者: ビルボ
第二章
9/28

第五話 "Blood Brothers" 前編

あらすじ:

 歩兵傭兵のカスパーは、北方蛮族の助力を得て、地下迷宮の探索者となった。

 蛮族の英雄ソーリンは帰郷したが、その叔母ディーとカスパーは、迷宮探索を続ける。







 毛むくじゃらの巨人が、左手に持った棍棒を振りかぶった。

 それが勢いに乗る前に止めようと、円盾まるたてふちを突き出す。

 棍棒の根本を迎え撃ったにも関わらず、円盾が割れた。

 それでも、棍棒の勢いを殺しきれない。

 かぶとの上から、したたかに叩かれた。

 尻持ちをつくように倒れる私。

 自分が何をしているのか、一瞬判らなくなる。

 私は、頭上で振り上げられる棍棒を、()()然と見上げた。

 その時、狼の遠吠えが、響き渡った。

 悲鳴じみたその声に、自分を取り戻す。

 転がって巨人の追撃を避け、立ち上がった。

 ディーの輝く杖に照らし出される、身の丈七尺近い大男。 

 私は首を鳴らしながら、口中の血とつばを吐きだした。

 ゆっくりと歩を進めてくる巨人。

 吹き出物が目立つ巨大な鼻。

 醜い笑み。

 背後にいるディーを感じた途端、腹の底に熱いものが燃え広がるのを感じた。

 雄叫おたけびを挙げて踏み込むと、真っ向から棍棒が振り下ろされた。

 円盾中央の鉄椀で、横合いから殴りつけるようにして、それを反らす。

 握りが滑り、円盾が扉が開くように回転。

 私の身体の左側が、無防備にさらされる。

 しかし、私は、その空間に片手剣を滑り込ませた。

 腕を交差したまま左足を踏み込み、巨人の喉を突く。

 乱杭歯がはみ出す唇から、泡立った血があふれた。

 すぐに、飛び退すさる。

 両膝をついた巨人に、剣を叩きつけた。

 頭をかばった腕に、深く食い込む刃。

 剣を引き、胸元を突く。

 切っ先は、巨人が突き出した掌に当たって、狙いがそれた。

 左にかしぎ始める巨人。 

 また剣を振りかぶり、首を狙って、水平に振る。

 思ったより浅く入ってしまった刃が、耳から側頭部の皮を削いだ。

 私が、もう一度振りかぶった時、既に巨人は倒れていた。




 "青銅の三階"から戻って地上に出ると、街には雪が降っていた。

 重く降り注ぐような牡丹雪ぼたゆきも、未だ興奮冷めやらぬ身体には心地よい。

 ディーは、身体の線が隠れる外套を羽織り、頭巾を目深にかぶっている。。

 迷宮に入る為に街中を行き来する時は、彼女はいつもそのようにしていた。

 北方人でもあるし、女性でもある。

 金目の物を持っている非武装の人間、と目を付けられるのを避ける為だった。

 私たちは、ノルドの居留地に向けて歩き出す。 

 薄暗い街路はぬかるみ、出歩いている人は少なかった。




 市門を出て、人気ひとけが無くなると、ディーが私を称えた。


「"トロール"だよ! トロール! ちょっとすごくない?」

「ディーのおかげだよ」


 ディーが、私やソーリンにかける呪術。

 本来であれば、痛みも怖れも知らぬ狂戦士を生むものだという。

 彼女は、それを巧妙に操って、程々に抑え込む事ができる。

 それで私は理性を失う事なく、常にはない筋力や闘志を得る。

 更に、普通なら後遺症が残るような深手も、本復ほんぷくする。

 これが本当に、ありがたい。

 そうでなければ、今頃、私は寝たきりの身の上だったはずだ。

 今日も、兜が大きく凹むほどの打撃を受けた。

 直後には吐き戻してしまったほどだったが、今では何ともなかった。


「本当に、ありがとうね」


 肩を抱き寄せると、彼女は嬉しそうに私に身を寄せた。




 主のいないソーリンの小屋に戻ると、我々は荷や装備を下ろした。

 割れた円盾と凹んだ兜を置き、裾の短い鎖かたびらの腰を締める革帯を外す。

 両足を開いて立ち、上体をかがめて鎖かたびらを頭側に落としていると、ディーが肩口を引っ張って手伝ってくれた。

 彼女が外套や前掛けを脱いでいる間に、私は囲炉裏いろりに火を入れ、湯を沸かす。

 綿入り刺し子縫いの黒い胴着と頭巾、亜麻あまの肌着を脱ぎ、湯で絞った手拭で身体を拭いた。

 背中は、ディーが拭いてくれる。


「わぉん」


 彼女は、一声鳴くと私の傷をなめて、ふざけた。

 別に、それは呪術でもなんでもない。

 しかし、彼女がそんな振る舞いをする度に、私はいささか野性的な気分になる。

 私は、手拭いを奪って、ディーの口を吸った。

 彼女は、肩から肌着を滑らせ、私に腕を回した。

 命のやり取りをしてきたばかりの身体が何を求めているかは、もうお互いに判っている。




 私は、もう一着持っている綿入り刺し子縫いの黒い胴着を着る。

 最近では、普段着にも使っている。

 日暮れ前に、ノルドの居留地を出た。

 ディーが、見送りに来てくれる。

 そこで、門衛のノルドの若い男たちに冷やかされた。

 彼らは、私たちを見て小声で互いに何か言い合っては、笑い声をあげる。

 特に表情を変えずに、その前を通り過ぎようとした。。


「よう、おっさん! どうなんだ? 蜘蛛の巣は張ってないのかよ?」


 一瞬、意図を解することができなかった。

 彼らがお互いを見て爆笑した瞬間、目の前が歪んだ。

 剣のつかに手をかけるより早く、ディーが、私と彼らの間に割って入った。

 彼女は、私の腹に肘打ちを入れる。


「そんなに知りたかったら、エギルに尋ねてみな! なんだったら、わたしから聞いてやろうか?」


 私たちを嘲弄した若者に、彼女は言い返した。

 言われた若者は一瞬顔を歪め、周りの仲間たちが爆笑するのを聞いて、肩を落とした。

 その様を見て、仲間たちは増々笑いながら、慰めるように若者の肩や背を叩いた。

 ()()()として、そのやり取りを見守る。

 ディーは、私の背を突き飛ばすように押してきた。

 それで私は歩を進め、門を後にした。




 宿営地から少し離れると、歩きながらディーに尋ねた。


「エギルって、誰?」

「あの若僧の母親が、去年再婚した男」


 私の声は低すぎたし、彼女の答えはつっけんどんだった。


「母親ってのは、私の従姉妹。そういう身内としもの冗談を言い合うのは、習わし」


 ディーが足を止めたのを感じて、私も立ち止まって振り返った。


「ガキじゃないんだから、からかわれたぐらいでキレないで」


 彼女は、そう言って居留地に戻っていた。

 思ってもみなかった程、冷たい声音だった。 




 日暮れ時。私は、下宿にしている居酒屋に帰った。

 板ぶき屋根の、木造三階建て。例によって上階ほど通りにせり出した造り。

 戸口をくぐると、五間三間ごけんさんけんほどの広さになっている部屋だった。

 更に奥に行く扉が二つ。

 床には赤い床石が張られ、木でできた天井は大きな梁で支えられている。

 部屋の中央に囲炉裏があり、周りに机と長椅子が並べられ、既に酔客が十数名ほどいる。

 一様に切れ込みの入った胴着を着ており、歩兵傭兵の一団だと知れた。

 職業や身分に応じて、どんな服を着るべきかという街の決まりがある。

 本来、歩兵傭兵は、そういった規則を無視して構わない特権を持っている。

 しかし結局は皆、切れ込み入り胴着を着るのでお仕着せのようだ。

 彼らは、私を見た。知らない顔だ。

 向こうの何人かは、私の顔を知っていたのかもしれない。隣の奴に顔を寄せて何か囁いている。

 黙って部屋を横切り、奥の左手の扉に入る。

 そこは上階への階段と地下室への階段がある狭い部屋で、更に奥に行けば貯蔵室兼厨房になっている。

 作り付けの棚に置いてある真鍮の蝋燭台ろうそくだいを手に取り、奥の扉を開けた。


「こんばんわ」

「やあ、おかえり……?」


 居酒屋の親父に、蝋燭台を渡す。

 彼は、かまどから火を移してくれる。

 女将が、とうの籠と素焼きの壺を渡してくれた。

 私が部屋を出るまで、彼らは、()()()そうに私を見ていた。

 よほど、ひどい顔をしていたに違いない。

  


 蝋燭台と、籐の籠、素焼きの壺を抱えて、階段を上る。

 二階を抜けて、三階に上がった。

 基本的には貯蔵室だが、一角に私の長持と寝床がある。

 私は、長持に腰かけ、隣に蝋燭立てを置く。

 階下から立ち上ってくる煙は臭いが、そのおかげで、炉の無いこの部屋でも凍える事がない。

 素焼きの壺から、芽の出た大麦を砕き、湯に一晩浸けた汁をすすった。

 発酵の際に生まれた気泡が、舌をピリピリと刺す

 泡立った黄金色の液体を、絞り粕と共に流し込む。

 籠の中には丸パン。二級品の小麦粉と黒麦くろむぎを混ぜた物。

 塩あじがするそれを、手で千切って食べた。

 食事を終えると、革靴、綿入り刺し子の胴着と頭巾、左右の長靴下を脱いで長持にしまった。

 寝床は、綱を張った木の台に、わらを詰めた袋を敷き詰めて作れらている。

 私は蝋燭を吹き消し、そこに横になって毛布にくるまった。

 



 階下から、酔客たちの笑い声が聞こえる。

 やたら声を張り上げる誰かが、一席ぶっていた。


「……歩く骸骨を仕留めるのには、片手鈍器が最適だ! 剣なんて使ってる奴は、素人だ!」


 私は最近、刃渡り二尺四寸ほどの片手剣をいている。

 刀身には溝がなく、断面が菱形で、やや細巾。

 十字鍔から切っ先まで、ほぼ湾曲が無い直線刃。

 銀貨二百五十枚で、この街の鍛冶屋で買い求めた。


「深層で戦う事を真面目に考えれば、剣を選択する事はあり得ない。骨戦士を効率的に壊せるのは鈍器であって、この辺りを理解せずに片手鈍器以外の武器を携えている者は、偽物!」


 どうだろう。骸骨戦士がよく持つ円盾は、二尺ほどの半径を持つ。

 そして一般的な戦闘用の片手鈍器は、それより遥かに短い。つまり、間合いで負ける。


「迷宮において一番大事なのは武器の選択である。良く判らないないから、とりあえず手に入るもの……最悪だね! この世で、一番知らないまま選んではいけない物の一つが武器だ!」


 その武器が壊れたらどうするんだろう、と私は思った。

 それに、彼の潜る所には骸骨戦士しか出ないのだろうか。

 そう言えば、深層潜りを希望する若者を集め、授業料をとって指南する"鍵持ち"がいると聞いた事がある。

 私は、まぶたを閉じ、寝返りを打った。

 



 夜半過ぎ。寒さに震えて目を覚ました。

 店も閉じて火が落ちると、室内でも吐く息が白くなり、壁には夜露が落ちる。

 内股うちももの傷痕をさすった。

 明け方まで、浅いまどろみと覚醒を繰り返した。








 冒頭の「円盾どんでん返し、腕交差突き」のイメージ動画だよ。

https://youtu.be/dkhpqAGdZPc?t=13m18s


 綿入り刺し子の胴着。ギャンベゾン。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AE%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%83%99%E3%82%BE%E3%83%B3


 あと、ヴァイキングの人らに冗談関係の風習があったって話は読んだ事ないよ。

 あちこちウソついてるので、あくまでフィクションだと、お含み置きください。

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