第7話
結局誰に聞いても避けられ、どうすることも出来なかった私は、ホームルームのチャイムの音に合わせてやってきた先生に教えてもらい、無事自分のクラスに入ることができたのだった。
クラスが分からないと言った私を違うクラスの担任だった教師は怪訝な顔で教えてくれた。何も聞かれなかったのが幸いだ。
私のクラスは3-C、3階の階段を上がったすぐ右からABC順に並んでいるところのC組である。
「遅刻ですよ、雪織さん」
息切れしながら教室に入ると担任と思しき人が教卓の前に立ち、私を睨みつけていた。見渡せば教室内のほとんどの生徒が私を敵意のある眼差しで見ていた。
その中で一つだけ空いた席を見つけてすぐに私の机だと分かり、「すいません」と言いながら席に向かう。
机を見れば、これまた汚い字でブスだの消えろだのの言葉がみっしり書かれていた。
しかもカラーバリエーションが以外に豊富だった。
だがとにかく
「字汚っ・・・。」
机を見た私を周りの生徒はクスクスと笑いをこぼしていたが、その言葉を聞いて一瞬で凍りついた。
自分ではボソッと言ったつもりが結構聞こえていたらしい。いや、多分自分でも無意識にわざと大きくしたかもしれない。
見たところ油性で書いてあるし一生取れないようにするならもっときれいな字で書けよ。あれ?そもそもこれ学校の私物・・・。なんてことを考えながら椅子も確認して異常がないことを確認した上で席に着く。
机の上を触ってみて、別にベタベタしておるわけでも手に色が付着するとかではないからこのまま使うことにした。
このままにして支障がでるのは私ではないからだ。
先生はホームルームを進めた。
周囲の者は私を睨みつけてからすぐに先生の方に向き直った。
そのまま何事も無かったように授業は始まった。
私が何食わぬ顔で落書きだらけの机を使っているのをみて、クラスの者は悔しがるものもいた。
無事何事もなく四時間目までの授業を終え、お弁当を食べようとした時、突如大きな音を立てて教室の扉が開けられた。
学校独特のうるさい扉の音に驚いて、少し体が跳ね上がったのは言うまでもない。
何事かと思ってそちらを振り向くとそこには怒りをあらわにこちらを睨み付けた表情の美少年が立っていた。
完全に目があっていたが、瞬時に私は彼から目を逸らして何事も無かったようにお弁当に箸をつける。
「おい」
これは多分知らない人に話しかけたのだと解釈し黙々とお弁当を食べ進める。なんとも美味しいお弁当だ。家の料理人は本当にいい仕事をしている。
「おい聞いてんのか!雪織」
「はい!」
今度は私の食べている机の端をおもいっきり叩いて呼びかけられた。またもや驚きすぎて体が飛び上がる。箸が落ちかけて慌てて支える。反射で返事をしてしまった。しかも、よく大きな式の時に点呼されて返事する時のような勢いで。
この行為は結構恥ずかしいのだ。普通に考えて。絶対誰か笑ってそう。私はちょっとイライラしながら私を2度も驚かせた犯人の方に振り向く。
「なんですか?」
「お前に話があるって、会長がお呼びだ。放課後、生徒会室に来るように。」
「はー、そうですか。いったい何用で。」
「知るかっ!本来お前なんかに会長は会いたくないと思うぞ」
「そうですか、分かりました」
そう返すと、彼は少し驚いた顔をした。
どこからか教室内で、「あれ?」っという声が聞こえた。
「ようがすんだのならもういいですか、お昼が終わる前にお弁当を食べちゃいたいんですが。」
そう言いながら、落としかけて変な持ち方になっていた箸を持ち直し、お弁当を食べはじめる。
何故か突っ立ったままの彼に一瞬まだなにか?という目線を送る事を忘れない。
彼は何か気に食わないような表情をした後、すぐさま教室を出ていった。
* * * * * *
そして放課後。私はまた迷子になっていた。
生徒会室が何処か分からなかったのだ。
とにかくこの校舎は広い。その上、生徒の大半は私を避けているようだ。担任の先生に話を聞こうとしたけれど、まず職員室の場所を知らなかった。時間がたつにつれ、人通りも減っていた。
そしてどうする事をできず、ついには4階廊下で沈みゆく夕日を眺めながら項垂れていた。東京に雪は降らないが寒いの確かだが、今は風に当たりたい気持ちでいた。
私の中学生ライフは始まる前から終わっていた。それがどうにも自分の中では大分ショックだったらしい。
私は廊下の窓のふちに腕を乗せて、度々来る冷たい風に「あー」と唸り声を上げていた。
「ねー君、雪織さんだよね。」
「はい?」
初めて学校で話しかけられ、驚きつつも名前を呼ばれて返事をしながら振り返る。
そこに居たのはまたもやイケメンだった。
さっきの美少年は少し身長が低くて、可愛さの残るイケメンだった。彼はどっちかと言うと高身長で美少年というよりは美青年に近い。
そして彼を一言で表すとしたらチャラ男だ。このイメージは場合によっては失礼に値するが、彼からは軽率さがにじみ出ていた。
私の返事に少し驚いた表情を見せたあと、何かを考えるような素振りを見せた。
「なんでしょう?」
なんでこんなイケメンが私に話しかけてきたのか今の私にはまったく皆目検討もつかない。
取り敢えずこちらから話しかけてみる。
「雪織さん、今日はメイク付けてないんだね。」
「え、なんて?」
あまりにも唐突な質問に思わず突っ込んでしまった。
「いきなりごめんね、あまりにも君の雰囲気が前と違っているから驚いたんだ。」
「はあ、そうですか。」
私の言葉にまた少し驚きを見せた事から、彼らへの私の他人行儀な喋り方に驚いたことに気づいた。恐らく私とさっきの彼と、今目の前にいる人は何らかの面識を持っていたと分かる。
だがまだどうにもゲームで登場していたかもしれないのに思い出せない。
「雪織さん、生徒会室に行くんじゃないの?呼んだはずだけど。」
「あ!その事で今困っていたんです。生徒会室に行こうにも、何処にあるのかが分ならなくて。」
「・・・分かった!、案内するよついてきて。」