第6話
ついにこの日がやってきた。
人生2度目の中学生生活だ。少々不安ではあるのだが多分大丈夫だろう。
制服を着るなんて何時ぶりだろう。前世では中卒で終わっているためほとんど記憶にもない。
試しに鏡の前でポーズをとってみる。
なんだかコスプレイヤーにでもなった気分だ。今世の私は黒髪美少女だから黒めの制服にはピッタリだ。
つい先程気づいたのだけれど、ゲームの紫苑はつり目でキツめの印象だけど今の私はつり目でもないしキツい印象は余りない。
もしかすると、もともとこんな顔だったけどいつも険しい顔をしていたのかもしれない。
せっかくの美少女に生まれ変わったのだからシワが出来るのは避けたい。
そんな事を考えつつまだシワひとつない顔を両手で引き伸ばしていく。
変な所はないだろう。
朝食を終えていざ出発。
家から出ると目の前にあの時のリムジンがお出迎えだ。登校に車とはさすがお嬢様だ、と感心していると弟の優希も車に乗ろうとしていた。
「弟?あんたも一緒に乗るんだね」
「はあ?何言っての。そんなの同じ学校に行くんだから当たり前じゃん。あと、その弟って呼び方やめてくれない。」
「あんたが名前で呼ぶなって言ったんでしょうが!でも、あんた一つ下だったんだね。身長がちっちゃいからてっきり小学生くらいかと。」
私は優希の頭を自分と比較するように手でポーズをとる。
すると、たちまち優希の顔が見るからに赤くなった。怒った顔で手を叩きおとさた。
「ふざけるな!お前がでかいだけだろ。
早く乗れよ。俺が遅刻するだろうが。」
確かにそれもあるかな?と思っていると、気づいたらすでに優希は車の中で期待中だった。
駆け足で反対側から車に乗り込み、車はすぐに学校へと動き出した。
車内はずっと無言で、優希は窓の外をじっと見つめていた。私もどうする事もできないまま窓の外に目線を置く。
そういえば、私が住んでる街って何処がモデルなんだろう?
一応現実とほぼ同じ世界だし、見覚えのある建物から察するに私が住んでいた場所とそう変わらない。
もしかすると、昔行った遊園地も何処かにあるかも。高校で友達が出来たらいきたいな。
そんな事を考えていると妙に視線を感じて隣を向くと、優希がこちらを複雑そうな顔で見つめていた。
「なっ、なに?! 私ニヤついてた?」
「お前さ、ピアノを弾くの好きか?」
頬に両手を当てて、恥ずかしいなんて冗談半分に言っていると、唐突な事を投げかけてきた。
「はい?」
「やっぱなんでもねぇ、忘れろ。」
優希は慌てて話を中断して、窓の外を向いた。
「好きに決まってるでしょ。ピアノっていうよりは、音楽を奏でることは私にとって、最も幸せになれることだから。あんたもそうでしょ?なんてったってピアニストになるんだものね。」
そう返して優希の方に目を向けると、先程とは違い少し落ち込んだような、悲しそうな目をして自身の手元を見ていた。歯を食いしばり、何かを耐えているようにも見て取れる。
「あんたはさ、ピアノを弾いていて楽しいと思ったことはある?」
ふと、思ったことを無意識に聞いてしまった。本当は聞くはずのなかった疑問。
私の問いかけにほんの少しだけ、彼は戸惑いの色を見せた。
別に珍しくはない質問だ。音楽家だけでなく、誰しもがぶち当たる壁でもある。
だからこそ、彼に聞くには、まだ少し早かった。
ますます嫌われるな。
最近優希は、私を睨んでこない。悪態は、まあまあ突くけど、諦めたような目をしていた事があった。
恐らくココ最近の彼の心境の変化の原因は私だろう。
記憶を取り戻して最初にピアノを弾いた後にも、何度か別の場所で弾いていた。お願いされて、両親の前でも弾いた。もちろん両親は泣いて喜んだ。そして、謝られた。
優希がこっそり私が弾いているところを覗いていたのだって気づいていた。見つめている優希の表情が悔しそうなことももちろん知っている。
前世でも何度も言われた。
「元々才能がある人には分からない」って。自覚はしているんだ。過信していないと言えば嘘になる。でも、私の奏でる音色が多くの音楽家を絶望させたのも事実なのだ。
「やっぱりなんでもない。忘れて。」
そして暫くは、ずっと沈黙が続いた。先程の会話がほんの少しの出来事だったはずなのに、少し時間が長く感じるように思えた。
「もうすぐ着きます。」
穂積の声が異様に頭の中に響いた。
穂積は察して、それ以上は言わない。いつもはうるさいのに・・・。
そうこうしている内に学校に着いたみたいだ。さすがお金持ち学校と言うべきか、とにかく大きい。門もでかい!
門の前に着いてよく見ると、他にも高そうな車が何台か止まっている。
私たちもとめて、車から出て学校へと歩き出した。
妙に多くの視線を感じる。不思議に思い周りを見渡すと、なんと多くの生徒が私を見ている。羨望の眼差しならまだいい。けれど彼らの顔はまるで嫌なものを見たかのようなものだった。
間違いなく優希ではなく私を見ている。
これは、間違いなく私何かしたな!
どんなだいそれたことをしたかは知らないけど、この規模は流石の優希でも聞いているはずだ。いや、弟なら巻き込まれたっておかしくはない。
私はゆっくり後ろを振り向き、優希の顔をみて、「なんで言ってくれなかった」という目線を送った。
優希は少し驚いた表情をした後にすぐさま目を逸らして、私の横を通り過ぎて学校へと向かっていった。
さも他人のように話しかけるなというオーラを纏っていた。
なんに知っていることは確かだろう。でもまあ気持ちは分かる。私が弟だったら恐らく同じ態度をとっていただろう。いや、もっと酷かったかも。
「今さらどの面下げて学校に来れたんだよ」
「もう学校に来なければよかったのにね」
周りからは明らかに私に対するであろう嫌味の声が聞こえてきた。
帰りたい・・・。
切実に今思う。
だが引き返そうとしても穂積は早々に車を走らせていってしまった。朝はあんなに学校が楽しみではしゃいでた自分が物凄く恥ずかしい。
取り敢えず引き返せないので歩く。この空間からとにかく離れたい。
早足で玄関に行き、自分の靴箱を探す。
確か紫苑の苗字は雪織だから・・・っと思い出しつつ見つけた私の靴箱には、案の定内履きがなかった。自分で持って帰ったか?と一瞬考えたが、すぐにそれはないと確信した。後ろでクスクス聞こえるのは多分そういう事なのだろう。
取り敢えずスリッパで代用だ。
そして、私にまた新たな難題が襲い掛かってた。
なんと!教室が分からない。
3学年の階には到達したものの、クラスが分からないでは話にならない。試しに廊下をあるく生徒に声を掛けてみたが、怖がられるか無視されてしまう。
「どうしよう!」
もっと早く書けるように頑張ります。