第4話
夕食後、部屋に戻ってからこれからの事を考えた。もう当たりはすっかり暗くなって、部屋の中は窓からさす月の光によって僅かばかり周りのものが見える。
強く主張する月を見るために立ちあがろうとは思わないけれど、部屋の電気を付けるのが勿体なく思えた。
じっとしていると、無性に音を奏でたくなる。
そう思うと、私という人間は世にいう音に魅入られた者の一人なんだと感じる。
作曲したい。ピアノを弾きたい。歌を歌いたい。いつだって音楽は、私に色をくれる。
音楽の道に進む。
音楽というものと出会った日から、それは決定事項だ。これからもそれは変わらない。ゲームの世界に転生しようと、たとえ運命が初めから決められていようと変わることはない。
だが一応頭には入れておこう。
主人公たちが通うことになる私立鴻崎学園は、中高一貫校で、数多くの著名人が輩出された一流学校である。
私が今いる中等部は都心の中心地に配置されているが、高等部は少し都心から離れた場所にあり、学生寮も完備されている。
さらにこの学校のすごいところは、各科に別れた分野別に選択のコースが別れていて、生徒の実力を最大限に引き伸ばすには最適な環境が用意されている。
選択科目は、おおまかに普通科 芸術科 音楽科 国際科があり、そのどれかの中で自分にあった、あるいは将来やりたいことをそれぞれ学んでいく。有名な大学進学律が高いため、多くの中学生がだいたいそこを目指す。
だが、そうなれば受験難易度も桁違いに難しい。入学前から選択コースを決めて、そのコースの受験を受けなければならない。
鴻崎学園中等部からは、比較的受けやすいとはいうが実質合格して入れているのは毎年3年生300人中100人程度。
試験内容は筆記試験とコース別実技試験、そして面接だ。
筆記試験は主要3教科で行う。合格ラインはだいたい228点。
コース別実技試験は自分が得意だと感じ、頑張ってきたことをそれぞれ分野別の審査員に見て貰う。
これは簡単に言えば、音楽科では審査員の目の前で演奏し、芸術科は審査員に自分の作って来た作品をプレゼンする。国際科だと、英語で10分間の受験生同士の討論会だ。どれもえげつない。
この選択別試験は普通科にはなく、勉強さえ出来れば入ることができるため、普通科の受験生は毎年多い。
なお、ゲーム設定時にこの学校を考えついたのは前田明子ちゃん。通称前田ちゃんである。
前田ちゃんとは、私が協力するゲームメーカーのプランナーの一人だ。当初前田ちゃんの考えた鴻崎学園の設定はあまりにも現実離れしていたため、他からはもう反対させれていた。だが、前田ちゃんは一言なんのためらいもなくこう叫んだのだ。
「萌えのためです!」
その言葉に、反対していた者たちは衝撃を受けたらしい。一部からは確かになんて言う言葉も聞こえて、結果前田ちゃんの案はあっさり通ったのだ。
その一部始終を見ていた私からすれば、そんなんでいいのかと心配になったが、萌えとは乙女ゲーマーたちにとっての最重要ポイントらしい。
なんやかんや前田ちゃんの設定した鴻崎学園はうけが良く、現実会ったらいいのにとの声も多かった。確かに現実にあったら、これからの未来を担う人材が何人も発掘されたことだろう。
ちなみに私はどちらかと言えば、この乙女ゲーム攻略には"萌えた"ではなく"燃えた"方だ。そう前田ちゃんに言えば何故か馬鹿にされたので渾身の下痢ツボチョップをお見舞してやった。
とにかく、私の希望では音楽科に行きたいところだが主人公や攻略対象のほとんどが音楽科だ。正直関わらないようにすることすら面倒だ。
それに、どうせ学校に通えばいつかひとりぼっちになる。
最初は仲良くしていても、決まって直ぐに離れていく。遠巻きにされて、嫉妬と妬みの表情で私を睨みつけるのだ。
先程の優希の私を見る表情にも見覚えがあった。今まで自分より下だと思っていた相手がいきなり叶わない存在になったことに、困惑と焦り。そして嫉妬が入り交じっていた。
私自身、自分が天才なのは自覚している。持って生まれ、努力した結果なのだ。
それに、これからの世の中、才のあるものは前に出なければならない。努力家もそうだ。人がどうだとかの前に、自分がどうあるべきなのかをしっかり把握しなければ、馬鹿で勘違い野郎が治める国なんてたかが知れてる。
才能を隠すんじゃなくて、伸ばすことを考える。才能をひけらかすんじゃなくて、レベル向上に進め。
そのために努力ってものは存在するんだから。
有名な政治家は言った。
「力や知性ではなく、地道な努力こそが能力を解き放つ鍵である。」と。
元々の能力に、努力がサンドされて、「自分」が出来ていく。努力すれば能力が上がる。またそれに努力って重ねていけば、アメリカンサイズになるのも夢じゃない。
結局そういうもの。
才能なんて、言っちゃえばあるか無いなんてどうだっていい。才能だけを信じてたらいつかボロがでる。
今までの自分を信じなきゃ。
私が作ったアメリカンサイズのサンドウィッチはそう簡単には倒れない。なぜなら太くて長い芯が刺さってるんだから。
ようするに、私は私の好きなようにやらせてもらうってこと。
遅くなってすいません。
こんな私ですが、次回作もばんばん作って行きますので、よろしくお願いします。
2ヶ月は過ぎてしまっても、3ヶ月は過ぎないように更新して行きます。
だいぶ亀更新になるので本当にすいません。