萩野古参機関士派生 初の本線走行 昭和36年そのに
本線を走る罐は機嫌がよく、心地のよい走りだ。線路脇の道を行くオート三輪を追い抜いて置き去りにして。
速度は貨物の制限速度65km/hを維持している。単線区間ののどかな風景を見ながら走るのは気が緩まないようにするのが大変だ。畦道を走って手を振る子供に汽笛で応える。そうだ、今日は日曜なんだ。世間では休みだということを忘れていた。
橋梁に差し掛かれば吹き付ける横風。汗をひかせてくれる恵みであり、事故を起こさせる恐るべき風だ。右手は自弁に掛けて、いつでも非常制動措置がとれるようにしている。無事にわたり終えるまでの長くもない筈の時間はゆっくりと流れ、その間のごうごうとした川の音と動輪の転動音。菜っ葉服の胸ポケットに投げ入れられている目眩と極度の疲労止めに支給された塩の錠剤を取り出して口に含む。橋を渡りきればあとはしばらく下り坂。気楽なものだ。
貨物の停車駅につく。どうせ長く止まるのだから点検をしなければならない。罐に水を飲ませてくれる駅さんたち。そして乗務員向けのバケツに入った水。この水は罐に今くれてやってる水と同じ水だ。井戸水は冷えきり甘露もかくやと云わんばかりの美味しさをもたらす、知られざる銘水、それも乗務員以外はほとんど飲まないこれはある種の特権だろう。罐が飲んで喜ぶ水は人が飲んでも美味いのだ。バケツから水筒に汲んだ残りはそのままバケツから直にのみ、バケツは駅さんに返す。さて、乗務はまだまだだ。点検すべきところもたくさんある。
以上執筆者Generalmajor der Nationale Volksarmee




