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交響協走曲  作者: peco und Generalmajor der NVA
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君に会いたくて〜丁寧な描写、バイク・アクション〜

 ワンルームの部屋でナイトカーテンを開けると、真夏の日差しが部屋に差し込む。

 既に中天近い場所から凶悪に顔を襲った光に目を細めた彼は、エアコンの効いた部屋の中に視線を戻した。


 時計は、予想通りに12時を指している。

 腹が減ったな、と思いながら、彼は上半身裸のまま、ジャージのゴムで痒みを覚えた腹を掻きつつ欠伸をした。


 床に昨夜放り出した衣服を蹴り避けて部屋を横切り、冷蔵庫を開ける。

 銀のアルミ缶に収まった冷えたビールに目が向くが、ぐ、と我慢した。


 出掛ける途中でケチがついても困る。

 彼はビールの代わりに冷蔵庫に突っ込んであった飲みかけのミネラルウォーターを飲み干して、空のペットボトルを部屋に置きっぱなしの90リットルゴミ袋に突っ込んだ。


 奇跡的に冷蔵庫に残っていたハムの余りを齧りながらベッドに戻り、枕元で充電していたスマホに手を伸ばす。

 テレビなんて場所を取るだけだ。


 今日の目的地の天気を見て降水確率が限りなく低い事にほくそ笑みながら、スマホをベッドに投げた。

 塩気の残った指を舐めて服を拾うと、そのままシャワーを浴びる前に洗濯機を回す。


 温いシャワーをほんの数分浴びた後、さっぱりした頭を振ってタオルで体を拭い、年季の入った中古の洗濯機を途中で空けて、そのタオルも中に放り込んだ。


 鼻歌を歌いながら、肌着とパンツだけを身に付けて、座って軽くストレッチを行う。

 通気性の良いインナーシャツを着て、タオルや免許の入った財布を腰ポーチに放り込み、ポーチのポケットを探るが目的の鍵がない。


 家の鍵と盗難防止ロックのキーを付けたハイエナの顔のストラップをチャラチャラと手で触りながら周囲を見回し、思い出す。

 そういえば、前に出掛けた時にメットに放り込んだままだ。


 立ち上がるのも億劫で部屋の隅に吊るしてあるメットに体を伸ばして手を届かせると、折りたたみ式のキーをポーチに放り込んだ。

 エアコンを切って窓を開けて換気すると、部屋を片付けながら軽く掃除機を掛けた。


 回し終わった洗濯物を干し、汗ばんだ体を制汗ウェットで拭い、黒地にオレンジのファイヤーパターンをプリントしたライダーススーツのパンツを履く。

 ポーチを身に付けて同じ柄のジャケットを羽織ると、メットを手に部屋を出た。


 エレベーターのないアパートの階段を降りると、彼は駐輪場へ向かい、愛車のロックを外した。


 2000年式のースズキGSX1300R『隼』。

 ホワイトのカラーリングが施され、サイドカウルに黒で『隼』の一文字を刻んだこのバイクは、カウルのヘッドライトからタンデムに至るまで最も美しいバイクだと彼は思っていた。


 次点は、BMWK1300Rの左右非対称ヘッドタイプだ。

 惚れ惚れと愛車を眺めながらグローブに手を押し込んで、固定する。


 両手のグローブを握ったり開いたりして馴染ませながら、彼はバイクのハンドルにてをとどかせると、手をかけてサイドスタンドを足で上げた。


 駐輪場からアパートの私道へ運び出したバイクに跨り、ポーチから取り出したイグニッションキーを差し込むと、リアブレーキを踏みクラッチを握る。


 そして、キーを回した。

 低く心地よい唸りを立てて、『隼』が目を覚ます。


「久し振りのデートだ。楽しく行こう」


 ポンポン、と愛車のタンクを叩いて、アイドリングの間にペットボトルホルダーに目を向けてから、彼は空を見上げた。

 雨が降らないのは良いが、照りすぎるのも問題だ。


 行きに昼食がてら水分を購入する事を考えながら、フルフェイスメットを被る。

 顎のストッパーを止めながら『隼』の音色があったまったものに変わるのを聞き取り、軽く頭を締め上げるメットの感触を軽く調整しながら、遮光バイザーを落とした。


 腰位置を合わせて再度クラッチを握り、ギアをニュートラルからローへ蹴り落とす。

 クラッチとアクセルを軽く開くと、『隼』は滑らかに動き出し、すぐにキン、と硬質な音と共にセカンドギアへ移行すると、彼は車道へ滑り出した。


 照り返しのキツいアスファルトと、真っ直ぐに信号へ向けて伸びる道。

 青である事を幸いにウィンカーを出して大通りへ左折すると、彼はサードギアへと『隼』のテンションを上げた。


 同時に思い切りアクセルを開くと、カァン、と甲高い音と共に『隼』が凶暴な本性を剥き出しにして加速する。

 Gで後ろに体の引っ張られる心地よい感触と、風によってジャケットが叩かれるこの感覚は、何度感じても何物にも代え難い。


 ドライバーに対して素直な『隼』を物足りないと思う奴もいるらしいが、跳ねっ返りは女だけで十分だ。

 気を使わない素直な相棒に対して笑みを浮かべながら、彼は視線を前へと向けて体を前に倒した。


 途端に、風の影響が緩くなる。

 視界の遥か先で蜃気楼を立てる道路は、平日であり空いていた。


 一応法定速度は守りながら高速に入るとすっかり慣らしも終えて、彼は本格的に『隼』を走らせ始めた。

以上執筆者peco様

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