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能見凛子 3

 腕時計を確認するともう六時数分前で、能見先輩と約束した時間ぎりぎりだった。

 部活が終わるとすぐに着替えて、急いで校門へ向かった。部活のランニングは大嫌いなのに、こうして目的のために走ることは嫌じゃないんだから、なんとも現金なものである。

 

 必死に走ってなんとか部室棟から一分くらいで校門までたどり着く。門を見回してみても、先輩の姿はなかった。時間には間に合ったが、待ちくたびれて帰ってしまったのだろうか。

 泣きそうになりながら、校門を出る。ここでいなかったら――

 最悪の想像をしようとした私の目に、長身の女子高生が文庫本を片手に佇んでいるのが映る。


 暮れなずむ夕日の光を受けながら、身体の輪郭を影が覆うその姿は、それだけで絵画みたいだった。やっぱり能見先輩はかっこよくて、綺麗だ。

 私が来たのに気づいた能見先輩は文庫本をしまい、顔にかかったさらさらの髪をかきあげた。


「お待たせ……しました」

 私は膝に手を突いて、肩で息をする。さすがに部室からここまで走り続けるのはきつい。

「そんなに急がなくてもよかったのよ?」

「私のために待っていてくれている、から……」

「そう……上本さんがいいのならいいんだけど」


「……はい」

 はあはあ、と合間に荒い息を挟みながら答えた。それでも普段の練習のおかげか、少しすると呼吸も落ち着いてきて、残っていた水筒の水を飲み干した。

「ありがとうございます、もう大丈夫です」


「それじゃあ行きましょうか」

 能見先輩は歩き出そうと背を向けて、顔だけこちらを振り向いた。

「私は電車組なんだけど?」

「あ、私も電車組です」

「それならとりあえず駅まで歩きましょうか」


 確認をとった能見先輩は今度こそ歩きだした。私もそのあとに続く。

 筑波丘高校は最寄の駅から五百メートルほどの距離にあって、周りに住宅街も多く、立地がすごくよかった。だから電車組、自転車組、徒歩組が同じくらいいて、特に電車組はそれなりの遠方から来る人もいる。おかげで入学試験の倍率は高く、私も受験時にはだいぶ苦しんだりした――ああ、思い出したくもない。


「話よね。どこかに寄る?」

「そうですね――」

 道すがら話す機会もなく、できるなら落ちついて話をしたかった。でも私がいつも行くのはチェーンのファーストフードばかりで、能見先輩が好みそうな所がわからない。

 能見先輩はお洒落な喫茶店で、こだわりのブレンドコーヒーを片手にしているのが似合いそう、勝手なイメージだけど。でもただの女子高生である私には、そういうところは全くわからないのだった。


「じゃあ、あそこね」

 なんとはなしに能見先輩が指差したのは、私にもすごく馴染みの大手ハンバーガーチェーンの看板だった。安くてただ友だちと喋るためだけに寄ったりするけど――能見先輩がポテトをつまんだり、ハンバーガーを頬張る画が想像できない。


「い、いいんですか?」

「もちろん。私は好きだけど、何か?」

「いえ、何でもないです……行きましょう」

 断るわけもなく、一緒にハンバーガーショップの中に入る。


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