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本当の魔法 14

 シロ自身も軽い身体のせいか、後ろに飛ばされて――でも着地すると同時にまたイーレッセでできた壁に迫る。イーレッセの腕に噛みつき、振り飛ばされて、別の個体に体当たりして――シロはなりふり構うことなく襲い掛かり、そして徐々に通路へ続く隙間を押し広げていく。


「シロ……」

 あれだけの数を一人で、必死に相手をしている。常に戦いの場所にいて、でも戦いに参加しなかったあのシロとはとても思えなかった。もちろん、あれは機械で、操縦する人が別にいる――わかっていても、見ているのはつらい。


 鞄からミョルニルを取り出す。魔法は使えなくても、鈍器にはなるはず。

「行きましょう……」

 ぽんと凛子が私の肩を叩いた。喫茶店でああ言っていたけど、でも凛子だってシロが嫌いなわけじゃないんだ。


 シロが必死になって作ってくれた、イーレッセの壁に生まれた小さな亀裂。あとは私たちがこじ開ける。ミョルニルを構えて走った。

 近いイーレッセに向かってミョルニルを振る。ごっ、と鈍い音と感触が伝わる。隣で凛子先輩が飛び蹴りを浴びせる。それでも攻撃を受けたそれぞれの二体は倒されることなく、私たちを捕まえようと手を伸ばす。


「があぁっ!」

 その手にシロが噛み付いた。イーレッセが引き剥がそうと手を振る。それでも必死にシロは食いさがり、空中を泳ぐ。


「やめてぇっ!」

 シロが噛み付いているイーレッセに、夢中でミョルニルを向ける。魔法の残りカスでも何でもいい――雷を、魔法を!

 念じながら突き出したミョルニルの先端が、イーレッせの身体に触れるやいなや、閃光が走り、エントランスを一瞬、真っ白に染めた。目の前にいたはずのイーレッセは周囲にいた個体を巻き込みながら通路の奥でまとめて倒れ、煙を上げている。シロは投げ出され、さらにその奥まで飛ばされていたけど、立ち上がった。


「魔法、使えるじゃない……」

 凛子が驚いた様子で呟いた。

「みたい……ですね。和田さんがロックを解除してくれたんでしょうか?」

「そうかもしれない、とにかく今のうちに行きましょう!」


 凛子が私の手を握って引っ張る。呆然としていた周りのイーレッセも気づいてすぐ動き出す。通路まで来れたものの、後ろをイーレッセが何体も追いかけてくる。

 途中でシロとすれ違う。


「シロも、早く!」

 呼びかけてもシロは首を振るだけで、ついてくる様子はない。その間にも凛子がぐいぐいと先導して先へ進んで、お互いの距離が離れていった。


「凛子、シロは!?」

「あそこで食い止めてくれるつもりなのよ……その気持ちを無駄にすることは私にはできない」

 エレベーターまでたどり着いた凛子はボタンを押し、それから答えた。


「でも……」

「私が逆の立場だったらこうして欲しいわ。それにせめての見せ場、ちゃんと花を咲かせてあげなさい」

「はい……」

 振り返り、シロの勇姿を焼き付ける。シロというその不名誉な名付けの理由は払拭され、一匹の猟犬がそこにはいた。


   *


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