しろと魔法使い 5
「魔法、だよ」
私は例えのつもりで魔法って口にしたのに、シロは即答した。
「その武器は、魔法器って言うんだ。当然、魔法を使うための道具」
「これが?」
手の中の銀の棒を持ち上げる。つるりとした外観をした、ただの棒にしか見えないけど。
「誰でも使えるわけじゃない。魔法器にはそれぞれ、それを使える魔法使いが存在するんだ。だからそれは結衣、君にしか使えない」
「私だけに……これが?」
「ちなみに、ミョルニルっていうんだ」
「ミョルニル――これが、私にしか使えない、私だけの魔法器ってこと?」
「うん。何よりの証拠は、結衣にイーレッセが見えること。イーレッセは普通の人には見えないって言ったでしょ? でも、なぜか魔法器を使える人にだけは、見えるんだ」
確かにシロの言う通り、私にはあの白づくめは見えていたけど。これが私だけにしか使えないなんて、そんなこといきなり言われても実感が湧かない。
「僕の役目は、魔法器を使える人に、それを渡すことなんだ」
「シロっていったい……」
こうして私とこれを引き合わせて、イーレッセでもなくて。そもそも魔法器って何なのか。疑問が、さらなる疑問を増やしていく。
「僕は使いだから。それだけ」
「使いって……誰の?」
「さあ」
あっけらかんと、シロは答えた。
「さあ、って、知らないの?」
「僕には役目がある。それだけだよ」
「はあ……」
そういうものなのだろうか、私にはよくわからない。
「それでね結衣、君にはお願いしたことがあるんだ」
「う、うん……」
改まったシロの態度に、私は警戒する。これまでのことを思うと、嫌な予感しかしない。
「その武器――ミョルニルを使って、イーレッセと戦って欲しいんだ」
「私が、戦う……あいつたちと。イーレッセって、そんなにいるの?」
「うん。今だって、誰かが襲われているかもしれない……」
ここは私の住んでいる家の近くだ。だとしたら犠牲者は近しい人かもしれない。両親だったり、友だちだったりするかも。
魔法の道具を使って、町の人たちを守る。まるで小さい頃に好きだったアニメの、魔法少女みたいだ。
「でも……」
すぐにはい、とは答えられなかった。脳裏に刻みつけられている、イーレッセの姿。今回はたまたまうまくいったものの、次が無事な保証もない。負けたらたぶん、私はこの世からいなくなってしまうんだろう。
「能見先輩は、どうだったの?」
実際に私よりも先に戦っていて、詳しそうだった。
「凛子は了承してくれたよ。結衣が了承してくれれば、仲間ってことになるかな」
「能見先輩が、仲間……」
思わぬ、能見先輩との接点。お互いの背中を預けて、戦う。それはすごく魅力的には思えた。
「どうする? 手を貸してくれる?」
「うん……でも……もうちょっと考えてもいいかな?」
やっぱり答えられなかった。イーレッセと戦うことは恐い。でも、それは私にしかできないことで、それが能見先輩を助けることにもなる。何がしたくて、何をすればいいのか、正直なところ、頭はもういっぱいいっぱいだった。
「わかった……」
シロは怒ったり強要したりすることもなく、ただうなずいた。
「ごめんなさい……ちゃんと考えて、それで返事するから」
「うん」
「じゃあ、私、帰るね」
なんだかすぐに返事を返さなかったことが後ろめたかった。
「じゃあ、ごめんねシロ! またね!」
急いで敷地の出口に向かった。一度だけ振り返ると、シロはまだぽつんとそこにいて、白と灰色の毛は、夜の闇に浮かんでいるようだった。
*