ひとりよがり 20
「なに今の!?」
「雷?」
私と同じように雷の魔法だろうか。でもそれにしてはその軌跡は直線で、さらに速かった気がする。それに、着弾したあとの衝撃もなく、魔法自体に音を感じない。ただ表面を焦がした芝生だけが、そこに魔法が当たったことを教えている。
「光?」
凛子が焦げた芝生を横目にしながら呟く。
その間にも金髪は棒を構えなおして、さらにもう一度同じ魔法を放とうとする。
「とにかく先端に注意しよう。雷と違って曲がらないみたいだから、避けるのはそんなに難しくないはず」
「わかりました!」
どこに来るのかわかっていれば、そこにいなければいいだけ。
金髪が棒を突き出す。ぱっと先端が光って、暗い夜の空間を切り裂いた。先端の向いている通りなら、誰もいない場所に当たるはず。
「うそ! うわっ――」
霞が悲鳴を上げて、身体を捻った。その脇を光が掠め、そのまま外周部へと消えていく。
「あつっ」
焦げた匂いが漂ってきて、霞の脇腹の部分に黒い跡が浮かんだ。
「なんなんだよ……」
痛そうに顔を顰めながら霞は悪態をついた。
「大丈夫ですか?」
霞に近寄る。ワイシャツの端が焦げているけど、大きな外傷は見えなかった。
「うん、平気。でも今、曲がったよね?」
「はい……」
光は霞には当たらないはずだった。確実に棒の向いている方向を避けていたのに、途中でぐにゃりと歪むように曲がり、それから襲ったのだ。
「あれのせいね」
凛子が指差す。相手の魔法使いと私たちの中間ぐらいの位置に、鍋の蓋のような魔法器を持ったショートヘアがいた。
「いつの間に――」
「どんな魔法かわからないけど、光を屈折することができるようね……」
魔法と魔法の組み合わせ。イーレッセが乗っ取っているはずなのに、連携がとれている。
「気をつけて! 次来るよ!」
霞の警告。金髪に目を戻すと、まさに魔法器を突き出すところだった。しかもその先は、間違いなく私の方を向いている。
――どうすればいい!?
魔法の光を意図的に曲げることができるのだとしたら、射線から逃げるだけじゃだめかもしれない。だからって、霞みたいに咄嗟に避けるなんて芸当、できるわけなかった。
私が悩んでいるうちにも、金髪が棒を引く。
どのみち正面にいたらおとなしくやられるようなもの。そう思って、とにかく右に走った。
金髪の魔法器の先端が煌めき、眩しい光は狙った通りの位置に真っ直ぐに飛んでいく。でもそこにはもう誰もいない。
そう思う私をあざ笑うかのように、光がかくんと曲がる。その奥に、ショートヘアの姿がちらりと見えた。狙いを変えた光の先にいるのは――私だ。魔法の雷よりも速く鋭い光、避けようとしても身体が追いつかない――
当たると思った瞬間、伸びた光は唐突に、折れ曲がり来た方へと方向転換して飛んでいった。