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シロと魔法使い 2

 二階につくと、やっとあの女子高生の姿を見つけることができた。暗くて、影みたいにしか見えないけど、たぶん間違いない。

 女子高生は制服に、長手袋をしていた。そして、一人じゃない。向かいにもう一人、人影があった。こちらは全身真っ白の姿をしている。お互いは、距離を置いて向き合っていた。

 

 二人とも、見つめあったまま動かない。もしかして見てはいけない現場に来てしまったのかと思ったけど、それにしては距離が離れているし、どこか張り詰めたような空気を感じる。

 誰も音を発しない。時間が止まったみたいに、微動だにしない。

 そう思った矢先、白づくめの方がぐるりと妙に滑らかな動きで首だけ回し、私の方を向いた。


「ひっ――」

 悲鳴が洩れた。本能的に私は後ずさった。だってあの白づくめの顔――どう見たってまともな人間じゃない! 

 赤く釣り上がったような細い眼。白づくめの顔にあるのはそれだけだった。鼻も口も耳も、あるはずのものがなく、よく見ればだらりと垂れ下がった両腕は地面につくぐらいに長かった。

 白づくめが動き出した。私の方に向かって走ってくる。


 ――逃げなきゃ!

 頭が警報を鳴らしながらそう叫ぶのに、金縛りに遭ったように身体がぴくりとも動かなかった。それどころか、腰が抜けて、そのまま地面に座り込んでしまう。

 白づくめが迫る。

 もう、だめ――何がなんだかわからないけど、たぶん死ぬ。怖くて目を閉じた。


「何しているの!」

 怒鳴り声が響き、駆ける足音が近づく。思わず目を開くと、すぐ前で紺の制服が翻った。

白づくめが吹っ飛んで近くの柱に激突する。

 女子高生が振り返り、その視線が床に膝をついた私を射抜く。


「何でこんなところに!」

 怒ったように女子高生は声を上げた。

「あ、あれ……」


 私は襲ってきた存在を指さす。白づくめの人――ううん、あれはそんなんじゃない。白い服を全身に着込んでいるんじゃなく、身体そのものが、白い。つるりと凹凸がなくて、そこには体毛も人間らしい血色もない。本当に絵の具で染めたように、真っ白だった。ただ赤く吊り上った両目だけが爛々と光っているだけ。あんな生き物――知らない。 

「あなたにも見えるのね」


「見える……? もちろん見えますけど……」

 女子高生の言わんとしていることがわからない。

「とにかく、ここは危ないから、早く逃げなさい」

 女子高生は背を向ける。その先であの白づくめが立ち上がるのが見えた。

 白づくめは何事もなかったように、長い腕をだらりとぶら提げて、臨戦態勢に入っている。

 あんな化け物と、女子高生は戦おうというのか。ううん、私はこの人を知っている。同じ学校の一年上の――能見凛子先輩。通りで見かけた時にもしやと思ったんだけど、本当に、その人だった。まさかこんな所で、こんな状況で会うことになるなんて――


 いったい目の前で繰り広げられている光景はいったい――まるで別世界に迷い込んでしまったみたいで、途方に暮れる。

 かり、と地面を爪で引っ掻いたような音が、そばで上がった。白づくめがいつの間にか忍び寄って私の後ろから――

 ばっ、と振り返った先にいたのは、あの白づくめではなかった。白と灰の毛並みの犬だ。また、この状況に全然合わない存在。世界はいつのまにかどうかしてしまったんじゃないかと、本気で疑いたくなる。


 たぶんハスキー犬だと思う、その子はとことこと私の横まで来る。その口に銀の棒を加えていた。円らな瞳で私を見上げ、口に咥えたその銀の棒を床に置き、そしてまた、私を見る。

「もしかして……これで戦えって言ってるの?」

 私の問いにハスキー犬はこくりと頷いた。

「む、無理だよ! 私なんかじゃ邪魔になるだけだって!」

 言葉が通じているわけじゃないんだろう、これにはハスキー犬も反応せず、ただただ真っ直ぐな視線を私に送ってくるだけだった。

「でも……」


 いたたまれなくなって視線を外す。そのまま再び能見先輩の方を見たその瞬間、一定の距離をとっていた白づくめが、一転して前に動き出したところだった。

 白づくめは正面から真っ直ぐ能見先輩に迫る。左腕を上げて、鞭のようにしならせながら先輩に向けて振るう。能見先輩は避けようともせず、攻撃が来るだろう場所に右手で円を描いた。

 唸りを上げていた白づくめの腕が命中する――そう思った瞬間、白づくめの腕が見えない何かに絡めとられたように突然、スピードを落とした。


 能見先輩がその腕を掴む。その周囲に、きらきらとした雫のような何かが舞っている。

掴んだ腕に沿って、自分の左手を翳すように素早く上下に撫で付ける。すると煌いていた何かが薄白い膜となって周りで固まり、遅れて白い湯気のようなものが立ち上った。白づくめは慌てて離れ、腕をぶんぶんと上下に振るけど、それきり曲がることはない。

 能見先輩は不思議な力で白づくめの腕を動かなくして、すぐさま今度はもう片方の腕の周囲でも同じことを繰り返した。さっきと同じように白い湯気が上がり、両腕を固められてしまった白づくめはなす術もなく、無様に万歳の姿勢で後ずさりするしかない。


 能見先輩はくるりと鮮やかに回転すると、見事な回し蹴りを白づくめの腹部にお見舞いした。

 白づくめは吹っ飛んで、地面を跳ねて転がり、柱にぶつかってやっと止まる。


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