表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
13/82

能見凛子 7

 ――能見先輩を助けたい。

 走りながら、鞄の中に手を突っ込み、ひんやりとしたあの、銀の棒を取り出した。一振りすると、しゅん、と小気味良い音と共に伸びて、昨日と同じ長さになる。


「結衣っ!」

 呼び止める大きな声。声のした方を振り返ると、階段の最初の一段に足をかけたシロがいた。そこまでしたなら一緒に上がってくればいいのに。


「ミョルニルは雷の魔法器だ! あとは、君の想像力次第!」

 ミョルニルっていうのは、この銀の棒の名前だったはずだ。確かに昨日、イーレッセを殴る時に起きたのは、雷が落ちた時によく似ていたかもしれない。

「うん!」

 ミョルニルを掲げて私は答えた。本当に雷を操れるのだとしたら、すごく心強い。


 頂上に着いて、真っ赤な鳥居をくぐる。人気のない、悪く言えば寂れた神社だった。

 手と口をすすぐ水場と、中央正面に小さな建物。たぶんあそこが本殿。でも今はイーレッセがその場所を荒らしている。奴らからしたら、神聖な場所なんてちっともお構いなしらしい。


「能見先輩!」

 私はその姿を目に捉えて唇を噛んだ。

 能見先輩は正面の建物の閉じられた戸を背にしていた。右肩を庇っていて、怪我をしているのがここからでもわかる。前を四体のイーレッセ――昨日と同じ白づくめが取り巻いていた。


 私がぐずぐずしていたから、能見先輩はあんな沢山のイーレッセを相手にしなければならず、さらには怪我まで負わせてしまった。

 私がしっかりしないから――後悔と自責の念が心を満たす。でも。 

 イーレッセから目を逸らすことなく、ミョルニルをぎゅっと握る。ここまで来たんだ、能見先輩を守るために。今ならまだ、間に合うはずだ。


 走り出す。距離はまだ数十メートル。

 途中で、イーレッセの一体が能見先輩との距離を詰めた。

 私は頭の中に映像を思い浮かべ、何もない前方の空間にミョルニルを振り下ろした。


 ばち、と空気がはじけるような音がして、同時に光の筋が走った。不規則に何度も折れながら、まっすぐ建物の方へ飛んでいく。

 光が直撃して、ばん、と大きな音ともに煙が上がる。


「くぅっ」

 私が放った魔法の雷は、曲がりくねりながらイーレッセたちに向かったものの、途中で逸れて建物の壁に当たり、表面を少し焦がしただけだった。真っ直ぐ飛ばないから当てるのはかなり難しいかもしれない。

 それでも何事かとイーレッセたちはこっちを振り返る。能見先輩に迫っていた奴も、距離を取り直して隊列に戻った。


 私は走りながらさらに、狙いもつけずに二回、三回とミョルニルを振った。その度に細い雷が走る。当たらなくてもいい。どうにか能見先輩のところまで行く道を作ることができれば。


 雷がイーレッセたちの隊列に落ちる。一本は手前の地面に、一本は逸れて建物の壁に消えた。でも、残りの一本が運よく右端の一体に直撃して、後ろに吹き飛ばす。イーレッセはそのままぴくりとも動かなくなった。


 一体がやられたことで警戒したのか、イーレッセたちは左に寄って私の動きを窺う姿勢。そのおかげで前に空間ができた。


「どけえっ!」

 駄目押しで出鱈目にミョルニルを振って、さらに道をこじ開ける。イーレッセたちは堪らず後ろに退いて、私と距離をとった。私はその隙に建物の前の階段を駆け上がる。

 怪我が痛むのか、能見先輩の額に脂汗が浮かんでいた。


「遅く……なりました」

 横に並んで、イーレッセの動きを見ながら謝る。能見先輩の怪我は、私のせいだ。


 能見先輩は私の顔をじっと見る。あきれているのか怒っているのか、わからない。でも、何を言われても受け入れるつもりだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ