能見凛子 7
――能見先輩を助けたい。
走りながら、鞄の中に手を突っ込み、ひんやりとしたあの、銀の棒を取り出した。一振りすると、しゅん、と小気味良い音と共に伸びて、昨日と同じ長さになる。
「結衣っ!」
呼び止める大きな声。声のした方を振り返ると、階段の最初の一段に足をかけたシロがいた。そこまでしたなら一緒に上がってくればいいのに。
「ミョルニルは雷の魔法器だ! あとは、君の想像力次第!」
ミョルニルっていうのは、この銀の棒の名前だったはずだ。確かに昨日、イーレッセを殴る時に起きたのは、雷が落ちた時によく似ていたかもしれない。
「うん!」
ミョルニルを掲げて私は答えた。本当に雷を操れるのだとしたら、すごく心強い。
頂上に着いて、真っ赤な鳥居をくぐる。人気のない、悪く言えば寂れた神社だった。
手と口をすすぐ水場と、中央正面に小さな建物。たぶんあそこが本殿。でも今はイーレッセがその場所を荒らしている。奴らからしたら、神聖な場所なんてちっともお構いなしらしい。
「能見先輩!」
私はその姿を目に捉えて唇を噛んだ。
能見先輩は正面の建物の閉じられた戸を背にしていた。右肩を庇っていて、怪我をしているのがここからでもわかる。前を四体のイーレッセ――昨日と同じ白づくめが取り巻いていた。
私がぐずぐずしていたから、能見先輩はあんな沢山のイーレッセを相手にしなければならず、さらには怪我まで負わせてしまった。
私がしっかりしないから――後悔と自責の念が心を満たす。でも。
イーレッセから目を逸らすことなく、ミョルニルをぎゅっと握る。ここまで来たんだ、能見先輩を守るために。今ならまだ、間に合うはずだ。
走り出す。距離はまだ数十メートル。
途中で、イーレッセの一体が能見先輩との距離を詰めた。
私は頭の中に映像を思い浮かべ、何もない前方の空間にミョルニルを振り下ろした。
ばち、と空気がはじけるような音がして、同時に光の筋が走った。不規則に何度も折れながら、まっすぐ建物の方へ飛んでいく。
光が直撃して、ばん、と大きな音ともに煙が上がる。
「くぅっ」
私が放った魔法の雷は、曲がりくねりながらイーレッセたちに向かったものの、途中で逸れて建物の壁に当たり、表面を少し焦がしただけだった。真っ直ぐ飛ばないから当てるのはかなり難しいかもしれない。
それでも何事かとイーレッセたちはこっちを振り返る。能見先輩に迫っていた奴も、距離を取り直して隊列に戻った。
私は走りながらさらに、狙いもつけずに二回、三回とミョルニルを振った。その度に細い雷が走る。当たらなくてもいい。どうにか能見先輩のところまで行く道を作ることができれば。
雷がイーレッセたちの隊列に落ちる。一本は手前の地面に、一本は逸れて建物の壁に消えた。でも、残りの一本が運よく右端の一体に直撃して、後ろに吹き飛ばす。イーレッセはそのままぴくりとも動かなくなった。
一体がやられたことで警戒したのか、イーレッセたちは左に寄って私の動きを窺う姿勢。そのおかげで前に空間ができた。
「どけえっ!」
駄目押しで出鱈目にミョルニルを振って、さらに道をこじ開ける。イーレッセたちは堪らず後ろに退いて、私と距離をとった。私はその隙に建物の前の階段を駆け上がる。
怪我が痛むのか、能見先輩の額に脂汗が浮かんでいた。
「遅く……なりました」
横に並んで、イーレッセの動きを見ながら謝る。能見先輩の怪我は、私のせいだ。
能見先輩は私の顔をじっと見る。あきれているのか怒っているのか、わからない。でも、何を言われても受け入れるつもりだった。




