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子兎は波乱万丈な人生を  作者: フィアナ
第一章・悠久なる森で
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第七話・盟約?密命?厄介事?



鳥の声が聞こえる。空は明るくなっていた。

ピクピクと長い耳を動かす。身体が重い。目を開けるとがっちりと夜涼に捕らえられている。いつの間に。


そぉっと前足を動かし、なんとか腕から出た。その時僅かに夜涼の腕が動いた気がするが気のせいだろう。その場で後ろに体重をかけ前足をうんと伸ばすと、私は歩き出した。




匂いを頼りに小川へと向かう。綺麗な小川の端に入り、水浴びをする。昨日の汚れや傷を洗うおうと思ったのだ。外見が子兎だろうと内面は人間なので汚いのは耐えられない!

川に入る前に怪我をしたことを思い出し、擦り傷やらが痛むかと思って、ゆっくり入ったのに拍子抜けするほど何ともなかった。驚いて見てみると、いつもの薄ピンクをした毛しかなかった。怪我は何処(いずこ)に! 驚異的な回復力である。


川から出ると魔力で温風をつくり毛を乾かした。まだ魔力操作が危うかったが、ちゃんと乾いたので及第点だろう。大分この世界の便利さに慣れてきたようだ。


帰り道、雑草をムシャムシャ食べながら帰った。もう当たり前の様に草を食べているが、昨日のプリンみたいな味付けの濃いものも食べたい。結局、お腹を壊すこともなかったし。




「何処に行ってたの? 逃げちゃったかと思ったよ。」


いつものように笑顔のまま夜涼は言ったが、瞳には僅かに愁いの色が映っていた。どうやら水浴びをしていた間に起きてしまったようだ。昨日ほど警戒はしていないけど、さくっとやられても困るので、そろそろと近づいて様子を窺う。うん、今日も綺麗な(かんばせ)ですね。


途端に夜涼の雰囲気が明るくなる。いつも仮面の笑みを浮かべているので変化が分かりずらいが。


「ねぇ、兄弟達ともはぐれちゃったし、これからどうするの?」


これからかぁ。どうしよう?このまま森にいるべきなのかなぁ。

腕を組みかねない勢いで悩む。


――――ずどぉぉおおん。


重低音が身体に響く。つい条件反射で飛び上がってしまった。

おまけに魔獣だからこそ聞こえるような微かな音で、何処かで聞いたような声が聞こえた。


――――うわぁ~!! こっちに来るな!! 化物が!!!

――――なんで魔術が効かねぇんだよ!


ちょっ! 何事!

この辺は大丈夫だったが、凄い爆発音ぽいものがしたというのに、夜涼は前から知っていたようで全く慌てる様子がなかった。


「ようやくかな。あ~疲れた。

じゃあ、ちょっと行って来るね。」


ちょっと待って! こんな所に置いてかないで!! 簡単に死んじゃうって!

上目遣いで咄嗟に助けを求める。


「ふぎゅっ!ふぎゅっ!」


ついでに精一杯飛び跳ね、居なくなろうとしていた夜涼の足に抱きつく。

昨日の敵は今日の仲間。心変わりが早いと言われようとも、死にたくないですから。今はこの状況を乗り越える事が先決だ。


「わっ!どうしたの?怖い?僕に付いてくる?」


「ぷぷっ!」


勿論だとも。

張り詰めてた空気が一瞬緩み、気がつくと夜涼に抱き上げられ、衣の懐に詰め込まれていた。






「うわ~。派手にやったねぇ~。捕まえてるのは低位の獣二匹かな。」


そこにいたのは成人男性の一.五倍以上はある巨大な野良犬らしき生物だった。目は充血し口の端からダラダラと涎を垂らしているが、幸い『能力』は弱いようで、鋭い牙と爪にさえ気をつければ良さそうだった。


夜涼は大きな獣に向かって剣を振るいつつ、逃げ惑う男達に話しかける。しかし、弾き飛ばすだけで傷は決してつけない。


「おいっ、何の為に金をお前等なんぞに払っていると思ってるんだ!」


今まで死にそうな顔をして逃げ惑っていた男が急に偉そうな態度に戻る。

男達はそれぞれの腰に一つずつ、赤黒いシミのついた小さな檻を着けていた。小さな檻はどちらも小刻みに揺れていて、片方からは黒い二又の猫の尻尾が、もう片方からは三本足のカラスがぐったりとした状態で見えた。おまけにどちらも小さく幼体のようだ。

酷い。何が目的でこんな事をするんだ! 一歩間違えると自分もあいつらに捕まるところだったのだ。ここで会ったが百年目! これは仕返しせねば。


辺りにはクレーターと焦げた跡が点々とある。枝の一部は黒く炭になっており、もう少しで山火事になりそうだ。


「あ~あ。知ってる? 能力持ちの獣だけじゃなくて、この森も保護対象になってるんだよ?

侵入者達にはどんな未来が待ってるんだろうね。」


懐から見上げると、無邪気に、新しいおもちゃを見つけた時のように笑いながら夜涼は男達に近づいていた。

地面は枯葉に埋もれているというのに足音がしない。

歩く速さもいつも通りのはずなのにやけにゆっくりと、野生動物が獲物を追い詰めてる時のようだ。


「グルるる……。がうるぅぅ……。」


後ろ足に力を入れながら、野良犬はその時を今か今かと、目をギラギラさせてタイミングを狙っている。夜涼と野良犬に追い詰められた男達はようやく焦り始めたようだ。


「ひいっ。は、早くしろっ!」


「まだ分からないの? 憐れだね。僕はお前等なんて一捻りなんだよ?」


夜涼は何処からか札を出し、剣を持っていない手で握りつぶし、空に放り投げた。


地面を這うように蔦が現れ、ウヨウヨと男達に襲いかかる。うぅ、気持ち悪い。


「こんなものっ! 燃やしてしまえ!」


震える手を構えた所で、男達が消えた。その後来たのは軽い浮遊感。

どうして男達の姿が見えないんだろ? 状況が理解出来ない。あんなにうじょうじょいた蔦も消えていた。


「つまんない。これで終わり? たまには片付けたいよ。」


夜涼が蔦で手を縛られた男達を足蹴にしていた。そこでようやく分かった。男達が消えたのではなく、夜涼が音ひとつ立てずに男達を昏倒させたのだと。

コイツは何者なのだ。前から思っていたけれども。敵にだけはなりたくない。


その後ついでとばかりに、すぐ逃げれるよう軽く野良犬を蔦で縛る。自分達がこの場から去る間だけもてばいいようだ。

夜涼は気絶した成人男性二人を樽担ぎして、何処かへと移動し始めた。






太陽は真上まできていて、さんさんと降り注いでいる。辺りには見知らぬ風景が広がっていた。今まで私が来たことの無いところまで来たようだ。この森にはやはり色々な生物が住んでいるようで、ここに来るまで時折ガサガサと音がした。


夜涼がようやく足を止め、乱暴に男達を肩から落とした。


「もうそろそろかな。意外と時間がかかったなぁ。でも間に合ってよかったよ。」


どういう事だろう? 誰か待ってたとか?


ふと夜涼が自分の懐を覗き、こちらを見てきた。暫くこちらを見ていなかったので少しドキリとする。

な、何だ! 目的は果たしたから私を投げ捨てるとかないよね!? 夜涼の中で停戦協定の期限が切れたのだろうか。

来るなら来いとばかりに、夜涼を見つめた。

夜涼は先程までの寒気のする笑みではなく、こちらを安心させる様な優しい笑みで恐る恐る身体を撫でられた。


「君には何もしないよ。

これからね、第弐剣部の人達が来るんだ。黄色い着物を着た人達だよ。それでね、第弐剣部の人達()盟約で聖獣の森に入れないから、森の入口までこの不法侵入の人達を連れてきたんだ。

僕は密命でこいつ等を捕まえに来たんだよ。本来、僕も此処に入っちゃ行けない人だからね。」


ああっ! なるほど。それでこんな所に長なんていう、お偉いさんが居たのか。

いやいや、その前に密命って! やっぱり一般人じゃなかったのか……。しかも盟約とか大層なものまで破ってるよ……。本当はほとんどの人が聖獣の森に入っちゃいけないとか? まさかね。

どんどん眼が虚ろになってきている気がするよ。


「ちょっと待っててね。」


そう言って夜涼は私を地面に下ろすと、札を出しそれを横に破った。すると夜涼の目の前にブラックホールみたいな黒い穴ができ、そこに手を突っ込んだ。


ええっ! ちょっ、大丈夫なの?

つい、ふぎゅっ! っと鳴き声が出た。


でも何事も無かったかのように夜涼の腕が出てきて、そこには夜涼が着ている着物の黄色バージョンみたいなのが握られていた。

嫌な予感がする。


予想通りというか、夜涼は青の着物を脱ぎ、黄色の着物を着た。これはうん、変装ですね。


青の着物はブラックホールに入れ、手を振る様にすると穴は消えていた。

証拠隠滅ってね。ますます怪しい。

多分あの穴は亜空間とかそんな感じのものだと思う。





夜涼がそっと私を抱き上げた。


「君は森に残るの?」


いつもの仮面の笑みを消して、何かの感情を押し殺した様な無表情で夜涼が聞いてきた。






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