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子兎は波乱万丈な人生を  作者: フィアナ
第一章・悠久なる森で
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第五話・秘密の勅命(夜涼side)

説明も兼ねて、初他視点いきます。



『聖獣の森』

それは太古から続き、この世界で最も大きく神聖視されている森だった。全大陸の約二割を占め、周りには大国が三国と小国が四国接している。森には人間以外のあらゆる生物が住み着き、固有種の獣も住んでいた。

だが、神聖視されている理由はそれだけではない。最大の理由は『聖獣の森』が最大規模の能力持ちの獣――――魔獣・妖獣・神獣の住処となっている事だ。能力持ちの獣は珍しく、野生生物の楽園となっているこの森でさえ全体の約3割も居ればいい方だ。実際にはこの森が広いことと獣が隠れるのが上手いという事が相まってその殆どを見つける事さえ出来ない。

故に、各国で盟約が交わされ、世界でもごく少人数しかいない正規の狩人以外は、無断での立ち入りや貴重な魔獣・妖獣・神獣の密猟は禁止されていた。





現在夜涼は平均よりは体格が良いであろう男2人と、数日前から件の『聖獣の森』内を歩き回っていた。


(馬鹿だよねぇ〜、こいつ等。)


確かに盟約が交わされているとはいえ、この森に結界など張っていないし、規模が大き過ぎて張れない。だから、能力持ちの獣を密猟する不届き者が相次いだ。


能力持ちの獣は民の間で神聖視され希少価値が高いため、よく売られる。そして買われた獣で何よりも多いのが『使役獣』にされる事だ。能力持ちの獣は総じて気位が高く、狂暴かつ好戦的で戦闘能力が高い。要は諸刃の剣だという事だ。それでも人間達が欲しがるのは自分達の『能力』が弱いからだった。



(僕は居なくても良いと思うんだけどね。)



人間は通常魔力・妖力のどちらかしか持たず、『能力』自体が弱い。代わりに魔術陣や式符等を介した魔術・妖術に長ける。


能力持ちの獣は魔力・妖力・神力のどれかを持つ上、『能力』自体が強い。中には知能の高い獣もいるが、殆どの獣の知能は高くない為、力を操り、火や水等に力を変換する『術』を使う事が出来ないのが常識だ。



(要は『能力』が弱くても、術を操るのが上手ければ使役獣なんて要らないんだよ。)


夜涼の瞳がほの暗く染まるが、夜涼自身はそれに気付かない。



その上、裏を返せばそれ等を捕まえる為にはそれだけ危険度が上がり、自分が殺されやすくなるのだ。それをわかっているのだろうか。


見た所、体力的にも能力的にも一般よりは強いくらいだろう。しかし下準備をしなくていいようあらかじめ体自体に刺青を入れている為、決まった術しか出せないはずだ。


こんなので勝てると思っているのか。少なくとも十人ぐらいを一度に瞬殺出来るぐらいの技術は必要だ。装備さえこれではまだ安物だし。


だからこそ頼みの綱として用心棒の僕を雇ったのだろうが、それでも“普通なら”捕まえる事は出来ないだろう。


と言うか、僕を下っ端の用心棒だと思い込み、逆らえないと思ってる辺りで救いようが無いと思う。此処からも陳腐な力量がうかがえる。


(これが勅命じゃ無かったらな〜。意外とこういうのは時間が掛かって面倒なんだよね。)


忌み子である自分は、長い時間をかけ自分を“駒”として帝に売り込む事で何とか今の、蒼碧國の帝直属の剣部の長という地位に就いた。


(別に此処で片付けても良いんだけどな〜。寧ろその方が楽だし。)


男達の後ろで剣の柄を触るが全く気付いた様子もない。


例え國に切り捨てられても困りはしないが、また一から他国に取り入るのは骨が折れる。


(手を出せないし、じわじわと言い逃れが出来ない様追い込もう。)


背後で独り、不敵に笑った。






軽く昼食を取り、一刻を過ぎた頃だろうか。


「おっ、おい。あれ見ろよ。」

「まさか見付けたのか。」

「おい、混ざり者! こっちに来い!」


どうやらお目当ての獣を見つけた様だ。

今だけはニコニコと頭の上がらない振りをして、油断させておく。


「はいはい。直ぐそっちに行くよ。」

「早く来い!雇って貰えるだけ有り難く思うんだな。穢らわしい忌み子が!」



足音を立てずに男達が隠れている物陰に近づき、隙間から様子を窺う。

其処には子兎が六羽いて、楽しそうに妖力の撃ち合いをしていた。其の中の一羽は異様に小さく、白に近い薄紅色をしていた。


本当にこいつ等は運が無駄に良い。

この森は幻想的な見た目に対し、とても危険だ。にも関わらず、狂暴な獣にも遭わず、数ヶ月かかる所を僅か数日で能力持ちの獣を見つけた。其の上、まだ弱いであろう幼体を見付けるなんてね。


(人生そんなに甘くないんだよ。案外奈落の底はすぐ近くにあるかも、ね。)


――――僕が此処に居るように。






少し目を離したうちにガサガサと音がした。


「こいつは大物だぜ。軽く相場の数倍はいくんじゃねえか。小型の妖獣で隠しやすいし、何より幼体だから調教しやすいぞ。」


どうやら作戦の一つも立てずに男達は物陰から出たらしい。


(本当に馬鹿だよね。初心者でもこんなヘマはしないのに。)


それを表すかのようにあっという間に子兎は四方八方に散らばった。一際小さかった薄紅だけが逃げ遅れ、標的にされる。


こいつ等は普通の妖獣だと勘違いをしていたが、恐らく橙色の妖力に紛れて金色の“神力”らしきものを撃っていた珍しい子兎だろう。

幻術を掛けている可能性も無いわけではないが、もしかしたら全滅しつつある神獣かも知れなかった。




夕日が傾き、闇が濃くなる。


恐らく必死に逃げているのだろう。

一生懸命走っている様子が目の前に居る薄紅の子兎から窺える。

妖力切れを起こしているのか、『能力』は使ってこない。

まるでトテトテ、ヒョコヒョコと音が付きそうなぐらい足元が覚束無いぐらい小さく、幼い。勿論動きもあまり速くない。元々もふもふな毛並みと相まって、まるでフワフワ動く綿毛のようだ。



かれこれ一刻と半は経っているが未だに追い掛けるだけで、男達は子兎を捕まえていない。

始めは嬲る様に追い込み遊んでいたが、次第に何時までも捕まらない子兎に苛立ちを立てはじめ、ようやく“遊んでる”のではなく、“遊ばれている”事に気づいたようだ。――――子兎はそんな事は思っていないだろうけど。


フワフワの毛が乱れ、擦り傷が増えていく。如何にも満身創痍に跳ねて居るし、本来の薄紅の体毛だけじゃない“赤色”が混ざり、泥で汚れている。

それでも不思議な事に、限界に近い子兎の動きはとても遅くすぐにでも捕まえれそうなのにギリギリでかわされていた。


(能力持ちの獣を見付けてからは、あっという間に終わると思っていたのにな〜。)


今まで傍観者を決め込んでいたが、余りにも舐めて掛かっていたこいつ等に狩りと言うものを教えてあげようか。


走っている男達の背後を追いつつ、隠し持っていたクナイを子兎に投げる。


ザシュッ。


誤算。

有り得ない。こんなのは初めてだ。

足元も覚束無いぐらい幼く、其の上疲れ果てていたのに、可愛らしい耳をピクリと動かしたと同時に右に吹っ飛びクナイを避ける。其の勢いでくるりと転がる以外は何事もなかったかのように逃げて行った。


まさか僕のクナイに気付いたというのか。


思わず貼り付けていた笑みが取れかけた。

いくら力試しとは言え、能力の強い大型の獣でさえ体に突き刺さるぐらいの威力は出していたはずだ。なのに子兎には、よくよく見ると片耳にかすり傷が出来ている程度だ。そんな馬鹿な。


今まで、能力持ちの獣なんかまるで興味が無かった。危険な猛獣、或いは取るに足りない道具位にしか。

でも初めて面白いと思った。


忌み子と言われ、忌避され、覚えの無い事で責められ憎まれる。誰も助けてはくれなかった。

だから力を求めた。誰にも頼らず生きる為に。

その為には何でもした。何時の間にか感情さえも殺し、何処か他人事のように二十一年間を過ごしてきた。


そんな僕の攻撃を避ける奴は居なかった。挑戦状でも叩き付けられた気分だ。


今までそんな命知らずに会った時は不快感か殺る気にしか成らなかったけど、今回は好奇心が湧いた。



「クソッ、ちょこまかと舐めやがって。こいつはこうしてやる! いい加減に止まれ!」



どうやら遂に片方の男の堪忍袋の緒が切れた様だ。

掌には黄色の魔術。妖獣とは相性の悪い光系の術だ。弱り果てた状態で受けたら最悪死ぬだろう。こいつ等は密売する獣を捕まえにこの森に来たのではなかったのだろうか。


残った方の男が静止をかける。一応僕も静止をかけたが、男は頭に血が上っているらしく、そのまま術を放った。


(あ〜あ。面白そうだったのに。まだこいつ等に怪しまれる訳にはいかないしなぁ。)


――――まだ生きていたら、隠れて逃がしてあげよう。




夜涼にとって到底有り得ない考えと表情を浮かべていたが、勿論本人は気づかなかった。






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