第一話・この長い耳は誰のなんだぁぁ〜!!
ふごっ!
見慣れた黒色の毛玉が強烈な後ろ蹴りを繰り出す。ぐっすりと眠っていた私に避けれる訳もなく、見事に当たりもふもふの毛皮のベッドから追い出された。
ひどいじゃないか!
あまりの痛さに声が漏れ、涙が浮かぶ。
いくら生後一ヶ月半だといえ、毎日森の中を駆け回っているウサギの蹴りが軽いわけが無い。しかも、私は六羽いる子ウサギの一番末っ子で、他の子よりもふた周りぐらい小さく人間の片手サイズぐらいしかないのだ。
その事をいい加減に覚えやがれという反撃の意味をこめて「ゔぅー」とうなり声をあげ、後ろ足をダンダンと踏みならす。これはウサギが不機嫌な時にとる行動だ。いくらここが狭い土の横?穴にある住処で、六羽の子ウサギプラス母ウサギがここで熟睡していようともやらないと気がすまない。というか、ここら辺はいくら魂が人間でもウサギの本能的なところだから我慢出来なかった。
そう、前世は人間だったのだ。元は日本という国の女子高生だった。一年以上に及ぶ死闘の末に大学に合格し、いざ大学に行くぞ!というところから記憶がない。
どういう事だ! 許せん! とついついまた後ろ足を鳴らす。
現在は、自分で言うのもあれだけど、異世界で可愛らしいウサギをやっている。“普段”はもっふもふな自慢の毛は淡い色のピンク、瞳は子どもだからかクリクリとしたまるい形の漆黒をしている。
だけど実はこの森の中限定で夜の間だけ瞳が綺麗な“金色”になる。しかも月の満ち欠けによって輝き度が変わるのだ。
何故だ、不思議すぎる。取り敢えず今はどうしようもないし、実害はないのでほっとくことにしている。
それよりもこの愛らしいウサギの姿の方が問題だ。
どうしても何故人間じゃないんだと未だに思ってしまう。人間の時のように細かい作業が出来ないし、話すことも出来ない。しかも他の兄弟達と違うところが沢山あってとても苦労する。
小さい身体は天敵から逃げる時に不利だし、母ウサギと兄弟達が黒や茶色と暗い色の毛にたいし、唯一私だけはピンクと明るい色で、草の中に隠れてもすぐに見つかってしまう。
と言うか、薄ピンクの毛に金の瞳のウサギなんて自然界にいるのか? ……いますね、ここに。
一通り愚痴を漏らすと頭が冴えたのか急に夜の気温の寒さ気付く。ぶるりと身体を震わせて、いそいそと兄弟達が集まる毛玉の隙間に戻る。
時折吹く夜風にビクリとする。
ここは森の奥だけどいつか狩人が来て売られてしまうんじゃないか、そんなことを最近は考えるようになってしまった。自分で言うのもあれだけど、私って今は珍しいウサギちゃんの姿で希少価値が高そうだし。どうも動物としての本能で警戒心が強くなっているらしい。
最初、自分がウサギになったと気づいた時は四六時中「きゅうきゅう」鳴いていた。……間違えた。“泣いていた”だった。
やばい。本格的に思考までもが動物に近づいているかも知れない。もう今では、雑草だヒャッホーイになってるしね。
そんなこんなで、焦って悲しくなって泣いていたいた私だが、三日目にはケロリとウサギ生活に順応していたのだ。おそるべし、順応性。
次の日、森の香りと鳥の声で目が覚める。
太陽のおおよその位置から十時ぐらいだと予測する。何を隠そう、実はこのスキルもウサギになって生活している間に身につけた。どうやらいつもより長く寝ていたらしい。これも足蹴りで夜中に目が覚めたせいだ。
あたりを見ると他の兄弟達は巣の前で走り回って遊び、母ウサギはその脇で草を食べていた。
その光景を見るととてもうずうずする。ついつい精神年齢が十九歳近いといえども、今の身体が子ウサギなせいか肉体年齢に引っ張られ、自分も一緒に走り回りたくなる。結局、我慢出来ず最後尾の茶色と黒の兄弟の後ろを追いかけて自分も混ざりに行ってしまった。
見た目が可愛らしいから許されるだろう、たぶん。
それにもうそろそろ巣立ちも近いし、多少巣から離れて遊んでも大丈夫だろうと高を括る。
――――それがいけなかったのに。
* * * * *
この世界に来てから二週間目ぐらいに気づいたのだが、どうやら不思議な力が存在するらしい。
その日は初めて外の世界に出たとあって、兄弟達と揃って興奮していた。巣穴から出る前までは辺りを警戒していたけど、楽し過ぎてそんな事は頭から吹っ飛ぶ。母ウサギが巣の近くだけだけど森の中を歩いて回って森を教えくれていた。
不意に風が止まり、背筋がぞわぞわとした。動物の本能が絶対に危険だと訴える。
恐怖のあまり一瞬動きが止まりかけるが母ウサギが急に巣に向かって走り出す。それを見てようやく頭が回りはじめた。
そうだ、逃げなきゃ。
動かない足に叱咤して必死に兄弟達についていく。止まったのは、わずかな時間だったはずなのに、すぐ後ろには三メートルぐらいの大蛇が現れていた。
しかもそれだけでも恐ろしいのに八つの口が全てこちらに牙を向け、おどろおどろしい濃紫の霧を吐き出す。近くの雑草が急に元気をなくし挙句の果てには溶けていく。おそらく強い毒の1種だと思われる。
――――ひぃぃぃ〜〜〜!!! あっぶない!! 当たる所だった!!
溶け落ちる草木に目もくれず逃げまくる。
あれはまずい。ひじょーにやばい。
頭が八つもある。あれは八岐大蛇じゃないの?ってか、この世界にはなんでこんな危険な想像上の生物がいるんだ。こんなの日本にいなかったはず! というかここは絶対地球じゃないっ! 異世界だ!
とまぁ、この時が異世界転生を確信したときだった。
その事実に愕然としつつ、私は死ぬ気で走った。そりゃもう人生でこんなに必死に走ることは無いだろうというぐらい走った。それでも一番身体の小さい私のすぐ後ろには釜首をもたげたオロチさんが怪しげな橙色の光の球を息を吸うようにして口に集めていた。
嫌な考えが頭をよぎる。
もしかしなくても、魔力やら妖力やら怪しげな
力でも使う気なんじゃないかと。
――――そう簡単に殺られてたまるか!
もうその後は何も覚えていない。額だか眼だかが熱いと思った時には、母ウサギと兄弟達は総攻撃を仕掛けたようで、微妙に色と大きさの違う橙色の光の球の渦が視界に広がっていた。
ウサギ(人間)死ぬ気でやればなんでも出来るんだなぁ………。
様々な橙色の光の球が輝く中、明らかに場違いなサイズの“金色”の光の球を出した私は逆噴射のごとく後ろに吹っ飛び、空を呆然と舞っていたのだ。盛大に。なんたって自分の体長の三十倍近い大きさ球を出したのだ。
次は必ず自分の重さを考慮しなければ。力はあるのに体重が軽くて吹き飛んで自爆するなんて。
恥ずかしすぎる。そうだ、仕方なかったんだ。そうじゃないならなんだっていうんだ。いやいや、そうでなければならない、うん。
しばらく恥ずかしさのあまり思考がトリップしていた私だが、ふとある事実に気づく。どこからかパサリパサリと音が響いていることに。
何故自分は落ちないのだろか。いや、何故“空を飛んでいる”のだろうか、と。
もうファンタジー要素はいいから! お腹いっぱいだから! これ以上私をどう料理するわけ!?
有り得ない、有り得ないとは思うのだが、背中に違和感が。これを確かめるのはとても怖い。とても怖いが、恐る恐る振り返ると――――
誰か嘘だと言ってくれないのか!
やはり私の願いは空しく、自分の背中ではなんとも可愛らしい純白の翼がはばたいていたのだった。
小説を書いたのは初めてです。
誤字・脱字があったら教えてください。
ついでに小説を書く上でのテクニックも指導してくれると嬉しいです。
1ヶ月のうちに最低1話は投稿できるように頑張りマス。基本読む方がメインなので(笑)。