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子兎は波乱万丈な人生を  作者: フィアナ
第一章・悠久なる森で
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閑話・秘めた決意(翔流side)



あいつ――――夜涼とオレは血だまりの中で逢った。其の頃はまだ余り治安が良くなかったから、町中でも山賊とかが襲って来る事なんてざらだった。

その日もオレは惨劇後の荒された死体から残り物を貰っていた。本当は近づきたくも無かったし、良心もいたんだが、身寄りの無い子供が生き残るには其のぐらいしか生きる方法が無かった。



その時のふと手元が陰った。背後に気配を感じる。嫌な汗が背筋を伝うが恐怖で動けなかった。


「汚ぇ餓鬼が! てめぇの手柄なんてねぇんだよっ! ひぁっはははあっ!」


狂った様な嗤いと共に、背後から蹴られた。軽い身体は放物線を描き吹っ飛ぶ。


「がはっ。かはっ…………はっ……。」


地面に叩き付けられるように背中から落ちた。息が上手く吸えない。ジクジクと蹴られた腹と、受身の取れなかった背中から痛みが広がる。


涙で滲む視界からは、使い過ぎで鈍く光る短剣が見えた。それを持つのは賊だ。

油断していた。もう取るものを取って居なくなったと思ったが、ただ単に離れていた様だ。あながち頭にでも報告に行っていたのだろう。


(短い人生だったな。)


迫り来る刃を見ながらぼんやり思う。せめて最期まで見届けようと思った。


と、そこに黒い影が横切る。それはあっと言う間に賊に跳び掛かり、紅い花を咲かせた。首がさっきの自分みたいに吹き飛んだ。

一瞬だった。



助けたのはオレの後から町の裏路地にやって来た奴だった。名前は知らない。見た目はオレより一、二歳下でいつも一人でいた。

それも仕方が無い。そいつの髪は茶と言うには明る過ぎる亜麻色で、瞳も暗めとはいえ紫という異国風過ぎる顔立ちだったからだ。他の国に比べ閉鎖的な蒼碧國では黒か茶色の髪と瞳が主流だった。

孤児同士でさえもそいつに近付かなかった。


「死んだ方が良かった?」


それに答えられなかった。

よく良く見ると男の自分でも見蕩れる様な、整い過ぎるぐらいに美しい顔だった。悪魔に魅入られた様に目が離せない。



其の頃の夜涼はまだ無表情で、全てを憎むような、視線だけで人を殺しそうな瞳をしていた。裏路地仲間にもそういう奴はいたが、殆どが死んだ様な目をしていたので珍しかった。


今思えば其の方がましだったのかもしれない。己の美貌に気付いた後は、貴公子然とした完璧な笑みで女も男も落としていた。何時も落とされた人はその後、忽然と姿を消す。何事も無かったかのように。踏み込んではいけない闇のようだった。



呪縛から解けたのは、剣士が保護する為にオレを移動させた時だ。どうやら遠くで様子を見ていた茶屋の女将が呼んだようだ。この国では剣士が様々な役目を持ち、警邏も其の一つだった。


初めはまた捨てられない為にやっていた剣士だが、剛輝長官の元で剣を振える事が誇りになっていった。

ただオレと同じく保護された夜涼は、その見た目と滲み出る雰囲気からか、剛輝長官以外は皆怯え、平剣士と混ざり仕事をする事は無かった。

それでも元々素質の優れていた夜涼はメキメキと力を付けていった。何故か剣部の中で地位が変わること無く平剣士だったが、勝手にふらりと消えては現れる度に、剣筋が鋭くなり、魔術が複雑になり、殺気が研ぎ澄まされていく。それらを隠す様に気配が消え、笑みを貼り付け、華族のような男になった。剛輝長官はなにかご存知の様だったがあえて聞かなかった。


今でも同期であるオレは時々夜涼に話しかける。冗談ではなく命懸けなのは百も承知で。同じ路地裏暮しだったせいか心配なのだ。あの頃は避けていたはずなのに。

これ以上人から離れない様に。あいつが捨てたものを拾える様に。


「まだ殺すなよ……。」


夜涼にはいつも鉄さびの匂いが染み付いていた。それが強くなる度に夜涼自身も壊れていく。それに奴が気付いているのかは分からないが。いや、薄々分かってはいるんだろう。

最近控えてはいるようだが何時ぶり返すのか。早くこの任務を終え、夜涼を探してやらねばならない。



勇ましい剛輝長官の後を追い、翔流は『聖獣の森』へと踏み入ったのだった。






今回二話投稿しているので前の話から見てください。2/2話。

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