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子兎は波乱万丈な人生を  作者: フィアナ
第一章・悠久なる森で
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第九話・何処までも転がる桜饅頭①



そろそろ身体の火照りがおさまり、お互いの『能力』がようやく馴染んだようだ。

夜涼の懐から掌に乗せられた私は、小さな身体を震わせ異常がないか確かめる。うんうん大丈夫そうだ。


「本当の名は簡単に明かしたら駄目だよ。呪いとかに使えるから。愛称とかなら大丈夫だから、名乗る時は真名以外にするんだよ。」


必死に頷く。了解です。絶対言いません。呪いなんて真っ平御免だ。


「月代は翼の件と言い、うっかりさんっぽいから心配だよ。」


夜涼は余り信じていない様子だ。

うっ、そんな顔で見られるとなんか心配になって来るじゃないか。


夜涼がふと何かに気づいたのか私から視線を外し、隠す様に懐に押し込まれた。




――――がさっ。ざくざくざく。



構えてたとはいえ、小心者の私は突然音が聞こえたと同時に文字通り後ろに飛び跳ね、はからずも夜涼にアタックしてしまった。

何!? 誰!?

音がした方に全神経を集中させていると、獣道を押しのけ、熊の様に体格の良い壮年男性が現れた。良かった、ちゃんと黄色の着物を着ている人間だった。焦り損である。野性味あふれる男の背には自分の背丈に近い極太の大剣が括り付けられていた。


「よう。無事だったか、(カイ)。」


カイ? 誰?

何故か男の目線は真っ直ぐ夜涼へと向かっている。どういう事?

悩んでいると夜涼がこそりと耳打ちして来た。


夜涼の偽名だったらしい。仕事柄真名を言う訳にはいかないんだよねぇ、とも言っていた。ますます何をしているのか気になる。

この人は第弐剣部の長で、数少ない夜涼の事情を知ってる人だとか。


剛輝ごうき~。遅かったね。つまらなかったよ。こいつ等じゃ相手にならなくてさ~。一本どう?」


どうやら長さんは剛輝という名前らしい。

夜涼が何でもないかのように話し、剣の柄に手を伸ばす。ストレス発散する気満々だ!!


「おいおい、久方振りに会ったてのにもう試合か?勘弁してくれ。こちらとら、ここまで来るのに五日は経ってんだぞ。大型獣にも何体か遭遇したしな。

それにお前の剣筋は首筋とかえぐい場所ばかり来るじゃねぇか。手合わせと言うより殺し合いになるから出来ればやりたくねぇよ。

あと、今回の見回りは急いでたから置いて来ちまったけど、俺一人じゃねぇから他の奴に本気で掛かるなよ。」


置いて来ちゃったの!? この人が一人で藪からて出来たのは最短ルートを通るためだったのか……。


と、そこで今度は彼が出て来た辺りから10歩ぐらいずれた場所からまた黄色い服の人達が登場した。


「剛輝長官~。速すぎます! 置いて行かないで下さい! こんな危険な森で迷子になるなんて、生きて帰れる気がしませんっ!!」


そう話すのは夜涼と見た目は同じぐらいの年頃の青年だった。だと言うのに受ける印象は全く違う。夜涼が(悪い意味で)底知れない落ち着きがあるのに対し、かつて悪ガキであっただろう騒々しさが滲み出ている。

現に元々癖毛だったであろう黒髪を更に撥ねさせ、衣は擦り切れていた。汗の滲む額にはベッタリと髪が付いてきてしまっている。

なりふり構わずに死にものぐるいで追いかけて来たのだろう。


「お~速いな。まさかついてこれると思わなかったぞ! ま、其れでも剣部の長はまだ務まらねぇけどな。精進しろよ、次期長官殿。」


「はいっ。剛輝長官はオレの憧れですから。」


子犬と言うには野生的過ぎるが、動作自体は可愛らしい様子で青年は剛輝長官を見ていた。


「剛輝、まだ? こいつ等なんて見たくもないんだけど。ただでさえ試し斬りが駄目だって言われててこっちはイライラしてんのに。」


夜涼は触りたくもないようで、僅かに眉を顰め気絶した男達を足蹴にして運ぼうとしていた。

先程まで少し緊張した様子で話していた青年が夜涼に気付くと尊敬眼差しから、睨み付ける様な視線へと変わる。


「って、何で戒がここにいるんだよ!

相変わらず気配が無いな! 神出鬼没過ぎんだよ! やっとお前を出し抜けたと思ったのに……。オレだって同期の中じゃ一番出世して次官まで上りつめたのに……。そもそも戒って第弐剣部の平剣士に入るんだよな? 合ってるよな?」


翔流(かける)何言ってんの。当たり前でしょ。この黄色い第弐剣部の衣が見えない?」


「そうだよな……。例え長官だとしても恐れず口語で話したりする戒が普通じゃないんだよな……。もうちょっと上官を敬わないと後々面倒事に巻き込まれるんだぞ。」


翔流と呼ばれている青年は夜涼の事情は知らないけど、どうやら異常性には薄々勘づいていたらしい。うんうん、これ程怪しいと流石に気付くよね。何故移動手段が木の上なのかとか、偽名使って騙しているのか、とか。

はぁ、と一つ溜息をつき嫌々ながらの様子で翔流青年は動き出した。


「こうなったら、とっととこの極秘任務を終わらせて帰るか。蹴るのは勝手だけど起きたら面倒だから起こすなよ。」


それを聞いた夜涼が動きを止め、男達を蹴る度に伝わっていた振動が止んだ。気分が悪くなりかけてたので、危ない所だった。

ようやく揺れていた視界も落ち着き、冷静に考える気力が戻って来る。

改めて辺りを見渡すと剛輝長官と翔流青年が男達もとい密猟者達を縛っている縄を確かめているのが見えた。そのまま視線は密猟者達の腰へと向かう。

ああっ! 捕まっていた猫又と八咫烏の事を忘れていた! ぐったりしてたのに!

とても心配になり様子を確かめようと、衣から身を乗り出し――――


「ふぎゅっ!(うぎゃっ!)」


間抜けな事に懐から転げ落ちた。痛い。恥ずかしい。

いや、それよりも不味い。よく知らない人に見付かってしまった。夜涼も神獣(本当に自分がそうだとしたらだけど)は珍しいと言ってたし、攫われるか、もしかしたら何かに利用されるかもしれない。酷い扱いを受けるかも。ピーンチ!!






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