Ⅰ.≡≡≡≡
「――――」
目が覚めると、見慣れぬ天井にまず違和感を覚えた。
(……ぁ…そっかぁ)
幽かな……声にならない呟きを漏らし、もそもそとベッドのなかで寝返りを打つ。
まだ肌寒い春先。
サイドテーブルに置かれた目覚まし時計は、6時数分前を指している。
そういえば、サイドテーブルっていうのも初めて見たなぁ……と、ウダウダ考えながら丸まっていると、「ピピピ ピピピ……」と、しびれを切らした目覚ましがついに鳴り始めた。
「……フゥ」
ベルを止めたと同時に、軽いため息。
ほんの数日前までは、畳に布団の生活だった。今は毛足の長い絨毯に、二人は寝転べる大きさの天蓋付きベッド。寝心地は……なんだかふわふわして落ち着かない。
一応、睡眠はとれているが……始業式の最中に居眠りしてしまわないよう祈るばかりだ。
寮生活も初めてなのだが、それ以上に慣れないことも多々ある。
身支度を整えて部屋を出ると、
「――ご機嫌よう」
と、いきなり声をかけられた。
「ご、ご機嫌よぅ……」
尻すぼみになりながらもなんとか返すと、声をかけてきた女生徒は、そのまま廊下を進んでいった。
自分も含め、この女子寮で生活している生徒は一階の食堂で朝食をとることになっている。だから、彼女もそちらに向かっているのだろう。
学院が近いために、朝七時と実家にいた頃と変わらない時間なのだが、大勢で並んで摂る食事というのは、未だに慣れない。
衣食住のそれぞれが西洋風且つ独特で、純日本人な自分は戸惑うことばかりである。
しかし、今までと一番違っているところ――初めての男女共学という部分は、戸惑うよりも先に興味が出てしまうのは仕方がない。
――自分はうまく馴染めるだろうか?
――おかしなところはないだろうか?
「――美夏ちゃんっ!」
「んひゃっ?!」
いきなり背中を叩かれた!?
思わず変な声をあげてしまった口を慌ててふさぎ、誰に聞かれたかとキョロキョロ視線を――と、背後に「にへら〜」と気味の悪い笑顔を浮かべる女生徒が立っていた。
「し、清水――さん」
「今日子って呼んでよ。お隣さんだしっ」
私の背中を叩いてきた方らしい手を開閉して見せながら、彼女――『清水 今日子』さんは、「ハロー」と実に軽い挨拶をしてくる。
私にはよくわからない理由だが、どうやら彼女は名前で呼ばれたい人らしい。
知り合って間もない人を名前で呼ぶのは、ちょっと抵抗があるんだけどなぁ――と言いたいのだけど、ゴニョゴニョと唇を動かすにとどめる。
もしかすると、共学だとその辺りがフランクなのかもしれないし。
「う、うん。じゃあ、『今日子ちゃん』って呼ばせてもらうね」
「……う〜ん――うん。ま、今はそれでいいよ」
自分から「名前で」と言ったのに、なぜか少し困った顔をされてしまう。
(……やっぱり、苦手だなぁ)
学院に来て初めてできた知人――しかも、色々と世話を焼いてくれる隣人なのだが……どうにも私は、彼女の性格にも馴染めていないらしい――と、またため息をついた。