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悶々とした日々を過ごしたことはあえて言うまでもあるまい。どうにかして隣人の彼女とお近づきになれないものかとあれこれ策を弄したことも、特別書かずとも理解されようことであろう。ことあるごとに私は「醤油がなくて……」だの「物音はうるさくなかったですか」などと声を掛けに言ったものである。それは私がまだ女性というものを本質的に知りえていないうぶな人間であったのであるから、今更書くには恥しか浮かばないにせよ、事実として記しておこう。
と、そんな浮ついた日々にあっても、私の胸のうちから老婆の「いい部屋を――」というなぞの言葉が消えたことはなかった。もちろん、きっと誰もがこんな不気味な言葉を聞いたら確認するであろうことは確認済みだった。たとえば押入れや天井裏にお札がないかどうかだとか、今ではすっかり便利なことに携帯電話で曰くつき物件なども調べられるから、当然それも調べた。しかしどこにも、それらしきものは見つからないのである。では一体老婆のあの言葉はなんであったのだろうか。単に角部屋で日当たりが良くて隣が美人である、というそれだけで、あれほどにも仰々しく言葉を告ぐだろうか。私にはそうは思えなかったのである。しかし一通り調べてみても、特にこれと言った証拠品めいたものは見つからなかった。




