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コーヒーが届くと私はポケットから煙草を、これは八年前に見て覚えていた銘柄の煙草である、そっと彼のほうに差し出した。彼はまた驚嘆に顔を染め、しかし結局黙ったまま左手を伸ばしてきて、それを受け取った。
彼が煙草を点けるのを見届けてから、
「突然私のような人間が目の前に現れて、さぞ不思議でしょう」
そう告げてみる。
「ええ、まあ」
煙を吐き出すのと同時に、そのような返事がくる。
私はここまで来て、先ほどまで熱心に書き連ねていたあの手記の内容を彼に告白するのか否か、いまだに迷っていた。私がここに現れるもっともらしい理由としてそれを告げてしまったほうがいいのではないか。しかしそれを告げることによって彼により一層不信感を与えかねないことも事実である。そうして黙っていると、彼のほうが口火を切った。
「あなた、事件当日に僕の姿を見たという、例の隣人さんですよね」
私は彼のこの余裕とも取れる落ち着き払った態度に大層狼狽した。
「ええ、そうです」
まさかここで「お前のせいで捕まったのだ」とか「八年忘れることなく恨んでた」などと言われるのだろうか。
「あなたのおかげで、話がすんなり行って助かりました」
この言葉に、驚きを禁じえなかった。おそらく私のその満面に広がった驚嘆の表情たるや、ひどく愚かなものであっただろう。彼は私のほうを見て、煙草の煙を吐き出すと、軽く笑った。
「どういうことか、図りかねますか」
無言でうなずくことしかできない。これではまるで彼は――。
私の心中を察したかのように、
「そうです、僕は捕まりたかったんです」
男はそういった。どういう意味だろうか、私にはまるで理解できない。




