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そしてその日が訪れる。
私はその日、それくらいしかやることも思いつかずもはや廃人のように、覗き窓のある秘密の空間に椅子を置き、隣人の生活を覗いていた。秋になり再開した大学へ向かう彼女を見送りながら自分は寝巻きから着替えもせず、そして隣人の姿の消えた隣室をただ呆然と見つめ続けているうちに日が傾く、と言った具合の、廃れぶりだった。
雨戸の閉めていない窓から、どっぷりと暮れた夕闇が室内を占拠し、また電気も点けていなかったから、私は半ば暗黒と同化したような心持で椅子の上に体育座りをし、隣人の帰宅を待っていた。
隣人は文学青年と帰宅した。もはや動く気力もなくぼんやりと眺めているとしばらくは会話に興じていたが少しして隣人がキッチンのほうへ姿を消し、恋人は一人ベッドに背を凭せ掛け、その手前にあるテーブルの上に本を置いて左手で押さえながら読書に勤しんでいた。簡単に夜食、ということだろうか、チャーハンを二人前、隣人がそのテーブルに持ってきたのはすぐのことだった。恋人は本を閉じ、そしてそれを食べる。食後にはインスタントのコーヒーを一杯受け取り、時々煙草に持ち替えたりしながら、くつろいでいる。
私は急に心苦しくなった。そしてこれもまた急に、自分は今何をしているのだろうという思いが首をもたげてきた。大学にも行かず、この覗き窓に魅了され張り付き、隣人が恋人や、あるいはそうではない人間と仲睦まじく暮らすのを呆然と見つめ、食事も碌々取らず、ああ、一体何を……。そういう思いに支配され、私は鬱状態に入ってしまい、気だるくも仕方なく椅子を片すとそっと姿見を閉じ、それからもはや万年床と化した埃くさい布団にもぐりこんで、あの時は、すっかり泣いてしまっていた。




