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戦いは金曜日。

作者: 伊南恭一

 窓のカーテンを開けるとベランダ越し、さまざまな建物の向こうに渋谷の街が見えた。

 「ノノさんいいですか」

 右にちょこんと座るノノさんに話しかける。

 ちら、とノノは一瞬、虫麻呂のほうを涼しく見て、また視線を目の前の光景に戻す。

 よきにはからえ、ということかな。

 「ノノさん、ありがとうございます。じゃ、いきますよ」

 「……。」

 「はなきんやで∠( ゜д゜)/」


 よし、渋谷はじまったな。

 ノノもそんな虫麻呂を見て、用が済んだ、という様子で自分のテリトリーに帰っていく。

 「ノノさん、ありがとう」

 そう言って虫麻呂は寝室に戻る。


 寝室のベッド脇のスペースに木田……と、春村がいた。

 「気がすんだかー。じゃあ、続きはじめてもいいか?」

 「みんながはなきんコールを待っているからな。ああ、続きをはじめてくれ」

 「いや、来週でもよかったんだけど」

 カリカリと春村は自分の頬を掻く。


 「なんか虫麻呂さん、明日出社しちゃいそうだから。だから今日のうちに済ませちゃいますね、スケジュールチェック」

 「いや、食中毒だぜ……?さすがにそこまで無茶はしないよ」

 そう言う虫麻呂を春村と木田は無表情に見つめる。


 「昨日、夜中コッソリ会社行ったヒトの言葉とは思えませんね」

 木田の氷の眼差しが痛い。

 「で、会社の防犯引っかかって呼び出しくらったアカウントがこちらです」

 春村の言葉に、さすがに虫麻呂は返す言葉がなかった。


 「虫麻呂さん、来週月曜日にお医者さんの治癒証明もらえたらわたしの会社の直通にお電話ください。入館証の再発行、しますんで」

 「!」

 「そんぐらいしないと、くるでしょ?センセ」

 春村がにやり、と笑う。

 ぐぬぬ。

 虫麻呂は黙るしかなかった。

 

 それからしばらく、春村のスケジュール予定をおとなしく虫麻呂は聞くこととなった。

 普段より余裕があるスケジュールだ。

 「何か気になることでも?」

 「いや、結構、スケジュールに余裕があるなと思って」

 「今回のことがあったんで。ちょっと先生に頼りすぎたかなーって形だけ反省。で、余裕持たせてみました。最近ジムとか行ってます?高いんでしょ、あそこ」

 「いや、最近はあまり……。」

 「でしょ?身体鍛えろってことですよ。筋肉好きなんでしょ?細マッチョ、いいじゃないですか」


 それに。と、春村は続ける。


 「そんなことじゃ、来月のコミケ、身体がもたないゾ☆」

 

 あ。

 それだ。


 虫麻呂は身を乗り出す。

 「そのコミケってヤツ、ホント?」

 「?ホントですよ」

 どうして虫麻呂がそんなことをいうのかわからないという顔で春村は言う。


 「なんで!?」

 どうして春村がそんなことをいうのかわからないという顔で虫麻呂も言った。


 「面白いじゃないですか。普段、人様の目の届かないところでコツコツ描いていらっしゃる先生が白日の元、炎天下の中で絵を描く。あ、オープン・ステージじゃないですよ。屋内ですから安心してください」

 「いや、そこじゃなくて。コミケって普通3日間なんだろ?4日目と5日目って聞いたけど」

 「ウチの社長が押さえてくれましたけど?」


 あ。

 あーーーーーーー。


 お腹がまた痛くなってきた。社長が……押さえた?

 「なんで、社長が……?」

 「そりゃあ、天下のわが社のグラフィック・チームを広く世に知らしめるために決まってるじゃないですか。物販気合い入れますよ。来週末、社長プレゼンですからね。ガツーンと行くんでセンセもお願いしますよ!」


 ガツーンて。


 わあ、本当なんだ、すごーい!とパチパチしている木田を横目で見て、虫麻呂はため息をつく。

 落ちつけ。訊きたいことは別にある。


 「で、僕の他に誰が出るの?」

 「先生だけですよ。」

 

 ……。


 「ごめん。よく聞こえなかった。僕の他に誰が

 「先生だけですよ☆」


 キュルルルルルルル


 「またじっくり話そう、ちょっとお花を摘みに行ってくる!」

 「頑張れ☆」


 食中毒、完璧超治す。

 虫麻呂は強く心に誓いながらお花を摘みに行った……。


 【つづく】

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