生贄の羊
◇
炸裂音を聞くと同時、熱さが肌を焼いた。
―――ば、爆裂、だと?
ラビシュの困惑をよそに、背後から雷撃が一直線に伸びてくる。先には、ヴォルの姿だ。にんまりと酷薄な笑みを浮かべている。
「言ったろう? 地獄を見るってよ」
「ぐあっ」
「ラビシュッ」
腕を焼く火の粉を感じながら、ラビシュはすぐさま剣を振った。
死角に何かが近づいているのを感じたのだ。それは計算されたものではない。見えないことに起因する恐怖から来る当然の反射だった。
―――し、しまっ……。
思うよりはやく、爆裂が連続する。
◇
「あらら、あんな簡単な手に引っかかりやがって……。ラビシュのやつ、まだまだ甘いなぁ」
言って、シャーリ・エストーは眼下の光景を覗き見る。ラビシュの周囲で斬られた分裂体が次々と破裂している。巧く致命傷を避けてはいるが、結構な被害をこうむっているようだ。
「ふふーふ。ま、仕様がないさ。ラビシュの甘さは、ウリでもあるからね」
―――なぜ、こいつらはそんな顔をする?
思ったのは、ヴォル・グリアだ。ボスであるジゼットの指示通り、ラーズたちの後を着いてきたグリアには分からない。
グリアと同じ姓を持つヴォル・ボールとラビシュが争っていることが、ではない。それはあらかじめ決まっていたことだ。
赤獅子を手に入れるために、いさかいを起す。それは決まっていたことだ。
だから、グリアが驚いたのはそのことではない。
「さて、賭けるかい?」
部下が襲われているというのに。
「ハ、冗談きついぜ。賭けにゃならねぇだろう?」
こちらの思惑に乗っているとわかっているのに。
「ふふーふ。さあ、わからないぜ? そこの彼は、仲間にかけるかもしれないだろう?」
―――なぜ、こいつらは平然と笑っている?
「へぇ? 賭けるのか、あんた? 男だな」
「……。それは、主に命令されていない」
気味の悪さを覚えながら、グリアはそれだけ口にした。
「なんだ、硬い女だな」
それだけ言ってシャーリたちは眼下へと視界を移した。すでに、いや元々グリアに関心があるわけではないのだ。
その態度がグリアの感情を逆立てた。
フィッタ・フィーロの一員として、幹部に与えられるヴォルの名を持つ人間として、彼女は思った。
―――当初の予定とは異なるが……。
「……勝て。ヴォル・ボール」