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紫霧転生 ――その身体は霧――  作者: ビーバーの尻尾
 第一章 氷獄沼 蠢く大気編
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第6話 小池の主に決別を ――池のカエル VS オオナマズ――

 話は時を少しばかり遡る。


 パンダのあるようであまりない、でもやっぱりちょっぴりあるような隙をついて奇襲を仕掛ける一日前


 僕はかねてより熟考していた案を実行に移すことにした。

 かねてより熟考していた案といっても、単にこの池に来てしばらくしてからはずっと頭の片隅にあった思いのことだ。


 今まで先延ばしにして考えていたけどようやく試そうというわけだ。


 それすなわち、この池の主を殺すこと。


 殺すというと聞こえが悪いが、十分に痛めつけて身体を乗っ取りたいということだ。

 ・・・更に聞こえが悪くなってしまった。


 今まで池とその周囲の生き物を乗っ取り、食らいつつも池の主に手を出していなかったのには理由がある。


 池の主の生命力(?)が強すぎるため直に乗っ取りが行えないのというのが一点。


 戦って弱らせれば乗っ取れるだろうが、そもそも池の底にずっと鎮座しおり、此方を攻撃してくるわけでもなく、そばを泳いでいる小魚や水中の虫などを時たま食らう程度の動きしかしない穏やかな気性の生き物とわざわざ戦いたくないというのが一点。


 たとえそれ相応の苦労をして戦い勝ったとしてもパンダと違って結局はこの池の中心の生活から脱却できないというのが一点。



 更には別に直接の接点はなくとも、このよく分からない世界に来て心細かった僕を暖かく(物理的に)迎え入れてくれたカエルの故郷の守り神的立ち位置にいる主様を傷つけたくなかったのだ・・・。



 ・・・いえ嘘です。

 単純に怖いだけです。はい。

 いやだって、この池の主、めちゃくちゃでかいんだよ。


 このカエルが住んでいる池、この池は大体外周が20mなのに対して深さが30mもある。


 想像してみたら分かると思うが、池の表面積はたいしたことないのにびっくりするほど深いという異様な構造だ。


 そしてその最も深いところに大岩の如く不動の構えで寝そべっているものこそがこの池の主、オオナマズ。(命名)


 池の底のほとんどの面積を覆い隠すほどのその馬鹿でかい身体、長い年月を過ごしてきた長老が如く蓄えている立派過ぎるそのヒゲ、僕が知る限り食事以外のときは一ミリたりとも動かない程の落ち着いた佇まい、まさに池の主といった感じだ。


 動いているところをみたことは全くないが特にその四本のヒゲが立派で、飾りにしては大きすぎるので攻撃手段の一種として使うのではないかと思っている。鞭みたいに?


 大きさで言ったらもしかしてパンダよりもでかいのではないだろうか。


 一回乗っ取れるかと思って近づいて試したことがあったけど、弾かれたあとにギョロリと此方を向いてきたので思わず逃げ帰ってしまった。


 この身体きりや乗っ取った身体(カエルetc)は暗闇の中でもある程度見渡せる視力を持つ。


 だけどそんなこと関係なく、池の底の暗闇で此方に目を光らせる怪魚なんて不気味過ぎるし怖すぎて戦うなんてごめんこうむる。


 でもまあそんなことを言ってられなくなったのも事実。


 あの憎きパンダに勝つためには手段を選んでいられない。


 それを分かっているはずなのにここまでずるずると先延ばししてしまっていたのだ。

 もう一ヶ月も経った。これ以上パンダごときの好きにやらせてなるものか。


 池の主は今僕が乗っ取れる生き物たちの、明らかにワンランク上にある存在。

 苦戦は必須だろう。しかしパンダほど強いとは思えない。(思いたくない)


 しかしパンダほど強くなくとも、乗っ取りが成功した暁には僕の戦力が強化されるのは間違いない。


 今のままチマチマと修行してパンダに勝とうとするとまだどれほど時間が掛かるか分かったものじゃない。

 やってやろうじゃないか。



 ★★★



 カエルの舌がゼロ距離でオオナマズの腹に食い込む。

 が、浅い。傷つけることには成功したが、それでも体表で滑って脇にそれてしまう。


 オオナマズの身体がその巨体からは考えられないほどの速さで動き、でかい口が僕を飲み込もうとする。


 しかし的が小さいことと、オオナマズ以上に速いことから空ぶってしまう。

 池の底の淀んだ水と、ついでに巻き込まれた哀れな水生昆虫がオオナマズの口の中に消える。


 普通のカエルならオオナマズの敵ではないが、(むしろ食料だが)このカエルは普通からは一番遠い場所にいるといっても過言ではない。


 現在の池周辺の生き物たちの中でほぼ頂点に君臨しており、昆虫や小魚など言うに及ばず、鳥や蛇までもが捕食の対象である。


 尋常ならざる脚力から生み出される跳躍は僕を木々を飛び越え着地したところから池への帰り道が分からず迷子にさせるほどの距離を運ぶことを可能とするし、

 小さな口から繰り出される紅蓮(ピンク)の槍は木々をへし折り岩をも砕く威力を秘めるばかりか一つ瞬きする間に獲物の身体に三つもの大穴を開け、周りに飛び散った臓物を自身で回収するはめになるので僕を大いに後悔させる。


 しかもこのカエル、その身体から常に不気味な紫色のオーラを出しており、そのオーラがまるで実体を持つかのように動き回ってはオオナマズの邪魔をする。


 オオナマズの身体を拘束するように絡みついたかと思えば、オオナマズがカエルを飲み込もうとする度に周囲の水を掻いてカエルが逃げるのを手伝ってしまう。

 故になかなかカエルを捕まえることができない。


 だがここでオオナマズが更なる一手を打つ。


 ――ビリッ!!パクンッ


 そしてまた飲まれた。



 ★★★



 カエルがこっそり近づいてからの先制攻撃をオオナマズにお見舞いし、それをオオナマズがびっくりするほど俊敏な動きでかわして反撃してきてから既に数時間が経過している。


 カエルの舌による攻撃は、もともと水中仕様ではないから地上ほどの速度が出ていない。

 とはいえ半端ない威力のはずだがオオナマズはかわすかわす、かわしてかわして、かわしまくる。

 まるで俺の辞書に受けの二文字はないといわんばかりに避け続ける。


 あまりの速度で動くものだから池底の泥が小麦粉の粉をぶちまけたかのように舞い上がり、視界を汚す。


 ・・・パンダといいこいつといい、何故これほど活発なのだろうか。

 もしかしたらこの世界は身体が大きいほどよく動くという法則でもあるのかもしれない。

 噂に聞く俊敏なデブというものがいる世界がこれか、だとしたら大いに納得できるのだが。


 流石に全ては避けきれず、何発か良いのを当ててやったが表皮が厚い上にヌメっているので力の方向をずらされてうまく刺さらない。


 埒が明かないので霧を水中で出し(水中でも霧と言えるのかは不明)、手こずりながらもオオナマズの身体を拘束したと思ったらオオナマズが発光した。


 その瞬間鋭い痺れが僕を襲い、一瞬身体全身体が硬直した。


 えっ?と思った次の瞬間。

 カエルはオオナマズに丸呑みにされ、潰されて息途絶えた。


 ・・・どうやらあのオオナマズ、電撃使いらしい。

 僕はカエルの身体を食べられてしまったので一旦池の水面に浮上し、新しく見つけた別のカエルで再び潜って戦いを再開。


 苦労しつつもなんとか霧でオオナマズの身体を拘束したと思ったらビリッと来て硬直、そしてまたもオオナマズの胃袋に訪問するという手順を一通り踏んでからそう結論付けた。


 成る程、カエルが舌を飛び道具のように使い、ワニやカラスやパンダなどが僕の既存の概念を大きく超え、その他どこを見ても特異な点があり過ぎてどこから数えればいいか悩んでしまうぐらいのこの異世界。


 ナマズが電気を使うぐらい予想して然るべきだった。

 これがウナギっぽい魚だったら簡単に予想出来たんだけどな。


 ナマズって地震を予知できて、その関係で電気に敏感肌なんです、ってだけじゃなかったっけ?

 ・・・そうかー、電気ナマズかー・・・


 しかしながらここで僕に引くという選択肢はない。


 ここで止まってしまっては八方塞がりになってしまうし、勇ましく戦って散っていった戦士たち(カエル2匹)に申し訳が立たない。

 何よりパンダに勝つためにはこれしかない。というかそれが全てだ。


 電気を使う?好都合だ。乗っ取った時に手に入る戦力が増えるというのだから!むしろ歓迎しようではないか!


 それに、なんとなくだがいける気がする。

 これぐらいなら頑張れば勝てる。パンダほどではない。


 そうやって自分を鼓舞しながら再び別のカエルを乗っ取り、池に潜る。

 再戦の火蓋が切って落とされた。



 ★★★



 クソッ!また食われた。


 これでもう10匹は持ってかれた。

 池のカエルはもう絶滅寸前だ。


 僕としてもカエルが一番使い慣れているので使い切りたくはない。このままだと水生昆虫でも使い出さなくてはいけなくなるかもしれないと思っていたところで、浅いとはいえようやくオオナマズにまともな傷をつけることに成功。


 本当はもう少し大きく傷を作りたかったが、ここまでがんばってようやく一撃お見舞い出来たのだ。

 もう一撃進呈するまで粘ると確実に池のカエルが絶滅する。


 ここからは戦い方を変えさせていただこう。生き物の身体を使わず、霧の身体だけで戦うのだ。


 傷口は出来た。今まで霧のみでの攻撃では力不足で真正面からまともに当てても表皮を突き破ることが出来なかったが、すでにある傷口をこじ開けて広げることぐらいはできる。


 そしてナマズの電気は確かに霧の身体にも効くが、多少痺れるだけで大きく動きを止めることは出来ない。

 それに心なしか初めの頃より慣れてきて硬直時間も短くなってきている気がする。


 カエルが相手の時と違って霧のみだと向こうには確実な攻撃手段がない。できることは少しばかり此方の攻撃の手を緩めることだけ、そしてその電気だって無尽蔵に生み出せるわけではないだろう。


 ここからは身体力勝負の消耗戦だ。


 一方的に傷口をねちねちと突き、抉り、切り裂いて、出血多量で死んでいただく。


 じわじわと傷口を広げていくこの殺り方では安らかに死ぬことはできないだろうが、十分に衰弱したら乗っ取らせてもらうのでそうなればいくらかましなのだろう。


 それとも魂が捕食されるのはそれはそれで痛いのか?


 どっち道、時間は掛かろうが僕の勝利は揺るぐまい。

 それでもここがゴールではないので手っ取り早くいかせてもらおう。


 光の届かない薄暗い池の底、水中でも霞んで見える不気味な色合いの紫の霧が、舞い上がる池底の泥よりもベットリと池の主に纏わり付く。




 森の中、とある池の色が暗い赤に染まった。



 ★★★



 ことが終わって一息つくと、今日一日朝から夜まで戦い通しだったことに気づいた。


 あの後オオナマズの身体にしがみついて動きを鈍らせつつ傷口を押し広げて切り開くように攻撃をしてきたが、何回もめちゃくちゃに暴れまわっては拘束を抜け出すので苦労した。


 オオナマズの身体全体を包み込むようにすると霧の範囲を広げすぎて力不足で拘束できないので、振りほどかれないよう力を加えるためには霧をベルト状にしてしがみつくしかない。


 その体勢から傷口に狙いを澄まして攻撃するのだが、攻撃する度に全身をうねらせて暴れまわるものだからすべりまくって拘束を抜けられてしまうのだ。


 ちなみにオオナマズは定期的に発光するものの、電撃は途中からきりに効かなくなってきていた。

 それでも力技で振り切り続けるのだからたいしたものだ。


 もちろんそれでもいつまでも全力で運動を続けられるわけがないので疲れて動きが鈍るたびに適宜密度を薄めては範囲を拡大し、最後には全身ピクリとも動けないほど疲れきったオオナマズを包み込むように拘束する形に落ち着いた。


 その状態で傷口に負担が掛かるように無理やり身体を折り曲げ、反り返ったお腹の傷をザクザク抉っていたらようやく息絶えた。


 結局オオナマズは死ぬ最後の一瞬まで全力で生命を燃やし続け、生きているうちは僕に一瞬たりとも侵入させることを許さなかった。

 肉体は衰弱しきっていたはずなのに、始終気力が漲り、乗っ取ることができなかったのだ。


 その気性の激しさには全くもって脱帽する。

 いい強敵だった。

 お前の死は無駄にはしないぞオオナマズ。


 息絶えたオオナマズの身体から生き物が死ぬと出てくる例の光の靄が現れたので回収し、そのままオオナマズの身体を乗っ取る。

 軽い爽快感。


 一先ず千切れかけた胴体を修復し、身体オオナマズを強化して軽く運動して試運転をする。


 なかなかいい感じだ。


 カエルと戦ったときには的が小さすぎて使っていなかったがこのヒゲ、やはりかなり自在に動かせるし、とても強靭だ。

 それにかなり長い。この身体オオナマズは全長4m弱ほどあるが、それとほぼ同等の長さだ。


 身体も柔軟かつ力強く流動し、なかなか素早く動ける。

 試してみたが電撃もうまく使える。ただ威力を試そうにも一瞬身体が発光して終わりなのでどれくらいなのかはよく分からない。


 ちなみに池の中の生き物は戦いの余波の電撃とオオナマズの血で既に昇天している。実験できない。


 オオナマズの記憶を見ても今まであまり使ったことがないようなのでさっぱりだ。

 使用回数は限られてないみたいだが使うと身体力が減るみたい。


 唯一不自由な点があるとすればやはり図身体が大きすぎてこの池では狭く感じることだ。

 こいつは生前、僕と戦ったときは相当窮屈な思いをしてがんばっていたことだろう。南無南無。


 一通り身体を動かすと霧を出し、範囲を池全身体に広げて血に染まった水を、正確には水中の血のみを消化する・・・・

 それも終わるとようやく手に入れたこの戦力をどう活用するか考えをめぐらせる。


 本命のパンダが毎朝定期的にこの池を訪れる時刻まで後数時間。

 さて、どうやったら最高のタイミングでコレを使うことができるかね・・・



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