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紫霧転生 ――その身体は霧――  作者: ビーバーの尻尾
第三章 深淵の霧蝕 傀儡の傀儡師編
40/40

第40話 月下の怪物 ――蛇に睨まれた蛙 VS 蛙と話したい蛇――

ダイダラボッチ←もののけ姫に登場するシシ神様の夜の姿ですね。初めて見た時でスゴイ綺麗で神秘的に美しくてすごい感動しました(妖精並みの感想)

 


「ライラ! スゴイのが見えるよ。みんなも木の上に来てみてよ!」


「ミアー、 どうしたのー? あまり上に行くと隠れるものがなくて危ないわよー」


 ライラはミアに呼ばれて木の天辺まで飛びつつ注意を促す。

 妖精族にとって空は自在に行き来できる場所だが、開いた空間だと他の動物達に襲われる危険性があるからだ。


「――わっ、なにあれ。すごい綺麗な・・・・・・巨人?」




 ★★★




 夜中にみんなで遊んでいたら、弟のミアが遠くに美しい巨人を発見した。

 その巨人の身体が月明りに淡く輝いて青い宝石のようにも見えるから、ライラは美しいと思ってしまった。


 ゆっくりとした動作で木々を倒しながら移動する、その圧倒的大きさが物珍しかったのもあるかもしれない。ミアははしゃいでいた。すぐに他の仲間も呼び、皆で仲良く見物する。


 初めの内は全員吞気に巨人を観察していた。

 距離が離れていたから問題ないと考えたのだ。


 その進路がライラ達の方を向いてもまだ心配はしていなかった。

 巨人の動作が緩慢過ぎて、実際の移動スピードが認識できていなかった。


 巨人の足が死に物狂いで逃げる彼女らの目の前に振り下ろされた時もまだ希望はあった。

 あれほどの巨体では、足元の小さな妖精など到底見つけられないし、気にかけないだろうと、必死に自分達に言い聞かせていた。


『■■■! ■■■■■■■■■■■■■■■! ■■■■■!』


 しかし、


『■■■■■■■、■■■■■■■■■!』


 楽観的な思いはすぐさま打ち砕かれる。


 上空にて彼等に向けられた巨人の手に浮かぶ、無数の魔法陣から迸る光を最後の光景に、5匹の妖精の意識は暗転した。




 ★★★




 肌寒い夜風と身体を圧迫する奇妙な感触に目覚めるライラ。

 身体が所々痛かった。頭痛もする。

 それでもゆっくりと身を起こした彼女の視界いっぱいに、湖のように青く透き通った無貌の顔面が広がっていた。


「~~~~ッ!」


 ちょっとチビってしまう。


 淡いが照りのある青が明るい夜空を背景に月明りを反射する様は美しい。


 ただ今のライラには目前に死が広がっているようにしか見えなかった。


 猛獣は檻の外から見れるから愛らしく、美しいのだ。突然檻の内側に入れられて、全く同じ感想を抱ける人は稀である。

 恐怖のあまり、飛んで逃げたり魔法で攻撃したりする発想が頭の中から消滅。


 蛇に睨まれた蛙も同然に思考回路を消し飛ばされたライラの前で、巨人に変化が起こる。

 目も鼻も口もなかった巨人の顔、その本来なら口があるはずの部分に横一文字に線が入った。

 線は見る見るうちに上下に開き、三日月のような笑みを浮かべた大口となる。


 巨人(シム)としては通常、挨拶は笑顔が基本なだけであったが、ライラには巨人が嘲笑っているように見えた。


 ああ、私はこのまま声も出せずに食べられるんだな・・・・・・。

 そう確信し、死の覚悟も決められぬまま捕食される事を現実味のないまま理解するライラ。

 爆発しそうなくらいに脈打っている彼女の心臓とは裏腹に、身体を動かせず、ただ震えるばかり。


『■■■■■、■■■■■■■■■■■■■■。■■■■■■■?』


 巨人が何事かを彼女に話しかけてきても、口の奥に広がる空間に目が吸い込まれるばかりでまるで頭が回らない。口が開閉する度にいよいよ食われるのだという思いのみ強まる。


『・・・■■■、■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■』


 忍び寄る死の幻影が時間を無限に引き延ばす。


『■■■・・・■■■■■■■』


 いつから自分がここにいたのか分からなくなってきたライラ。

 彼女が恐怖のあまりボンヤリとした頭で、もういっそのこと一思いに終わらせてほしい・・・とまで感じ始めた頃。


 焦点が合っていないライラの瞳に何かが映った。


 巨人から伸びた触手に絡めとられ持ち上げられる、ぐったりと脱力した誰かの―――彼女の弟の姿が。


「――ミアッ!? いや、お願いやめてッ!! 違うのその子は、その子はダメッ!! ミアを食べないで!!!」


 ライラは麻痺していた身体と心を取り戻し悲鳴を上げる。


 すると巨人はミアを持ち上げる動きを止め、彼女の方に頭部を傾けた。

 まるで・・・耳を澄ましているかのように。


 ―――口元に歪んだ笑みを張り付けた巨人は、明らかに獲物ライラの悲鳴に聞き入っていた。


 それでも彼女は夢中で懇願した。

 声の限りに全力で弟の助命を嘆願した。

 弟の代わりに私を食べてくださいと叫び続けた。


 弟を置いて逃げるなど無理だ。

 かといって力ずくで取り返す? 

 無謀でしかない。


 乞うしかないのだ。

 たとえ無駄だと思っていても、彼女にはそれくらいしか思いつかなかった。

 そうやって弟の命を永らえるくらいしか、彼女には。


 ひとしきり叫んで声が割れ、息が尽きた彼女の前で、巨人が再びミアを持ち上げる。

 そしてそのまま彼をヒョイと口内に放り込んだ。

 一瞬の出来事。


 ライラはミアが喰われるその瞬間をただ見届けることしか許されなかった。


 絶叫。

 自分のものではない、獣のような声が自分から発せられ・・・たように彼女は思っていたが巨人(シム)には沸騰したやかんの音くらいにしか聞こえていなかった。

 他種族にとって妖精の声は基本的に音階が高く聴きづらい。聞き慣れていないなら尚更である。


 ライラは羽を震わせて半透明の巨人に喰われた弟目掛けて飛び立とうとし、足元から伸びた触手に引っ張られ下半身を掌に埋められた。

 粘土のような感触から逃れようとジタバタとするも、抜け出せない。


「ミアッ! ミアァァァァァァッ!!」


 その後ライラはそのまま弟が怪物の口内で弄ばれる様を30分間に渡り見せつけられることになる。




 ★★★




「このままじゃミアみたいに殺されるだけよッ!? 皆で一斉に攻撃して怯んだ隙に逃げ出しましょうッ!」


「待てッ、逃げるって言ってもこんな上空じゃ隠れる場所もない。また上空から魔法で気絶させられるだけだ! 下手に刺激してこの巨人を怒らせたらそれこそ一巻の終わりだぞッ!」


「もう終わってるでしょおおおおおお!!? どうせわたくしたちここで死んでしまうんですわっ!!」


「ミアッ・・・。ミア・・・・・・ッ」


 ライラの慟哭が目覚まし時計となり起床した他妖精達は、自分達の居場所と目の前の巨人に衝撃を受けつつも、せめて犠牲者ミアが食べられている間に何とか助かる算段をつけようと話し合っていた。


 ただ、どう考えても詰んでいる現状から目を逸らすために現実逃避気味に声を掛け合っている側面がざっと9割ほど存在。

 しかも内一人は弟を失ったショックから放心している有り様だ。

 実際のところミア君は気絶しているだけで断じて死んでなどいないのだが、見るからに空気のない空間で30分も囚われていたら通常妖精は死ぬので彼女を責めるのは酷だろう。



 (―――よし、まだ拙いけどだいたい分かった。)



 囚われの犠牲者達全体にまな板の上の鯉ムードが漂っている。


 そんな鯉たちを、いきなり料理人もとい巨人シムが覗き込んだ。

 つるりとしていた部分がパックリと裂けて巨口を形成する。

 途端に仲良く震えだす妖精達。

 一時は弟の為に巨人に立ち向かおうとしたライラでさえ、再び恐怖に捕らわれていた。


 しかしそこで予想外の事態が起こる。


「いい夜だ。 自身の、 呼び名が、 シム=ミスト。 そちら側、 その正体?」


 巨人が話しかけてきたのだ。

 たどたどしくも、彼らの言葉で。

 一瞬フリーズ・・・した彼らは慌てて小声で話し合う。


「ど、どうしますの? 話しかけてきましたわよ、いい夜だって・・・」


「この巨人、妖精の言葉を喋るってことは妖精族なの? この見た目でッ!?」


「シッ、バカ。声が大きいっ! 話しかけてきたってことは言葉が分かるんだぞ。この会話も聞こえたら・・・」


「・・・さっき、皆が起きる前に私の声にも耳を傾けていたわ。きっと妖精の悲鳴が好きなのよ」


 ぎょっとした目でライラを見る一同。


「私、ミアを助けてって言ったの。あの巨人、それを聞いた後に笑いながらミアを飲み込んだわ」


「「「・・・・・・」」」


 言葉が通じるなら助かるかもしれないというライラを除く3名の脳内によぎった浅い考えは、そもそも通じていようがいまいが既に1人仲間を食われているという鮮明すぎる事実に打ち砕かれる。

 証拠は今も巨人の口内に転がって見えていた。


 お通夜のような空気が場を支配するが、巨人がいまかいまかと返答を待っている状態ではダラダラと悠長に話していることもできない。


 取り敢えず最年長の青年が代表として巨人に返答することとなった。


「ほ、本当に、イッ、いいい夜ですっ。よね! わ、私たちは下の森の池の、『星の泉』に、いやあの、池に住んでいる。妖精族です、森の守り手です。あっ、あなたは妖精、食べますか? いや違くて、そのっ・・・・・・―――わ、わ私を食べていいですから、お願いします。他の皆は逃がしてください! コイツらはまだ子供なんです! まだ100年も生きていない! もしくは何でもしますから命だけは助けてください!」


 仲間が住む『星の泉』の存在を喋ってはマズイと言った後に気づいたり、「森の守り手」とかいう年寄りの小言程度にしか思っていない役割をわざわざ持ち出して妖精族の価値をアピールしたり、対面した恐怖から思わず要らない質問をしてしまったり、青年は全体的に動揺を抑えきれていない。


 それでも自分の命と引き換えに仲間を救おうとする自己犠牲の精神は評価されるべきものであると言えるだろう。

 仮にセリフの最後の方で多少自分の命に後ろ髪を引かれていようともだ。


 覚悟を決めた表情で言い切った青年に、他の妖精達も一様に心打たれる。現在彼の好感度は過去百年見なかったほどの勢いで爆速上昇中。

 危機的状況における吊り橋効果も相乗効果で合わさり、妖精少女達の胸がキュンキュンして収まらない。

 弟を亡くし失意のどん底にあったライラさえ胸キュンはなくとも大いに感動した。


 されど相手の返答で全員頭から冷水を浴びせられた気分に。


「戯れ言、 くだらない、 ・・・■■■、 時間を掛けて、 咀嚼してやる」


 無慈悲。

 なんと巨人が無情にも、誰一人逃すつもりはない、だけでなく彼らを楽には殺さないとまで言い放ったではないか!


 機嫌を損ねたのだろう。途中で入った巨人の言葉は罵倒のそれに違いなかった。

 慌てて青年が再度巨人に声を投げかけるも、既に意識がそちらに向いてないことは火を見るよりも明らか。


 この後訪れる最悪の結末が各人の脳内で鎌首をもたげ、

 自然と妖精達の視線が巨人口内のミアの死体(※生きてます)にバキュームされた。

 その姿は生前と変わらず(※生きてます)未だ噛み砕かれても、引きちぎられてもいない。

 いや、そうではない。

 アレこそまさに『時間を掛けて咀嚼』されている状態なのだろう。


 怪物の言葉が凄まじい説得力をもって妖精達の心をギシギシと軋ませる。


 突然、既に死人となっていたはずのミアが、巨人の口内でもだえ苦しみ始めた。


「ミアッ!? そんなミア、まだ生きて! ああッ! ミ、ミアァァァァ!!」


「お、溺れているみたいに・・・ッ。こんなに時間が経っても生きて・・・いや生かされているっていうの!?」


「どうやらわたくし達の命もここまでらしいですわね・・・。お父様、お母様、ごきげんよう。来世もまたお二人の子供として生まれたいですわ・・・」


「お願いしますッ! この子達だけでいいですからっ! 俺を食べていいですからッ! 助けてくれたらお礼をしますっ! もっと美味しい食べ物がある場所も教えます! どうか、どうか・・・ッ!」


 三者三様の反応をする中、巨人が口内のミアを指し口を開いた。


「取引。 痛くなし、 望む、 貴様だけ。 コレも、痛くなし」


 青年の諦めない交渉が功を奏したのか、なんと巨人が交渉に応じる意思を見せる。


 けれども、やはりというか、全員を見逃す気はないらしい。

 苦しまないように殺してやるからミアに加えてもう一人分の命を差し出せと要求してきた。


 ひどく残酷な取引。

 そうであっても元々妖精側に選択の余地などなく、青年は自分が喰われた後に巨人を近くの果樹の群生地に誘導して見逃してもらえと仲間に伝える。


 泣く泣く別れを告げようとする彼を、ライラが遮った。


「―――私が行くわ。交渉した当人が居なくなると巨人が約束を守らないかもしれないし、・・・・・・なによりミアを置いて逃げるなんて、出来ないもの」


 彼女の視線は未だ巨人の中で苦しんでいるミアに向けられていた。歯を食いしばり、涙を流しつつも眼差しを逸らさない。


 青年は、それを言うならそもそも巨人が約束を守る確証もないと言おうとしていた口を閉ざす。

 ライラとミアの姉弟仲がいいことは周知の事実。

 自分が何を言おうと彼女の意思を変えることは難しいと感じ、拳を握りしめながらも了承。巨人もそれを認めた。


「自身、 から入れ、 此処」


 巨人が、ライラ自らが口腔に入ってくることを命じた。

 嗜虐の欲望が塗りたくられた笑みは思わず吐き気を催すほどの邪悪。


 掌の拘束から解放されたライラは仲間に別れの言葉を告げ、飛び立つ。

 ただでさえ途方もない大きさの口が、歓喜からか、更に耳まで裂けん程に広く、上下にグバァと広がった。

 滂沱のごとく涙を流す残された妖精達は怒りと無力感に打ちのめされながらも、その光景から目を離す事だけはしない。




 上下が透き通りキラキラと光を反射する空間、己の死地にたどり着いたライラもまた涙を流していた。



 妖精の明かりが周囲を照らし、淡く青色に輝かせる。



 空間の奥に見えるミアに手を伸ばし―――



「ミア、助けられなくてごめんね。せめて、私も」




 ―――怪物のアギトに挟まれ死んだ―――


















































































 ―――訳ではない。もちろん。 






連投で力尽きたぜ☆^^b

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