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紫霧転生 ――その身体は霧――  作者: ビーバーの尻尾
 第一章 氷獄沼 蠢く大気編
4/40

第4話 まさかの衝撃 ――カエル VS パンダ――

 3日後。


 僕は相変わらずカエルだ。


 この生活にも慣れてきた。

 最初、虫を食べるのに若干の抵抗を覚えたりして大変だった・・・、ということもなく。普通にカエルとしての生活を営む僕。


 身体が両生類になったおかげか特に違和感なく虫を食べたり、泳いだり、日向ぼっこしたりしている。


 かといって別にこのまま生活を続ける気があるはずもなく、この身体でいろいろと情報収集したり、実験したりしている。


 まず、この身体。

 普通のカエルの身体ではないらしい。


 この小さな身体のどこにあるのかと疑いたくなるような高い身身体能力、


 特に凄い足の脚力、


 素晴らしい伸縮性能を誇り、硬化までする舌、


 とても鮮明、なおかつ360度見える視界、


 カエルの記憶をよくよく思い出してみても、ここまでハイスペックだった記憶はなかった。池にいる同種であったカエルたちを観察してみてもそうだ。やつら、確かにすごい飛ぶし、舌も伸びるし尖がっているけど僕ほどじゃない。


 よってこれは僕が身体を乗っ取ったことによって起きた変化だと思われる。


 霧+カエル=超カエルの方程式。ようするに、強化されたのだ。それも大幅に。


 このカエル、身体の色が最初はアマガエルのようなライトグリーンだったのに対して今は緑色の身体にうっすらと紫の縦線が走っている。瞳の色も黒に少し紫が混じってしまったようだ。舌の色も紫。


 僕が霧だったとき、紫色だったのが影響してるのか?


 あと、霧だったときの最大の名残。

 全身から立ち昇るように出ている紫色の霧そのものだ。


 小さな身体から不気味なオーラのように出ているこれは水中でもなぜか地上と変わりなく出続け、ジャンプしても空気抵抗で途切れることなく身体についてくる。


 そしてこれは自分の意思で操ることができる。

 霧だった頃のように自由に動かせるのだ。さらに物を動かすことも出来る、あまり重いものはだめだが。葉っぱとか小さい虫程度なら何とか。


 霧には触覚、視覚、聴覚、嗅覚、味覚が付いているようで、カエルは水中で目をつむって微動だにしない状態で霧を水面上に出してから周囲を360度を見渡して餌(虫)を捕獲したり、森のざわめきを聞いたり、花の香りをかいだり、花の蜜を味見することができる。


 つまり霧は身体の一部なのだ。

 しかも結構万能な。


 霧を引っ込めたり、多く出してみたり、


 霧でどこまで重い物を持てるか実験してみたり、


 霧で味見が出来るなら、食べることもできるかどうか実験してみたり、


 霧をどこまでのばせるか調べるついでに池から離れた場所の探索を行ったりしてこの霧のことを研究したりしてみる。


 360度見える視界は霧を通して見ていた。霧を引っ込めた状態だと普通のカエルと変わりない範囲しか見えない。


 よって霧は普段引っ込めることなく、出しっぱなしにしている。

 だってその方がよく見えるし。



 池に3日間いて分かったことがいくつかあった。


 まず、この池の周囲に限ってはカエルの力は食物連鎖の上位の方にあるだろうということ。


 僕を食べようとして襲って来る鳥がいるがすべて返り討ちにしている。

 池の中にいると魚が襲って来るが、こちらもすべて返り討ち。


 逆に僕が食べてやった。そして光る靄もとい魂を吸収して情報収集。目新しい情報はなかったがまあ良し。情報の確認にはなろう。


 なんとこのカエル、超肉食系だったのだ。もともとそうだけどレベルが違う。


 なんと口に歯がついている。


 元々そういう種類だったらしく、他のカエルを捕まえて口を見て見ると同じように歯がついていた。

 ギザギザで、魚の歯に似ている。


 と言っても、別にカエルの身体で食べているわけではない。

 やろうと思えばできるが、大きすぎて口に入れづらいのだ。


 霧を使って食べている。消化しようと思うと霧の中でゆっくりと消えていく。多少時間がかかるのが難点だがそうやって食べてもちゃんと味もするし、腹も満たされるから大丈夫だろう。


 今では一日三食。よりどりみどりである。

 今日も朝には魚、昼には鳥、おやつに虫を食べて夜にはまた鳥を食べた。

 大体襲ってきたやつを片っ端から、返り討ちにして食べている。


 魚や鳥は大きさ的に殿様ガエルサイズのこの身体に収まるはずないのだが、問題なくいただいている。

 霧で食べているから勝手が違うのかもしれない。



 ★★★



 まずい。

 カエルの生活が充実しすぎていて大局を見失いそうになっている。ただただ寝て食べて霧とこの身体でいろいろ遊ぶだけの生活。割と面白く、飽きないので現状に甘んじてきたがそろそろ活動せねばなるまいて。


 もう一週間ほどこの池に住んでいて、だんだんと勝手がわかってきたし、そろそろ活動範囲を伸ばさねば。


 とりあえず目標を立てることにした。それはこの身体から別の生き物に乗り移ることだ。カエル生活も悪くはなかったが、いつまでもこのままというのもいただけない。


 この身体から抜けようと思えば抜けられることはこの一週間で確認済みだ。その場合、僕の身体は霧に戻り、カエルの身体は抜け殻のようになって微動だにせずそのまま緩やかに死んでしまった。


 植物人間(カエル)のような状態になっていたので死んでしまうのはしょうがないだろう。

 やはり魂的なものを僕が抜いてしまったからだろうか?


 面白いことにカエルが完全に干からびて死ぬ前にもう一度その身体の中に戻ると身体は再び生命活動を開始した。


 水分を失いかけていた細胞に活気が宿り、すでに死滅していたであろう細胞の再生さえ始まった。


 いろいろ実験した結果、どうやら最低でも一部分生きている細胞があればそこから再生できる模様。


 なお、これらの実験をする過程で数匹の尊い同族達の命を消費してしまった。カエルに愛着がわいていたので少しばかり罪悪感がわく・・・なんてこともない、普通にお食事にさせていただいていたし。ご馳走様、おいしかったです。


 カエルはかわいいと思うがそれはそれ、これはこれ、だ。背に腹は代えられぬともいう。


 ちなみにカエル以外にも池の中の小魚とか虫とかも乗り移ってみたけどなんかむしろランクダウンしている感じがしたからダメだ。


 沼の主は乗り移ろうとしたら無理だった。なんか、無理。ランクが上過ぎると無理っぽい。あとギョロって見られた。怖い。


 カエルの舌で刺し殺した鳥さんたちには乗り移れたが地面に足のついた生活をしてみたいので却下。


 ちなみに鳥さん達の内何羽かは、殺すか、十分に弱らせて瀕死状態かにしないと乗り移れなかったが、これ逆に言えば沼の主も弱らせれば乗り移れるのではないだろうか。


 ・・・強そうだし、ちょっと、ちょっとだけ怖いからしないけども。




 話を戻すと、これから僕はあそこに見えるパンダに乗り移ろうというわけだ。


 ・・・・・・そう、パンダだ。

 なぜパンダがこんなところに・・・異世界にいるのだろうか?


 今まで見てきた生き物は少なからず変だった。異世界仕様になっていたといっていいだろう。ワニやカラスは言うに及ばず、カエルや、襲ってきた鳥たちだって何かしら変だった。


 がしかし、このパンダはどう見てもパンダそのもの。


 いや、なるほど確かに立派な身体躯と艶やかな毛並みはすばらしい。


 僕がこの世界に来る前に動物園や図鑑などで見てきたのであろう一般的なパンダに比べて、なんと言うか、王者の風格さえ漂ってくるように錯覚するほどにすごい雰囲気をかもし出すパンダだ。


 どこに出してもはずかしくない、最高峰のパンダとさえいえるかもしれない・・・




 でもパンダだ!ただのパンダ!数日前からこの池に定期的に水を飲みに来るこのパンダ、ずっと慎重に観察してきたがどう見てもただのパンダだ!


 王者の風格がどうこうとか言っていたけどパンダだって言うだけでなぜか和む、むしろ笑ってしまう。


 こいつならたぶん多少痛めつけて弱らせたあとに乗っ取れるだろう。そしてこいつの記憶を辿ってまた別の場所に行こう。

 この森の情報を、この大陸の情報を、この世界の情報を集めるのだ。そうしないと何も始まらないし、なにより自分の安全を確保できない。


 まあそういうわけで、パンダには悪いが僕の踏み台になっていただこう。これも弱肉強食ということで素直に諦め、身体を明け渡し、輪廻転生の輪に帰るがいいっ!


 ――バキッ!!


 僕は溜めに溜めきった脚力を爆発させ、四つんばいで水を飲んでいるパンダの斜め後ろ背後から弾丸のようにパンダに向かう。ただのカエルと侮るなかれ、このカエルは僕に強化されたことによって見た目からは信じられないほどに筋肉質で重く、頑丈だ。


 その証拠に跳躍の反動で足場にしていた細木が半ばから折れて音が出た。パンダが気付いたかもしれないがもう遅い。


 もはや自身でさえ視認できるギリギリの速度、ここから更に舌を伸ばして先端を加速して硬質化させ奴の心臓を突き破ってやろう。


 サヨウナラ、だ。我が覇道の糧となるがいい。

 唯一の慈悲たる瞬殺の速度はパンダに何があったのか悟らせない内にそのパンダ生を終わらせる。


 ―――ドゴンッ!!!


 ・・・はずだった。

 気がつくと僕の身体は地面に叩きつけられていた。あまりの衝撃に地面がカエル型にへこみ、同時にカエルの小さい身体の中の更に小さい内臓器官が軒並み破裂した。


 骨はもちろん骨折している。

 頭蓋骨は粉砕され、手足の骨も複雑骨折しているだろう。カエルの身体の五感がすべてシャットアウトされ、視界が霧のみの状態に切り替わった。


 ・・・・・・何が起こったのかわからず唖然としている僕、その僕の前には大きな白と黒の壁・・・もとい、パンダ。


 パンダは正面を向いたままいつの間にか後ろにあげていた片足をゆっくりと戻し、何事もなかったかのように水を飲み続ける。



 あ・・・ありのまま今起こった事を話すぜ!


「僕は奴の後ろから攻撃したと思ったら地面にめり込んで瀕死状態だった」


 な・・・何を言っているのかわからねーと思うが 

 おれも何をされたのかわからなかっ(略


 ・・・いや、なんとなく想像は出来る。この僕の無様な状況を鑑みるに僕は迎撃されたのだろう。


 僕が地面にめり込んでいるこの距離から推測するが、要するに僕がパンダに攻撃して、その攻撃を察したパンダが手(足?)の届く範囲に僕が入った瞬間地面に叩き伏せたということだ。


 ・・・別に時間はとめられてない。ただ、僕の視認できる速度よりも更に速く迎撃されただけだ。


 この、自分で言うのもなんだが異常なほどに霧で強化されたカエルの身体能力のうちでも最も凄まじいと思う脚力で生み出す力よりも早く・・・。


 半端ではない速度である。しかもそれを、水を飲みながらこちらを一瞥もせずに片手間のごとく行ったとなればどう考えてもこのパンダ、尋常ではない。


 普通のカエルなら地面に叩きつけられるどころか水風船のように弾けて即死だが、生憎と此方も尋常なカエルではない。


 既に砕け散っていた骨は再生を終え、身体の外にはみ出していた内臓もまた回復し、潰れたトマトみたいな状態から完全復活を果たしている。


 自身の型にへこんだ地面の上から先ほど以上に力を込めて足の筋肉を収縮させ、一気に解き放つと同時に舌を鋭利化させパンダに突き刺す。


 あったかもしれない慢心と油断を捨て去った僕は全身全霊の一撃を放ち、これ以上にないほどの手ごたえを感じた。僕は地面に沈んだ。


「ゲゴベッ!?」


 先ほど叩きつけられた場所に寸分たがわず先ほど以上の力で叩きつけられた。ついでに変な声も出た。


 地面に沈んだというのも比喩ではなく、実際にめり込むほどに叩きつけられたという話だ。

 再び骨はクッキーのごとくばらばらに分解され、衝撃でミンチにされた内蔵とともにカエルジュースとなり母なる大地にとめどなく溢れ出す。


 パンダがあまりにも平然としているから本当にこいつにやられたのか疑問に思ってもう一回仕掛けてみたが、確信した。こいつだ。


 やられる刹那にちらりと見えたありえない速さの後ろ足、奴は見せ付けるように先ほどと同じくゆっくり元の位置に戻すとそのまま反転し、森の中に帰っていった。水を飲み終えたのだろう。


「ゲコ・・・」


 再び再生した身体で思わず鳴いてしまう、・・・・・・完敗であった。


 まさかパンダがこれほどに強いとは・・・、あの愛らしい外見からは想像も出来ないほどの強さだ。

 結局奴は此方を一瞥もせずに、ただ水を飲んで帰って行った。此方のことを、周りを飛ぶ羽虫程度にしか警戒してないのだろう。


 今まで僕が「スーパーガエル!」とか調子に乗ってほざいていたのはまさに井の中の蛙、勘違いもいいところだったのだ。全くもってはずかしい。


 奴がこの森の中でどの程度の強さなのかは知らないが、どうやら認識を改めないといけないらしい。

 僕は、弱い・・・。



 ★★★



 認めよう、奴は強いと。

 認めよう、僕は弱いと。


 だがそれはいわゆる相対評価という奴だ。僕が絶対的に弱いというわけでも、奴が絶対的に強いというわけでもない。


 現に僕は池の周辺ではほぼ敵なしだし、今まで取り込んできた生き物たちの記憶を読んでもそこまで弱いとは思えない、ようは僕が今より強くなってあいつを倒せばいいだけの話。


 確かに予想外に強かったし、負けてしまったが奴はあれからも度々この池に水を飲みに来ている、つまりリベンジのチャンスはある。


 その度に創意工夫を凝らして挑戦しては負け続けているわけだが僕は諦めない。こうなれば意地でもあいつをぶち殺してその身体を乗っ取ってやる。


 そしてパンダと戦い続ける日々の中で新しい発見もした。


 まず何回も潰され、カエルの身体を殺されては再生しているのだが、なんとそこまで痛くない。


 普通に考えれば激痛なんて言葉じゃ表せないほどの痛みを味わっているはずだが、あまり痛くない。というかそうでもないと最初のときいきなり潰された直後に再びパンダに立ち向かうことなどできなかっただろう。


 ちなみに全身を二次元に近づける加工をされているにしてはあまり、というだけであって痛いことは痛い。普通に痛覚はあるようだ、触覚があるのだからこれは当たり前かもしれないが。どうも度を過ぎた痛みは極端に鈍化・・・もしくはシャットアウトされている感じがする。


 あとは霧の質量だ。パンダに返り討ちにあったときには既に一週間この池で過ごした後だったがそれから更に一月ほどたった。


 それらの間、ずっと食事は周囲の魚や鳥で済ませてきたのだが食事で取り込んだ獲物の量の分、カエルの身体から漂う霧の密度が濃くなってきているようなのだ。


 何回か霧だけの状態になって記憶に照らし合わせて比べてみたが、明らかに霧の密度が濃く、量が多くなってきている。


 霧はある程度自在に密度と身体積を変えることができ、なるべく小範囲に濃く集めたりすると霧自身体の力と精度が強くなり、重い石などでも器用に動かすことができることが判明。


 逆に広範囲に薄く広げると知覚領域が拡大するようだ。霧の力と知覚領域はそのまま密度と体積のように反比例の関係にあるようなのでうまく使う必要がある。


 などなどの様々な発見を通して僕は自分を鍛えてはパンダに敗れ去る日々を送っていた。

 寝て食事する以外は日に日に募らせて行くパンダへの恨みに身を任せてただただひたすらに鍛錬をしているというのに一向にパンダに勝てる気配がない。


 強すぎだろう。パンダ・・・。

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