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紫霧転生 ――その身体は霧――  作者: ビーバーの尻尾
第三章 深淵の霧蝕 傀儡の傀儡師編
33/40

第33話 苦心惨憺 ――衰弱による死 VS 吊り橋理論――

あけおめことよろ今日はいい夢見ようぜ!(`・ω・´)キリッ

 



 ミストラルの身体の感覚はもうほとんどなく、窒息による痛みすら鈍く感じていた。しかし、目の前で紫の霧が爆発的に広がると共に、身体の束縛が掻き消えるのが分かる。次にミストラルは自分の身体が霧に包まれ、急激に上昇していくのを感じた。瞬く間に水面を越えるとその勢いのまま夜の中を飛び、そして勢いが弱まったかと思うとミストラルはポフンという音と軽い衝撃と共にシムに抱えられていた。

 満身創痍のミストラルはその衝撃でとうとう気絶し――


ミストラル(怒声)!」


ミストラル(轟音)ミストラル(爆音)!ああッ、ミストラル(大音響)!」


 ――そうなところを、シムからの呼びかけで覚醒。休息は許されない。

 しかし、永遠に眠るよりはましと考え、きれぎれな意識のままうつぶせの身体を動かそうとするミストラル。しかし身体が動かない。息を吸おうとするが、それよりも肺にたまった水が吐き出される方が先だった。


「ゲボッ!オゲッゲ!オエ、オボ!」


「っ!ミストラル!よかった!もう敵はいないからっ、大丈夫!ここは安全だからっ」


「ゲッェ、うぷっ、オェェェェッ!」


 シムに抱えられ、大量の水と血を吐き出すミストラル。吐くうちに死に瀕していた身体が生きることを思い出したのか、急激に痛みが沸き上がってくる。吐き続けるミストラル。シムが状況説明で先程ミストラルを襲った謎の敵と戦い撃退したことを伝えてくるが、身体から水分を放出するのに必死で正直気にしてられない。

 シムがミストラルを支えながら両ひざから下を地につけ、吐きやすい体勢にする。ミストラルは全身を駆け巡る熱と寒気と痛みで震える両手を使って地面に手を突き何とか上体を起こそうとするが、その前にまた吐血する。

 骨が内臓に突き刺さっているのだろう、赤黒い血が既に血と水で濡れた貫頭衣を更に汚す。それ以外にも全身のいたるところの打撲、手足の隅々まで染み渡る痺れ。いたる箇所が熱した鉄棒をあてられたかのように熱く、幾多の骨は罅割れ折れ砕け、筋肉断裂も無数、内臓へのダメージなどは計り知れない。


「ミストラル!くっ、血が、ああ、怪我が!魔法では治せないのッ!?」


「ゲエエッ!ゲボォッ!オエエエッ!!」


 激痛で目の前が霞むが、痛みで気絶することもできそうにない。

 えずきながらも必死に【回復ヒール】を使おうとするが、激痛からか魔力が拡散し上手く魔法を使えない。青の発光が淡く周囲を照らし、なんの効力も発揮せずそのまま大気に散っていった。

 もう何度めかもわからないがミストラルは悟った、このままでは死ぬと。


「・・・ッッッ、ギィッ!!」


回復ヒール》!


 蒼くおぼろげな魔力光がミストラルを包む。

 激痛を精神力で無視し、乱雑な魔法式を組み、間違いなく今までの人生で最も気合を入れて発動させた魔法はミストラルを確かに回復させた。吐血が止まり、僅かに、ほんと僅かに痛みが和らぐ。


回復ヒール》《回復ヒール》《回復ヒール》《回復ヒール》《回復ヒール》!


 そして残された魔力でここぞとばかりに《回復ヒール》を連発。見る見るうちに外傷が塞がれていき、身体を蝕む激痛も波のように引く。ミストラルは全ての残存魔力と引き換えに鼻先にまで食い込んでいた眼前の死を退けた。


「カハッ・・・、ッ!?」


 ・・・かのように見えた。しかし、あと一歩足りておらず、


「ガホッ・・・ッ、ィ・・・ゥ、シ・・・ゴプッ・・・ム」


「・・・ッ!? 外傷は消えてるのになんでッ!? これは、・・・内臓がまだ傷ついているのかッ」


 彼女の口から再び流れ出した血潮は、せいに届かなかったことを示していた。




 ★★★




 ――見る影もなく弱々しくなったな。


 シムは座り込んだミストラルの背を支えながらそう思った。膝をくずし震える手(というか全身)で今だ諦めようとせず《回復ヒール》を使おうとしているようだが、流石にもう魔法を行使する程に残ってないのか今のミストラルからは魔力がほとんど感じられない。まだ足掻いてはいるがその姿にもどこか諦めが見えるような気がする。まあ生まれたばかりのバンビの並みに全身が振動していることを考えればむしろよくやっているのか?びしょ濡れで寒いのだろう、夜だしね・・・僕?いや別に、毛皮あるんで。


 静かに声をかける。


「・・・ミストラル」


「・・・」


 聞こえていないのか、無視しているのか、反応がない。


「ミストラル、考えがある」


「・・・ッ」


 こちらを向こうと身体を動かし、しかしビクリと身体を震わせて俯きお腹に手を当てるミストラル。やはり身体の内側がまだ治っていないのだろう。それでもプルプルと動いてこちらを向こうとしている。時間がないので霧を使ってミストラルを持ち上げ、パンダにしっかりと向き直らせた。


「~~~ッ!?」


 ミストラルが声にならない悲鳴を上げて身体をよじるが無視して本題に入る。

 ミストラルの両肩に手を置き、目を合わせる。


「ミストラルの身体を霧で治す、そのために協力してほしい」


 見開かれる目。


「・・・そ、そん・・・なこと、が、ゴホンッ。・・・そんなことが、可能、なの・・・?」


「僕が動物の身体を乗っ取る力を持ってる、ってのは知ってるでしょ。ミストラルの身体を一時的に乗っ取って身体を再生して、そのあとミストラルから出る」


「そ、それ・・・は――」


 何か言おうとするミストラルを封殺して言葉を続ける。


「ただその際、精神的に拒絶されると難しい。無理やりやるとミストラルの精神が摩耗して危険だから、僕を拒絶せず受け入れて欲しい」


 言葉を区切り、ミストラルを見つめる。


「このままだと、ミストラルが死ぬ。それは嫌だ」


 現在進行形でミストラルは死に向かっていて、そのことは本人も十分わかっているだろう。僕に身体を許すことに抵抗はあるかもというか確実にあるだろうがこの提案を無下にはしないはずだ、むしろ命が助かるなら快諾してもいいもんだけど・・・どうだろうか?


 ミストラルが僕から視線を外し、軽く俯く。そしてポツリと言った。


「・・・あ、んた、」


「前、に、私にそれ、や・・・、ッ、たことあ、る・・・?」


 ミストラルから出た言葉は疑問。・・・うん?


「――ッ」


 一瞬で思考を巡らす、間を空けては不信を持たれるだろう。

 そういえば、ある。確かにやったことが。前に暴走したときに一回軽ーく乗っ取ろうとしてネージュに邪魔された時の事を言っているんだろう、僕自身ほぼ忘れかけてたけど。・・・疑問形ということは確信がないのか?嘘をつき通すことも可能?この状況、返答によっては不信を持たれ、不信を持たれるとミストラルを治すのに支障が・・・ッ!どう答えるのがいい・・・?

 幾何いくばくか悩んだ後、シムは決める。


 心中の葛藤からか、シムの表情が苦しそうに歪んだ・・・ようにミストラルは感じた。


「・・・・・・・・・あるね、前に一回。ミストラルに怪我をさせた時に、暴走で最後にミストラルを乗っ取ろうとしてしまったことが。・・・覚えてたんだね」


 しばらくの沈黙を経て、ミストラルは彼女の恐れていた返答を得た。


「・・ッ! 忘れる、ですって・・ッ!? 忘れるわけないでしょッ?!!」


 痛みも忘れて声を上げるミストラルの口から血がこぼれる。


「消えるのよッ! 自分がゴホッ無くなるのよ!! 削り取られて、死ぬのよッ!? ゲッ・・おぇ、オロロウ゛ェッッ・・・!! い、嫌っ、ウギッ・・あれは、嫌ッ! 絶対にいっ、ヒグゥッ・・・ッ!!!」


 がくつくミストラルの手がシムに伸ばされ、彼の胸元をトンと押す。抵抗の意思。

 血を吐きつつも懸命に訴えるように、もしくは幼子がただ駄々をこねるように、無理なもんは無理だと言わんばかりに、ミストラルは彼を拒絶した。


「嫌ッ、絶対・・・にッ! ・・・ウグッ、いやよ・・・あんなのっ」


 全身の震えは、もはや寒さや疲労から来るものだけではなくない。思い出される恐怖が彼女を縛っていた。


「ミストラル・・・」


 フワリ、と。不意に緩い風がミストラルを包む。緩やかに、彼女を包み、撫で上げる。

 それは夜にふさわしくない不自然な熱を持っていた。しかし、それが今の凍える彼女には温かく、心地よい。震えがじんわりと薄れていく。

 ミストラルはかすかだった月明りが完全に途絶えたことに気づく。


「・・・こ、れは」


 それは紫の霧だった。シム(パンダ)の身体から溢れ出て、ミストラルの全身を覆っていた。


「ミストラル、あの時僕はミストラルを倒そうとしていて、だからミストラルの精神を削りながら無理やり乗っ取りをしようとしていた。でも今は違う、ミストラルに生きてほしい。ミストラルを助けるために、僕を・・・助けてくれ」


 シムは真摯にミストラルに声をかける。同時に霧をゆっくりと動かしミストラルを引き寄せ、正面から彼女を抱きしめた。邪念を一切振り切った、彼女を安心させるためだけの抱擁。


 ・・・温かい・・・安心する・・・あぁ――


 緊張が勝手に解かれ、ミストラルは自分でも気づかないうちにシムに身体を預ける。

 ・・・そしてシムの霧が自分の身体に入ってくるのを感じた。一瞬ビクリとするが、ギュッと抱きしめられると身体が勝手に弛緩して抵抗が消える。ミストラルは自分の精神が、自分の意識と無意識がふれられているのを感じた。痛くはなかった。むしろ気持ちがよく、安らぐ。


「あ・・・」


 身体が、治っていく。魔法を使った時よりも早く、細やかに。


「はぁああああ・・・ッ」


 身体の中に小さな灯がついて、全身に広がっていくようだった。手足の先の先まで、髪の一本一本にまで広がる回復の火熱に自然と息が漏れる。

 ぶわっと髪が浮き上がり広がり血と泥を弾いた、肌の汚れも消える。身体から湧き出る霧により濡れていた貫頭衣がふっとはためきシミが消失、白に戻る。もう濡れた後さえ分からない。

 ミストラルの髪と瞳の色が変化していく。深く鮮やか青空のようだった色合いに紫が現れ、模様を描き、混じって溶けて一つとなった。夜明け前の空のように静かな彩色さいしき


 ――上手くいったぽいね――


 ミストラルは自分の中でシムの声を聞いた。思わず正面のシム(パンダ)を見るが、反応はない。


「なっ・・・シム、シムなの?」


 ――他に誰がいるんだよ・・・今出るから――


 自分の手から霧が抜けていくのが分かった。そしてそれは目の前のパンダに吸い込まれていく。そしてそれが終わるとシム(パンダ)手をはなし、ぐぐぐー―っと伸びをした。


「あーよかった成功!ミストラルも受け入れありがとう!」


「・・・あ、え、うん。え、ええ、よくってよ!」(?)


「本当に良かった、意外とすんなり成功して。・・・大丈夫だとは思うんだけど、どこか悪いところとかない?」


「え、ど、どうかしら」


 言われるがまま、身体を動かし確認するミストラル。気が付くとミストラルの髪色は元に戻っている、目も同様だろう。そして違和感があるところはどこにもない、魔力まで回復しているようだった。


「あ、ああと、大丈夫みたいね・・・。・・・あの、シム・・・助けてくれてありがとう」


「いいよ、お礼なんて。友達、いや仲間なんだから、助けるのは当たり前でしょ」


 仲間。その響きはミストラルの心にするりと入っていった。一日前までなら考えられなかった、そう自分でも思う。でも今なら気にならない、それどころか――


「相変わらずネージュから連絡はないけど、夜が明けて時間が経ったら一言ぐらいあるだろうしそれまで待ってよう。流石に戻してくれるだろうしね・・・」


「――シム、オーガ狩り付き合ってもいいわよ」


 自然とそういっていた、別に無理しているわけではない。元々オーガ程度なら危なげなく相手できるだけの封印解除は成功してる。シムに不信感を持っていたがために戦闘を避けていたが・・・まあ、少しはシムを信じてもいいのかもしれない・・・もちろん警戒は続ける必要があるが、少しは歩み寄ることも必要だろうそうだろうそうだそうきっとそう。


「それは・・・! うーん、助かるけど、ミストラルが危険かもしれないし・・・」


「だ、大丈夫よ! 防御に集中すればオーガの槍程度何時間だって防げるわ!」


「でも槍以外の攻撃手段があるかもしれないし・・・」


「剣でも弓でも魔法でも大丈夫よ、余程のことがない限り絶対にっ!」


「さっきみたいな敵がきたら?」


「あ、あっれは・・・、その・・・」


 言葉に詰まるミストラル。あのレベルの危険まもの、今だ正体が分からないが竜本来の力なら負けないだろう。しかし今ふたたび襲われれば――


「そ、そのときは私は・・・、それは・・・しょうがないから、本当に危険なときは、逃げ「そのときは」・・・っ」


 言葉が奪われ


「そのときは、僕が守る」


 繋がれ


「ミストラルが本当に危険な時は僕が守るから、僕を頼ってよ」


 心深く、その奥底にまで浸透した。シムの静かな声が、自分の中で反響し、止むことなく反響し続ける。


「まあ、盾になるぐらいはするからさ」


 そういって肩をすくめるシム。

 僕の為に付き合ってくれるんだからと笑って茶化す。

 思わずつられてふふっと笑う。


 ・・・ふふん。


「別に、あなたの為とかじゃないわよ?」


 そっぽを向くミストラル。


「うん?」


「ネージュの為よ。ネージュの為に、仕方なく付き合ってあげるだけなんだから、あんま調子乗らないように」


「なるほどネージュの為か、なら仕方ない。どうぞ、よろしくお願い致します、ミストラル様」


 うやうやしく応じるシム。


「ふふん、いいでしょう、付き合ってあげるわ。行くわよシム」


「OKミストラル」


 そしてまだ暗い夜の中、二人は歩き出した。



 この後一週間かけてオーガ達相手に大暴れしたりピンチになったり喧嘩したりと色々なイベントを経て竜の里に帰ることになるのだが、その頃には両者とも以前に比べてちょっぴり(?)仲が良くなっていたのだった。







正直チョロくないって?そうかもしれない、でもチョロインって最高じゃないかな?(*´﹀`*)

P.S.主人公が息吸うだけでベタ惚れするようなチョロインとかマジ最高

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