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紫霧転生 ――その身体は霧――  作者: ビーバーの尻尾
 第二章 梟敵の巣窟 研鑽する獣心編
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第27話 湖底の泥塊 ――湖底の泥塊 VS お玉杓子――

透き通った水のなかって綺麗で魅力的だと感じると同時に何故かゾっとしません?( ̄ー ̄; ヒヤリ

 

 くそっ!迂闊だった。これは、押しつぶそうとしている!?

 下手に動かないほうがいいのか?身体を丸めて・・・。


『シム?どうした大声を上げて。主がいたのか?』


 突然の出来事に動揺しているきりに湖上でネージュが問いかける。その表情に焦りはない。


(いたというか、あの、ネージュ、地面に飲まれた。あと今なんか、全方向から押しつぶされてっ、あの、やばっ・・・)


 ネージュの問いにつっかえつつ答える僕。平然とした彼女と対照的にちょっと焦っている。今のところ地面(?)に飲み込まれた身体に害はないが、ドラゴン以外でぼくが捕まるような状況になったのは初めてかもしれない。・・・湖上に残った身体きりが不安定になってきた。


『シム、落ち着け。本当にマズいようなら私が助けるから、冷静に・・・。今の状況はどうなってるんだ?』


 おろおろしている僕を見かねたのか、ネージュが僕を安心させるように声をかけてくれた。力強い言葉と僕を見据える銀色に・・・我ながら単純だがそれだけで少し安心する。そうだな、ちょっと冷静にならなくちゃ。


(痛みは、ない、ダメージも。周りが見えない。身体中が締め付けられている、今のところ耐えられる。位置・・・身体が、離れていく?・・・下に少し移動しただけか?)


 地面・・・いや地面のように見えたなにか・・・に飲み込まれた僕は今全方面からかかる圧力に身体きりを球状にして耐えている。耐えているといってもダメージはない。身動きは取れないが、それはどう行動すればいいのかわからずにじっとしているだけなので、本気でジタバタすれば多少は動ける・・・かも?段々身体の位置が下に沈んでいっているような気がするな・・・いや、止まったか?どっちみち抜け出したほうがいい、か。


『おそらく、と言うよりほぼ確実にそれが湖の主だ。地面に見えるような魔物というだけではちょっと見当がつかないが・・・おそらくなにかの擬態だろう。シム、そこから抜け出せるか?』


 ネージュにも言われたので抜け出せるか試してみるか。

 周りは見えないが湖の上に自分きりの一部が残っているので上下は把握できる。ボール状に丸まっている状態から再び人型に身体きりを伸ばす。依然として圧力は衰えないが、窮屈なだけで苦しくはないな。


(お、でもちょっと締め付けが強くなったかも)


 圧力が多少増した気がしたが、気にせず身体きりを動かしてみる。

 ・・・ふむ、特に問題はなさそうだ。どうやら捕まったことにビビッて過敏に圧力を感じていただけかもしれない。


『歯がなかったなら獲物を丸のみにして潰すタイプの魔物なのかもしれないな』


(でもまだ苦しくはないな、ここからどうしようか・・・)


『乗っ取れないのか?』


(試してみたけど無理っぽい、はじめ少しいけそうだと思ったんだけど空振り?するような感覚で)


 このなにかも素の状態じゃ乗っ取れそうにない、弱らせなくちゃだめだ。弱らせるためには・・・そうだな、今僕はコイツの体内にいるんだよな。ここで思いっきり暴れたら結構ダメージを与えられるんじゃないのか?パンダを乗っ取る前は霧の身体ではなかなか有効な攻撃が行えなかったし、それ以降は乗っ取ったパンダが便利で霧自体の攻撃力を意識したことはあまりなかったが、霧の密度も量もカエル時代よりは大分増えた。生身がない状態にはあんまり慣れていないが、やってやれないことはない気がする。


 そうと決まれば早速やってみるか。とりあえず霧を変形して霧の人型の手、その指先から獣の爪に似たようなものを生やし、周りを思いっきり引っ搔いてみる。


 ズズッ・・・


 周りを確かに切り裂いた手応えを感じる。思ったより抵抗はなく、ザクザクとかなり深く切れた。


 だが、


(・・・うん?今、確かに・・・)


 もう一回腕を振る。再びザックリと肉を切る感触。しかし、まただ。


(切った場所が切れていない、まるで切ったそばから修復していくような・・・)


 腕を縦横無尽に振り回して周りを切り裂き続けるが、周囲から感じる圧力に一切の変化がない。まるで泥の中でもがいているかのように感じる。相変わらずこちらにダメージはないが、状況が変わっている気もしない。どういうことだこれは。


 とりあえずこちらの様子を伺っていたネージュに状況を説明しつつ、手に生やした爪で継続して周囲を切り裂く。続けて爪と同じ要領で手足に霧でできた刃物を無数に生やして周囲を切り裂く。更に手をバカでかい剣に変えて周囲を切り裂く。

 しかし反応がない。一度切った部分も数瞬後には戻っている、それとも切ったそばから治っているのか?しかしまったくの無反応かというとそういうわけではなく、手足で周囲を掻くように無理やり上に行こうとすると周囲が蠢いて強制的に一定の場所に戻される。


『・・・話を聞いているととても生物とは思えない、どちらかというと底なし沼のことを聞いているかの様に感じるよ』


 ネージュが「なんじゃそりゃ」、とでも言いたげな表情を浮かべているが僕だって訳が分からない。

 でも捕まってからしばらく経つがこれ以上何も起こらないようなので、少し落ち着いてきた。もちろんまだ湖の主(?)に捕まったままなので事態が好転したわけではないが、少なくとも現状はこれ以上悪化する様子もないしな。


(うーん、どうやらダメージを与えられなさそうだから、抜け出したいんだけど・・・。周りが流動している?みたいに動いて上にいけない。手足をばたつかせた程度じゃ進めないし、どうしたものか)


『この湖ごと吹き飛ばしてもいいんだが、それをやるとこの湖の周辺がめちゃくちゃになるからシムに危険がないのならなるべく控えたいのだよ。まあ、どうしようもないのなら仕方ないが・・・』


 ネージュが思案顔でうなる。


 って、この湖ごと吹き飛ばすのか。今さらっと言ったけどまさかそれが解決案か。それ絶対僕ごと吹き飛ばすことになるじゃねえか!竜の攻撃とかそっちのほうが危険だろ!


 身体をボール状に戻してからハリネズミのように全身から棘を生やして攻撃をする。モグラに形を変えて掘り進むように上を目指す。体積を身体が動けるギリギリまで大きくして(密度が薄まるから必然力が弱くなる)泳ぐようにバタつく。逆に極限まで小さくして高速で暴れる。ダメだ。


 ここしばらく霧の状態で活動してこなかったから上手く身体を動かせてないような。もっとなんかできないのか。吹き飛ばされるのは嫌だ・・・。吹き飛ばされるのは嫌だ・・・。

 あ、これならどうだ。


(ネージュ、僕がいた場所って結構湖の底には近かった?)


『ん?ああ、そうだな。結構近かったぞ、あと2,30mも下に行けば底についたんじゃないかね』


 ならいけるかもしれない。


(やってみるか)


 人型の両足を下から長く、細く、細長く、密度は高いままに更に細長く、糸状にして、に伸ばす。伸ばしつつも更に先端を絞っていく。針金のように細く、それでいてできるだけ濃く。


(んーーー・・・)


 グングンと線のようになった足を下に伸ばす。先端はあまりの細さに周りの肉(肉かどうかは知らないが)をまるで抵抗を感じさせることなく貫いて伸びる。

 飲み込まれた場所で湖底から2,30mの場所だったなら、飲み込まれてから更に下に下がった分本当の地面はもうすぐそこのはずだ。



 サクサクッ――



 果たして、しばらくすると今までとは質感が違うものを貫いた感触。これが地面か、ならばっ――


 湖底に届いた糸の先の太さを元に戻してから鉤爪のようにし、地面に固定してしっかりと踏ん張ると残りの身体きりを上に伸ばす。しっかりとした足場を得れば、流動する周囲の力は無視できる程度だ。



 ボフン



 そしてすぐに視界が開けた。

 風景は自分が先程なにかに飲み込まれたときと一緒のもの、やはりこの場所こそが湖底に見える。違う点は今の自分は足が針金状にものすごく伸びている状態で、傍から見るとまるで人型が湖底から生えているかのように見えることと、地面のように見えるコレ(・・)が実はそうではないと知っていることだ。証拠の一つに今僕が出てきたはずの穴はもうどこにもない。ぴっちりと埋まってしまったのだ。


(抜け出せた、のか?)


 地面モドキは微動だにしない、ように見える。

 だがいまだコイツの中にあるヒトガタの足の部分は圧力を感じている。


『シム、何とかなったのか?』


(うん、とりあえずは抜け出せた、のかな?なんというか、足を思いっきり伸ばして地面モドキの下の本物の地面に立ってる状態。ッ、おっと)


『どうした?』


(地面モドキがまた襲ってきた。よっ、ほっ・・・!こいつ、めんどくさいッ)


 地面に足がついたのでもう飲み込まれてもその場から動かされることはないが、ヒトガタを覆うように纏わりついてくるので視界が塞がれて鬱陶しい。その度に足を伸ばして無理やり上に出るのだがそれでもしつこくついてくる。


 湖底が盛り上がってヒトガタを追っかけてくる、僕は足を伸ばして上に逃げる、そしてそのまま上昇する両者。このまま追いかけっこで水面に出たら、島ができるのでないだろうか。

 しかししばらく追いかけっこを続けていたら、湖の水深のなかほどまで来たところで奴は渋々といった様子で諦めたようだ。


 追いかけっこで舞い上がった泥の中に沈んで消えていく地面モドキ。

 ふと思うところがあって手に爪を生やし、豪快に地面モドキの上部うわべの部分を千切り飛ばしてみる。

 盛大に一部が吹っ飛ぶが、地面モドキは気にした様子を見せずそのまま沈んでいった。

 千切れとんだ一部を一掴み取る。


 一旦、ネージュのところに戻るか。


 ★★★



 湖から出ようとして、足が未だ地面モドキに埋まったままだったのに気づく。


 湖底の浅い部分を掴んでから伸ばした足の部分を引っ張って無理やり地面モドキから引っぺがし、元に戻した。地面モドキは多少抵抗しようとしがみついていたが、やはり途中で諦めたようだ。


 それからやっと湖上に戻った。


『これは・・・スライムだな』


 スライム。千切り取ってきた地面モドキの一部をネージュに見せた鑑定結果である。

 ネージュとパンダは湖の水面近くに張られた魔法陣の上で、先程の出来事について話し合っていた。先程のような出来事もあったので、きりのままだと落ち着かない僕は既に自分きりを全てパンダの中に入れてある。そして千切り取ってきた地面モドキをネージュに見せて、得られた答えがスライムだった。

「スライム、か。スライムっていうのはもっと、こう、ポヨヨンとしているものだと思ってた」


『ポヨヨン?』


 ネージュが首を傾げている。


 この世界のスライムは自分がスライムと聞いて思い浮かべるものよりだいぶ・・・液状なようだ。魔法陣の上に置かれたそれは生き物というよりは粘着質な泥の塊のように見える。しかし押さえつけておかないとズルリズルリと湖に戻ろうとするので確かに生きているのだろう。パンダの手で押さえようにも隙間から逃れてしまうので現状霧で四方を塞いで箱のようにして閉じ込めている。すると霧の壁を登ろうとするのだが、きりが壁を動かして動きを相殺するので逃げられない。その様子を見て思った。あ、これさっき自分がやられていたやつやん。


『もっと言えば水棲粘菌アクアスライムの一種だろう、泥土粘菌マッドスライムかな。まさか湖の主がスライムだったとは・・・』


 ネージュに話を聞くと普通はそこまで大きくなるようなことはなく、食物連鎖の中ではだいぶ下層に位置する粘菌でできた生き物らしい。一般に知性はあまり高くなく、物理攻撃は大抵無効だが状態異常に弱く、攻撃力は皆無。雑魚の分類だそうだ。そのかわり雑草のようにしぶとい生命力を持ち、様々な場所に生息していて種類も細かく分類すれば膨大にいるそうな。


『種類によっては雑魚とは言えないようなものも存在するらしいが、このスライムはそこまで珍しものではないな。しかしそれが湖の底を覆うほどに成長しているとなると逆に大分珍しい・・・ふむ』


 箱の壁際でもがく泥のようなスライムを見ながらネージュが感慨深げに言う。


「このスライムは生きてるの?さっきから湖に戻ろうとしてるけど」


 ペタペタと壁を登ろうとするスライム。・・・霧で触っている感じも泥だなこいつは。


『スライムは一定の大きさになったら分裂して自己増殖すると聞いたことがあるから、本体から切り離されても生きていられるのかもしれない。もっともこのままにして生きていられるかは分からないが』


「ふーん、じゃあ今はまだ生きているのか・・・ん?」


 なんか、乗っ取れたぞ。ふと試してみたら何の抵抗もなくいけた。捕まっていたときは乗っ取れなかったのに・・・、千切って小さくしたから乗っ取れたのか?


 目の前のスライムが動きを止めるとジワリと紫色に染まる。完全に乗っ取れた。もう箱に入れておく必要もないので霧を身体パンダに戻し、ついでに自分スライム自分パンダの手の上に飛び上がらせて観察してみる。


『おお、今度は乗り移れたのか』


「小さくなったからかな?それにしてもやけにあっさりといけたな」


 スライムの記憶を見てみるが、なんと記憶がほとんどない。本能だけで生きているのか、記憶するようなことがほとんどないのか。でも本体がおよそどれぐらいの大きさなのかはなんとなく分かった。どうやら湖の一番深い部分にすっぽり埋まるようにいるらしい。とてつもない体積だ。ネージュの島ほどではないが島の湖よりは大きそうだ。プール何杯分だろうか・・・50mプール9杯分、いや10杯分くらいはありそう。


「それにしてもネージュ、巨大スライムってどうやって釣り上げればいいかね・・・。さっきの話だと切っても殴っても弱らないらしいし実際そうだったし、乗っ取る以外に倒せなさそうだけどそれは難し・・・分割すればいけるのか」


『それでもそのサイズを繰り返し切り取るようでは日が暮れてしまうしな・・・。もうちょっと大きくても乗っ取れないか?』


 どうだろう。どこまでいけるのかは分からないな。もしかしたらもうちょっとぐらい大きくてもいけるかもしれない。・・・そのためにはもう一回潜ってくればいいんだけど、纏わりつかれるのが鬱陶しいんだよあのスライム・・・、地面モドキは。どうにかもっと簡単にできないものか。


「ネージュ、この魔法陣って取ってきたスライムを載せても大丈夫?」


『重さは心配しなくていいぞ。ああ、あともうちょい広げておくか』


 重さは大丈夫と、ならいけるか。


 ネージュが魔法陣を拡大してだいぶ広くしてくれた。

 次に二人で魔法陣の端に移動して、魔法陣を湖の主、地面モドキの真上に移動してもらう。


『今度は捕まらないように気をつけるんだぞ』


 ネージュが僕に念を押すが、今回は潜るつもりがない。たとえ潜ってももう捕まりはしないだろうが、もっと手っ取り早い方法で行く。


「いやこのまま取る」


『え?』


「このまま手を伸ばして・・・こう!」


 パンダの手先から霧の手を伸ばし、そのまま湖に突っ込むと思いっきり下に伸ばす。霧の手にも視覚があるので迷うこともない。


 ズボッッッ!!


 勢いよく地面モドキ(マッドスライム)(いまだに地面にしか見えない)に手を突っ込むと手の先を巨大化し、掴んだ部分をゴッソリと引きちぎる。そして手を引き上げる。

 一瞬で行われた早業に地面モドキは反応しきれなかったようだ。すぐに弾かれたように本体がこちらを追うが、やはり湖の水深の半ほどで諦めてすごすごと帰っていく。


 一方バスタブ一杯ぐらいのマッドスライムを回収した僕は魔法陣の上にそれをべちゃりと置き、湖に逃げ帰ろうとするそれを乗っ取れるかどうか試してみた。


「うん、できるな。これもあっさりと・・・。なんか今までと違う、あとちょっとで何か掴めそうなんだけど・・・」


『ここから手を伸ばして捕ってこれるのか!最初からそうすれば、いやそうか最初は』


「そう、どこにいるか分からなかったから湖全体を調べる必要があったしね。あとどうも霧の状態になると自然に人型になっちゃって、そこから形を大きく変えるという発想が出にくい気がする・・・」


 ネージュは感心しているが、色々ともっと早く気づいていたかった。


 でもこれができると分かったら後はただの作業である。

 どこまで大きいサイズまでならいけるかを測りつつ、どんどん地面モドキを切り取って乗っ取っていけばいい。

 魔法陣の上でフルフルと動いている紫色のスライムに持っていた手乗りスライムを投げるとくっつけて一つにできた。乗っ取ったスライムは横に移動させて、と。さて次はもう少し捕る量を増やすか。




もとのきたない茶色から鮮やかな紫のゼリーみたいになったスライムたちはきっとかわいい(´∀`)

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