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紫霧転生 ――その身体は霧――  作者: ビーバーの尻尾
 第二章 梟敵の巣窟 研鑽する獣心編
26/40

第26話 主釣り・・・? ――霧 VS 蠢く湖底――

 


「それでネージュ、今日は何する?」


『ほら、この頃連日ゴブリン狩りだっただろう?今日は趣向を変えて釣りでもしようかと思ってね』


 パンダとネージュは湖の畔に立っている。例によってまた森の中、木々が大きく開いた場所にある湖だ。ネージュの島の洞窟内のは浅くて小さくて透き通っていたが、この湖はだいぶ深そうだし奥のところは濁っててよく見えない。


 記憶喪失は改善されてないので経験があるかは知らないが興味はある。


 ネージュの言うようにここ数日は主にゴブリンを狩っていたし、だいぶ狩りも上達した気もする。

 別に飽きたわけでもないがなにか新しいことをするのも楽しそうだ。


「釣りか~、やったことあるかどうかは定かじゃないんだけど面白そうだね。でも釣り道具がない気がするんだけど」


 ちょっとウキウキしながらネージュに聞いてみる。魔法で何とかしてくれるのか?


『はっはっは、そんなのもちろんないに決まってるじゃないか。シムが何とかするんだよ!」


 まさかの丸投げだった。っておい何とかってどうしろっていうんだ。


『あ、あとターゲットはこの湖のぬしね。普通に魚釣るだけじゃ面白くないだろう?』


 そしてハードルを爆上げされた。バカな、そもそも普通の魚を釣るための釣り道具さえないのにどうやって主なんて釣れと言う。


 その旨を伝えたら何とかしろと言われた。マジか・・・でもそうなると僕に出来る方法なんてのは限られてくる。

 確実に普通の釣りをすることなんて出来ないがよく考えれば湖の主を釣ろうする場合、逆に普通じゃ無理なのかもしれない。


 とりあえず湖の主(当然魔物)に関する情報をネージュに聞いた結果!


「なるほど・・・、つまり情報をまとめるとこの湖の何処にいるかは不明、どんな種類の魔物なのかも不明、必然的にどうやって取ればいいのかも不明、どれぐらい強いのかも不明、そもそもいるかどうかも不明って所か・・・おい!」


 ひどい、これはあんまりだ。というかそもそもいるかどうかも不明ってどういうことだ。


『そうだね、他に何か聞きたいことはある?』


「そもそも分かってる事ってあるのかどうかを聞きたいぐらいなんだけど!?」


『そうだね・・・、例えば主は基本的に魔力が高い魔物がなる傾向が高いね。あと大きいものが多い。魔力感知のスキルを使うとか探知用の魔法を使えば居場所ぐらいなら分かるかもしれないけど、シムはまだ魔法を使えないからそれは使えないね」


 そんな魔法があるのか!それは便利そうだ。というかそれって、


「ネージュは使えるんだよね!?」


 言外にお前がやれという旨を伝える。


『シムがどーしても分からないようなら使ってもいいけどとりあえずは自力でやってみて欲しい』


 真顔で返された。


『別にやりようはあるだろう?シムは霧だけの状態なら呼吸も必要としないうえに実験では高温でも低温でも高圧化でもーー』


「いやまあそうなんだけどそれだと何日かかるか分からないし、というかネージュ分かって言ってる?」


 ネージュは狩りでも釣りでも基本的に動かずに傍観しているだけだ。実験の延長線で僕が行動するところを見ていたいだけなんじゃないか?


 ・・・まあでもそれくらいならお安い御用だ、ネージュのためならなんだって期待に応えて見せようじゃないか。

 湖の主だろうがなんだろうが釣り上げてご覧に入れてやろう。



 ★★★



 そして僕は湖のど真ん中、その上空にいた。


 眼下には緑に濁って見える湖。横には人間形態のネージュ。ちなみに僕は霧単体で浮いていて身体パンダはネージュが自分もろとも魔法で空中に固定していた。

 僕の横で空中で胡坐かいているネージュにどうやったら空間に魔方陣を固定して足場にする?なんてことができるのか凄く聞きたかったが今はまだ我慢すべし。


『それじゃあシム、今から何をするか私にも分かるように分かりやすく説明してくれるかな?』


 早速始めようとしていた僕に意気揚々と声をかける少女。


(別に言わなくても分かってるでしょう)


『いいからいいから』


 今は身体がないので音が出ないが、魔法があるので意思疎通に問題ない。


 改めて視線を向けるとネージュがニコニコとして機嫌がいいことが伺えた。


(・・・この湖は楕円状で比較的入り組んだ部分が少ないとはいえ、ぱっと見ネージュの島三個分くらいの面積があります)


『うんうん』


(よって普通に僕が潜って探しても、適当な魚を乗っ取って探しても、いるかも分からない湖の主を見つけるにはそこそこ時間が掛かると思われます)


『なるほど』


(そこで僕はこの難題を~、ネージュとの実験の成果で乗り越えようと思いまーす!)


『素晴らしい!是非ともやってみてくれ!』


 安っぽい茶番。でもなんかノってきた。気合入れていくか!

 分かりきっているはずの行動方針の解説を終えると今度こそ僕は始める・・・、自分きりの拡散を。


 要練習とネージュから言われている霧の拡散、実は最近成果が伸び悩んでいる。

 それでふてくされて練習をしないもんだから場所を変えて心機一転し、やってみろってことなのだろう。

 確かに地上、というか湖上でやるのは初めてだ。マンネリ打破にはいいかもしれない。


 湖の上空に浮かんでいた紫の霧がもの凄い勢いで広がっていく。

 湖の上空全域に平たく散っていく。


 広範囲に広がりすぎて霧がほとんど見えなくなってもなお広がり、とうとうきりは湖の上に満遍なく散らばりきった。おお、本当に気分転換が利いているのか、割と安定・・している感じだ。


『全力で目を凝らしてももはや見えないね。魔力を探ってかろうじて分かるか分からないかって感じだ』


 目を細めて僕を見るネージュ。傍から見ると独り言にみえるじゃないか?


(相変わらず自分が空気になった気分だよ。いや、元々気体だから空気で合ってるのか?)


 霧って空気みたいなもんだしね。ただ、今の状態は普段よりもずっと広範囲に自分を広げていて、それに伴って僕の知覚領域も拡張されている。

 その代わり精度と力が激減するが今はこのまま・・・。


(このまま真下に潜って満遍なく探索する)


 ネージュの周りに一部分だけ自分きりを残し、湖へのダイブ!

 音もなく降下し、そのまま湖に沈んでゆく。世にも珍しい、潜水する霧でございます。


(浅瀬の方からどんどん底についていくな・・・)


 水底みなぞこに着いたらより深い方にどんどん自分きりを移動させていく。そして探索する範囲を狭め精度と力を上げつつどんどん深く沈んでいく。


(魚とかは割といる・・・湖底こてい生物もいるな・・・一様に大きいなのばっかり、あ、小魚もいるか。でも主っぽい生き物は見当たらないね・・・けっこう深いところまで来たけどやっぱり見当たらない・・・謎の巨大魚とか巨大貝はいるけどこいつ等数は少なくても複数いるしな・・・もう水深50以上は行ってると思うんだけど・・・)


 ゆっくり降りながら把握していることをネージュに実況する。


『そこまでいったら結構残りの探索範囲も狭まってきただろう、残ってるのはどこら辺だ?』


(後もう残ってるのは三箇所だね・・・探りきれてないのは湖の中央と西側二箇所・・・、いや一箇所。あ、もう湖の中央だけ)


 霧での探索が終わったところからは引き返してまだ探索中のところに合流する。


『じゃあその中央で決まりかな、いるかどうかもわからないとは言ったがこの広さの湖だから少なくとも一体は主クラスの魔物がいるはずだ』


 むしろ複数いる可能性のほうが高いとさえ思っていたよ、と言って寝っころがるネージュ。


(じゃあこの奥ってことか、・・・ちょっと緊張してきたな・・・)


『なに、そんな気負わなくていい。せいぜい出てもさっきシムが言っていた魚や貝の巨大版くらいだろう。持久戦に持ち込めばシムの敵ではない』


 既に水面からの光が完全に途絶えた暗闇の底に潜っていく。

 この身体は暗くても夜目が効くので視界にそこまで不自由はしないが真っ暗闇で無音の世界というのはそんなこと関係なしに不気味に感じる。


 ・・・でもあまり怖くはないんだよな。何故だろうか?

 ネージュが言うように僕が強いからか?


 まあ、確かに今の僕はかつてオオナマズと戦った時とは比較にならないほど強くなっていると思う。

 持久戦どころかパンダを使えば短期決戦でも負ける気がしない。

 限界まで強化したパンダで特攻をかけて有無を言わさず殴り殺すのだ。水中だろうとなんだろうとやってできないことは・・・ん?


(ネージュ、湖の底が見えた)


『とうとう着いたか。ぬしは?』


 ネージュが寝っころがっていた状態からガバッと起き上がった。


(それが、見当たらないんだよね)


 そう、見当たらない。

 僕は湖の底についていた。真っ暗な湖底、そこには何もなかった。結構広いな。

 底の底まで潜って、水面から湖の中央で一番深いところまで隈なく探索したはずなのに主らしき生物が見当たらない。


『見当たらない?探し忘れているところはないのか?』


(ないと思う・・・、けどもう一回探ってみるよ。今度は湖底から水面まで上昇する形でやってみる)


『ちょっと待ってくれ、もしかしたら本当にいないってこともあるかもしれない』


 言うや否やネージュは僕の身体パンダを空中の魔方陣に残したまま(ホントどうなってるんだこれ)座っていた所から飛び降りた。

 魔方陣から飛び降りたネージュは頭から急降下していく。


 少女、真っ逆さま。竜に戻るのかと思っていたら人間形態のままである。

 まさかそのまま湖に潜って調べるつもりなのかと思ったらそんなことはなかった。


 ネージュは水面激突直前で落下速度を落とし、ふわりと水面の上に浮いた。

 そして僕(待機中)が追いかけて傍に着いた時には水面の上に再び別の魔方陣を作り出し、その魔方陣の端から四つんばいの状態で身を乗り出して右手を水面に着けたところだった。


『《魔力反響マナ・エコー》』


 何事かネージュが呟くとなんか背中がざわりとした。

 今だ湖底にいるほうのきりがだ。


(・・・む、今何か感じた)


『今のでこの湖全体を探ったんだ、当然シムの位置も把握したよ』


 チャポン、と水面から手を引き抜くとネージュがこともなげに言う。


(え、今ので全部把握したの・・・!?僕がこんなに苦労してたのにあんな一瞬で!?)


『ごく簡単にだよ。それでシム、主の居場所なんだが・・・本当にいないのか?』


 ネージュがなにか困ったように言葉を発する。なぜ?


(うん、なーんもないよ。底にいるけど生き物はおろか草一本すら生えていないね。結局どこにいたの?というかいたの?)


『ああ主はいる、と思う。それらしき魔力反応があった。けっこう大きなね。シムの目の前というか真下に』


 はい?真下ってもう地面なんですが。

 地面の上には何もない、が、念のため湖底に拡散させていた霧を集めてもっとよく見てみるか。


 湖の底で霧が集まって人型になり、うつ伏せで寝そべるかのように湖底と平行になって観察。


 やはり地面にしか見えない。


『あとシムがいる場所は底じゃないと思うのだが?底はもうちょっと下だろう?』


(いやいやだから僕の真下ってもう底――


 ――グバァッ・・・


 突如、地面を触ろうとした僕の目の前にポッカリと大穴が出現した。

 まるでトンネルのような大きさの穴だ。

 そして、


(――ッウ、うわおおおおおおおおおおおおおおお!?)


 バクン


 地面全体が慌てて上に逃げようとした僕を囲むようにせり上がり、直後僕の上で穴が閉じた。








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